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2020年3月28日土曜日

16.(仮説)ループ量子重力理論は、時空にも収縮の限界があり「点」まで縮むことはないと考える。その結果、ブラックホールは安定でなくなり反発することになる。その現象が高速電波バーストかもしれない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

高速電波バースト?

【(仮説)ループ量子重力理論は、時空にも収縮の限界があり「点」まで縮むことはないと考える。その結果、ブラックホールは安定でなくなり反発することになる。その現象が高速電波バーストかもしれない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】


【高速電波バースト】  「ループ量子重力理論の、ブラックホールへの適用の第二の例は、より劇的な内容を含んでいる。

ブラックホールのそばで崩壊した天体は、ブラックホールの内部に吸いこまれるため、外側からはその破片さえ見えなくなる。だが、ブラックホールの内部ではいったい何が起きているのか? もし、わたしたちがブラックホールのなかに落ちていったら、わたしたちには何が見えるのか?

 はじめのうちは、特別なことは何も起こらない。大した傷を負うこともなく、わたしたちはブラックホールの表面を通過する。ところがその後、ぐんぐん速度を増しながら、わたしたちはブラックホールの中心へ転落していく。それから先はどうなるのか? 

一般相対性理論の予見によれば、ブラックホールの中心ではすべてのものが限りなく圧縮され、限りなく小さな一点に押しつぶされる。だが繰り返すなら、これは量子重力理論を無視した場合の話しである。

 量子重力理論を考慮するなら、この予見は正しくない。

一般相対性理論の予見は、量子の反発を無視している。量子の反発とは、前章で解説した、ビッグバンのときに宇宙を跳ね返した力である。

量子重力理論を援用した場合、ブラックホールの中心に近づくにつれ、落下する事物は量子の反発力を受けて速度を落としていく。その際、落下する事物の密度は極限まで高まるものの、その数値はあくまで有限である。

ブラックホールの重力に押しつぶされた事物が、無限に小さな一点と化すことはない。なぜなら、事物の寸法には下限が存在するからである。

量子重力理論によれば、ブラックホールの中心では、事物を反発させる巨大な圧力が発生する。それは、崩壊する宇宙が反発して、膨張する宇宙へ移行するのとまったく同じ状況である。

 ブラックホールの内側から観測するなら、崩壊する天体の「反発」はすさまじい速度で展開するだろう。

しかし忘れてはならないのは、ブラックホールに近づけば近づくほど、外側の世界と比較して時間の流れが遅くなるという点である。外側から眺めれば、反発の過程が数十億年にわたり続く可能性もある。それだけの時間が経過してはじめて、わたしたちはブラックホールが爆発する現場を目撃できるだろう。要するに、ブラックホールとは、遠い未来への近道である。

 一般相対性理論によれば、ブラックホールは永続的な安定性を備えているはずだった。しかし量子重力理論は、ブラックホールが究極的には不安定な存在であることを示唆している。

 ブラックホールの爆発が観測されれば、理論の正しさが劇的に裏づけられるだろう。初期の宇宙で形成されたきわめて古いブラックホールなら、すでに爆発していてもおかしくない。

ごく最近の計算によると、ブラックホールが爆発した場合、電波望遠鏡の観測範囲に、爆発の事実を示す信号が送られてくるようである。

かねてよりささやかれているのは、電波天文学者によって観測された「高速電波バースト」と呼ばれる奇妙な電波こそ、原初のブラックホールが爆発した再に発せられた信号なのではないかという説である。

この仮説が証明されれば、それは間違いなくたいへんなニュースになる。なぜならわたしたちは、量子重力理論を裏づける事象から発せられた、直接的な信号を獲得したことになるのだから。今はただ、観測を待ち続けるしかない……」

(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第9章 実験による裏づけとは?、pp.224-226、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:高速電波バースト)

すごい物理学講義 (河出文庫)



カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
カルロ・ロヴェッリ(1956-)
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14.量子論は、ある事物と他の事物との間の、相互作用の結果情報をもとに、起こり得る有限個数の別の相互作用への推移を予測し、相互作用の結果から新たな情報を得る、と定式化することができる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

量子論と情報

【量子論は、ある事物と他の事物との間の、相互作用の結果情報をもとに、起こり得る有限個数の別の相互作用への推移を予測し、相互作用の結果から新たな情報を得る、と定式化することができる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

古典的な記述の例
(1)
 ある物理的な系A(対象系)
  Aは、b1 に存在する。
(2)
 ある物理的な系A(対象系)
  Aは、b2 に存在する。
(3)
 ある物理的な系A(対象系)
  Aは、b3 に存在する。

