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2018年9月9日日曜日

信号の無意識の検出を示す諸事例:(a)閾値に達しない弱い刺激に対する強制的選択による反応、(b)皮膚に与えられた振動性パルスの周波数の弁別、(c)盲視の患者の事例。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

信号の無意識の検出

【信号の無意識の検出を示す諸事例:(a)閾値に達しない弱い刺激に対する強制的選択による反応、(b)皮膚に与えられた振動性パルスの周波数の弁別、(c)盲視の患者の事例。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(a)意識的な感覚経験に基づく反応

意識的な感覚経験────┐
 ↑          │
 │          │
事象関連電位(ERP)  │
 ↑500ms以上の持続時間│
 │          │
後続する脳活動────┐│
 ↑信号の無意識の検出││
 │         ││
初期誘発電位     ││
 ↑14~50ms後。   ││
 │         ↓↓
閾値に近い刺激    反応

(b)刺激を意識できないレベルまで下げると、ERPは突然消失する。この実験の場合、被験者は意識経験の有無にかかわらず、強制的選択により、反応するように指示される。
 結果:被験者は限りなくゼロに近い低刺激信号に対しても、「偶然のレベルよりも高い確率で反応」する。この場合信号の無意識の検出においては、閾値レベルのようなものは事実上存在せず、「反応の正確さは、ゼロから始まる刺激の強さと正確さとを関係づけたカーブに沿ってなめらかに増加」する。

事象関連電位(ERP)
 ↑消失
 │          
後続する脳活動────┐
 ↑信号の無意識の検出│
 │         │
初期誘発電位     │
 ↑14~50ms後。   │
 │         ↓
閾値以下の刺激    反応

(c)信号の無意識の検出を示す他の事例。
 (c1)皮膚からの感覚入力については、一本の感覚神経線維にある、単発の神経パルスを検出するらしい。
 (c2)皮膚に与えられた振動性パルスの周波数の弁別。
  ・個々の反復する振動性パルスの間の時間間隔が、500msよりはるかに短い。
  ・この刺激が、意識に登る前の段階で検出されている。
  ・その後、周波数の違いを弁別するアウェアネスは、後から生ずる。
 (c3)盲視の患者の事例
  ・視覚野に損傷があるため、視野のある部分で意識を伴う視力を失った患者が、見えない領域にある対象を想像でもよいので指し示すように指示された場合、被験者は卓越した正確さで実行していながら、対象が見えていなかったと報告した。

 「(9) 信号の無意識の検出は、意識を伴う信号へのアウェアネスとは明確に区別しなければなりません。この区別は、タイム-オン理論の検証として以前説明した実験の結果によって直接的に提示されています。しかし、その区別はしばしば見落とされ、意識経験の性質について、混乱して誤った結論を導くことがあります。信号検出理論に基づく研究によると、限りなくゼロに近い低刺激信号に対して、被験者は正確に、つまり、偶然のレベルよりも高い確率で反応します。このことから、(意識を伴う)感覚知覚を引き出すための、閾値レベルのようなものは事実上存在しないという結論に至りました。反応の正確さは、ゼロから始まる刺激の強さと正確さとを関係づけたカーブに沿ってなめらかに増加します。その結論は、アウェアネスのない感覚入力の《無意識の検出》という、私たちの結論と正確に一致します。[訳注=「閾値レベルのようなものは存在しない」という言い方は、「0.5秒間の精神活動の持続がアウェアネスに必要」「アウェアネスはオール・オア・ナッシング」という著者の主張と矛盾するように聞こえるかもしれない。それに対する答えは、数行あとで出てくる(すなわち、被験者への質問の仕方で異なる結果が得られる)。]信号検出についての研究(グリーンとスウェッツ(1966年))や多くの心理物理的問題において、被験者は強制選択の反応をするように指示されています。強制選択においては、刺激についての質問に対して、被験者は「はい」または「いいえ」のとちらかで答えるように指示を受けています。被験者は、刺激に気づいているかについては答えを求められていません。この二つの異なる質問から、驚くほど異なる結果を導くことができるのです。
 厳密に言うと強制選択の質問によって、無意識であろうと、アウェアネスを伴おうと、どちらの場合でも、信号の《検出》を調べることになります。このことを示す二組の興味深い例があります。まず、ヴァルボ他(1984年)の発見によると、皮膚からの感覚入力については、可能な限りの絶対最小値のメッセージをおそらく知覚することができるのです。その最小値は、一本の感覚神経線維にある、単発の神経パルスです。しかし、強制選択反応は、感覚メッセージがいくらかでも届いたかを被験者が「はい」または「いいえ」で選ぶものです。ヴァルボ自身は、これは感覚アウェアネスを反映したものではないことに、同意しています。そしておそらくこれは無意識の《感覚検出》の場合にあてはまるとしています(私信)。しかし、多くの神経科学者たちは誤って、彼の発見を、《意識を伴う》感覚知覚の無限の可能性を示すものとみなしていました。
 人間の被験者は、皮膚への異なる周波数の二つの振動性の刺激を弁別することができます。個々の反復する振動性のパルスの間の時間間隔が、私たちが発見した、感覚事象の閾値のアウェアネスの必要条件である500ミリ秒間という時間間隔よりずっと少なかったとしても、このことは起こり得ます。このように、パルスとパルスの間の時間間隔がとても短い場合でも人間は振動の違いが判別できることから、アウェアネスについての私たちの長年にわたる証拠が正しいはずはない、とある人々によって論議されてきました。しかし、異なる周波数での振動パルスの間の短時間の感覚を弁別する能力は、こうした違いの検出が(意識抜きで)できることを示しているにすぎません。私たちの意見では、こうした弁別のアウェアネスは後から生じます。つまり、私が問うているのは、被験者がパルスとパルスの間隔がどれぐらい短くても検出できるかではなく、《いつ》被験者が弁別に気づくのかということです。
 ローレンス・ワイスクランツ(1986年)による盲視の報告は、無意識の検出と意識的なアウェアネスのみごとな例を提供しています。視覚野に損傷があるため、視野のある部分で意識を伴う視力を失った患者を観察しました。見えない領域にある対象を想像でもよいので指し示すように指示された場合、被験者は卓越した正確さで実行していながら、対象が見えていなかったと報告しました。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第3章 無意識的/意識的な精神機能,岩波書店(2005),pp.135-137,下條信輔(訳))
(索引:無意識の信号検出)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年9月7日金曜日

