2021年12月5日日曜日

社会科学はもともと、社会を改善する提案に対する批判を通じて発展してきたが、技術的社会科学は、これを継承する。それは、(a)有意義な理論の源泉であり、(b)科学的な基準に準拠しているがゆえに、(c) 形而上学的思弁への歯止めにもなっている。(カール・ポパー(1902-1994))

技術的社会科学の効用

社会科学はもともと、社会を改善する提案に対する批判を通じて発展してきたが、技術的社会科学は、これを継承する。それは、(a)有意義な理論の源泉であり、(b)科学的な基準に準拠しているがゆえに、(c) 形而上学的思弁への歯止めにもなっている。(カール・ポパー(1902-1994))


(a)社会の改善提案への批判的研究
 社会科学は、ごく一般的に言うなら社会を改善する提案に対する批判を通じて、より厳密 に言うなら、経済的あるいは政治的なある特定の行為が期待された望ましい結果を生み出す可 能性が高いかどうかを知る試みを通じて、発展してきた。
(b)有意義な理論の源泉
 技術 的アプローチは、そこから純粋に理論的で有意義な問題が生まれるという点で実りあるものと なるだろう。
(c)科学的な基準への準拠
 技術的にアプ ローチすることで、私たちは、明晰性の基準や実践的検証可能性など、ある決まった基準に 従って理論を立てざるをえなくなる。
(d)形而上学的思弁への歯止め
 とくに本来的な社会学の分野では、思弁的 傾向から形而上学の領域に足を踏み入れがちであるが、この歯止めになる。

「社会科学は、ごく一般的に言うなら社会を改善する提案に対する批判を通じて、より厳密 に言うなら、経済的あるいは政治的なある特定の行為が期待された望ましい結果を生み出す可 能性が高いかどうかを知る試みを通じて、発展してきた。私が社会科学への技術的アプロー チ、あるいは「ピースミール社会技術」と言うとき念頭に置いているのは、このようなアプ ローチなのである(古典的アプローチと呼んでいいだろう)。  社会科学分野における技術的問題は、「民間」的性格を持つこともあれば「公共」的な性格 を持つこともある。たとえば企業経営の技法や、労働条件の改善が生産高に及ぼす効果などを 研究するのは前者の問題である。刑務所の改革や国民皆健康保険、裁判所を用いた物価の安定 化、新関税の導入などが所得の平等化にどう影響するかを研究するのは第二のカテゴリーに属 する。今日とくに緊急度が高いいくつかの実践的問題も公共的問題である。景気循環はコント ロールできるか、生産の国家管理という意味での中央集権的「計画」は、民主的で効果的な行 政管理と共存できるか、どのように中東に民主主義を輸出するか、などである。  実践的で技術的なアプローチを強調するからといって、実践的問題の分析から生じるかもし れないあらゆる理論的問題を除外すべきだと主張しているわけではない。それどころか、技術 的アプローチは、そこから純粋に理論的で有意義な問題が生まれるという点で実りあるものと なるだろうというのが、私の主要な論点の一つなのである。  しかし、技術的アプローチには、問題を選別するという基本的課題で有用であることに加え て、私たちの思弁的傾向を律する働きもある(とくに本来的な社会学の分野では、この思弁的 傾向から、私たちは形而上学の領域に足を踏み入れがちである)。なぜなら、技術的にアプ ローチすることで、私たちは、明晰性の基準や実践的検証可能性など、ある決まった基準に 従って理論を立てざるをえなくなるからである。技術的アプローチに関する私の主張のポイン トは、こう言えばはっきりするかもしれない。社会学は(おそらく社会科学一般でさえ)「そ れ自身のニュートンあるいはダーウィン」を見つけようとするのでなく、自身のガリレオある いはパスツールを見つけようとすべきである。  以上の議論、そしてまた社会科学の方法と自然科学の方法の間のアナロジーについて私がこ れまで述べてきたことは、多くの反論を引き起こすだろう。「社会技術」、「社会工学」とい う言葉の選び方が(「ピースミール」という単語で表現される重要な限定にもかかわらず)反 論を呼び覚ますのと同じである。私はただ、こう言っておけばよかったのかもしれない――私は 教条的な方法論的自然主義、あるいは(ハイエク教授の用語を使えば)「科学主義」に反対す る闘いの重要性を全面的に認めている、と。  たしかにこのアナロジーはある分野でひどく誤解され、誤った使い方をされていることはわ かっているが、それでも私には、実りの多いこのアナロジーを利用すべきでない理由が思い当 たらない。加えて、これら教条的自然主義者に対して、彼ら自身が攻撃している方法論の一部 が、自然科学で使われる方法と基本的に同じであることを示してみせることこそが、最も強 力な反論になると言える。」
 (カール・ポパー(1902-1994),『歴史主義の貧困』,第3章 反自然主義的な見解への批判,20 社会学への技術的アプローチ,pp.108-110,日経BPクラシックスシリーズ(2013),岩坂彰 (訳))

【中古】歴史主義の貧困 社会科学の方法と実践 カール R.ポパー、 久野 収; 市井 三郎 状態良




カール・ポパー
(1902-1994)







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