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2018年7月11日水曜日

16.情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

意識されない情動誘発刺激の効果

【情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
狭義の情動  (再掲)
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。

(補足説明)
 (a)「想起された対象や事象」:その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一つである。
 (b)「自動的に引き起こされる」:(a)にもかかわらず、そのような意識的な評価は、情動が生じるためには必要ではない。
 (c)「対象や事象の評価を含む」:意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれない。
 (b')「自動的に引き起こされる」:意識的な評価どころか、情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。

 「興味深いことに、情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在にわれわれが気づいていようといなかろうと、正常な扁桃体はその誘発的機能を行使する。

情動を誘発しうる刺激を非意識的に感知する扁桃体の能力。

その証拠は、まずポール・ウェイレンの研究から得られた。彼は健常者たちにそのような刺激を素早く提示したので、健常者たちは自分たちがいま何を見ているのかまったく自覚していなかったが、脳スキャンにより、扁桃体が活性化していることが明らかになった。

またアーニー・オーマンとレイモンド・ドランの最近の研究で、特定の刺激(たとえば、単なる怒りの顔ではなく、ある特別な怒りの顔)がある不快な事象と関係していることを、健常者たちがいつの間にか学習することが明らかとなっている。

悪い事象と結びついている顔をこっそり提示すると、〈右の〉扁桃体が活性化される。しかし、それ以外の顔をひそかに提示してもそうはならない。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.91-92、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

(索引:意識されない情動誘発刺激の効果)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月4日水曜日

15.情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動

【情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(再掲)
狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。

(補足説明)
 (a)「想起された対象や事象」:その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一つである。
 (b)「自動的に引き起こされる」:(a)にもかかわらず、そのような意識的な評価は、情動が生じるためには必要ではない。
 (c)「対象や事象の評価を含む」:意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれない。

《誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。

(補足説明)
 ある情動の根拠は進化の過程で獲得され、他の情動の根拠は個人の生活の中で学習される。あるときは無意識的に情動が誘発され、またあるときは意識的な評価段階を経て情動が誘発される。このような情動が、人間の発達の歴史において重要な役割を演じている。

《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

 「情動は、脳と心が有機体の内部環境と周辺の環境を評価し、それにしたがい適応的に反応する手段を提供する。

事実、多くの場合、われわれは情動を引き起こす対象を、まさに「評価」という本来の言葉の意味で、意識的に評価している。

つまり、われわれはある対象の存在を処理するだけでなく、その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきも処理しているのだ。

そういう場合には、情動の装置がありのままに評価する一方で、意識を有する心の装置が思考しながら同時に評価している。

 いや、われわれは情動反応を調節することもできる。基本的に、われわれの教育的な成長の重要な目標の一つは、原因的対象と情動反応の間に非自動的な評価段階をさしはさむことだ。われわれはそうすることで、われわれの自然な情動反応が特定の文化の要求と調和するようにしている。

 以上はまぎれもない真実だが、私がここで指摘したい点は、情動が生じるために原因的対象を、いわんやその対象があらわれる状況を意識的に評価する〈必要〉はないということ。

情動はさまざまな状況で起こりうるということである。

 たとえ情動反応が、情動を誘発しうる刺激の意識的認識なしに生じても、その情動には、そのときの状況に対する有機体の評価結果があらわれている。

その評価が自身に明確に認識されていないことはどうでもいい。

 人間の発達の歴史の重要な側面の一つは、われわれの脳を取り巻いているほとんどの対象が強い情動だったり弱い情動だったり、よい情動だったり悪い情動だったりと、何らかの種類の情動を誘発する力をもつようになり、意識的あるいは無意識的にそうした情動が誘発されうる、ということと関係している。

このような情動誘発の中には進化によってセットされているものもあるが、そうではなく個人的経験をとおして、われわれの脳により、情動を誘発しうる対象と結びつけられるようになっているものもある。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.84-85、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月3日火曜日

14狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動

【狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。
《誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。
《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

(再掲)
ホメオスタシスの一般的なプロセス
(1) 一個の有機体の内部あるいは外部の環境で、何かが変化する。
(2) その変化が、その有機体の命の方向を変える。
(3) 有機体は、そうした変化を検出し、有機体の自己保存と効率的機能にとって、最も有益な状況を生み出すように反応する。
(3.1) 有機体の内部と外部の状況を評価する。有機体は、ただ単に生きている状態ではなく、より「優れた命の状態」を目指しているように見える。すなわち、人間であれば「健康でしかも幸福である」状態を目指しているように見える。
(3.2) 反応。
(3.3) 結果として、健全性への脅威を取り除き、また、改善への好機を手に入れる。

