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2020年6月21日日曜日

(a)外界と身体の変化(b)対象,驚き,既知感(c)関心,注意(d)視点(e)表象の所有感(f)発動力(g)原初的感情.これら全てが,その担い手である中核自己の存在を感知させ,全ての表象がその内部での現象であると感知させる.これが意識である.(アントニオ・ダマシオ(1944-))

意識ある心

【(a)外界と身体の変化(b)対象,驚き,既知感(c)関心,注意(d)視点(e)表象の所有感(f)発動力(g)原初的感情.これら全てが,その担い手である中核自己の存在を感知させ,全ての表象がその内部での現象であると感知させる.これが意識である.(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

全体へ追記。

 (3.3)情動誘発部位と原自己の2次マッピング
  情動誘発部位における神経活動のパターンと原自己の変化が、二次の構造にマッピングされる。かくして、情動対象と原自己の関係性についての説明が二次の構造においてなされる。
  (3.3.1)対象のイメージ群
   イメージの一群は、意識の中の物体を表す。
   (a)対象という感覚、知っているという感覚
    原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。(2次マップ)
   (b)関心、注意を向ける重要性の感覚
    知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。(1次マップへのフィードバック)
  (3.3.2)中核自己のイメージ群
   別のイメージ群は自分を表す。
   (a)ある視点の存在の感覚
    全てが無差別に存在している混沌の中に、対象が浮かび上がる。対象は見られ、触られ、聞かれ、変化するが、いつもある不動の視点から見られ、触られ、聞かれている。
   (b)対象が対象そのものではなく、影響を受けている何者かの所有物であるという感覚
    (i)浮かび上がった対象は、対象そのものではないようだ。対象に向き合い、対象から影響を受けている何者かが存在する。浮かび上がった対象は、この何者かが所有しているものであるという感覚が存在する。
    (ii)絶対に安全であるという感情
     ウィトゲンシュタインは、この感覚に別の表現を与えている。「私は安全であり、何が起ろうとも何ものも私を傷つけることはできない」というような感情。
     参考:二つの表明し得ぬもの:(a)何かが存在する、この世界が存在するとは、いかに異常なことであるかという驚き、(b)私は安全であり、何が起ころうとも何ものも私を傷つけることはできない、という感覚。(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889-1951))

   (c)発動力
    浮かび上がった対象に関心と注意を向ける何者かが存在する。原自己に属する身体は、この何者かが確かに、自ら命じて動かすことができる。
   (d)原初的感情
    対象がどのように変化しようが、比較的変化しないで持続する何者かが存在する。
  (3.3.3)中核自己
   (i)全てが無差別に存在している混沌の中に、対象が浮かび上がる。何かが変化し、知っているという感情が生まれた。それは注意をひきつける。対象は、いつもある不動の視点から、見られ、触れられ、聞かれている。対象は、対象そのものではなく、影響を受けている何者かの所有物であるという感覚がある。浮かび上がった対象に注意を向ける何者かが存在する。原自己に属する身体は、この何者かが自ら命じて動かすことができる。これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。
   (ii)存在することへの驚き
    ウィトゲンシュタインは、それが驚きの感情を伴うことを指摘する。「何かが存在するとはどんなに異常なことであるか」、「この世界が存在するとはどんなに異常なことであるか」という存在することへの驚き。
    参考:二つの表明し得ぬもの:(a)何かが存在する、この世界が存在するとは、いかに異常なことであるかという驚き、(b)私は安全であり、何が起ころうとも何ものも私を傷つけることはできない、という感覚。(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889-1951))
  (3.3.4)意識のハードプロブレムについて
   たとえ外界と身体の全ての表象が存在しても、無差別に存在する混沌の中には、意識は存在しない。(a)外界と身体の変化の感知、(b)驚きまたは既知感、(c)関心と注意、(d)視点の感知、(e)表象の所有感、(f)発動力の感知、(g)継続的な原初的感情が、(h)中核自己の存在を感知させ、これら全てが中核自己の内部で現象していると感知される。これが意識である。「自己集積体のイメージが非自己物体のイメージとあわせて折りたたまれると、その結果が意識ある心となる」。