意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。もしこれが、初期EP反応だけで実現されていたとしても、「適切な脳機能の創発特性」として十分あり得ることだ。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

適切な脳機能の創発特性

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。もしこれが、初期EP反応だけで実現されていたとしても、「適切な脳機能の創発特性」として十分あり得ることだ。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(一部再掲)

意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。これは、感覚皮質への直接刺激による感覚と、皮膚への刺激による感覚との比較により検証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

(1)意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。これは、どのようにして実現されているのだろうか。
(2)「タイミングと空間位置に遡及する主観的なアウェアネスへの信号を与えているのは、初期EP反応だけであるようなのです。すると、初期EP反応にまで逆行する、この遅延した感覚経験の遡及性を媒介し得るような、追加の神経プロセスを考えることが難しくなります。もちろんそのようなメカニズムは実際にもまったく不可能というわけではないですが」。
(3)例えば、アントニオ・ダマシオ(1944-)が「中核自己」が発現する仕組みの中で仮定した、「原自己」の変化と感覚された対象の状態を時系列で再表象する「2次のニューラルマップ」のようなものへ、初期EPからの情報が接続されていれば、このような意識の時間遡及性を説明できるだろう。(未来のための哲学講座)
(参照: 2次のニューラルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)))
(4)「他の未知の神経活動の媒介なしで時間の規定因となるのであれば、主観的な遡及は純粋に、脳内での対応神経基盤のない精神機能ということになります」。この場合、「精神の主観的機能は、適切な脳機能の創発特性であるというのが私の意見です」。すなわち、今の場合、初期EPの存在というタイミングを決めるのに必要な情報は不足していないので、一見して明白でないと思えるような精神現象を生み出していても、それは十分あり得ることでもあり、それが適切な脳のプロセスなのかもしれない。

 「主観的な遡及には、脳と心の関係の性質において根本的で重要な、また別の側面があります。遡及を直接媒介する、またはそれを説明するとみなし得る《神経メカニズム》がないようなのです!
 初期誘発電位反応が、感覚刺激の主観的な空間位置および主観的なタイミングが遡及する皮質反応とどのように作用するかを例にとりましょう。これはどのようにして起こるのでしょうか? 感覚刺激が、感覚が生じるために必要な閾値以下であっても、この初期EPは生じます。その場合には、後から誘発されるEPなしで、単発で発生します。後から発生するコンポーネントである0.5秒間以上継続するEPは、感覚が生じるために必要な刺激の強さが閾値以上である場合に発生します(リベット他(1967年)参照)。初期EPは、感覚皮質の極めて局所的な小さな部位にだけ発生します。しかし、遅れて発生するEPは、一次感覚皮質にだけ限定して発生するわけではありません。関連した反応が、皮質内に広く分散しています。おそらく閾値より上の強さにおける、単発の視覚事象に伴う活動の広範な分散については、他の研究者によっても記載されています(ブッフナー他(1977年)参照)。
 タイミングと空間位置に遡及する主観的なアウェアネスへの信号を与えているのは、初期EP反応だけであるようなのです。すると、初期EP反応にまで逆行する、この遅延した感覚経験の遡及性を媒介し得るような、追加の神経プロセスを考えることが難しくなります。もちろんそのようなメカニズムは実際にもまったく不可能というわけではないですが。もし初期EP反応が、他の未知の神経活動の媒介なしで時間の規定因となるのであれば、主観的な遡及は純粋に、脳内での対応神経基盤のない精神機能ということになります。
 しかし、神経機能に関連する精神機能の問題というのは、意識を伴う感覚経験の主観的な遡及、という特定の機能よりもずっと広範になります。主観的で意識を伴う経験(思想、意図、自己意識などを含む)を生じさせるすべての脳のプロセスは、そこから発生した経験「のように」は見えません。実際、原因である神経プロセスについて完全な知識があっても、それに付随する精神事象を《先験的に》は説明できていません(関連性を発見するには、この二つの現象を同時に研究しなければなりません)。ニューロンパターンから主観的な表象への変容が、神経パターンから発生した精神領域で展開しているように見えます。(つまり、感覚の遡及を導き出すために特定の神経信号を使っていることを解明しても、遡及の過程そのものを解明したことにはなりません。)
 それでは、主観的な感覚遡及や他の精神現象について直接の神経学的説明が《できない》というこの結論は、脳と心の関係についての特定の哲学的立場とどのように関係するのでしょうか。第一に、このような提案によって、デカルト的な意味での二元論の類いが引き合いに出されたり、またそういう二元論が構成されたりは《しません》。つまり、私のこの提案では、物質としての脳と精神的な現象について、それらを分離可能な、または独立した存在と考える必要はありません。精神の主観的機能は、適切な脳機能の創発特性であるというのが私の意見です。意識を伴う精神は、それを生み出す脳のプロセスなしには存在しません。しかし、その意識を伴う精神は、脳という物質的システムの独自の「特性」である神経活動から生じるため、それを生み出す神経脳の中では明白ではない現象を表出することができるのです。この意見は、ロジャー・スペリーが指示するシステムの創発特性とも一致します。
 心脳同一説はおそらく、「物資的なもの」と「精神的なもの」を関連づけた、最も一般的に支持されている哲学的理論です(フック(1960年)を参照)。心脳同一説の最も単純な説明は、外部から観察可能な脳の構造と機能の特徴、すなわち物質的に観察可能な側面が、システムの外部、または客観的な特性を説明するということです。意識的でも無意識でも、精神事象は、《同じシステム》または「実体」の「内的な特性」を説明します。すなわち、与えられた実体は、問題となっている外的・内的両方の特性の原因となっているというのです。心脳同一説では、主観的な経験にアクセス可能なのは(内的な特性として)それを実際に経験している個人のみであるとみなしています。しかしもし、精神事象に(空間と時間における主観的な遡及のように)対応する特定の神経(身体事象)がなければ、こうした外的・内的特性を特定する一般的な実体はないということになります。心脳同一説を早いうちに提唱していた一人が、カリフォルニア大学バークレー校の哲学の教授である、ステファン・ペッパー(1960年)です。ペッパー教授は私との議論の中で、私たちの発見である主観的な時間の遡及性が、心脳同一説に重大な困難を生ぜしめることに即座に気づきました。特に(主観的遡及という)この精神作用に神経対応が存在しなければ、彼の気づいた通り心脳同一性に困難が生じるのです。
 観察可能な特性と内的(精神)特性の間にある明らかな分離は、その共通する単一の実体の二つの側面(内的と外的)が単に表出しているだけである、と心脳同一説では説明するでしょう。しかしこれでは、共通の実体という言葉を当てはめることによって困難をうまく繕い、すべての特性を説明してしまっているかのようです。その上、いわゆる実体というものは、どのような検証をもってしても否定できない、思弁性によって構成されています。いずれにしても、内的な精神現象の特性は、物質的で観察可能な脳とは極めて異なるということは明らかで、その内的および外的な特性はそれぞれもう一方からは《先験的には》説明不能なのです。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.99-102,下條信輔(訳))
(索引:適切な脳機能の創発特性)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年9月6日木曜日

