2021年11月17日水曜日

不確実な世界では情報の価値は高く、好奇心は生と死を分けることもある。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

好奇心

不確実な世界では情報の価値は高く、好奇心は生と死を分けることもある。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

 「好奇心は生物の根本的な衝動であり、飢えや渇きや安全確保や生殖の欲求と同じように、私たちを行 動に向かわせる推進力だ。それは生存にとってどんな役割を演じているだろう。 環境の状況をもっとよ く知るために探り回るのは、ほとんどの動物種(哺乳類だけでなく、鳥類や魚類の多くも)の関心事だ。巣、 隠れ処、地下道、巣穴、穴ぐら、住処、いずれにしても周囲を確かめずに設けるのは危ない。捕食者が 住む不安定な世界では、好奇心は生と死を分けることもある 。だからたいていの動物は恒常的に縄張 りを見回り、変わったことがないか確かめ合おう、新奇な音や光景等々を調べるのだ。好奇心があればこそ、 動物は知識を得るために安全地帯から出ようとする。不確実な世界では情報の価値は高く、結局はあの ダーウィン的進化の通貨、すなわち生存を対価としなければならない。

 したがって好奇心は私たちに探索を促す力だと言える。この見方からすると、好奇心は餌や配偶者を 求める衝動に似ているが、情報の獲得という触知できない価値を動機にしているところが違う。実際、 神経生物学的研究によれば、私たちの脳では、それまで知られていなかった情報を発見することがドー パミン回路を起動し、当の発見自体が報酬となっている。この回路は餌や薬物やセックスに応じて発火 する回路であることを思い出そう。霊長類では、またおそらくすべての動物で、この回路はただ物質的 な報酬だけでなく、新しい情報に反応する。ドーパミン作動性ニューロンは、将来の情報獲得を知らせ る。まるで新奇な情報を得られると予想するだけで喜びが得られるかのように。この仕組みのおかげで、ラットを餌や薬物だけでなく、目新しさによって条件づけることができる。何も変わったことが起 きない退屈な場所よりも、新しい物がある場所の方をすぐに好むようになり、それによって好奇心を満 たす。私たちが目に映る景色を変えるために都会へ移るときも、最新のゴシップを求めてフェイスブッ クやツイッターをせっせと見て回るときも、まったく同じことをしている。」

(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『脳はこうして学ぶ』,3 学習の四本柱,8章 能動的関与,pp.247-248,森北出版,2021,松浦利輔,中村仁洋)

脳はこうして学ぶ [ スタニスラス・ドゥアンヌ ]





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