 「さて、さまざまな種類の情動を考慮に入れながら、狭義の情動に対する作業仮説を定義という形で提示してみよう。

1 喜び、悲しみ、当惑、共感、のような狭義の情動は、ある特有の身体的パターンを形成する化学的ならびに神経的な反応の複雑な集まりである。

2 それらの反応は、正常な脳が〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)――本物であれ、心の中で想起されたものであれ、その存在が情動を誘発するような対象または事象――を感知すると、その脳により生み出される。反応は自動的である。

3 いくつかの特定のECSに対しては一連のきまった作用で脳が反応するよう、進化により手はずが整えられている。ただし、ECSのリストは進化が定めたものにだけ限定されているわけではない。そのリストには、われわれが生活の中で学習した他の多くのものも含まれている。

4 これらの反応の即刻の帰結は、「狭義の身体」の一時的な状態変化、そして、身体をマップ化したり思考を支えたりしている脳構造の一時的な状態変化である。

5 これらの反応の最終的帰結は、直接的あるいは間接的に、有機体を生存と幸福に通ずる環境に置くことである。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.82-83、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

 例として「恐れ」を使いながら、情動の誘発と実行のための主な段階を示している。
(1) 「情動(恐れ)を誘発しうる刺激」の評価と定義
 (感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
(2) 誘発
 (扁桃体)
(3) 実行
 (前脳基底、視床下部、脳幹)
(4) 情動状態
 (内部環境、内蔵、筋骨格システムにおける一時的変化。特定の行動)

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、p.95、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:恐れ、狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年6月12日火曜日

6.社会的情動:共感、当惑、恥、罪悪感、プライド、嫉妬、羨望、感謝、賞賛、憤り、軽蔑(アントニオ・ダマシオ(1944-))

社会的情動

【社会的情動:共感、当惑、恥、罪悪感、プライド、嫉妬、羨望、感謝、賞賛、憤り、軽蔑(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
社会的情動
《例》共感、当惑、恥、罪悪感、プライド、嫉妬、羨望、感謝、賞賛、憤り、軽蔑

《ホメオスタシス機構の入れ子構造の例》
「軽蔑」という社会的情動
 「嫌悪」という基本的情動
  毒性の食物を自動的に嘔吐出すことと結びついて進化した情動

 「〈社会的情動〉には、共感、当惑、恥、罪悪感、プライド、嫉妬、羨望、感謝、賞賛、憤り、軽蔑、などがある。

入れ子の原理はこの社会的情動にも当てはまる。一次の情動の中にある要素とともに一連の調節反応が、社会的情動の下部要素として、さまざまな組み合わせで存在するのを見て取れる。下の階層の要素が入れ子的に組み込まれているのは明白だ。

たとえば、「軽蔑」という社会的情動には「嫌悪」の顔の表情を見て取れる。嫌悪は、毒性の食物を自動的に嘔吐出すことと結びついて進化した一次の情動である。さらに、軽蔑や道徳的な怒りの状態を説明するためにわれわれが使う言葉さえ――われわれはよく「嫌悪をもよおす」などと言う――その入れ子を中心にめぐっている。

苦と快の要素も、一次の情動の場合よりはわかりにくいが、社会的情動の表面下に歴然と存在している。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.72-73、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:社会的情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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5.基本的情動:《例》恐れ、怒り、嫌悪、驚き、悲しみ、喜び。様々な文化や、人間以外の種においても、共通した特徴が見られる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

基本的情動

【基本的情動:《例》恐れ、怒り、嫌悪、驚き、悲しみ、喜び。様々な文化や、人間以外の種においても、共通した特徴が見られる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
基本的情動
《例》恐れ、怒り、嫌悪、驚き、悲しみ、喜び
《特徴》情動をもたらす状況や、情動を特徴づける行動パターンに関して、様々な文化や、また人間以外の種においても、共通した一貫性が観察される。

 「〈一次の〉〈あるいは基本的な〉情動はもっと定義しやすい。なぜなら、いくつかの顕著な情動をこのグループにひとまとめにする確立された伝統があるからだ。よく列挙されるものには、恐れ、怒り、嫌悪、驚き、悲しみ、喜び、がある。これらは情動という言葉が使われると、まず頭に浮ぶものだ。それらが中心に位置づけられているのには、しかるべき理由がある。これらの情動はさまざまな文化の人間に、そして人間以外の種に、容易に見て取れるからだ。また、これらの情動をもたらす状況も、これらの情動を定義づける行動のパターンにも、文化や種をとおして一貫性が見られる。当然、情動の神経生物学に関してわれわれが知っていることのほとんどは、一次の情動の研究からきている。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、p.72、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:基本的情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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4.狭義の情動の一つに「背景的情動」がある。エネルギーや熱意、わずかな不快、興奮、いらいら、落ち着き。四肢や体全体の動きの状態、顔の表情、声の中にある調べ、韻律によって知られる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動の一つ:背景的情動