意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、内側毛帯の束への、連発パルス刺激の実験で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

内側毛帯の束への刺激

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、内側毛帯の束への、連発パルス刺激の実験で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
(c)脳内の特定の感覚上行路(内側毛帯の束)への、連発パルス
 (c)の一番最初の刺激パルスと、(b)のパルスが同時に与えられると、「被験者はどちらの感覚も同時に現われたと報告する傾向がありました」。
 (c)の持続時間が、500ms以下にまで削減されると、被験者は何も感じない。

(a)感覚皮質への、アウェアネスに必要な閾値に近い強さの連発した刺激パルス(500ms)
意識的な皮膚感覚
 ↑
 │
事象関連電位(ERP)と呼ばれる
皮質の一連の電気変化
 ↑意識感覚を生み出すために、
 │500ms以上の持続が必要である。
 │
感覚皮質への連発した刺激パルス

(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

(c)脳内の特定の感覚上行路(内側毛帯の束)への、連発パルス
意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の発生タイミングを決める
 ││
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
内側毛帯への連発パルスの、それぞれ個々の刺激パルスに対して、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑
 │
脳内の特定の感覚上行路(内側毛帯の束)への連発パルス

 「この仮説は、かなり突飛なだけに、有効性のある実験検証なしには真面目に提案することができません。(実験による検証、あるいはそこまで行かなくても、少なくともどういうデザインで実験をやれば検証できるかという提案は、いかなる科学的仮説においても必須となります。)幸運なことに、私たちは、適切で極めて有効な実験検証を考案することができました。
 この検証は、脳内の特定の感覚上行路(つまり内側毛帯の束)への刺激には二つの関連した特徴があるという興味深い事実に基づいています。まず第一に、意識感覚を引き出すには、感覚皮質における場合と同様、刺激には最大約500ミリ秒間の持続時間が必要です。第二に、内側毛帯への500ミリ秒以上連発したパルスの《それぞれ》個別の刺激パルスは、感覚皮質で記録可能な早い初期EP反応を引き出します。この点は、皮膚刺激に対する感覚皮質の反応の場合と同じで、初期EPがまったく生じない感覚皮質の表面への刺激の場合とは異なります。
 主観的なタイミングの時間に逆行する遡及効果という私たちの仮説によれば、内側毛帯での連発パルスの最初の刺激パルスによってでさえ、発生すると想定される信号(初期EP反応)のタイミングは、皮膚刺激の場合の感覚的なアウェアネスの主観的な報告のタイミングと同じになるに違いありません。したがって、実験検証においては、内側毛帯への適切な連発した刺激パルスと皮膚への単発の有効なパルスとを時間的に比較しました。この実験は、皮膚パルスと、脳の感覚皮質に伝導する連発したパルスとを比較した前述の実験とデザインが似ています。これら二つの感覚のうち、(主観的に)先に現われたのはどちらであるのかを被験者は報告するように指示されています。言い換えると、内側毛帯によって引き出された感覚と、皮膚パルスによって引き出された感覚の時間を比較したのです。
 この実験の結果が私たちの仮説に基づく予測を裏付けたのは、嬉しい驚きでした。内側毛帯での連発刺激の始まりと(物理的に)同時に皮膚パルスが与えられると、被験者はどちらの感覚も同時に現われたと報告する傾向がありました。しかし、必要条件である500ミリ秒間(または、より強い刺激で200ミリ秒間)に達しなければ内側毛帯の感覚が得られないことがすでにわかっています。必要な持続時間である500ミリ秒以下にまで内側毛帯への連発したパルスが削減されると、被験者は何も感じませんでした。内側毛帯の場合と同様、皮膚パルス感覚も、(もしそれが皮質刺激の開始と同時に与えられた場合には)皮質刺激による感覚よりも前に現われると報告されました。そして、皮質刺激が必要な時間連発し終わるまで、皮膚パルスを遅延させた場合にだけ、二つの感覚は同時に現われると報告されました。
 したがって、皮質刺激と内側毛帯刺激はともに、感覚経験を生み出すために同様の反復したパルスの持続時間が必要であるとしても、経験の主観的なタイミングは内側毛帯刺激のほうがより早いと報告されたことがわかります。すでに述べたように、二つの刺激は感覚皮質の電気反応が異なります。内側毛帯刺激のみが、それぞれのパルスから初期EP反応を引き出します。これは皮膚への単発のパルスと共通する効果です。
 この検証は内側毛帯刺激の「不自然な」性質に基づいたものだ、と批判する人もいました。しかし内側毛帯刺激と皮質刺激を対比した結果を比べるだけで、この意見を払いのけることができます。これらの刺激位置はどちらも「不自然」です。しかし、それぞれの反応の違いには、明らかに重要な意味があります。経験のために最小限のニューロンの遅延は両方のケースで同様に見られるので、内側毛帯刺激のより早い主観的なタイミングは、感覚経験が起こる主観的なタイミングが時間に逆行して遡及する効果についての、直接的な証拠となるからです。
 これで私たちは、感覚経験の主観的なタイミングは、後から起こる、脳の活動が実際に経験を生み出せる適正な最小限の持続時間よりも前に戻るという、強力で直接的な証拠を見出したことになります。主観的なタイミングは「タイミング信号」にまで逆行して遡及します。このタイミング信号とは、すなわち感覚皮質の初期EP反応です。これが、実際には大幅が遅延があるにもかかわらず、私たちが実質上感覚信号を即座に自覚するという主観的な感情と信念について、うまく説明がつくのです!」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.88-91,下條信輔(訳))
(索引:内側毛帯の束,意識の時間遡及)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年9月5日水曜日

