観察者(Beobachter)(マルティン・ブーバー(1878-1965)
さてこの場合、われわれの知覚の対象である人間が、われわれのこと、われわれが彼のそばにいることを、知っている必要はいささかもない。彼がわれわれの知覚行為に何らかの関わりを有しているかどうか、何らかの挙止によって応ずるかどうかということもまた、どちらでもよいのである。
観察者(Beobachter)は、被観察者を記憶に刻印し、《記録》すべく、このうえなく緊張している。
彼は相手を探知し、記述する。彼はしかも、あたうる限り多くの《特徴》(Züge)を記述しようとやっきになっている。彼はさまざまな特徴を、それらのうちの何ひとつとして取り逃すまいとして待ち伏せるのである。
対象はここではさまざまな特徴によって成り立っているにすぎず、あらゆる特徴について、その背後にひそんでいるものが知られてしまうのだ。
人間的事象の表出方式なるものについての知識が、新しく現れてくるさまざまな個人的な表出変差を絶えず直ぐさま抱合してゆき、相変わらず役立つわけである。