2020年3月28日土曜日

14.量子論は、ある事物と他の事物との間の、相互作用の結果情報をもとに、起こり得る有限個数の別の相互作用への推移を予測し、相互作用の結果から新たな情報を得る、と定式化することができる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

量子論と情報

【量子論は、ある事物と他の事物との間の、相互作用の結果情報をもとに、起こり得る有限個数の別の相互作用への推移を予測し、相互作用の結果から新たな情報を得る、と定式化することができる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

古典的な記述の例
(1)
 ある物理的な系A(対象系)
  Aは、b1 に存在する。
(2)
 ある物理的な系A(対象系)
  Aは、b2 に存在する。
(3)
 ある物理的な系A(対象系)
  Aは、b3 に存在する。

量子的な記述の例
 量子論は、実在する「事物」の状態の変化を記述しているのではなく、ある事物と他の事物の間のある相互作用から、起こり得る別の相互作用への推移の「過程」を記述する。相互作用の瞬間においてのみ「事物」の性質はあらわになる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
(1)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a1とは、情報(b.1)を表現している。
  (a.2)状態 a1は、未来におけるAとBの相互作用を予測する。
  (a.3)量子力学の粒性
   AとBの相互作用の結果、
   実現する可能性のあるBの結果 biの総数は、有限である。
   参考:ある現象のなかで実現する可能性のある、互いに区別可能な状態の総数は、有限個である。従って、その現象について私たちが所持していない情報の量も、有限である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
  (a.4)不確定性
   Bからは、常に新しい情報 biを得ることが可能である。
   参考:量子的な事象とは、観測の対象となっている事象の総体(物理系)が、別の物理系との間に起こす、個別の相互作用のことである。相互作用の結果は確率的に厳密に予測できるが、どの結果が得られるかは不確定である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t1において、
   AとBの相互作用の結果が、b1である。
  (b.2)これは、AとBが過去経験してきたあらゆる相互作用の最終結果である。
  (b.3)これは、未来におけるAとBの相互作用を予測可能にするための整理作業でもある。
(2)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a2とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t2において、
   AとBの相互作用の結果が、b2である。
(3)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a3とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t3において、
   AとBの相互作用の結果が、b3である。


 「わたしたちは量子力学の全体像を、情報という観点から次のように読み解くことができる。

ある物理的な系があらわになるのは、ほかの物理的な系と相互作用を起こしたときだけである。

したがって、ある物理的な系を記述するには、相互作用の片割れである別の物理的な系との比較が必須になる。

ある物理的な系の状態の描写とはつねに、その系が、別の物理的な系についてもっている「情報」の描写である。

言い換えるなら、系の状態の描写とは、ある系と別の系のあいだに認められる相関性の描写である。

このように、「ある物理的な系が持っている別の系の情報」として量子力学を解釈するなら、量子力学をおおっている神秘の霧はだいぶ薄まってくる。

 つまるところ、物理的な系の描写とは、「その系が過去に経験してきたあらゆる相互作用の要約」にほかならない。それはまた、「未来における相互作用がどんな効果をもちうるか」を予測できるようにするために、過去の相互作用を整理する作業でもある。

 このような考えにもとづくなら、次に掲げる二つの単純な公理さえあれば、量子力学を形づくる全体の枠組みを引き出せてしまう。
 公理1 あらゆる物理的な系において、有意な情報の量は有限である。
 公理2 ある物理的な系からは、つねに新しい情報を得ることが可能である。

 公理1にある「有意な情報」とは、どんな情報を指しているのか? それは、過去にわたしたちがある系と相互作用を起こした結果として、わたしたちがその系について所有することになった情報である。

その情報は、未来にわたしたちが同じ系と相互作用を起こしたとき、わたしたちがいかなる影響を被るか予見することを可能にする。

公理1は、量子力学の「粒性」を特徴づけている。これは、実現する可能性がある選択肢の総数は有限であるという公理である。

公理2は、量子力学の「不確実性」を特徴づけている。量子の世界では、つねに予見不可能な事態が発生するため、わたしたちはそこから新たな情報を引き出すことができる。

公理1が示すように、有意な情報の総量には限りがある。したがって、ある系に関する新しい情報を得たのであれば、その帰結として、それに先だつ情報の一部は「有意でない(つまりは無意味な)」情報に変化するはずである。

無意味になった情報はもはや、未来の予見に何の影響も与えない。つまり、量子力学の世界においては、ある系と相互作用を与え合うとき、わたしたちは何かを得るばかりでなく、同時に、その系に関する情報の一部を「消去」してもいる。

 量子力学の数学的な全体構造の大枠は、この二つの公理から導き出せる。情報は、量子力学を表現するのに驚くほど適した概念である。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第12章 情報――熱、時間、関係の網、pp.243-245、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:量子論と情報)

すごい物理学講義 (河出文庫)



カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
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