意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。これは、感覚皮質への直接刺激による感覚と、皮膚への刺激による感覚との比較により検証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識の時間遡及

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。これは、感覚皮質への直接刺激による感覚と、皮膚への刺激による感覚との比較により検証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(a)感覚皮質への、アウェアネスに必要な閾値に近い強さの連発した刺激パルス(500ms)
(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
 (a)の後、(b)が数百ms遅延したとしても、(b)(a)の順で感覚される。
 (a)の後、(b)が500ms遅延したときのみ、(b)(a)は同時に感覚される。

(a)感覚皮質への、アウェアネスに必要な閾値に近い強さの連発した刺激パルス(500ms)
意識的な皮膚感覚
 ↑
 │
事象関連電位(ERP)と呼ばれる
皮質の一連の電気変化
 ↑意識感覚を生み出すために、
 │500ms以上の持続が必要である。
 │
感覚皮質への連発した刺激パルス

(b)皮膚への、閾値に近い単発のパルス
意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

参照: 意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、片側の感覚上行路に損傷のある患者の例で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))


 「意識を伴う感覚経験を引き出すには、単発のパルスによる皮膚刺激の場合でさえ、適切な強さの脳内のニューロンの活動が最大約500ミリ秒間持続しなければならないことを、証拠は示しています。しかし主観的には、私たちは皮膚刺激に対して感知可能な遅延なしにほとんど即座に気づくようです。ここで、奇妙な逆説が生じます。脳内の神経活動の必要条件は、500ミリ秒間程度経過しなければ皮膚刺激の意識経験またはアウェアネスが現れることができないことを示していますが、その一方、このような遅延なしに経験したと私たちは主観的に判断しています。
 《主観的な》タイミングは、《ニューロンの》タイミング(言い換えると、ニューロン群が実際に経験を生み出したタイミング)と一致する必要がない、と考え始めるまで、私たちはこのやっかいなジレンマにしらばく苦しめられていました。そこで、この矛盾を直接証明する実験を行いました(リベット他(1979年))。このテストでは、連発した刺激パルス(アウェアネスに必要な閾値に近い強さ)を、通常、意識を伴う感覚経験を生み出す必要条件である約500ミリ秒間反復して感覚皮質に与えました。(この、皮質刺激によって誘発された感覚は、手のような皮膚の部位に感じられると報告されます。脳に現われたと決して感じられないのです。)次に、単発の、閾値に近いパルスを皮膚に与えます。このパルスは数々の試行において、連発した皮質刺激がスタートした後の様々な時点で与えました。皮質刺激と皮膚刺激をペアにして与える個々の試行の後、被験者は二つの感覚のうちどちらが先に現われたかを報告するように指示されました。すると皮膚パルスが皮質刺激の開始後、数百ミリ秒間遅延したとしても、被験者は(依然として)皮膚で生じる感覚は、皮質刺激で誘発された感覚の《前》に現われた、と報告しました。また、皮膚パルスが約500ミリ秒間遅延したときにのみ、両方の感覚がほとんど同時に現われたように感じると、被験者は報告しました。明らかに、皮膚刺激で誘発された経験の主観的な時間は、皮質刺激で誘発された経験とくらべて遅延がないように見えます。皮質刺激で誘発された感覚は、皮膚刺激で誘発された感覚と比較して、約500ミリ秒間遅延しているのです。
 皮質刺激において発見したのと同様に、皮膚への刺激パルスのアウェアネスには、およそ500ミリ秒間の脳内の活動が必要であるという、はっきりした証拠をすでに私たちは持っています。それでも、このような大幅な遅延がないかのようなタイミングで、皮膚パルスは主観的に知覚されるのです。この逆説的な経験上/実験上のジレンマをどのように扱ったらよいでしょうか? この矛盾を説明できるメカニズムが脳内にあるのでしょうか?」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.84-86,下條信輔(訳))
(索引:意識の時間遡及)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年9月4日火曜日