量子的な記述の例
 量子論は、実在する「事物」の状態の変化を記述しているのではなく、ある事物と他の事物の間のある相互作用から、起こり得る別の相互作用への推移の「過程」を記述する。相互作用の瞬間においてのみ「事物」の性質はあらわになる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
(1)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a1とは、情報(b.1)を表現している。
  (a.2)状態 a1は、未来におけるAとBの相互作用を予測する。
  (a.3)量子力学の粒性
   AとBの相互作用の結果、
   実現する可能性のあるBの結果 biの総数は、有限である。
   参考:ある現象のなかで実現する可能性のある、互いに区別可能な状態の総数は、有限個である。従って、その現象について私たちが所持していない情報の量も、有限である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))
  (a.4)不確定性
   Bからは、常に新しい情報 biを得ることが可能である。
   参考:量子的な事象とは、観測の対象となっている事象の総体(物理系)が、別の物理系との間に起こす、個別の相互作用のことである。相互作用の結果は確率的に厳密に予測できるが、どの結果が得られるかは不確定である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t1において、
   AとBの相互作用の結果が、b1である。
  (b.2)これは、AとBが過去経験してきたあらゆる相互作用の最終結果である。
  (b.3)これは、未来におけるAとBの相互作用を予測可能にするための整理作業でもある。
(2)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a2とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t2において、
   AとBの相互作用の結果が、b2である。
(3)
 (a)ある物理的な系A(対象系)
  (a.1)Aの状態 a3とは、情報(b.1)を表現している。
 (b)他の物理的な系B(観測系)
  (b.1)時刻 t3において、
   AとBの相互作用の結果が、b3である。


 「わたしたちは量子力学の全体像を、情報という観点から次のように読み解くことができる。

ある物理的な系があらわになるのは、ほかの物理的な系と相互作用を起こしたときだけである。

したがって、ある物理的な系を記述するには、相互作用の片割れである別の物理的な系との比較が必須になる。

ある物理的な系の状態の描写とはつねに、その系が、別の物理的な系についてもっている「情報」の描写である。

言い換えるなら、系の状態の描写とは、ある系と別の系のあいだに認められる相関性の描写である。

このように、「ある物理的な系が持っている別の系の情報」として量子力学を解釈するなら、量子力学をおおっている神秘の霧はだいぶ薄まってくる。

 つまるところ、物理的な系の描写とは、「その系が過去に経験してきたあらゆる相互作用の要約」にほかならない。それはまた、「未来における相互作用がどんな効果をもちうるか」を予測できるようにするために、過去の相互作用を整理する作業でもある。

 このような考えにもとづくなら、次に掲げる二つの単純な公理さえあれば、量子力学を形づくる全体の枠組みを引き出せてしまう。
 公理1 あらゆる物理的な系において、有意な情報の量は有限である。
 公理2 ある物理的な系からは、つねに新しい情報を得ることが可能である。

 公理1にある「有意な情報」とは、どんな情報を指しているのか? それは、過去にわたしたちがある系と相互作用を起こした結果として、わたしたちがその系について所有することになった情報である。

その情報は、未来にわたしたちが同じ系と相互作用を起こしたとき、わたしたちがいかなる影響を被るか予見することを可能にする。

公理1は、量子力学の「粒性」を特徴づけている。これは、実現する可能性がある選択肢の総数は有限であるという公理である。

公理2は、量子力学の「不確実性」を特徴づけている。量子の世界では、つねに予見不可能な事態が発生するため、わたしたちはそこから新たな情報を引き出すことができる。

公理1が示すように、有意な情報の総量には限りがある。したがって、ある系に関する新しい情報を得たのであれば、その帰結として、それに先だつ情報の一部は「有意でない(つまりは無意味な)」情報に変化するはずである。

無意味になった情報はもはや、未来の予見に何の影響も与えない。つまり、量子力学の世界においては、ある系と相互作用を与え合うとき、わたしたちは何かを得るばかりでなく、同時に、その系に関する情報の一部を「消去」してもいる。

 量子力学の数学的な全体構造の大枠は、この二つの公理から導き出せる。情報は、量子力学を表現するのに驚くほど適した概念である。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第12章 情報――熱、時間、関係の網、pp.243-245、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:量子論と情報)

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2020年3月27日金曜日

13.量子論は、実在する「事物」の状態の変化を記述しているのではなく、ある事物と他の事物の間のある相互作用から、起こり得る別の相互作用への推移の「過程」を記述する。相互作用の瞬間においてのみ「事物」の性質はあらわになる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

現実とは関係である

【量子論は、実在する「事物」の状態の変化を記述しているのではなく、ある事物と他の事物の間のある相互作用から、起こり得る別の相互作用への推移の「過程」を記述する。相互作用の瞬間においてのみ「事物」の性質はあらわになる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

【現実とは関係である】
「世界の本質について量子力学が伝えている三つの側面のうち、第三の側面はもっとも深遠で、もっとも難解な内容を含んでいる。古代の原子論も、この発見にはまったく手をつけていない。

