2018年9月3日月曜日

ブラックホールは非常に小さな温度を持つ。宇宙の指数関数的な膨張が続くと、やがて宇宙の温度があらゆるブラックホールの温度より低くなる。ブラックホールはエネルギーを放射するようになり、最後は消滅する。(ロジャー・ペンローズ(1931-))

ブラックホールの温度の宇宙の未来

【ブラックホールは非常に小さな温度を持つ。宇宙の指数関数的な膨張が続くと、やがて宇宙の温度があらゆるブラックホールの温度より低くなる。ブラックホールはエネルギーを放射するようになり、最後は消滅する。(ロジャー・ペンローズ(1931-))】

(1)一般相対論によれば、ブラックホールは完全に真っ黒でなければならない。
(2)一般相対論に場の量子論の効果を考慮すると、ブラックホールは非常に小さな温度Tをもたなければならない。(スティーヴン・ホーキング、1974年)
 太陽質量の10倍のブラックホールの温度は、6×10-9K
 銀河系の中心部にある太陽質量の400万倍だと、約1.5×10-14K程度
 これは、宇宙マイクロ波背景放射の約2.7Kと比べると、ブラックホールははるかに冷たい。
(3)ところが、宇宙の指数関数的な膨張が無限に続き、宇宙マイクロ波背景放射の温度がどこまでも下がっていくと、どうなるだろうか。
 (3.1)やがて、宇宙マイクロ波背景放射の温度が、宇宙に存在しうる最大のブラックホールの温度より低くなる。
 (3.2)ブラックホールは周囲の空間にエネルギーを放射するようになり、アインシュタインのE=mc2の式によれば、エネルギーを失うことで質量も失うことになる。
 (3.3)ブラックホールは質量を失いながら高温になり、信じられないほど長い時間をかけて少しずつ縮んでゆき、ついには「ポン」と爆発して消滅してしまう。(今日の最大級のブラックホールなら、おそらく10100年、つまり「1グーゴル年」程度)。

 「第16章では、ブラックホールのもう一つの特徴を論じるつもりだ。その特徴は、今日では非常に小さな効果しか及ぼさないが、究極的にはわれわれにとって非常に重要な意味をもつことになる。アインシュタインの一般相対論は古典物理学であり、この理論によれば、ブラックホールは完全に真っ黒でなければならない。けれどもスティーヴン・ホーキングは、1974年に行なった分析により、背景の曲がった時空における場の量子論の効果を考慮すると、ブラックホールは非常に小さな温度Tをもたなければならないことを明らかにした。この温度は質量に反比例する。たとえば、質量が10Mのブラックホールの温度は6×10-9K程度となるが、これは、2006年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが達成した最低温度の記録(約10-9K)に近い、非常に低い温度である。今日のブラックホールはだいたいこの程度の温度だろうと考えられていて、まだまだ温かいほうだ。より大きなブラックホールはもっと低温で、銀河系の中心部にある質量約400万Mのブラックホールの温度は約1.5×10-14K程度しかないと考えられている。われわれを取り巻く宇宙の温度、すなわち、現時点の宇宙マイクロ波背景放射は約2.7Kなので、ブラックホールに比べればはるかに高温だ。
 それでも、もっと長い目でものごとを見るようにして、宇宙の指数関数的な膨張が無限に続き、宇宙マイクロ波背景放射の温度がどこまでも下がっていくと考えるなら、その温度は宇宙に存在しうる最大のブラックホールの温度より低くなるかもしれない。その後、ブラックホールは周囲の空間にエネルギーを放射するようになり、アインシュタインのE=mc2の式によれば、エネルギーを失うことで質量も失うことになる。ブラックホールは質量を失いながら高温になり、信じられないほど長い時間をかけて(今日の最大級のブラックホールなら、おそらく10100年、つまり「1グーゴル年」程度の時間をかけて)少しずつ縮んでゆき、ついには「ポン」と爆発して消滅してしまう。この最後の爆発は大砲の砲弾が破裂する程度のエネルギーしかなく、「バン」と呼べるような激しいものではない。これだけ長く待ったあとに起こる現象としては、なんとも拍子抜けである!」
(ロジャー・ペンローズ(1931-),『時間のサイクル』(日本語名『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』),第2部 ビッグバンの奇妙な特殊性,第12章 ビッグバンの特殊性を理解する,新潮社(2014),pp.141-142,竹内薫(訳))
(索引:ブラックホールの温度)

宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか


(出典:wikipedia
ロジャー・ペンローズ(1931-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「さらには、こうしたことがらを人間が理解する可能性があるというそのこと自体が、意識がわれわれにもたらしてくれる能力について何らかのことを語っているのだ。」(中略)「「自然」の働きとの一体性は、潜在的にはわれわれすべての中に存在しており、いかなるレヴェルにおいてであれ、われわれが意識的に理解し感じるという能力を発動するとき、その姿を現すのである。意識を備えたわれわれの脳は、いずれも、精緻な物理的構成要素で織り上げられたものであり、数学に支えられたこの宇宙の深淵な組織をわれわれが利用するのを可能ならしめている――だからこそ、われわれは、プラトン的な「理解」という能力を介して、この宇宙がさまざまなレヴェルでどのように振る舞っているかを直接知ることができるのだ。
 これらは重大な問題であり、われわれはまだその説明からはほど遠いところにいる。これらの世界《すべて》を相互に結びつける性質の役割が明らかにならないかぎり明白な答えは現れてこないだろう、と私は主張する。これらの問題は互いに切り離し、個々に解決することはできないだろう。私は、三つの世界とそれらを互いに関連づけるミステリーを言ってきた。だが、三つの世界ではなく、《一つの》世界であることに疑いはない。その真の性質を現在のわれわれは垣間見ることさえできないのである。」

    プラトン的
    /世界\
   /    \
  3      1
 /        \
心的───2────物理的
世界         世界


(ロジャー・ペンローズ(1931-),『心の影』,第2部 心を理解するのにどんな新しい物理学が必要なのか,8 含意は?,8.7 三つの世界と三つのミステリー,みすず書房(2001),(2),pp.235-236,林一(訳))

ロジャー・ペンローズ(1931-)
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