《説明図》

対象→原自己→変調された原初的感情
↑  の変化 変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │  視点の獲得
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力

 「要するに、意識ある心の深みに沈降する中で、私はそれが各種イメージの複合物だということを発見したのだ。そうしたイメージの一群は、意識の中の《物体》をあらわす。別のイメージ群は自分をあらわし、その自分に含まれるのは以下の通りだ。
(1) 物体がマッピングされるときの《視点》(私の心が見たり触ったり聞いたりなどする際の立ち位置を持っているという事実と、その立ち位置というのが自分の身体だという事実)
(2) その物体が表象されているのは、自分に所属する心の中でのものであって、その心は他の誰にも属さないという感情《所有感》
(3) その物体に対して自分が《発動力》(agency)を持っており、自分の身体が実施する行動は心に命じられたものだという感情
(4) 物体がどう関わってくるかとはまったく関係なしに、自分の生きた身体の存在をあらわす《原初的感情》
 (1)から(4)までの要素の集合が、単純版の自己を構成する。自己集積体のイメージが非自己物体のイメージとあわせて折りたたまれると、その結果が意識ある心となる。
 こうした知識はすべて、そこにあるものだ。それは理性的な推論や解釈で得られる知識ではない。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第3部 意識を持つ、第8章 意識ある心を作る、p.223、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:)

自己が心にやってくる


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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2020年6月17日水曜日

必ずしも意識化されない情動誘発因が情動誘発部位を活性化し、身体と脳の多数の部位へ波及することで原自己が変化する。これら対象と原自己の変化が2次構造にマッピングされ、中核自己を構成する諸感情が発現する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動と中核自己の発現

【必ずしも意識化されない情動誘発因が情動誘発部位を活性化し、身体と脳の多数の部位へ波及することで原自己が変化する。これら対象と原自己の変化が2次構造にマッピングされ、中核自己を構成する諸感情が発現する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(3)中核自己の発現の要約的記述
 参照: 「中核自己」の発現(アントニオ・ダマシオ(1944-))

 (3.1)対象の感覚的処理(1次マップ)
  (a)生命体が、ある対象に遭遇する。
   (i)情動誘発因
    対象に対する意識も、対象の認知も、このサイクルの継続に必ずしも必要ではない。
  (b)ある対象が、感覚的に処理される。
   (i)情動誘発部位
    対象のイメージの処理に伴う信号が、その対象が属している特定の種類の誘発因に反応するようプリセットされている神経部位(情動誘発部位)を活性化する。
 (3.2)原自己の変化(1次マップ)
  (a)対象からの関与が、原自己を変化させる。
  (b)身体と脳の多数の部位の反応
   情動誘発部位は、身体と他の脳の部位に向けての多数の反応を始動させ、情動を構成する身体と脳の反応を全面的に解き放つ。
  (c)身体と脳の状態変化の表象
   皮質下ならびに皮質部における一次のニューラル・マップは、それが「身体ループ」によるものか、「あたかも身体ループ」によるものか、あるいは両者の組合せによるものかには無関係に、身体状態の変化を表象する。こうして感情が浮上する。
 (3.3)情動誘発部位と原自己の2次マッピング
  情動誘発部位における神経活動のパターンと原自己の変化が、二次の構造にマッピングされる。かくして、情動対象と原自己の関係性についての説明が二次の構造においてなされる。
  (a)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。(2次マップ)
  (b)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。(1次マップへのフィードバック)
  (c)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

《説明図》

対象→原自己→変調された原初的感情
↑  の変化 変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │  視点の獲得
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力