 量子論は、事物が「どのようであるか」ではなく、事物が「どのように起こり、どのように影響を与え合うか」を描写する。

一例を挙げるなら、粒子が「どこにあるか」ではなく、粒子が「(次に)どこに現われるか」を描写するわけである。

実在する事物から成り立つ世界は、起こりうる相互作用から成り立つ世界に変換される。現実は相互作用に姿を変え、そして、現実は関係に姿を変える。」(中略)

「相関性。自然界のあらゆる事象は相互作用である。ある系における全事象は、別の系との関係のもとに発生する。

 量子力学は、あれやこれやの状態にある「事物」ではなく、「過程」をとおして世界について考えるよう私たちに教えている。

過程とは、ある相互作用から別の相互作用への推移を指す。相互作用の瞬間においてのみ、つまり過程の末端においてのみ、「事物」の性質はあらわになる。そして、事物が性質を帯びるのは、ほかの事物との「関係」を考慮したときだけである。

しかも、その性質は一意的には予見できない。私たちはあくまで、確率にもとづく予測を立てるしかない。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第2部 革命の始まり、第4章 量子――複雑奇怪な現実の幕開け、pp.134-136、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:現実とは関係である)

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12.量子的な事象とは、観測の対象となっている事象の総体(物理系)が、別の物理系との間に起こす、個別の相互作用のことである。相互作用の結果は確率的に厳密に予測できるが、どの結果が得られるかは不確定である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

不確定性

【量子的な事象とは、観測の対象となっている事象の総体(物理系)が、別の物理系との間に起こす、個別の相互作用のことである。相互作用の結果は確率的に厳密に予測できるが、どの結果が得られるかは不確定である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】

【不確定性】
「この世界は、粒状の量子が間断なく引き起こす事象によって形つくられている。これらの事象は離散的であり、粒状であり、それぞれたがいに独立している。

量子的な事象とは、ある物理的な「系(観測の対象となっている事象の総体)」が、別の物理的な「系」とのあいだに起こす、個別の相互作用のことである。

電子や、光子や、そのほかの場の量子は、空間のなかで継続的な道筋を進むのではなく、別のなにかと衝突したときにだけ、特定の場所に突如として出現する。

量子たちは、いつ、どこに現われるのか? それを確実に予見する方法はない。量子力学は、世界の核心に、根源的な不確定性を導入した。未来は誰にも予見できない。これが量子力学によってもたらされた第二の重要な教えである。」(中略)

「では、Aという出発地点にいる一個の電子が、しばらくあとでBという終着地点に現われる確率は、どのように計算したらよいのだろうか?

 一九五〇年代、第一章で名前を挙げたリチャード・ファインマンが、この計算を行うためのきわめて効果的な方法を発見している。ファインマンの方法は、A点とB点をつなぐ「あらゆる」経路を、つまり、電子が取りうるあらゆる道筋(まっすぐだったり、曲がっていたり、ジグザグだったり……)を考慮に入れる。

まずは、それぞれの経路について計算を行い、その経路の数値を導き出す。そして、確率を導き出すために、これらの数値をすべて足し合わせる。

ここで重要なのは、この計算の詳しい仕組みを理解することではない。私たちが着目すべきは、AからBへ移動するのに、電子があたかも「取りうるあらゆる経路を」通過したかのように見えるという点である。

確率の雲のなかに飛びこんでいった電子は、ふと気がつけばB点に移動していて、ふたたび別の何物かと衝突している。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第2部 革命の始まり、第4章 量子――複雑奇怪な現実の幕開け、pp.131-133、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:不確定性)

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11.ある現象のなかで実現する可能性のある、互いに区別可能な状態の総数は、有限個である。従って、その現象について私たちが所持していない情報の量も、有限である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

情報は有限である

【ある現象のなかで実現する可能性のある、互いに区別可能な状態の総数は、有限個である。従って、その現象について私たちが所持していない情報の量も、有限である。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
【情報は有限である】

「ここで、ひとつ想像してみてほしい。あなたは、ある物理現象の計測を行い、その現象がどのような状態にあるかを突きとめようとしている。

たとえば、振り子の振り幅を計測して、五センチと六センチのあいだであることが分かったとしよう(物理学ではどんな計測も、完璧に正確であるということはありえない)。

量子力学が確立される以前は、五センチと六センチのあいだに、振り幅が取りうる値は無限に存在していた(たとえば、5.1センチであったり、5.101センチであったり、5.101001センチであったり……)。したがって、振り子の動きには「無限」の可能性が存在することになる。振り子に関するわたしたちの無知もまた、文字通り「無限」の状態にあるわけである。

 一方で、量子力学はわたしたちにこう教えている。五センチと六センチのあいだで、振り幅が取りうる値の数は「有限」である。だから、振り子についてわたしたちが所持していない情報の量もまた、「有限」であるといえる。