初期誘発電位反応には、刺激の位置や感覚モダリティによって、5~40msの潜伏時間の違いがあるにもかかわらず、主観的には同時に意識される。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

感覚の意識的な同時性

【初期誘発電位反応には、刺激の位置や感覚モダリティによって、5~40msの潜伏時間の違いがあるにもかかわらず、主観的には同時に意識される。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス


初期EP(誘発電位)の発生タイミング
 (a)同じ体性感覚のモダリティの刺激でも、体の部位間の距離の違いによって、5~10ms(頭への刺激の場合)から、30~40ms(脚への刺激の場合)と差がある。
 (b)異なる感覚モダリティ間で、同期した刺激を与えた場合、たとえば、銃の発射音と閃光を知覚する場合。視覚は、時間がかかり初期誘発反応の遅延は、30~40msになる(網膜内の光受容体⇒次々と神経層を通る⇒神経節細胞⇒視覚神経線維⇒視床⇒視覚皮質)。
 (c)実験に当たっての注意事項1:身体の一つの部位へ非常に強い刺激が与えられた場合には、意識化に必要な脳の活動は極めて短い持続時間になる。この脳活動時間の差は、100~200msに及ぶ。これは、同時には感じられない(推測)。
 (d)実験に当たっての注意事項2:皮質の表面に設置した電極で記録ではなく頭皮の記録で見られる最も速い大きな電位は、初期誘発電位反応ではなく、より遅いコンポーネントの反応である。このコンポーネントは、初期誘発電位反応よりも50~100ms長い潜伏期間がある。

 「感覚の意識的な同時性 このことによって、実際に同調して与えられたさまざまな刺激が、どのように同調しているものとして意識的に感じられるかについて、重要で一般的な疑問が起こります。同じ体性感覚のモダリティの中で刺激を与えても、刺激を与える体の部位間の距離の違いによって、感覚経路の伝導時間が異なります。感覚メッセージの最も速い到達時間は、5~10ミリ秒間(頭への刺激の場合)から、30~40ミリ秒間(脚への刺激の場合)とばらつきがあります。(にもかかわらず)これら二つの部位への同調した刺激は、主観的には同調しているものとして感じられますから、30ミリ秒間程度の時間差は、主観的には重要ではないと考えるしかありません。その一方、身体の一つの部位へ非常に強い刺激が与えられた場合、(意識化に必要な)脳の活動は極めて短い持続時間ですみます。二つの異なる強さの刺激間での、この脳活動時間の差は、100~200ミリ秒間ぐらいです。このような(強度の違う)二つの刺激について、主観的な相対タイミングが研究されたことがあるかはわかりません。おそらく、同調したものとして感じられなかったのではないかと思います。いずれにしても、極めて短い脳の活性化時間で十分であるほどの強い刺激は、普通には起こりにくいと思われます。
 それでは、異なる感覚モダリティ間で同期した刺激を与えた場合は、どうでしょうか? たとえば、銃を発砲して、発射音と閃光の両方が同時に現われる場合を考えます。もちろん、光は音よりも早く直進します。しかし、もし銃がほんの数フィート(1メートル弱)の距離で発砲されていたら、その移動時間の差はあまり重要ではありません(秒速1100フィート(約330メートル)のスピードだと、音は2フィート(約0.6メートル)離れた聞き手のところに約2ミリ秒で届きます)。身体への体性感覚刺激と同様、視覚刺激と聴覚刺激もまた、視覚皮質と聴覚皮質にそれぞれ速い初期誘発電位反応を引き出します。速い信号が視覚皮質へ届くための潜伏時間、または遅延時間は、他の感覚モダリティと比べて明らかに長くなります。それはなぜかと言うと、網膜内で光受容体から次々と神経層を通るのに余分に時間がかかり、それからようやく神経節細胞が発火し、視覚神経線維を経由して視床を通って視覚皮質へと神経インパルスを送るからです。ゴフら(1977年)の計測によれば、ヒトの脳における視覚の初期誘発反応の遅延は、30~40ミリ秒間です。
 すべての感覚皮質部位において、初期誘発反応は、現在刺激を受けている末梢感覚地点または領域を表す小さな部位に限局されています。実際、皮質の表面に記録電極を設置してみると、感覚刺激に反応する末梢感覚要素からの速い入力を受ける皮質の「ホットスポット」でのみ、かなり強い初期誘発電位反応が記録されるのです。初期誘発電位反応は、頭皮につけた電極による記録では通常、はっきりと見出すことができません。なぜなら、電極がホットスポット上に設置されるとは限らないというだけではなく、局所的な皮質部位で生じる電位が皮質と頭皮の間にある組織の中で「ショートする」ことによって弱化し、大きく削減されるからです。その結果、頭皮の記録で見られる最も速い大きな電位は、(皮質の表面に設置した電極で記録した場合と違って)刺激への反応のうちでより遅いほうのコンポーネントとなります。このコンポーネントは、初期誘発電位反応よりも50~100ミリ秒間長い潜伏期間があり、さまざまな同時刺激における同期という問題を考える際には、これより後のタイミングで考えると間違える恐れがあります。
 どちらにしても、真の初期誘発電位反応には、刺激の位置や感覚モダリティによって、5~40ミリ秒間の潜伏時間があります。にもかかわらず、もしすべての同時に与えられた刺激が、主観的に同期していると感じられるならば、この範囲の潜時のばらつきが主観的に重要であるとは脳は「考え」ない、と推測しなければならないでしょう。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.80-82,下條信輔(訳))
(索引:感覚の意識的な同時性)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年9月3日月曜日