「情動の反応には少しもあいまいなもの、表現しがたいもの、不明確なものはない。また情動の感情になりうる表象にも、あいまいなもの、表現しがたいもの、不明確なものはない。情動の感情に対する基盤は、特定の構造のマップの中の、きわめて具体的な一連のニューラル・パターンである。
 要約すると、情動、感情、そして感情の感情まで、事象の推移はつぎの五段階に分けることができよう。ちなみに、最初の三つについては、情動に関する章でその概略を述べている。
(1) 情動誘発因と関わる有機体。誘発因とは、たとえば視覚的に処理され、視覚的表象をもたらす特定の対象。その際、その対象が意識化されることもあるし、されないこともある。認知されることもあるし、されないこともある。対象に対する意識も、対象の認知も、このサイクルの継続に必要ではないからだ。
(2) 対象のイメージの処理に伴う信号が、その対象が属している特定の種類の誘発因に反応するようプリセットされている神経部位(情動誘発部位)を活性化する。
(3) 情動誘発部位は、身体と他の脳の部位に向けての多数の反応を始動させ、情動を構成する身体と脳の反応を全面的に解き放つ。
(4) 皮質下ならびに皮質部における一次のニューラル・マップは、それが「身体ループ」によるものか、「あたかも身体ループ」によるものか、あるいは両者の組合せによるものかには無関係に、身体状態の変化を表象する。こうして感情が浮上する。
(5) 情動誘発部位における神経活動のパターンが、二次の神経構造にマッピングされる。これらの事象のために原自己が変化する。そして原自己の変化もまた、二次の構造にマッピングされる。かくして、「情動対象」(情動誘発部位における活動)と原自己の関係性についての説明が二次の構造においてなされる。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第4部 身体という劇場、第9章 情動と感情の基盤は何か、pp.338-339、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:情動誘発因,原自己,中核自己,情動,感情)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
検索(アントニオ・ダマシオ)
検索(Antonio R. Damasio)
アントニオ・ダマシオの関連書籍(amazon)

2018年9月3日月曜日

身体と外界のすべてを反映している意識されない「原自己」、対象と原自己の変化を知り、自伝的記憶を意識化する「中核自己」、自伝的記憶の担い手である「自伝的自己」。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

原自己、中核自己、自伝的自己

【身体と外界のすべてを反映している意識されない「原自己」、対象と原自己の変化を知り、自伝的記憶を意識化する「中核自己」、自伝的記憶の担い手である「自伝的自己」。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(1)原自己(proto-self)
 生命体の物理構造の最も安定した側面を、一瞬ごとにマッピングする別個の神経パターンを統合して集めたもの。原自己は、意識されない。
以下の構造からなる。
 (1.1)マスター内知覚マップ(器官、組織、内臓、その他内部環境の状態に由来する知覚)
 (1.2)マスター生命体マップ(身体の形、身体の動き)
 (1.3)外的に向けられた感覚ポータルのマップ(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚の〈特殊感覚〉と、マスター生命体マップの一部である目、耳、鼻、舌を収めている身体領域とその動きの知覚)
  参照:原自己(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(2)中核自己(core self)
 (2.1) 1次のマップに対応する内的経験
  (2.1.1)対象のマップの内的経験
   形成されたイメージである「対象」、例えば、顔、メロディ、歯痛、ある出来事の記憶など。
   対象は、実際に存在するものでも、過去の記憶から想起されたものでもよい。
   自伝的記憶も再活性化され、中核自己において意識化される。
   対象はあまりにも多く、しばしば、ほとんど同時に複数の対象が存在する。
  (2.1.2)原自己のマップの内的経験
 (2.2) 2次のマップに対応する内的経験(イメージ的、非言語的なもの)
  (2.2.1)何かしら対象が存在する。その対象を、知っている。
  (2.2.2)その対象が、影響を及ぼして、何かしら変化させている。その対象は注意を向けさせる。
  (2.2.3)何かしら変化するものが存在する。それは、ある特定の視点から、対象を見て、触れて、聞いている。
  参照:中核自己の誕生(アントニオ・ダマシオ(1944-))
(3)自伝的自己(autobiographical self)
 自伝的自己の基盤は自伝的記憶である。必要なときは、再活性化されてイメージとして、中核自己において意識される。
 (3.1)過去
 (3.2)予期される未来
 (3.3)アイデンティティや人格を記述している一連の記憶