 この議論はあらゆる文脈に適用できる。つまり、量子力学の第一の重要な意義は、ある現象のうちに存在する「情報」の総量に限界を設けたことにある。

ここでいう「情報」とは、「ある現象のなかで生じうる、たがいに区別可能な状態」を指している。

自然の奥底に潜む粒性が、「無限」にたいして「限界」を設定する。デモクリトスが洞察したこの粒性こそ、量子論を支える第一の側面である。

このような粒性があらわになる極小のスケールは、プランク定数hによって規定されている。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第2部 革命の始まり、第4章 量子――複雑奇怪な現実の幕開け、pp.130-131、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:情報は有限である)

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カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
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2018年1月14日日曜日

10.ビッグバンに由来する電磁場の「宇宙背景放射」が観測されているように、ビッグバンの直後に発生した原初の「重力波の背景放射」もまた、存在しているはずである。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

重力場の背景輻射

【ビッグバンに由来する電磁場の「宇宙背景放射」が観測されているように、ビッグバンの直後に発生した原初の「重力波の背景放射」もまた、存在しているはずである。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
 ビッグバンに由来する電磁場の「宇宙背景放射」が観測されているように、量子重力理論によると、ビッグバンの直後に発生した原初の「重力波の背景放射」もまた、存在しているはずである。LIGOは、二つのブラックホールの衝突に由来する重力波を、直接に観測している。三つの人工衛星を、地球のまわりではなく太陽のまわりの軌道に投入して、同様に重力波を観測するための、LISA(「発展型のLISA」という意味をこめて、eLISAに改名されている)という構想があり、このような観測が行われることにより、「重力波の背景放射」の検証が行われるだろう。


(レーザー干渉計重力波観測所(LIGO) 出典:wikipedia


((構想段階)宇宙重力波望遠鏡(LISA) 出典:wikipedia


 「重力場もまた、原初のすさまじい熱気の痕跡を帯びているはずである。

重力場、つまり空間それ自体もまた、海面のように震えているはずである。

つまり、「重力場の背景輻射」もまた存在しているはずであり、それは電磁場の「宇宙背景放射」よりも長い歴史をもっているはずである。

なぜなら、重力波は電磁波よりも物質からの干渉を受けにくいと考えられるため、電磁波が自由に行き来できないようなきわめて圧縮された宇宙のなかでも、重力波はほかの物質にじゃまされることなく移動できるからである。

 アメリカのLIGOという観測所の検出器が、すでに重力波を直接に観測している。長さ数キロメートルの二本のアームがL字型に組み合わさって、検出器を形成している。この検出器は、レーザーを利用して、三つの定点の距離を正確に測定する。

重力波が通過するとき、空間はほんのわずかに伸びたり縮んだりする。検出器のレーザーが、このかすかな変化を明るみに出す。

LIGOで観測された重力波は、天体物理学に関連する一事象に由来するものだった。それはつまり、二つのブラックホールの衝突である。

量子重力理論を援用せずとも、一般相対性理論さえあれば、この事象を完全に記述できる。

 もうひとつ、いまだ準備段階ではあるが、より野心的なLISAという試みがある(数年前に、「発展型のLISA」という意味をこめて、eLISAに改名されている)。

これは、LIGOと同じ観測を、はるかに大きなスケールで実現するための計画である。

予定としては、三つの人工衛星を、地球のまわりではなく太陽のまわりの軌道に投入することになっている。人工衛星は、小型の惑星のようにして、地球とある程度の距離を保ちながら、太陽のまわりを回る地球を追いかけていく。

三つの人工衛星は、たがいの距離を計測するレーザー光線によって結びつけられている。

重力波の通過によって、わずかに変化する衛星間の距離を、レーザーが観測する仕組みである。

eLISAの計画が実現すれば、天体やブラックホールから発せられる重力波だけでなく、ビッグバンの直後に発生した原初の重力波の背景放射をも観測できる可能性がある。これらの波が、量子的な「反発」の真相を、わたしたちに伝えてくれるはずである。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第9章 実験による裏づけとは?、pp.216-218、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))

9.無限とは、わたしたちがまだ理解し得ていないもの、数え得ていないものに対して、暫定的に与えられた属性にすぎないように思われる。光速度 c、プランク定数 h、プランク長Lp、そして果てはないが有限な大きさを持つ宇宙。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

無限とは何か?

【無限とは、わたしたちがまだ理解し得ていないもの、数え得ていないものに対して、暫定的に与えられた属性にすぎないように思われる。光速度 c、プランク定数 h、プランク長Lp、そして果てはないが有限な大きさを持つ宇宙。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
 「無限」とは何か? 無限とは、わたしたちがまだ理解し得ていないもの、数え得ていないものに対して、わたしたちが与えた名前にすぎない。自然界に存在すると思われていたさまざまな「無限」に、限界があることが分かってきた。自然について多くを学べば学ぶほど、自然はわたしたちに、本当に無限なものなど存在しないと語りかけてくるようである。クオーク、陽子、原子、さまざまな構造をもつ化学物質、山、星、太陽、銀河、銀河の一群、宇宙そのもの。これらは複雑でとてつもなく巨大ではある、しかし「有限」である。例をあげる。
 最大の速さ、光速度 c :特殊相対性理論は「あらゆる物理的な系が共有する最大速度」を発見した。
 プランク定数 h :量子力学は「あらゆる物理的な系が共有する情報の最小単位」を発見した。
 最小の長さ プランク長Lp :量子重力理論は、これよりも小さい長さ(空間)が存在しないことを予測する。
 また、宇宙空間は、一般相対性理論により「果てはないが有限」であることが分かった。現在の計測によれば、宇宙の全長は千億光年を超えるとのことである。これは、プランク長のおよそ1060倍に相当する。
 参考: 検索(光速度)検索(プランク定数)検索(プランク長)検索(宇宙の大きさ)

