2022年1月20日木曜日

社会が興起し、繁栄し、 衰退し、死滅する。これらを無意味な比喩と考えることはできない。歴史の規則性やパターンは、認識可能である。しかし、それらに原因としての性質や、能動的な力、超越的性質を付与するとき、誤りに陥る。(アイザイア・バーリン(1909-1997))

歴史の規則性やパターン

社会が興起し、繁栄し、 衰退し、死滅する。これらを無意味な比喩と考えることはできない。歴史の規則性やパターンは、認識可能である。しかし、それらに原因としての性質や、能動的な力、超越的性質を付与するとき、誤りに陥る。(アイザイア・バーリン(1909-1997))



(a)歴史の規則性やパターン
 歴史における規則性やパターンが見つかったからとて、それらに原因としての性質や、能動的な力、超越的性質、人間の犠牲を要求する渇望などを帰属せしめることが自然で当たりまえのことになっ てしまったら、それは神話によって決定的に欺かれることになる。
(b)文化のパターン
 文化にはそれぞれパターンがあり、時代には精神があるとしても、人間の行動をそ れらのパターンなり時代精神なりの「不可避的」な帰結ないし表現として説明することは、言 葉の誤用に陥ることである。


「もちろんわたくしは、そういう比喩なり形容なりが日常用語において、さらには科学にお いても、なしですませられるなどと言うつもりはない。ただ不法な「実体化」――言葉を事物 と、比喩を現実ととりちがえること――の危険が、この領域ではふつうに考えられているよりも はるかに大きいのだということを言っておきたいのである。いうまでもなく、もっとも有名な 事例は国家ないし国民の場合であり、まさしくその擬人化のために1世紀以上にもわたって哲 学者、さらには一般のひとびとが不安に、あるいは憤慨させられてきたのである。しかしなが ら、他の多くの言葉や語法にも同じような危険が伴う。歴史的運動は実在する。われわれはそ う言うことを許してもらわなければならない。集団的行動が起こり、社会が興起し、繁栄し、 衰退し、死滅する。パターンとか、「雰囲気」とか、人間ないし諸文化の複雑な相互関係とか はあるがままのもので、その原子的構成部分まで分析しつくすわけにはゆかない。けれども、 そうした表現をまったく文字通りにとって、それらに原因としての性質や、能動的な力、超越 的性質、人間の犠牲を要求する渇望などを帰属せしめることが自然で当たりまえのことになっ てしまったら、それは神話によって決定的に欺かれることになる。歴史に「リズム」が生ずる としても、それをなんとしても「動かしがたい」リズムであるということは、有害・不吉な兆 候である。文化にはそれぞれパターンがあり、時代には精神があるとしても、人間の行動をそ れらのパターンなり時代精神なりの「不可避的」な帰結ないし表現として説明することは、言 葉の誤用におちいることである。世界を想像上の権力や支配にまかせてしまう危険、一方すべ てのものを正確にそれと指示できる時・処における検証可能な男女の行為に還元してしまう危 険、このいずれの危険をもうまく逃れられることを保証する定式はひとつとしてない。われわ れのなしうることはせいぜい、この両方の危険のあることを指摘するということだけで、われ われはできるだけうまくこのスキュルラとカリブデスの間をきり抜けてゆかねばならないので ある。」

(アイザイア・バーリン(1909-1997),『自由論』,歴史の必然性,II,註 *,pp.191-192, みすず書房(2000),生松敬三(訳))

自由論 新装版 [ アイザィア・バーリン ]


アイザイア・バーリン
(1909-1997)




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