「自伝的自己(autobiographical self)
 自伝的自己の基盤は自伝的記憶である。その自伝的記憶は、過去と予期される未来の個人的経験についての多数の内在的記憶からなる。個人的伝記の不変的特徴が自伝的記憶の基盤を構成する。自伝的記憶は生活経験とともに連続的に増大するが、新しい経験を反映するために部分的に改編することができる。アイデンティティや人格を記述している一連の記憶は、必要があるときはいつでもニューラル・パターンとして再活性化して、イメージとして明示的なものにすることができる。再活性化された各記憶は「認識されるべきもの」として機能し、それ自身の中核意識のパルスを生み出す。その結果、われわれは自伝的自己を意識している。

中核自己(core self)
 中核自己は、ある対象が原自己を修正すると生じる、二次の非言語的説明の中にある。中核自己はいかなる対象によっても引き起こされる。中核自己を生み出す機構は一生涯ほとんど変化しない。われわれは中核自己を意識している。

原自己(proto-self)
 原自己は、脳の複数のレベルで有機体の状態を刻々と表象している、相互に関連しあった、そして一次的に一貫性のある、一連のニューラル・パターン。われわれは原自己を意識して「いない」。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-),『起こっていることの感覚』,(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』),第3部 意識の神経学,第6章 中核意識の発見――無意識と意識の間,p.219,講談社(2003),田中三彦(訳))
(索引:自己の種類,自伝的自己,中核自己,原自己)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月30日月曜日

22.中核自己の誕生(アントニオ・ダマシオ(1944-))

中核自己

【中核自己の誕生(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(a) 1次のマップに対応する内的経験
 (a1) 対象のマップの内的経験
  形成されたイメージである「対象」、例えば、顔、メロディ、歯痛、ある出来事の記憶など。
  対象は、実際に存在ものでも、過去の記憶から想起されたものでもよい。
  対象はあまりにも多く、しばしば、ほとんど同時に複数の対象が存在する。
 (a2) 原自己のマップの内的経験
 (a2.1) マスター内知覚(器官、組織、内臓、その他内部環境の状態に由来する知覚)
 (a2.2) マスター生命体(身体の形、身体の動き)
 (a2.3) 外的に向けられた感覚(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚の〈特殊感覚〉と、マスター生命体の一部である目、耳、鼻、舌を収めている身体領域とその動きの知覚)
(b) 2次のマップに対応する内的経験(イメージ的、非言語的なもの)
 (b1) 何かしら対象が存在する。その対象を、知っている。
 (b2) その対象が、影響を及ぼして、何かしら変化させている。その対象は注意を向けさせる。
 (b3) 何かしら変化するものが存在する。それは、ある特定の視点から、対象を見て、触れて、聞いている。
(再掲)
(a) 1次のマップ
 (a1) 対象のマップ:原因的対象の変化を表象する神経構造
 (a2) 原自己のマップ:原自己の変化を表象する神経構造
(b) 2次のマップ:(a1)と(a2)の双方の時間的関係を再表象する神経構造(仮説)
 (b1) はじめの瞬間の原自己の状態(a1)が反映される。
 (b2) 感覚されている対象の状態(a2)が反映される。
 (b3) 対象によって修正された原自己の状態(a1)が反映される。
 (b4) (b1)~(b3)を時間順に記述してゆくような、神経パターンが作られる。
 (b5) (b4)から直接的、または間接的に、流れる意識のイメージが作られる。
 (b6) 対象のイメージを強調するような信号が、直接的、または間接的に(a1)に戻される。
(b)のような2次のマップが複数あり、相互に信号をやり取りしている(仮説)。

   原自己のマップ
     │
対象X の │
マップ  │
  │  ├→はじめの瞬間の
  │  │   原自己のマップ
  ├───→対象X のマップ
  │  ├→修正された
  │  │   原自己のマップ
  │  │   ↓
  │  │(2次マップの組み立て)
  │  │   ↓
  │  │(イメージ化された
  │  │   │  2次マップ)
強調された←───┘
対象X の │
マップ  │
  │  │
  ↓  ↓