 「無限に限界を設定することは、現代物理学に繰り返し登場するテーマである。

特殊相対性理論の内容を一言に圧縮するなら、「あらゆる物理的な系が共有する最大速度(つまり光速)の発見」ということになる。

同じように、量子力学は、「あらゆる物理的な系が共有する情報の最小単位の発見」と要約できる(情報は次章のテーマである)。

最小の長さはプランク長Lpであり、最大の速さは光速cであり、情報の最小単位はプランク定数hによって規定される。」
(中略)

「三つの定数をもとに自然を描写することは、たんなる形式上の変化に留まらない深遠な意味をもっている。

これら三つの定数が特定されることによって、それまで自然界に存在すると思われていたさまざまな「無限」に、限界が設定されたからである。

無限であるように見えるものは、実際には、わたしたちがまだ理解していなかった(または数えられていなかった)ものでしかないことを、これらの定数は繰り返し示してきた。

わたしが思うに、これは普遍的な真実である。「無限」とは、つまるところ、未知の事物にわたしたちが与えた名前にすぎない。自然について多くを学べば学ぶほど、自然はわたしたちに、本当に無限なものなど存在しないと語りかけてくるようである。

 もうひとつ、人間の思索をつねに惑乱させてきた「無限」がある。それは、宇宙空間の無限の広がりである。

しかし、第3章で解説したとおり、アインシュタインの理論のおかげで、「果てはないが有限な宇宙」について考えるための方法が明らかになった。

現在の計測によれば、宇宙の全長は千億光年を超えるとのことである。これが、わたしたちの住まう宇宙に存在する最大の長さである。これは、プランク長のおよそ1060倍に相当する。1060とは、1のあとに0が六十個つづく数値である。

プランクのスケールと宇宙のスケールのあいだには、数字にして六十桁もの莫大な開きがある。大変な違いである。それでも、プランク長と宇宙の大きさを比較するのに、「無限」をもち出す必要はない。

 クオークも、陽子も、原子も、さまざまな構造をもつ化学物質も、山も、星も、太陽のような天体が千億個も集まってできる銀河も、銀河の一群も……いまだにわたしたちはその一側面しか理解できていない、目もくらむほどに複雑な宇宙全体が、この大きさのなかに収まっている。

宇宙は巨大であり、しかし同時に、有限である。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第11章 無限の終わり、pp.229-231、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))

8.技術的な工夫で回避されている場の量子論における無限発散の困難は、ループ量子重力理論によれば合理的に解決できる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

ループ量子重力理論

【技術的な工夫で回避されている場の量子論における無限発散の困難は、ループ量子重力理論によれば合理的に解決できる。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
 場の量子論を使って物理的な過程を計算すると、多くの場合、何の意味も持たない「無限」という解が得られてしまう。こうした解のことを、専門用語では「発散」と呼ぶ。これは、技術的な工夫を導入することで、回避されている。なぜ無限が現われるのか? それはこの理論が、時空が際限なく分割できるという仮定に基づいているからである。例えば、ファインマンの経路積分において、ある過程が生じる確率を計算するには、この過程がたどることのできるあらゆる道筋を足し合わせた。しかし、この「道筋」は無限に存在する。その結果、無限発散の困難が現われることになる。
 量子重力理論によれば、空間は無限に分割することはできず、無限に小さな点は存在しない。その結果、取りうる「道筋」は有限個となり、無限発散の困難は解消する。粒的であり離散的である時空の構造が、場の量子論を苦しめている無限を除去し、この理論が抱えている難題を解決するのだ。
 考えてみれば、一方では、量子力学を考慮に入れることで、アインシュタインの重力理論にもとづく特異点における無限の問題が解消され、他方では、重力を考慮に入れることで、場の量子論から生じる無限の問題が解消されることになる。


 「まったく別の文脈で、量子重力理論が無限に限界を設定した事例がある。それは、電磁力をはじめとする「力」にかかわっている。

ディラックによって創始され、五〇年代にファインマンやその同僚たちが完成させた場の量子論は、これらの力を適切に描写することを可能にした。

ただしこの理論は、数学的に見て不合理としか言いようのない問題を抱えていた。場の量子論を使って物理的な過程を計算すると、多くの場合、何の意味も持たない「無限」という解が得られてしまうのである。こうした解のことを、専門用語では「発散」と呼ぶ。

有限な解が得られるように、技術的な工夫を導入することで、この種の無限は姿を消した。場の量子論はうまく機能するようになり、計算から求められる値と実験による計測値は一致するようになった。

しかし、場の量子論はどういうわけで、適切な数値にたどり着く前に、無限という不合理な解を通過しなければならなかったのか?