意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、片側の感覚上行路に損傷のある患者の例で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

初期EP(誘発電位)の役割、意識の時間遡及

【意識的な感覚は、刺激を受けた時刻より約0.5秒遅れて発生するが、意識の内容は、刺激の発生時刻を指し示す。この意識の発生が初期EPにより調整されていることは、片側の感覚上行路に損傷のある患者の例で実証されている。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(1)初期EP(誘発電位)の役割
 (1.1)皮膚への刺激の正確な位置を識別するために重要な役割を果たす。
 (1.2)皮膚入力の主観的なタイミングを、過去のある時点に向って遡及するときに、遡及先となるタイミング信号を提供する。
(2)確認されている事実
 (2.1)脳卒中患者は、非常に大ざっぱな方法でしか、皮膚刺激の位置を示せない。例として、2点刺激の弁別では、刺激ポイントを何cmも離さないと識別できない。
 (2.2)脳の右半球に限局した脳卒中で、特定の感覚上行路に永久的な損傷のある患者の場合。
  (a)不自由な左手の皮膚への刺激パルス
  (b)健常な右手の皮膚への皮膚パルス
  (a)と(b)を同時に与えた場合、(b)の次に(a)を感覚する。
  (a)と(b)の意識感覚が、同時に発生したと患者が報告できるようにするには、(b)よりも0.5秒先に(a)を与えなければならない。

意識的な皮膚感覚
 ↑↑
 ││刺激の正確な位置と、
 ││発生タイミングを決める
 │└──────────────┐
事象関連電位(ERP)と呼ばれる  │
皮質の一連の電気変化       │
 ↑意識感覚を生み出すために、  │
 │500ms以上の持続が必要である。│
 │               │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

(再掲)

意識的な皮膚感覚
 ↑
 │
事象関連電位(ERP)と呼ばれる皮質の一連の電気変化
 ↑意識感覚を生み出すために、500ms以上の間持続することが必要である。
 │全身麻酔状態にある場合、ERPは消失する。
 │皮膚パルスの強さを、意識できないレベルまで下げると、ERPは突然消失する。
 │
皮膚領域が「投射する」感覚皮質の特定の小さな領域で、初期EP(誘発電位)が局所的に発生する。
 ↑短い経路で14~20ms、長い経路で40~50ms後。
 │初期EPが無くとも、意識感覚は生み出せる。
 │初期EPがあっても、意識感覚は生み出せない。
 │
 │速い特定の投射経路を通っていく。
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

参照:皮膚への単発の有効な刺激に対して、14~50ms後に初期EP(誘発電位)が生じ、その後ERP(事象関連電位)が生じる。初期EPは、意識感覚の必要条件でも十分条件でもない。ERPが意識感覚と関連している。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

 「もし、(これまでに述べたように)記録された初期EP(誘発電位)が生じる皮質活動が、感覚的なアウェアネスを生み出すのに重要な役割を果たしていないというのならば、では一体、初期EPにはどのような役割があるのか、疑問に思う人も多いでしょう。一次神経反応は、皮膚への刺激の正確な位置を識別するために重要な役割を果たします。また、すでに私たちが発見したように、皮膚入力の正確で主観的なタイミングは過去のある時点に向って遡及するわけですが、その遡及先となるタイミング信号を提供しているように見えます。脳卒中のケースの中には、この迅速な、特定の感覚経路が感覚皮質に接近するあたりの部位に、大きな損傷がある場合もあります。こうした脳卒中患者は、非常に大ざっぱな方法でしか皮膚刺激の位置を示せません。(たとえば手の)皮膚への二点刺激で、その刺激ポイントが何センチメートルも離されない限り、そうして二点が実際に二つの離れた点でされていることを識別できません。
 私たちが接していたそういう患者においては、この空間的な障害に加え、健常な側への接触パルスと比較すると皮膚へのパルスはおよそ0.5秒間遅れて感じられることがわかりました(リベット他(1979年)参照)。この患者には数年前、脳の右半球に限局した脳卒中の発作がありました。この発作によって、この患者の身体感覚のための特定の感覚上行路に、永久的な損傷が残りました。この患者には、左手や左腕への刺激の位置を正確に示す能力が欠けており、非常におおまかな位置しか報告できないことがわかりました。この患者の健常な右手への刺激の主観的なタイミングを、損傷のある左手と比較するテストを私たちは行いました。両方の手の裏側に小さな刺激電極をつけ、ようやく感じられる強さの刺激をこの患者に与えました。
 刺激が両方の手に同時に与えられた場合、この被験者は、不自由な左手より以前に、右手への刺激を感じたと報告しました。両方への刺激が同時に与えられていることが意識的に感じられると患者が報告できるようにするには、健常である右側への刺激よりも0.5秒《先に》、損傷のある左側への刺激が与えられなければなりません。明らかに、左手への感覚を時間的に逆行するかたちで主観的に知覚する能力を、患者は喪失していました。その感覚はしたがって、アウェアネスが生じるための皮質の必要条件である、およそ500ミリ秒間の遅延を伴って主観的に知覚されます。このアウェアネスを(時間軸上で)前に戻す能力の喪失というのは、おそらく、患者の左手が初期誘発反応を喪失していることによるものでしょう。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.78-79,下條信輔(訳))
(索引:初期EP(誘発電位)の役割,意識の時間遡及)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年8月29日水曜日

意識感覚は瞬時に生み出されるとする仮説に反する諸事実:(a)両方の海馬を損傷している患者の意識経験 (b)遅延刺激によるマスキング効果、遡及性の促進効果 (c)2番目の遅延刺激による脱抑制効果(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識感覚は瞬時に生み出されるのか?