(1)生命体が、ある対象に遭遇する。
(2)ある対象が、感覚的に処理される。
(3)対象からの関与が、原自己を変化させる。
(4)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。
(5)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。
(6)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

対象→原自己→変調された原初的感情
↑      変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │   視点
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力

「私が引き出した具体的な答えは、以下の仮説の中にある。

 〈対象を処理する有機体のプロセスによって有機体自身の状態がどう影響されるかについて、脳の表象装置がイメージ的、非言語的説明を生成し、かつ、このプロセスによって原因的対象(有機体の状態に影響を及ぼす対象)のイメージが強調され、時間的、空間的に顕著になると、中核意識が生じる〉

 この仮説は、二つの要素的機構について述べている。

 一つは、対象と有機体の関係についてのイメージ的、非言語的説明の生成――これが「認識中の自己感」の源である――で、もう一つは、対象のイメージの強調である。このうち自己感の要素に関して言えば、この仮説は以下の前提をよりどころとしている。

(1) 意識は、有機体とある対象との相互作用に関する新しい知識の内的な構築と提示に依存している。

(2) 一個のユニットとしての有機体は、その有機体の脳の中に、つまり有機体の命を調節し有機体の内的状態を継続的に信号化している構造の中にマッピングされる。

また対象も脳の中に、つまり有機体と対象との相互作用によって活性化した感覚構造と運動構造の中にマッピングされる。

結局、有機体も対象も、ニューラル・パターンとして一次のマップにマッピングされる。これらのニューラル・パターンはすべてイメージになりうる。

(3) 対象に関する感覚運動マップが、有機体に関するマップに変化を引き起こす。

(4) (3)で述べた変化は別のマップ(二次のマップ)に再表象される。それは対象と有機体の関係性を表象している。

(5) 二次のマップに一時的に形成されるニューラル・パターンは、一次のマップのニューラル・パターン同様、心的イメージになりうる。

(6) 有機体のマップも二次のマップも本質的に身体に関係しているから、その関係性を記述する心的イメージは感情である。

 繰り返せば、ここでの問題の焦点はマップ中のニューラル・パターンがどのようにして心的パターンやイメージになるか、ではない。第1章で概要を述べたように、それは意識の「第1の」問題であって、われわれがいま問題にしているのは意識の「第2の」問題、つまり自己の問題である。

 脳に関して言えば、この仮説における有機体は原自己により表象されている。そして、「説明」の中で注意が向けられている有機体の重要な側面は、前に私が原自己に授けられていると指摘したもの、すなわち、内部環境、内臓、前庭システム、筋骨格の各状態である。

その説明は、いま変化しつつある原自己と、そうした変化を引き起こす対象の感覚運動マップとの関係性を描写している。

 要するに、脳が、ある対象――たとえば、顔、メロディ、歯痛、ある出来事の記憶――のイメージを形成し、その対象のイメージが有機体の状態に「影響を及ぼす」と、別のレベルの脳構造が、対象と有機体の相互作用によって活性化したさまざまな脳領域でいま起きている事象について、素早く、非言語的な説明をする。

対象と関係する結果のマッピングは、原自己と対象を表象する一次のニューラル・マップに生じ、対象と有機体の「因果的関係」に対する説明は、唯一、二次のニューラル・マップに取り込まれる。

これを、大胆な比喩を使って言うと、素早い非言語的説明が語るストーリーとは、〈何か別のものを表象しつつみずからの変化を表象しているところを捕まえられた有機体の話〉ということになる。しかしここで驚くべきは、捕まえるほうの認識可能な実在が、その捕獲プロセスの話の中で生み出されているという事実である。

 このプロットは、脳が表象する対象一つひとつに対して、間断なく繰り返される。その場合、対象は実際に存在し有機体と相互作用しようが、いま過去の記憶から甦りつつあろうが、どちらでもよい。
また、その対象は何でもよい。