 晩年のディラックは、理論にたびたび顔を出す無限という要素に不満を抱いていた。事物の働きを完全に理解するという自身の目的は、結局のところ達成されなかったと感じていた。ディラックは明晰な概念を好む人物だった(もっとも、彼にとって明晰な概念が、ほかの人びとにとっても明晰であったことは少ないが……)。「無限」はけっして、明晰な要素とはいえなかった。

 ところが、場の量子論に登場する無限は、この理論の基礎を成すある前提に由来するものだった。その前提とは、空間の際限のない分割性である。

かつてファインマンが教えてくれたように、ある過程が生じる確率を計算するには、この過程がたどることのできるあらゆる道筋を足し合わせればよい。

しかし、この「道筋」は無限に存在する。なぜなら、計算の対象となっている過程は、連続的な空間に存在する無限個の点のすべてをたどることができるからである。このために、多くの場合、無限という計算結果が導き出される。

 量子重力理論を考慮に入れれば、このような無限もまた姿を消す。理由は明快である。空間を無限に分割することはできず、無限に小さな点は存在しない。したがって、足し合わせるべき「道筋」が無限に存在することもない。

粒的であり離散的である空間の構造が、場の量子論を苦しめている無限を除去し、この理論が抱えている難題を解決する。

 これは目覚ましい成果である。一方では、量子力学を考慮に入れることで、アインシュタインの重力理論にもとづく無限の問題が解消され、他方では、重力を考慮に入れることで、場の量子論から生じる無限の問題(つまり「発散」をめぐる問題)が解消された。

一見したところ矛盾しているように見えた二つの理論が、じつのところは、それぞれが抱えている問題の解決策になっていたのである! このことは、理論の信頼性を大いに補強している。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第11章 無限の終わり、pp.227-229、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:場の量子論における無限発散)


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2018年1月13日土曜日

7.標準模型:強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用の3つの基本的な相互作用を記述するための理論である標準模型の予測は、これまでことごとく実証されている。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

標準模型

【標準模型:強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用の3つの基本的な相互作用を記述するための理論である標準模型の予測は、これまでことごとく実証されている。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
 強い相互作用、弱い相互作用、電磁相互作用の3つの基本的な相互作用を記述するための理論である標準模型の予測はことごとく実証されていった。素粒子をめぐる数々の物理学的実験は、今日までの三〇年以上にわたり、つねに標準理論の正しさを裏づけてきた。直近の例としては、二〇一三年に世界中を騒がせた、ヒッグス粒子の発見が挙げられる。

 「はじめのうち、標準模型(もけい)は学者たちから、あまりまともに相手にされていなかった。標準模型には、どこか間に合わせの理論といった風情があったからである。

この理論は、一般相対性理論や、マクスウェルとディラックの方程式が備えていた、透きとおるような単純さとは無縁だった。

しかし、大方の予想に反して、標準模型の予測はことごとく実証されていった。素粒子をめぐる数々の物理学的実験は、今日までの三〇年以上にわたり、つねに標準理論の正しさを裏づけてきた。

なかでも重要なのが、カルロ・ルッビア率いるイタリア人チームによる、Z粒子とW粒子の発見である。ルッビアはこの業績のために、一九八四年にノーベル賞を受賞している。

直近の例としては、二〇一三年に世界中を騒がせた、ヒッグス粒子の発見が挙げられる。ヒッグス粒子は、理論を機能させるために導入された標準模型の場のひとつであり、やや作為的な存在と見なされていた。しかし、ヒッグス粒子は実際に観測され、まさしく標準模型が予測したとおりの性質を備えていた(ちなみに、この粒子を「神の粒子」と呼ぶ向きもあるが、それはあまりにばかばかしい呼称である)。

このとおり、量子力学の領域において構築された「標準模型」は、その素朴で飾り気ない名称にもかかわらず、華々しい大勝利を収めてきた。」
(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第2部 革命の始まり、第4章 量子――複雑奇怪な現実の幕開け、pp.128-129、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))


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6.現在の状況としては、量子力学にもとづく素粒子の標準模型と、一般相対性理論に基づく宇宙論的標準模型に反するような実験、観測結果は、未だ発見されていない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