【狭義の情動の一つに「背景的情動」がある。エネルギーや熱意、わずかな不快、興奮、いらいら、落ち着き。四肢や体全体の動きの状態、顔の表情、声の中にある調べ、韻律によって知られる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
背景的情動
《例》エネルギーや熱意、わずかな不快、興奮、いらいら、落ち着き
《外部への現れ》四肢や体全体の動きの状態、顔の表情、声の中にある調べ、韻律

 「背景的情動はひじょうに重要だが、この言葉が暗示するように、それは人の行動においてとくに顕著ではない。だから、読者もこれまでそれにあまり注意を払ってこなかったかもしれないが、もしあなたがいま会ったばかりの人間にエネルギーや熱意を正確に見いだすような人なら、あるいは友人や同僚にわずかな不快や興奮、いらいらや落ち着きを見て取るような人なら、たぶんあなたは背景的情動をうまく読み取る人だ。

そしてもしそういうことなら、相手が一言も発しないうちに、相手をいろいろ診断してしまうだろう。まず、四肢や体全体の動きの状態を見定める。どれほどしっかりしているか、どれほど正確か、どれほどゆとりがあるか。あなたは顔の表情も観察する。また言葉が発せられても、あなたはただその言葉を聞いて辞書的な意味を思い描くわけではない。その声の中にある調べ、韻律に耳を傾ける。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.70-71、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:背景的情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年6月10日日曜日

3.ホメオスタシスの入れ子構造:(1)各機構は、より単純な機構を構成要素としている。(2)その際、新しい問題に対応している。(3)全体として「幸福を伴う生存」が目指されている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

ホメオスタシスの入れ子構造

【ホメオスタシスの入れ子構造:(1)各機構は、より単純な機構を構成要素としている。(2)その際、新しい問題に対応している。(3)全体として「幸福を伴う生存」が目指されている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
ホメオスタシスの入れ子構造
(1) より複雑な反応部分は、その構成要素として、より単純な反応部分を組み込んでいる。
(2) その際、より複雑な反応部分は、構成要素を部分的に手直しし、より単純な反応部分が扱っている問題を超える、新しい問題の解決に目を向けている。
(3) 各階層の機構すべてを用いて、「幸福を伴う生存」という全体的目標が目指されている。

《例》
(b)狭義の情動の機構
 (c)多数の動因と動機、あるいは欲求
 (d)快(および報酬)または苦(および罰)と結びついている行動
 (e)免疫系
 (f)基本的な反射
 (g)代謝のプロセス

(c)動因と動機の機構
 (d)苦と快の行動の機構
 (g)代謝的補正を中心に展開

(d)苦と快の行動の機構
 (e)免疫系
 (g)代謝調節のうちのいくつかの機構

ホメオスタシスの各階層
(a)感情
(b)狭義の情動
(c)多数の動因と動機、あるいは欲求
(d)快(および報酬)または苦(および罰)と結びついている行動
(e)免疫系
(f)基本的な反射
(g)代謝のプロセス

 「われわれのホメオスタシスを保証している調節反応のリストをよく調べてみると、そこに、ある興味深い構築プランが見えてくる。

それは、より単純な反応部分をより複雑な反応部分の構成要素として組み込んでいる、つまり、単純なものを複雑なものの中に「入れ子式」に配置していることだ。

実際、免疫系と代謝調節のうちの〈いくつか〉の機構が、苦と快の行動の機構に組み入れられている。また後者の〈いくつか〉の機構が、動因と動機の機構に組み込まれている(動因と動機の機構の大部分は代謝的補正を中心に展開し、またすべてが快や苦に影響している)。そして先行するすべてのレベル――反射、免疫反応、代謝調節、苦や快の行動、そして動因――からなにがしかの機構が、狭義の情動の機構に組み込まれている。

あとでわかるように、さまざまな種類の狭義の情動がまさに同じ原理で組み立てられているのだ。」(中略)

