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2020年6月10日水曜日

真っ赤な嘘も信念となる:(a)富裕層が経済の牽引力(b)低税率が投資を促進(c)小さい政府が良い(d)規制緩和は良い(e)財政赤字は悪い(f)社会保障費は抑制すべき(h)寛大な制度は活力を奪う(i)一律の税率が最も公平(ロバート・ライシュ(1946-))

経済をめぐる10の嘘

【真っ赤な嘘も信念となる:(a)富裕層が経済の牽引力(b)低税率が投資を促進(c)小さい政府が良い(d)規制緩和は良い(e)財政赤字は悪い(f)社会保障費は抑制すべき(h)寛大な制度は活力を奪う(i)一律の税率が最も公平(ロバート・ライシュ(1946-))】

反論されない嘘は信念となる
 真っ赤な嘘も、反論されない限り繰り返し語っていれば、次第に人々が受け入れるようになることは、扇動の歴史が物語っている。
 (1)嘘その1:富裕層が経済の牽引力
  (a)富裕層が経済の牽引力
   富裕層は「雇用の創造主」であるから、富裕層に対して減税すれば、みなによい効果を波及させる「トリクルダウン」が発生する。逆に、富裕層に増税すると景気に打撃を与え、雇用の伸びも鈍化してしまう。
  (b)圧倒的多数の国民の購買力が経済の牽引力
   富裕層が雇用を生み出すのではない。国民の購買力が企業の生産能力の拡大や雇用を創出する。だから、国民所得が不均衡に富裕層に流れると、中間層にはもはや雇用を創出するだけの購買力がなくなってしまうのである。
 (2)嘘その2:低税率が投資を促進する
  (a)低い税率が投資を促進する
   法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。
  (b)経済的に見合う購買力を見込んで投資する
   これらの企業が生産能力の拡大や雇用創出に投資しない理由は、税金とはまったく関係がない。本当の理由は、生産力を追加したとしても、そうやって新たに造り出されたモノを買うだけの十分なカネを持つ顧客が足りないことだ。企業は経済的に見合う分しか支出しない。
 (3)嘘その3:小さい政府が経済に良い
  (a)政府は小さい方が経済に良い
   政府の規模を小さくすれば、雇用が増大し景気も好転する。
  (b)公共投資は経済に重要
   政府の規模縮小は、州や自治体レベルでは教員や消防士、警察官、福祉職員などの公務員の減少を、連邦レベルでは安全検査官や軍人の減少をもたらす。その結果、公共事業の受託企業が減り、受託企業による民間部門の雇用も減ってしまう。
 (4)嘘その4:規制が少ないほど、経済は強くなる
  (a)規制緩和
   規制が少ないほど、経済は強くなる。
  (b)最小の負担で最大の公共利益をもたらす規制が必要
   (i)企業の存在理由
    企業の存在理由は一つしかない。すなわち、利益を上げ株価を上げることであって、市民を守ることではない。
   (ii)公共善
    だがそれでも、市民の健康と安全、個人投資家に対する公平性、持続可能な環境といったものはすべて「公共善」であり、これがなければ、人々はますます貧しくなってしまう。
   (iii)最小の負担で最大の公共利益
    公共に対する利益のほうが、その負担よりも大きい場合に、規制を行うことは理にかなっている。規制は、公共の利益を最大化し負担を最小化するように設計すべき、それだけのことだ。
 (5)嘘その5:財政赤字の削減は経済に良い
  (a)財政赤字削減
   財政赤字をただちに削減すれば、景気は回復する。
  (b)成長と雇用が経済規模に対する相対的債務を減少させる
   成長と雇用が鍵なのだ。より多くの人が働けば、より多くの企業が利益を上げ、景気が拡大して税収が増え、経済規模に対する債務は相対的に減っていく。だが、経済成長が緩やかだったり、低迷しているときには、まさに反対のことが起こる。景気低迷と低税収の悪循環に陥ってしまう。もしそこで政府支出を削減したら、悪循環どころか、それが死にいたる落とし穴になってしまうかもしれない。
 (6)嘘その6:公的医療保険制度は縮小すべき
  (a)公的医療保険制度は縮小すべき
   公的医療保険制度であるメディケア(高齢者対象)とメディケイド(低所得者対象)を縮小すべきだ。
  (b)全ての人に医療が提供できる公的な仕組みを工夫する
   基本的医療費が増え続ける一方で、より多くの高齢者が、支払能力がないために医療ケア市場から締め出されていく。医療費を抑制するずっとましな方法は、メディケアとメディケイドが公的医療保険制度としての交渉力を駆使して、製薬会社や病院の治療費を下げさせ、診療行為に対する課金から診療結果に対する課金システムへと移行させることだ。
 (7)嘘その7:セーフティネットが寛大すぎる
  (a)セーフティネットが寛大すぎるので働かない
   われわれのセーフティネットは、寛大にすぎる。彼らは、米国が抱える経済問題の原因は、政府「依存」の急増にあり、これらの給付を止めれば、人々は一生懸命に働くようになるというのである。
  (b)本当に必要なセーフティネットが整備されているか
   しかしここでも、逆進主義者たちは原因と結果をあべこべにしている。
   (i)失業保険の受給者が増えた原因は何か?
   (ii)必要としている人が、全て受給できているのか?
   (iii)受給資格要件は、ほんとうに妥当なのか?
 (8)嘘その8:社会保障制度は破綻する
  (a)社会保障制度は、ねずみ講だ。
  (b)保険料の所得上限を引き上げるべき
   社会保障制度をめぐる長期課題に対する合理的解決策は、給付額の削減や支給開始年齢の引き上げではなく、徴収対象となる所得上限を引き上げることなのである。
 (9)嘘その9:低所得者層の税負担が軽いのは不公平
  (a)低所得者層の税負担が軽いのは不公平
   低所得者層の連邦所得税の負担割合が小さく、人によってはまったく所得税を払っていないのは不公平だ。
  (b)累進課税制度が真の公平である
   これはまったく不公平でも何でもない。累進課税制度が真の公平である。しかし現実には、様々な所得に対する様々な税を総合的に考慮すると、単純に平等な税負担にさえなっていない。
 (10)嘘その10:一律の税率のほうが公平だ。