量子力学と一般相対論

【現在の状況としては、量子力学にもとづく素粒子の標準模型と、一般相対性理論に基づく宇宙論的標準模型に反するような実験、観測結果は、未だ発見されていない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
 ヒッグス粒子の発見は、量子力学にもとづく素粒子の標準模型を支持する確固たる証拠である。また、人工衛星プランクの測定データは、一般相対性理論に基づく宇宙論的標準模型に反するようなデータを、何ももたらさなかった。一方、超ひも理論が予言する超対称性粒子は、未だ発見されていない。これが、現在の状況である。

 「本書で紹介してきた理論のほかに、現在もっとも盛んに研究されているのは、いわゆる「超ひも理論」である。

ジュネーヴに拠点を置くCERN(欧州原子核研究機構)は、LHC(大型ハドロン衝突型加速器)と呼ばれる新型の素粒子加速器を擁している。

超ひも理論の分野(またはその関連分野)の研究に取り組んでいる物理学者の大部分は、LHCが実用化されるなり、超ひも理論が要請する未発見の粒子、つまり超対称性粒子が観測されるだろうと想定していた。

超ひも理論が成り立つためには、この粒子の存在が確認されなければならず、そのため「ひも論者」たちは、超対称性粒子の発見を期待していたのである。

一方のループ量子重力理論は、超対称性粒子が存在しなくとも問題なく成立する。こうしたわけで「ループ論者」たちはむしろ、この粒子は見つからないだろうと予測していた。

 LHCが稼働してから現在にいたるまで、超対称性粒子は観測されていない。この結果は、多くの研究者に深い失望をもたらすところとなった。

二〇一三年にヒッグス粒子の存在が確認されたときの大騒ぎが、この失望をなおのこと際立たせている。

超対称性粒子は、多くのひも論者が想定していたエネルギーの範囲内には存在していなかった。もちろんこれは、決定的な証拠ではない。わたしたちはまだ、決定的な答えからは遠く離れた場所にいる。

しかしわたしには、二つの選択肢を前にした自然が、ループ論者に有利となるささやかな兆候を提供してくれたように思えてならない。

 素粒子物理学の分野において、二〇一三年に得られた重要な実験結果には、以下の二つが挙げられる。一つ目は、ジュネーヴのCERNでヒッグス粒子が確認されたことであり、この報せは世界中のマスメディアを賑わせた。

二つ目は人工衛星プランクの測定データであり、それは二〇一三年にまとまった形で公開された。この二つが、自然が最近になってわたしたちに与えてくれた兆候である。

 この二つの結果のあいだには共通点がある。それはつまり、どちらもまったく驚きに値しない結果だったということである。

ヒッグス粒子の発見は、量子力学にもとづく素粒子の標準模型を支持する確固たる証拠である。今回の発見は、三〇年前に発表された予測の正しさを裏づけている。

「プランク」の測定結果は、宇宙項を加えた一般相対性理論にもとづく、宇宙論的標準模型を支持する確固たる証拠である。

二つの結果は、最先端の技術と、莫大な費用と、多くの科学者の尽力のもとに得られたものである。ところがわたしたちは、二つの結果を前にして、あらかじめ抱いていた宇宙の発展経過のイメージを強化しただけだった。そこには何の驚きもなかった。

むしろ、こうした驚きの欠如こそが、驚嘆に値するものだった。

なぜなら、多くの研究者は驚きを待ち構えていたのだから。

物理学者がCERNに期待していたのは、ヒッグス粒子ではなく超対称性粒子だった。

物理学者の多くは、プランクの観測データと宇宙論的標準模型のあいだに、何らかの不一致が生じるものと期待していた。そうした不一致が、代替となるなんらかの宇宙論を、一般相対性理論にかわる新たな理論を提示してくれるのではないかと期待していた。

 現実は違った。自然がわたしたちに告げた内容はシンプルだった。「一般相対性理論と量子力学は正しい。量子力学の分野において、標準模型は正しい」。これですべてだった。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956-)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第9章 実験による裏づけとは?、pp.210-212、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))


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5.(仮説)ループ量子重力理論は、時空にも収縮の限界があり「点」まで縮むことはないと考える。そして、ビッグバンの前後では、時空は確率の雲のなかに溶解しており、この雲の向こう側の別の宇宙が「ビッグバウンス」を経て、この宇宙が生まれたと考えている。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

