2022年3月1日火曜日

人間は、自分の仲間に想像上で同一化するのみならず、その結果として、互いの歓びや哀しみを自ずから感じる傾向がある。この同じ仕組みが、構造的暴力の犠牲者に、受益者が犠牲者たちを気 遣うよりもはるかに多く、受益者を気遣うようにさせる。不平等な諸関係を維持する最大の力が、この想像力の構造である。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))

共感的同一化

人間は、自分の仲間に想像上で同一化するのみならず、その結果として、互いの歓びや哀しみを自ずから感じる傾向がある。この同じ仕組みが、構造的暴力の犠牲者に、受益者が犠牲者たちを気 遣うよりもはるかに多く、受益者を気遣うようにさせる。不平等な諸関係を維持する最大の力が、この想像力の構造である。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))



(a)共感的同一化(アダム・スミス『道徳感情論』)
 人間というものは、ふつう、自分の仲間に想像上で同一化するのみならず、その結果として、互いの歓びや哀しみを自ずから感じてしまう傾向があ る。
(b)同一化の対象、仲間か支配者か
 しかしながら、貧民は、あまりにいつも惨めな状況にあるため、普通であれば共感力の 豊かな観察者も、端的に圧倒されてしまい、そうとは気づくことなく、彼らの存在を視界か ら抹消してしまうよう余儀なくされる。
(c)偏りのある想像力の構造
 その結果、社会的階梯の底辺に位置する者が、多大なる時間をかけて、頂点にある者たちに見えているものを想像したり、心から気にかけたりする のに対し、その逆はほとんど起きないのである。  




「第二の要素は、共感的同一化の結果として生まれるパターンである。興味深いことだが、 「共感疲れ」といま呼ばれている現象を、はじめて観察したのは『道徳感情論』のアダム・ス ミスであった。かれによれば、人間というものは、ふつう、自分の仲間に想像上で同一化す るのみならず、その結果として、たがいの歓びや哀しみをおのずから感じてしまう傾向があ る。しかしながら、貧民は、あまりにいつも惨めな状況にあるため、ふつうであれば共感力の 豊かな観察者も、端的に圧倒されてしまい、そうとは気づくことなく、かれらの存在を視界か ら抹消してしまうよう余儀なくされる。その結果、社会的階梯の底辺に位置する者が、多大なる時間をかけて、頂点にある者たちにみえているものを想像したり、心から気にかけたりする のに対し、その逆はほとんど起きないのである。  主人と召使いであろうと、男性と女性であろうと、雇用者と被雇用者であろうと、富者と貧 民であろうと、構造的不平等――構造的暴力とここで呼んできたもの――は、例外なく、高度に偏 りのある想像力の構造を形成してしまう。おもうに、想像力は共感をともなう傾向がある、と するスミスは正しい。だから、構造的暴力の犠牲者は、構造的暴力の受益者が犠牲者たちを気 遣うよりもはるかに多く、受益者を気遣う傾向があるのである。暴力そのものに次いで、こう した[不平等な]諸関係を維持する単一の最大の力が、これ[この想像力の構造]であろ う。」

(デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『官僚制のユートピア』,1 想像力の死角? 構造 的愚かさについての一考察,pp.101-102,以文社(2017),酒井隆史(訳),芳賀達彦(訳),森田 和樹(訳))

官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則 [ デヴィッド・グレーバー ]


デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)








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