 「真っ赤な嘘も、反論されない限り繰り返し語っていれば、次第に人々が受け入れるようになることは、扇動の歴史が物語っている。ジョージ・オーウェルがかつて述べたように、「大衆はストレスを受けて混乱すると、反論されずに繰り返し語られる大嘘を、次第に真実として受け入れてしまう」のだ。だからまず事実を知って、それを広めていかなくてはならない。
 ではその嘘とは何か。
 嘘その1:富裕層は「雇用の創造主」であるから、富裕層に対して減税すれば、みなによい効果を波及させる「トリクルダウン」が発生する。逆に、富裕層に増税すると景気に打撃を与え、雇用の伸びも鈍化してしまう。」(中略)
 「富裕層が雇用を生み出すのではない。雇用は、大多数のアメリカ人がモノを買い、企業が生産能力を拡大して労働者を採用することで創出されるのだ。そして、そのためには大多数の国民がモノを買うだけのカネを持っていなければならない。先に述べたように、国民所得が不均衡に富裕層に流れると、中間層にはもはや雇用を創出するだけの購買力がなくなってしまうのである。」
 嘘その2:法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。
 「これらの企業が生産能力の拡大や雇用創出に投資しない理由は、税金とはまったく関係がない。本当の理由は、生産力を追加したとしても、そうやって新たに造り出されたモノを買うだけの十分なカネを持つ顧客が足りないことだ。企業は経済的に見合う分しか支出しない。」
 嘘その3:政府の規模を小さくすれば、雇用が増大し景気も好転する。
 「政府の規模縮小は、州や自治体レベルでは教員や消防士、警察官、福祉職員などの公務員の減少を、連邦レベルでは安全検査官や軍人の減少をもたらす。その結果、公共事業の受託企業が減り、受託企業による民間部門の雇用も減ってしまう。」
 嘘その4:規制が少ないほど、経済は強くなる。
 「企業の存在理由は一つしかない。すなわち、利益を上げ株価を上げることであって、市民を守ることではない。だがそれでも、市民の健康と安全、個人投資家に対する公平性、持続可能な環境といったものはすべて「公共善」であり、これがなければ、人々はますます貧しくなってしまう。公共に対する利益のほうが、その負担よりも大きい場合に、規制を行うことは理にかなっている。規制は、公共の利益を最大化し負担を最小化するように設計すべき、それだけのことだ。」
 嘘その5:財政赤字をただちに削減すれば、景気は回復する。
 「成長と雇用が鍵なのだ。より多くの人が働けば、より多くの企業が利益を上げ、景気が拡大して税収が増え、経済規模に対する債務は相対的に減っていく。だが、経済成長が緩やかだったり、低迷しているときには、まさに反対のことが起こる。景気低迷と低税収の悪循環に陥ってしまう。もしそこで政府支出を削減したら、悪循環どころか、それが死にいたる落とし穴になってしまうかもしれない。」
 嘘その6:公的医療保険制度であるメディケア(高齢者対象)とメディケイド(低所得者対象)を縮小すべきだ。
 「基本的医療費が増え続ける一方で、より多くの高齢者が、支払能力がないために医療ケア市場から締め出されていく。医療費を抑制するずっとましな方法は、メディケアとメディケイドが公的医療保険制度としての交渉力を駆使して、製薬会社や病院の治療費を下げさせ、診療行為に対する課金から診療結果に対する課金システムへと移行させることだ。」
 嘘その7:われわれのセーフティネットは、寛大にすぎる。
 「彼らは、米国が抱える経済問題の原因は、政府「依存」の急増にあり、これらの給付を止めれば、人々は一生懸命に働くようになるというのである。
 しかしここでも、逆進主義者たちは原因と結果をあべこべにしている。フードスタンプや失業保険などのセーフティネット・プログラムの給付額が増えたのは、2008年に人々が、世界大恐慌以来の経済危機に打ちのめされたからなのだ。彼らもその家族も、受けられる限りの支援を必要としていたのである。
 それどころか、アメリカのセーフティネットはあまりに小さく、穴だらけだ。貧困層の数を割合が2009年から12年にかけて劇的に増大したのはそのためなのだ。これこそ本物の不祥事ではないか。たとえば、不況の真っただ中で失業保険給付を受けることができた失業者は40%にすぎなかったが、それは彼らが失業する前に非正規従業員であったか、職に就いていても受給資格に必要な労働時間を満たしていなかったからなのだ。失業保険制度では、多くの労働者が非正規で複数の仕事を掛け持ちし、短期間で職を転々とするという実態を想定していないのである。」
 嘘その8:社会保障制度は、ねずみ講だ。
 「社会保障制度をめぐる長期課題に対する合理的解決策は、給付額の削減や支給開始年齢の引き上げではなく、徴収対象となる所得上限を引き上げることなのである。」
 嘘その9:低所得者層の連邦所得税の負担割合が小さく、人によってはまったく所得税を払っていないのは不公平だ。
 「これはまったく不公平でも何でもない。「公平」というのは、より多くのカネを稼ぐ人が、カネのない人よりも、その所得のうちより大きな割合を税金として支払うということを言うのだ。これは累進課税制度と言われ、米国の税法の基本原理である。富裕層上位1%の人たちに流れる所得が1970年代後半に比べて倍増したのだから、彼らの税分担も倍増し、中・低所得層の負担は軽減したと思いたいところだが、実際には上位1%の人たちの税負担は、増えていく総所得に対するシェアには追い付いていない。もし税制が完全に公平であるならば、総所得税収に対する彼らの負担割合が増え、それ以外の人たちの税負担が減るはずだ。
 しかも、所得税はアメリカ人が支払う税金のほんの一部にすぎない。中・低所得者層は所得のなかから、給与税として社会保障税とメディケア、州と地方の消費税、各種の受益者負担金、固定資産税なども支払うから、所得に対する負担割合は、富裕層よりもずっと高くなる。」
 嘘その10:一律の税率のほうが公平だ。