「各反応はそれより下のレベルのより単純なプロセスの部品をあれこれいじって手直ししたものだ。それらはみな同じ全体的目標――幸福を伴う生存――を目指しているが、手直ししたもの一つひとつについては、幸福を伴う生存にとって解決することが不可欠な新しい問題に目が向けられている。全体的目標が達成されるには、それぞれの新しい問題の解決が必要なのだ。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.62-64、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:ホメオスタシスの入れ子構造)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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ホメオスタシスのプロセス:(1)内的、外的環境の変化、(2)変化の感知、(3)評価、反応。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

ホメオスタシスのプロセス

【ホメオスタシスのプロセス:(1)内的、外的環境の変化、(2)変化の感知、(3)評価、反応。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
ホメオスタシスのプロセス
(1) 一個の有機体の内部あるいは外部の環境で、何かが変化する。
(2) その変化が、その有機体の命の方向を変える。
(3) 有機体は、そうした変化を検出し、有機体の自己保存と効率的機能にとって、最も有益な状況を生み出すように反応する。
(3.1) 有機体の内部と外部の状況を評価する。有機体は、ただ単に生きている状態ではなく、より「優れた命の状態」を目指しているように見える。すなわち、人間であれば「健康でしかも幸福である」状態を目指しているように見える。
(3.2) 反応。
(3.3) 結果として、健全性への脅威を取り除く、改善への好機を手に入れる。

 「自然は、単なる生存という恩恵に満足せず、どうやらすばらしい後知恵も使ったようだ。じつは、生得的な生命調節装置は生と死の中間的な状態を目標とはしていない。そうではなく、ホメオスタシスの努力の目標は中間よりも優れた命の状態を、つまり、思考する豊かな生き物であるわれわれ人間が「健康でしかも〈幸福〉である」とみなす状態へ導くことだ。

 ホメオスタシスの全プロセスは、われわれの体の一つひとつの細胞の中で、刻一刻、命を調節している。この調節は以下のような単純な手順で実現されている。

第一に、一個の有機体の内部あるいは外部の環境で、何かが変化する。第二に、その変化がその有機体の命の方向を変える(その変化は有機体の健全性への脅威にもなるし、有機体の改善の好機にもなる)。第三に、有機体はそうした変化を検出し、有機体の自己保存と効率的機能にとってもっとも有益な状況を生み出すように反応する。

 すべての反応はこのような手順で起こる。それらは有機体の内部と外部の状況を〈評価し〉、それにしたがって動作する手段である。またそれらは、あるときはトラブルを検出し、またあるときは好機を検出する。そしてそれに働きかけることで、トラブルを取り除くという問題や、あるいは好機を手に入れるという問題を解決している。

あとで、狭義の情動――悲しみ、愛、罪悪感といった情動――においてさえ、そのような手順が形をとどめていることを述べる。ただし、その評価と反応は、単純な反応の場合と比較して、はるかに複雑である。それらの情動は、もともと、単純な反応が生物進化の過程で合体したものだからだ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.60-61、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:ホメオスタシス)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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1.ホメオスタシス機構の階層:(a)感情、(b)狭義の情動、(c)多数の動因と動機、あるいは欲求、(d)快または苦と結びついている行動、(e)免疫系、(f)基本的な反射、(g)代謝のプロセス(アントニオ・ダマシオ(1944-))

ホメオスタシス機構

【ホメオスタシス機構の階層:(a)感情、(b)狭義の情動、(c)多数の動因と動機、あるいは欲求、(d)快または苦と結びついている行動、(e)免疫系、(f)基本的な反射、(g)代謝のプロセス(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
(a)感情
《例》欲望:意識を持つ個体が、自分の欲求やその成就、挫折に関して持つ認識と感情
(b)狭義の情動
《例》喜び、悲しみ、恐れ、プライド、恥、共感など。
(c)多数の動因と動機、あるいは欲求
《例》空腹感、喉の渇き、好奇心、探究心、気晴らし、性欲など。
《定義》欲求:ある特定の動因によって活発化する有機体の行動的状態
(d)快(および報酬)または苦(および罰)と結びついている行動――快楽行動、苦痛行動
《例》自動的な行動であり快や苦の経験が生じるとは限らない。意識される場合は「苦しい、快い、やりがいがある、苦痛を伴う」行動
《定義》特定の対象や状況に対する有機体の接近反応や退避の反応。
《誘発原因》
 ある身体機能の不調
 代謝調整の最適作用
 有機体に損害を与えるような外的事象
 有機体を保護するような外的事象
(e)免疫系
《誘発原因》
 有機体の外部から侵入してくるウイルス、細菌、寄生虫、毒性化学分子など。
 有機体の内部であっても、例えば死滅しつつある細胞から放出される有害な化学分子。
(f)基本的な反射
《例》有機体が音や接触に反応して示す驚愕反射。極端な熱さ、極端な寒さから遠ざけたり、暗いところから明るいところへ向わせたりする、走性、屈性など。
(g)代謝のプロセス
《定義》
・内部の化学的作用のバランスを維持するための、化学的要素(内分泌、ホルモン分泌)と機械的要素(消化と関係する筋肉の収縮など)
《機能》
・体内に適正な血液を分配するための、心拍数や血圧の調整。
・血液中や細胞と細胞の間にある液の酸度とアルカリ度の調整。
・運動、化学酵素の生成、有機体組織の維持と再生に必要なエネルギーを供給するための、タンパク質、脂質、炭水化物の貯蔵と配備の調整。