【意識感覚は瞬時に生み出されるとする仮説に反する諸事実:(a)両方の海馬を損傷している患者の意識経験 (b)遅延刺激によるマスキング効果、遡及性の促進効果 (c)2番目の遅延刺激による脱抑制効果(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(a)明らかに、被験者がそのアウェアネスを想起し報告するには、ある程度の短期記憶の形成が起こらなければならない。

          記憶の想起と内観報告
            ↑
意識的な皮膚感覚──この感覚の短期記憶があるはず
 ↑
アウェアネスに必要な0.5秒間の活動持続時間
 ↑
単発の有効な皮膚への刺激パルス

(c2)可能な仮説2:ある事象のアウェアネスは遅延無しに発生するが、それが報告可能になるには、0.5秒間の長さの活性化が必要である。(ダニエル・デネット(1942-))

         記憶の想起と内観報告
           ↑意識経験があっても、
           │記憶がないと報告できない
           │
意識的な皮膚感覚──この感覚の短期記憶があるはず
 ↑        記憶の定着に0.5秒間が必要である
 │
(アウェアネスに必要な0.5秒間の活動持続時間)
 ↑これは不要で、意識的感覚は瞬時に発生する
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

 (c2.1)(仮説2に反する事実1)
 両方の海馬構造が損傷している患者は、顕在記憶を失っているが、意識経験があることは、自覚ある想起の証拠を必要としない心理認知テストで確認できる。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))
 (c2.2)(仮説2に反する事実2)
 もし、意識経験が瞬時に発生すると仮定すれば、微弱な感覚刺激に引きつづく、感覚皮質に与えられる連発した刺激パルスが、先行した意識経験をマスキングすることが説明できない。先行する意識経験は、既に発生済みだからだ。マスキング可能な事実は、後続の刺激パルスが与えられたとき、必要な0.5秒間に満たずに意識経験が「生成中」であることを示す。
 参照:遅延刺激によるマスキング効果:最大で100ms遅れた刺激は、先行する刺激の意識化を抑制する。遅延刺激が皮質への直接的な刺激の場合には、200~500ms遅れた刺激でも、先行刺激の意識化を抑制する。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))
 (c2.3)(仮説2の反論)
 遅延したマスキングは、ただ単にアウェアネスのための記憶痕跡の形成を妨害しているのではないか。
 (c2.3.1)(仮説2の反論に反する事実1)
  記憶痕跡を破壊するような刺激は、ショック療法で使うような強い電気ショックであるが、実験で使った刺激は、これと比較すると極めて小さい。
 (c2.3.2)(仮説2の反論に反する事実2)
  1番目のマスキング刺激の後に、2番目のマスキング刺激を与えるとき、2番目のマスキング刺激が、1番目のマスキング刺激の感覚を消去するとともに、最初の皮膚刺激のアウェアネスを復活させることができる。もし、1番目のマスキング刺激が最初の刺激の意識経験の記憶痕跡を破壊しているのだと仮定すると、この事実が説明できない。
 (c2.3.3)(仮説2の反論に反する事実3)
   遅延刺激による遡及性の促進効果:遅延刺激が皮質への直接的な微弱な刺激の場合には、最大400msの遅れた刺激でも、先行刺激を遡及して強める。すなわち遅延刺激は、条件によってマスキング効果と促進効果の両方を持つ。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))


 「前述の証拠が、アウェアネスをひき起こす0.5秒間活動を説明するには記憶の形成が必要ということを認めていないのはほぼ確かだとしても、このような提案を少なくも一つでも検討してみることは興味深く、有益でしょう。ロンドンで行われたチバ財団後援の、意識についてのシンポジウムでの私の講演のあと、哲学者であるダニエル・デネットは、ある事象についての意識的なアウェアネスは、実際の皮膚への刺激の場合に瞬時に現われるのと同じように、ほぼ瞬時に現われるに違いない、と提案しました。しかし、そのアウェアネスの記憶を生み出し、「定着される」ニューロンの活動の十分な時間がない限り、そのアウェアネスの《想起と報告》はできない、と彼は主張しました。デネットの主張はまた、以下に述べるように、感覚的なアウェアネスの主観的なタイミングの逆行性のある遡及効果を仮定する必要性を除外しようとするものでした(リベット(1993年b)、140頁以降の考察を参照)。当時の私は、ここでこれまでに述べてきた証拠を思いついていませんでした。それはすなわち、アウェアネスには宣言的記憶も顕在記憶も必要がなく、記憶とアウェアネスはそれぞれ、独立したプロセスに依存している、ということです。しかしそれでも、デネットが提案した仮説に対して、私は他の実験を論拠に反論を唱えました。すでにこの章の2番目の部分でご説明したように、もし、微弱な感覚刺激に続いて連発した刺激パルスが感覚皮質に与えられれば、意識を伴う感覚経験が現れるのを抑制したり、マスクしたりすることは可能です。この遡及効果のあるマスキングは、皮膚パルスの後、連発したパルスが最大500ミリ秒の間、開始しなくても発生します。この結果は、遅延した入力が感覚経験の内容を妨げることを示します。感覚的なアウェアネスが生じるには、ニューロン活動の持続する時間が必要である証拠として、私はそのデータを引用しました。
 これに対して、遅延したマスキングはただ単にアウェアネスのための記憶痕跡の形成を妨害するのだ、とデネットは反論しました(電撃ショック療法は事実、最新の記憶形成を中断することが知られています。しかし、私たちの実験で採用した遅延マスキング刺激は、ショック療法で使った強い汎用の電気ショックと比較すると極めて小さいものです)。しかし、彼の主張は、ほかの二つの実験に基づいた報告によって反論されました。(1)一番目のマスキング刺激の後に、二番目のマスキング刺激を与えることができます(デンバーとプルセル(1976年)。二番目のマスキング刺激が、一番目のマスキング刺激の感覚を消去するとともに、最初の皮膚刺激のアウェアネスが復活するのです。〔訳注=(前にも訳注で述べたように)一番目のマスキング刺激は本来最初のターゲット刺激を抑制する。しかしこの一番目のマスキング刺激を二番目のマスキング刺激で抑制することで、ターゲット刺激はマスキング効果から逃れ、ふたたびアウェアネスが復活する。脱抑制と呼ばれる効果である。〕つまり、最初のマスキング刺激は、最初の皮膚刺激の記憶痕跡を《消去していなかった》のです。(2)遅延した皮膚刺激がより小さなサイズの電極接触によって与えられた場合、最初の皮膚パルスはマスクされず、むしろより強く感じられます(リベット(1992年))。皮膚刺激への感覚的なアウェアネスがこの遡及性の促進を受けるのであって、記憶の喪失などは明らかにまったく起きません。
 したがって、最初の皮膚パルス感覚への遅延刺激の遡及効果は、その皮膚パルスの記憶の喪失とは無関係なのです。その代わり、遅延刺激の遡及効果は、最初の皮膚パルスによって発生する感覚的なアウェアネスを0.5秒間の遅延の間に《調節する》ように見えます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.75-77,下條信輔(訳))
(索引:意識経験は瞬時に発生するのか?)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
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2018年8月28日火曜日