(ロバート・ライシュ(1946-)『怒りを越えて』(日本語名:『格差と民主主義』)PART2 逆進主義的右派の勃興、経済をめぐる10の嘘、pp.142-157、東洋経済新報社 (2014)、雨宮寛・今井章子(訳))
(索引:経済をめぐる10の嘘)

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

(出典:wikipedia
ロバート・ライシュ(1946)の命題集(Propositions of great philosophers) 「国家や政府は人間が作ったものであり、法律も企業もそして野球だって人間が作ったものだ。同じように市場も人間の産物である。他のシステムと同じく市場の構築の仕方にもさまざまな方法があるが、それがどう作られようと、人々のやる気や市場のルールによって生まれてくる。理想的には、ルールによって人々が働いたり協力しあう気になり、生産的で創造的でありたいと動機づけされるのが望ましい。つまり、ルールが人々が望む暮らしの実現を手助けするのである。ルールはまた、人々の倫理観や、何が良くて立派で、何が公平かについての判断基準をも映し出す。そしてルールは不変ではなく、時間の経過とともに変わっていく。願わくば、ルールにかかわる人のほとんどが、より良くより公平だと思う方向へ――。だが、常にそうなるとは限らない。ある特定の人々が自分たちを利するようにルールを変える力を得たことによっても、ルールは変わりうるからだ。これがこの数十年の間に、米国や他の多くの国々で起こったことである。
 私的所有独占への制限契約不履行に対処するための破産などの手段ルールの執行といった事柄は、いかなる市場にも必須の構成要素だ。資本主義と自由企業体制にはこれらが必要なのだ。だがこの要素の一つひとつを、多くの人ではなく、ひと握りの人々を利するように捻じ曲げることも可能である。」(中略)「経済的支配力が、政治的権力を増大させ、政治的権力がさらに経済的支配力を拡大させる。大企業と富裕層が市場を構築する政治の仕組みに影響を与え、彼らがその政治的決定によって最も恩恵を受けるという状況は加速するばかりだ。こうして彼らの富は増強され、その富によってますます、将来発生する決断事項への影響力を得ていくのである。」(中略)「拡大する不平等は「自由市場」の構成要素そのものにしっかりと焼き込まれている。グローバル化と技術革新がなくても減税や補助金がなくても、国民総所得のうち、企業と、企業収益に自分の所得が連動する重役たちや投資家に振り分けられる割合は、労働者層に向う割合よりも、相対的に増加している。こうして悪循環が勝手に成立していくのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『資本主義を救う』(日本語名『最後の資本主義』)第1部 自由市場、第9章 まとめ――市場メカニズム全般、pp.108-111、東洋経済新報社 (2016)、雨宮寛・今井章子(訳))

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