 「ホメオスタシス機構とは、自動的な生命調整を備えた、多数の枝分かれをもつ、大きな現象の木、と考えることができる。そして多細胞生物の場合、下から上に登っていくと、その立ち木には順に以下のようなものが見えてくるだろう。

 いちばん下の枝にあるのは、
・代謝のプロセス―――この中には、内部の化学的作用のバランスを維持するための化学的要素と機械的要素(たとえば内分泌やホルモン分泌、消化と関係する筋肉の収縮など)が含まれる。これらの作用は、たとえば心拍数や血圧(それにより体内に適正な血液が分配される)、内部環境(血液中や細胞と細胞の間にある液)の酸度とアルカリ度の調整、有機体にエネルギーを供給するために必要なタンパク質、脂質、炭水化物の貯蔵と配備(エネルギーは、運動、化学酵素の生成、有機体組織の維持と再生に必要)などを管理している。

・基本的な反射―――たとえば、有機体が音や接触に反応して示す驚愕反射。あるいは、有機体を極端な熱さや極端な寒さから遠ざけたり、暗いところから明るいところへ向わせたりする、走性、屈性など。

・免疫系―――免疫系は有機体の外部から侵入してくるウイルス、細菌、寄生虫、毒性化学分子などを撃退すべく備えている。興味深いことに、免疫系は、体内の健全な細胞に通常含まれている化学分子でも、それが死滅しつつある細胞から内部環境に放出されると有機体にとって危険であるような場合、そのような化学分子(たとえば、ヒアルロン酸の分解、グルタメート)に対しても備えている。要するに、免疫系は、有機体の完全性が外部からであれ内部からであれ脅かされるときの、第一の防御線である。

 中レベルの枝にあるのは、
・通常、快(および報酬)または苦(および罰)と結びついている行動―――こうしたものには、たとえば、特定の対象や状況に対する有機体の接近反応や退避の反応がある。人間の場合、感じることもできるし何が感じられているかを報告することもできるので、そうした反応は、苦しい、快い、やりがいがある、苦痛を伴うといったように説明される。」

(中略)「苦と快は多くの原因――たとえば、ある身体機能の不調、代謝調整の最適作用、有機体に損害を与えるような、あるいは有機体を保護するような外的事象――によって誘発される。しかし苦や快の〈経験〉は〈苦痛行動や快楽行動の原因ではない〉し、またそうした行動が生じる上で必要なものでもない。次項で述べるように、ひじょうに単純な生物は、たとえそうした行動を感じる可能性が低かったりゼロであったりしても、こうした情動的行動のうちいくつかを実行することができる。

 次に高いレベルにあるのは、
・多数の動因と動機―――主たる例は、空腹感、喉の渇き、好奇心、探究心、気晴らし、性欲、である。スピノザは〈欲求〉というじつに適切な言葉でそれらをひとまとめにし、また意識をもつ個体がそうした〈欲求〉を認識するようになる状況に対して〈欲望〉という言葉を使った。欲求という言葉は、ある特定の動因によって活発化する有機体の行動的状態を意味する。さらに欲望という言葉は、ある欲求をもっていることに対する、そしてその欲求の最終的な成就または挫折に対する意識的感情を意味している。このスピノザの区別は、本章の出発点である情動と感情の区別と、見事に対応している。明らかに人間には欲求と欲望があり、情動と感情がそうであるように、それらはシームレスに結びついている。

 最上部に近いが、最上部ではないレベルにあるのは、
・狭義の情動―――ここには自動化された生命調整のうちのもっとも重要な部分がある。つまり、喜びや悲しみや恐れからプライドや恥や共感まで、狭い意味での情動だ。では、木の最上部には何があるか。答えは単純、感情である。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.55-59、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:ホメオスタシス,感情, 情動, 動因, 動機, 欲求, 快, 苦, 免疫系, 反射, 代謝)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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