2018年7月26日木曜日

赤ん坊は、模倣ごっこが大好きだ。自分を模倣する人に注意を向ける。幼児も、模倣ごっこが大好きだ。あらゆるものが二つずつ用意してある遊び場を設定すると、自発的な模倣ごっこが始まり、果てしなく続く。(マルコ・イアコボーニ(1960-))

模倣ごっこ

【赤ん坊は、模倣ごっこが大好きだ。自分を模倣する人に注意を向ける。幼児も、模倣ごっこが大好きだ。あらゆるものが二つずつ用意してある遊び場を設定すると、自発的な模倣ごっこが始まり、果てしなく続く。(マルコ・イアコボーニ(1960-))】

 「もし私が友人宅での集まりに出かけていって、その家に赤ん坊がいたなら、私は真っ先にその赤ん坊のすることを真似してみせる。するといきなり、私はその子の一番の注目株になる(もちろん両親を除いて)。赤ん坊は模倣ごっこをするのが大好きなのだ。また、親と赤ん坊がしょっちゅうお互いに真似をしあうのは誰でも知っているところだろう。実際、このときの模倣(と親和力)は発達中の脳のミラーニューロンを強化する主要な形成要因なのかもしれない。この仮説についてはあとの章で述べよう。
 あるいは幼児どうしがお互いを真似しあう例もたくさんある。発達心理学者のジャクリーン・ネーデルは、この自発的な模倣ごっこを促すために、あらゆるものが二つずつ用意してある遊び場を設定した。まだ言葉の話せない小さな子供たちがこの状況で自発的な模倣をするのは、見ていてとても面白い。ある子供が帽子をかぶると、別の子供がもう一つの帽子をかぶる。最初の子がサングラスをかけると、あとの子もそれにならう。ある子が傘を拾い上げると、別の子ももう一つの傘を拾う。最初の子が傘を回しはじめると、もう一人の子も回しはじめる。傘を下ろせば、同じように傘を下ろす。風船をつかめば、やはり風船をつかむ。模倣ごっこは果てしなく続く。片方の子が風船をつかんでいる手を軽く振り動かしただけでも、もう片方はすかさずそれを模倣する。一方、同じ発達心理学者のキャロル・エッカーマンは、幼児における模倣と言語コミュニケーションの強い結びつきを証明してきた。まだ話し方を知らない幼児どうしがいっしょに遊ぶときは、たいてい模倣ごっこをする。そして模倣ごっこを熱心にやる幼児ほど、1年から2年後に、言葉を多く使うようになるのだ。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第2章 サイモン・セッズ,早川書房(2009),pp.68-69,塩原通緒(訳))
(索引:模倣ごっこ)

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)


(出典:UCLA Brain Research Institute
マルコ・イアコボーニ(1960-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「ミラーリングネットワークの好ましい効果であるべきものを抑制してしまう第三の要因は、さまざまな人間の文化を形成するにあたってのミラーリングと模倣の強力な効果が、きわめて《局地的》であることに関係している。そうしてできあがった文化は互いに連結しないため、昨今、世界中のあちこちで見られるように、最終的に衝突にいたってしまう。もともと実存主義的現象学の流派では、地域伝統の模倣が個人の強力な形成要因として強く強調されている。人は集団の伝統を引き継ぐ者になる。当然だろう? しかしながら、この地域伝統の同化を可能にしているミラーリングの強力な神経生物学的メカニズムは、別の文化の存在を明かすこともできる。ただし、そうした出会いが本当に可能であるならばの話だ。私たちをつなぎあわせる根本的な神経生物学的機構を絶えず否定する巨大な信念体系――宗教的なものであれ政治的なものであれ――の影響があるかぎり、真の異文化間の出会いは決して望めない。
 私たちは現在、神経科学からの発見が、私たちの住む社会や私たち自身についての理解にとてつもなく深い影響と変化を及ぼせる地点に来ていると思う。いまこそこの選択肢を真剣に考慮すべきである。人間の社会性の根本にある強力な神経生物学的メカニズムを理解することは、どうやって暴力行為を減らし、共感を育て、自らの文化を保持したまま別の文化に寛容となるかを決定するのに、とても貴重な助けとなる。人間は別の人間と深くつながりあうように進化してきた。この事実に気づけば、私たちはさらに密接になれるし、また、そうしなくてはならないのである。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第11章 実存主義神経科学と社会,早川書房(2009),pp.331-332,塩原通緒(訳))
(索引:)

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