健康な人間なら、脳が覚醒していて、イメージ生成機構と意識の機構が「オン」であるかぎり、そして瞑想のようなもので自分の心の状態を操作していないかぎり、「本物の」対象も「思考上の」対象も尽きることはなく、したがって中核意識と呼ばれる産物も潤沢で尽きることはない。

本物であれ、想起されたものであれ、対象はあまりにも多く、しばしば、ほとんど同時に複数の対象が存在する。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第3部 意識の神経学、第6章 中核意識の発見――無意識と意識の間、pp.213-215、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:中核自己)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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2018年6月24日日曜日

13.2次のニューラルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

2次のニューラルマップ

【2次のニューラルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(a) 1次のマップ
 (a1) 対象のマップ:原因的対象の変化を表象する神経構造
 (a2) 原自己のマップ:原自己の変化を表象する神経構造
(b) 2次のマップ:(a1)と(a2)の双方の時間的関係を再表象する神経構造(仮説)
 (b1) はじめの瞬間の原自己の状態(a1)が反映される。
 (b2) 感覚されている対象の状態(a2)が反映される。
 (b3) 対象によって修正された原自己の状態(a1)が反映される。
 (b4) (b1)~(b3)を時間順に記述してゆくような、神経パターンが作られる。
 (b5) (b4)から直接的、または間接的に、流れる意識のイメージが作られる。
 (b6) 対象のイメージを強調するような信号が、直接的、または間接的に(a1)に戻される。
(b)のような2次のマップが複数あり、相互に信号をやり取りしている(仮説)。

   原自己のマップ
     │
対象X の │
マップ  │
  │  ├→はじめの瞬間の
  │  │   原自己のマップ
  ├───→対象X のマップ
  │  ├→修正された
  │  │   原自己のマップ
  │  │   ↓
  │  │(2次マップの組み立て)
  │  │   ↓
  │  │(イメージ化された
  │  │   │  2次マップ)
強調された←───┘
対象X の │
マップ  │
  │  │
  ↓  ↓

(再掲)
上記の神経構造における過程から、「中核自己」が発現する様子。

(1)生命体が、ある対象に遭遇する。
(2)ある対象が、感覚的に処理される。
(3)対象からの関与が、原自己を変化させる。
(4)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。
(5)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。
(6)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

対象→原自己→変調された原初的感情
↑      変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │   視点
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力

 「有機体が対象と相互作用することで生じる原自己の変化。

その変化のストーリーを語るには、そのためのプロセス、そのための神経基盤が必要だ。

ごく単純に言えば、原因的対象と原自己の変化を別々に表象する多くの神経構造のほかに、原自己と対象の双方を時間的関係で「再表象」し、そうすることでいまその有機体に実際に起きていること――「はじまりの瞬間における原自己」、「感覚的表象になる対象」、「はじまりの原自己から対象によって修正された原自己への変化」――を表象できるような別の構造が、少なくとも一つは必要だ。


 私は、人間の脳には、一次の事象を二次のニューラル・パターンとして再表象できる構造がいくつかあると思う。

有機体と対象との関係についての非言語的、イメージ的説明に対する二次のニューラル・パターンは、たぶん、いくつかの「二次の」構造の間の複雑な信号のやりとりをもとにしている。どこか一つの脳部位に絶対的な二次のニューラル・パターンがある可能性は低い。

 相互作用によって二次のマップを生むそうした二次の構造の主たる特徴は、以下のごとくである。どの二次の構造も、

(1) 原自己の表象に関わっている部位からの信号、そして対象を表象しうる部位からの信号、その「双方を」軸索を介して受け取ることができなければならない。

(2) 一次のマップで生じている事象を、時間順に「記述」していくニューラル・パターンを生み出すことができなければならない。

(3) そのニューラル・パターンから生じるイメージを、直接的ないしは間接的に、われわれが思考と呼ぶイメージの流れの中にもち込むことができなければならない。

(4) 対象のイメージが強調されるよう対象を処理している構造に、直接的ないしは間接的に、信号を戻すことができなければならない。」

   原自己のマップ
     │
対象X の │
マップ  │
  │  ├→はじめの瞬間の
  │  │   原自己のマップ
  ├───→対象X のマップ
  │  ├→修正された
  │  │   原自己のマップ
  │  │   ↓
  │  │(2次マップの組み立て)
  │  │   ↓
  │  │(イメージ化された
  │  │   │  2次マップ)
強調された←───┘
対象X の │
マップ  │
  │  │
  ↓  ↓