ループ量子重力理論

【(仮説)ループ量子重力理論は、時空にも収縮の限界があり「点」まで縮むことはないと考える。そして、ビッグバンの前後では、時空は確率の雲のなかに溶解しており、この雲の向こう側の別の宇宙が「ビッグバウンス」を経て、この宇宙が生まれたと考えている。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】
 物質の安定性は、量子力学により理解可能となった。電子が原子核の内部に落ちていこうとしても、量子力学の不確定性のために限界があり、電子の確率の雲は、原子の大きさ程度に保たれる。一般相対性理論における特異点の理解についても、物質の安定性と同じ状況が存在する。アインシュタインの方程式によれば、収縮し自らの重みに押しつぶされ、途方もなく小さくなった時空は、無限に押しつぶされ「点」になる。もし、時間と空間そのものも、確率の雲のなかで、収縮にも限界があり広がりを持たない「点」まで縮むことはないとすれば、一四〇億年前になにが起こったのかの姿も変わってくる。ループ量子重力理論は、時間と空間の確率の雲を記述することができる。宇宙の始まりを「点」にまで遡ることはできない。ビッグバンの前後では、空間と時間は、確率の雲のなかですっかり姿を消してしまう。今日の物理学者は、この確率の雲の向こう側に、すなわちビッグバンの「前」に、わたしたちの宇宙が生まれる前の、別の宇宙が存在していたと考えている。その前の宇宙が崩壊し、空間と時間が確率のなかで溶解する量子的な局面を経た末に、新しい宇宙が生まれたのである。これを、「ビッグバウンス」と呼んでいる。宇宙はどこかで反発し、巨大爆発に後押しされるようにして、ふたたび膨張を始める。

 「一四〇億年前になにが起こったのかを理解するには、量子重力理論が必要になる。この点について、ループ理論はなにを教えてくれるのか?

 はるかに単純化した形で、類似の状況について考えてみよう。

古典力学に従うなら、原子核に向っていく一個の電子は、やがて核に飲みこまれて消えてしまう。だが、現実にはこうした事態は発生しない。この意味で、古典力学は不完全である。

電子の振る舞いを正しく把握するには、量子の効果を考慮しなければならない。現実の電子は量子的な対象であるため、明確な軌道をたどらない。電子を正確な一点に留めておくことは不可能である。

むしろ、正確に位置づけようとすればするほど、電子はどこかへ逃げ去ってしまう。もし、一個の電子を原子核のそばに留めておこうと望むなら、わたしたちにはせいぜいのところ、電子をもっとも寸法の小さな原子軌道に引きとめておくことしかできない。それ以上、電子は原子核に近づけない。

きわめて短い瞬間だけ、そこからさらに近づいたとしても、電子はたちまち別の場所へ逃げ去ってしまう。つまり量子力学は、現実の電子が原子核の内部に落ちていくことを妨げている。まるで、電子が原子核に限りなく近づいたとき、量子的な性質を帯びた反発力が電子を押しかえしているかのようである。

量子論が成り立つからこそ、物質は安定していられる。量子論が成り立たなければ、あらゆる電子は原子核の内部に落ちていく。結果として、この世界には原子も、わたしたちも、なにひとつ存在しなくなるだろう。

 同じ議論が、宇宙にたいしても当てはまる。収縮し、自らの重みに押しつぶされ、途方もなく小さくなった宇宙を想像してみよう。

量子力学以前の理論、つまりアインシュタインの方程式によれば、この宇宙は無限に押しつぶされる。そうして最後は、原子核に飲みこまれる電子のように、一点となって消失する。これが、アインシュタインの方程式によって予見される、「点」としてのビッグバンである。

量子力学を無視すれば、自然とこのような結論に到達する。

 しかし、量子力学を考慮に入れれば、宇宙の収縮にも限界があることが判明する。それはあたかも、量子的な反発によって、宇宙が跳ね返っているかのような状況である。

収縮過程にある宇宙が、広がりを持たない「点」まで縮むことはない。宇宙はどこかで反発し、巨大爆発に後押しされるようにして、ふたたび膨張を始める。

 わたしたちの宇宙がたどった歴史は、これに似た反発の結果であった可能性が高い。英語ではこの巨大な反発を、「ビッグバン」の代りに「ビッグバウンス」と呼んでいる。ループ量子重力理論の方程式を宇宙に適用すれば、このような結論が得られると考えられている。

 ただし、「反発」という表現を、文字通りに受け取ってはいけない。これはあくまで比喩である。

電子に話を戻すなら、わたしたちが電子を原子核に可能なかぎり近づけようとした場合、電子はもはや粒子ではなくなる。代わりに、わたしたちは電子のことを、確率の雲として捉えられる。こうなると、電子の正確な位置はもはや存在しない。

宇宙の場合も同じである。ビッグバンのさなかの決定的な移行過程においては、わたしたちはもはや、明確に記述された空間や時間を想定することはできない。

わたしたちの考察の対象となるのは確率の雲だけであり、空間と時間はその雲のなかですっかり姿を消してしまう。

ビッグバンの前後では、確率が泡立つ雲のなかに、世界はきれいに溶解する。そして、量子重力理論の方程式なら、こうした確率の雲を記述することができる。

 今日の物理学者は、わたしたちの宇宙が生まれる前には、別の宇宙が存在していたと考えている。空間と時間が確率のなかで溶解する量子的な局面を経た末に、ひとつの宇宙が崩壊し、新しい宇宙が生まれたのである。」

(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第8章 ビッグバンの先にあるもの、pp.202-204、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:物質の安定性、確率の雲、特異点、ループ量子重力理論、時空の確率の雲、ビッグバン、ビッグバウンス)


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