2018年7月29日日曜日

共感のミラーニューロン仮説:他人が感情を表しているところを見ると、その視覚情報が、同じ身体感覚の表象を引き起こし、この表象が同じ表情、同じ感情を誘発する。(マルコ・イアコボーニ(1960-))

共感のミラーニューロン仮説

【共感のミラーニューロン仮説:他人が感情を表しているところを見ると、その視覚情報が、同じ身体感覚の表象を引き起こし、この表象が同じ表情、同じ感情を誘発する。(マルコ・イアコボーニ(1960-))】

共感のミラーニューロン仮説
(1)被験者は、他人が感情を表しているところを見る。
(2)被験者が顔を見ている間、まるで自分自身がその表情をしているかのような、身体感覚の表象が現れる。また、実際に被験者の顔の表情が変化する。これは、ミラーニューロンが実現する。
(3)ミラーニューロン領域の活性化は、島、大脳辺縁系の感情をつかさどる部分、とくに扁桃核(顔に強く反応する辺縁構造)に伝播し、活性化させる。これで、感情はいわば本物となる。
(4)結果的に、他人の感情が共有されることになる。
 「僕はある人がどれほど賢いか、どれほど愚かか、どれほど善人か、どれほど悪人か、あるいはその人がいまなにを考えているかを知りたいとき、自分の表情をできるだけその人の表情とそっくりに作るんだ。そうすると、やがてその表情と釣り合うような、一致するような考えやら感情やらが、頭だか心だかに浮んでくるから、それが見えるのを待っているのさ」。(エドガー・アラン・ポーの短篇小説「盗まれた手紙」の主人公・探偵オーギュスト・デュパンの台詞)

 「もしミラーニューロンが信号を送っているのなら、顔写真の表情を模倣してもいる被験者の脳活動に高まりが見られるはずである。その高まりはミラーニューロン領域だけでなく、島でも大脳辺縁系でも見られるだろう。なぜならミラーニューロン領域での活動の高まりは、ミラーニューロンからの信号を受け取っている残りの二つにも広がるからだ。重要なのは、この最後の部分である。模倣中に起こると見られるミラーニューロン領域の活動は、ぜひとも広がっていかなくてはならない。
 これが私たちの仮説だった。そして結果は、私の二つの予測を実証した。被験者が顔を見ているあいだ、ミラーニューロン領域、島、そして大脳辺縁系の感情をつかさどる部分、とくに扁桃核――顔に強く反応する辺縁構造――は実際に活性化し、その活動は、見た表情を模倣してもいる被験者において確実に高まっていたのである。これは明らかに、ミラーニューロン領域がある種の脳内模倣によって他人の感情の理解を助けているという仮説を裏づける結果だった。この「共感のミラーニューロン仮説」にしたがえば、他人が感情を表しているところを見るとき、私たちのミラーニューロンは、まるで私たち自身がその表情をしているかのように発火する。この発火によって、同時にニューロンは大脳辺縁系の感情をつかさどる脳中枢に信号を送り、それが私たちに他人の感じていることを感じさせる。
 エドガー・アラン・ポーは有名な短篇小説「盗まれた手紙」において、主人公の探偵オーギュスト・デュパンの台詞の中にこんな文章を入れている。「僕はある人がどれほど賢いか、どれほど愚かか、どれほど善人か、どれほど悪人か、あるいはその人がいまなにを考えているかを知りたいとき、自分の表情をできるだけその人の表情とそっくりに作るんだ。そうすると、やがてその表情と釣り合うような、一致するような考えやら感情やらが、頭だか心だかに浮んでくるから、それが見えるのを待っているのさ」。なんという驚くべき先見性! これは作家としても、自分の作った登場人物の内面に踏み入る最良の方法だったろう。しかし、ポーだけがそれを見抜いていたわけでもない。感情についての科学文献においても、顔の筋肉組織の変化によって感情的な経験が形成されるとする理論――現在で言う「顔面フィードバック仮説」――は長い歴史をもっている。チャールズ・ダーウィンとウィリアム・ジェームズは、それに類する記述を最初に残した人々の一員である(ポーの作品はこの二人の著作より数十年前のものではあるが)。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第4章 私を見て、私を感じて,早川書房(2009),pp.149-151,塩原通緒(訳))
(索引:共感のミラーニューロン仮説)

ミラーニューロンの発見―「物まね細胞」が明かす驚きの脳科学 (ハヤカワ新書juice)


(出典:UCLA Brain Research Institute
マルコ・イアコボーニ(1960-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「ミラーリングネットワークの好ましい効果であるべきものを抑制してしまう第三の要因は、さまざまな人間の文化を形成するにあたってのミラーリングと模倣の強力な効果が、きわめて《局地的》であることに関係している。そうしてできあがった文化は互いに連結しないため、昨今、世界中のあちこちで見られるように、最終的に衝突にいたってしまう。もともと実存主義的現象学の流派では、地域伝統の模倣が個人の強力な形成要因として強く強調されている。人は集団の伝統を引き継ぐ者になる。当然だろう? しかしながら、この地域伝統の同化を可能にしているミラーリングの強力な神経生物学的メカニズムは、別の文化の存在を明かすこともできる。ただし、そうした出会いが本当に可能であるならばの話だ。私たちをつなぎあわせる根本的な神経生物学的機構を絶えず否定する巨大な信念体系――宗教的なものであれ政治的なものであれ――の影響があるかぎり、真の異文化間の出会いは決して望めない。
 私たちは現在、神経科学からの発見が、私たちの住む社会や私たち自身についての理解にとてつもなく深い影響と変化を及ぼせる地点に来ていると思う。いまこそこの選択肢を真剣に考慮すべきである。人間の社会性の根本にある強力な神経生物学的メカニズムを理解することは、どうやって暴力行為を減らし、共感を育て、自らの文化を保持したまま別の文化に寛容となるかを決定するのに、とても貴重な助けとなる。人間は別の人間と深くつながりあうように進化してきた。この事実に気づけば、私たちはさらに密接になれるし、また、そうしなくてはならないのである。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第11章 実存主義神経科学と社会,早川書房(2009),pp.331-332,塩原通緒(訳))
(索引:)

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