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第3部 意識の神経学、第6章 中核意識の発見――無意識と意識の間、pp.223-225、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:2次のニューラルマップ)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年6月15日金曜日

12.中核自己とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)

中核自己

【中核自己とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)】
(1)生命体が、ある対象に遭遇する。
(2)ある対象が、感覚的に処理される。
(3)対象からの関与が、原自己を変化させる。
(4)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。
(5)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。
(6)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

 「私の見たところ、原自己の決定的な変化は知覚される各種の対象との瞬間ごとの関与から来るのだ。

その関与は、その対象の感覚的な処理と時間的にきわめて近い範囲で生じる。生命体が対象に遭遇すると、それがどんな対象であれ、原自己はその遭遇で変化を被る。

なぜなら物体をマッピングするためには、脳は身体を適切な形で調整しなくてはならないからで、さらにそうした調整の結果とマッピングされたイメージのコンテンツも原自己に信号として送られるからだ。


 原自己への変化は、瞬間的に中核自己の創出を開始させ、一連の出来事を引き起こす。

その一連の中で最初の出来事は、原初的感情の変化であり、それが「その対象を知っているという感情」をもたらす。これは、その対象をその瞬間の間は他の対象と区別する感情だ。

第二の出来事は、知っているという感情の結果となる。それは接触している対象に対する「重要性」を生み出す。この場合の関心/注意のためには、ある特定の対象に対して他の対象よりも処理リソースを注ぎ込まねばならない。

つまり中核自己は、変化した原自己を、その変化の原因となった対象と結びつけることで生み出される。その対象は、いまや感情によって重要なものとされ、関心/注意によって拡張されることになる。

 このサイクルの終わりで、心は単純でとてもありがちな出来事のシーケンスに関するイメージを含む。

その対象は、ある特定の視点から見られたり触られたり聞かれたりしたときに身体を関与させた。その関与は身体に変化を引き起こした。その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。この一連のシーケンスだ。 

 こうしたいつまでも起こり続ける出来事の非言語的な物語は、心の中でそうした出来事が起こっている主人公がいるのだという事実を描き出す。

その主人公とは物質的な自分だ。

この非言語的な物語での描き方は、主人公を造って明らかにすると共に、その生命体により造り出された行動をその主人公に結びつけ、そしてその対象と関与することで生み出された感情とともに、所有の感覚を生み出すのだ。

 単純な心的プロセスに追加され、意識ある心を生み出しているのは、一連のイメージ、つまり生命体のイメージ(これは変更された原自己という代理物が提供している)、対象に関連した情動反応(つまりは感情)のイメージ、瞬間的に強調されたその原因たる対象のイメージだ。

《自己が心にやってくるのは、イメージという形を取ってのことだ。そのイメージは、絶え間なくこうした関与の物語を語り続けている》。

変化を受けた原自己と、知っているという感情は、ことさら強いものである必要さえない。どんな微妙な形であれ単に心の中にあって、ほのめかしより多少は強く、対象と生命体との間のつながりを提供すればいい。

結局のところ、プロセスが適応性を持つためには、最も重要なのはその対象なのだから。」

 「中核自己メカニズムの模式図。中核自己状態は複合体だ。主要コンポーネントは、知っているという感情と対象の重要度となる。他の重要なコンポーネントは、視点と所有の感覚と発動力(agency)だ。」

対象→原自己→変調された原初的感情
↑      変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │   視点
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力


(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第3部 意識を持つ、第8章 意識ある心を作る、pp.242-243,251、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:中核自己)

自己が心にやってくる


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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