両側の海馬に損傷があると、単純遅延条件付けが可能なのに対して、痕跡条件付けは不可能になる。痕跡条件付けには、二つの刺激の時間的関係についての気づき経験と、それについての宣言的な記憶とが必要である。(ラリー・スクワイア(1941-))

単純遅延条件付けと痕跡条件付け

【両側の海馬に損傷があると、単純遅延条件付けが可能なのに対して、痕跡条件付けは不可能になる。痕跡条件付けには、二つの刺激の時間的関係についての気づき経験と、それについての宣言的な記憶とが必要である。(ラリー・スクワイア(1941-))】

(a)古典的条件付け(単純遅延条件付け)
 これは、両側の海馬に損傷のある動物でも起こる。

      CS-US関係が学習される
       ↑    ↑
       │   反射反応
気づき経験─気づきの記憶↑
 ↑   (非宣言的な │
 │    短期記憶) │
アウェアネスに必要な  │
0.5秒間の活動持続時間  │
 ↑          │
 │          │
 │ 非条件刺激(US)例:まばたき反応が生じる空気の圧力
条件刺激(CS) 例:信号音
 USの直前、または同時。

(b)痕跡条件付け
 (b1)両側の海馬に損傷のある動物や、海馬の構成に損傷のある健忘症患者では、この痕跡条件付けが得られない。すなわち、時間的に離れた二つの刺激の関係を学習するには、海馬を介した記憶が必要である。
 (b2)刺激に気づいているときに限って、痕跡条件付けが得られる。人間以外の動物に対しても、この痕跡条件付けを用いると、気づきの経験を研究することができる。

      CS-US関係が学習される
       ↑    ↑
       │   反射反応
       │    ↑
       │   非条件刺激(US)
       │
気づき経験─気づきの記憶
 ↑   (この記憶には、海馬が必要)
 │
アウェアネスに必要な
0.5秒間の活動持続時間
 ↑
条件刺激(CS) 例:信号音
 USの始動する約500~1000ms前には終わる

(出典:wikipedia
ラリー・スクワイア(1941-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
ラリー・スクワイア(1941-)
検索(ラリー・R. スクワイア)
検索(Larry R. Squire)
 「クラークとスクワイア(1988年)は、古典的条件付けにおけるアウェアネスの興味深い役割を発見しました。古典的条件付けでは、US(非条件刺激)の直前、またはその間に条件刺激(CS)が与えられます。CSには、条件付けの手続き前には反応を生み出さない信号音を、USにはまばたき反応が生じる空気の圧力を使うことができます。この組み合わせを何回か提示したのちには、被験者(人間または実験用動物)はやがて信号音《のみ》に対してもまばたき反応をするようになりました。このことから当然、CS-US関係においても記憶プロセスが必要となります。
 この、いわゆる《単純遅延条件付け》は、両側の海馬に損傷のある動物にでさえ起こります。一方、《痕跡条件付け》では、USの始動する約500~1000ミリ秒前にCSが終わるように設定されています。両側の海馬に損傷のある動物では、この痕跡条件付けが得られません。海馬の構成に損傷のある健忘症患者も、標準的な(単純)遅延条件付けを学習することができます。しかし、動物実験同様、痕跡条件付けを学習し、遂行することはできませんでした。もちろん、健常な人間の被験者も、刺激に気づいているときに限って痕跡条件付けが得られました。つまり、痕跡条件付けは海馬構造に依存しているだけではなく、アウェアネスにも何らかの形で関係していることになります。
 さて、こうした発見は、ある事象のアウェアネスを引き出すために必要となるおよそ0.5秒間持続した脳の活動という条件が、宣言記憶を基に成り立っていることを必ずしも証明していません。クラークとスクワイア(1988年)は以下のように提言しています。

 『[a] 海馬システムと新皮質の共同作業は、得たばかりの(宣言)知識についてのアウェアネスを与える重要な要素となり得ます。……しかしこれは、アウェアネス《そのもの》が、海馬の記憶機能を必要とするということを意味しているわけではありません。実際、両側の海馬システムを喪失している患者で宣言的知識がないのにアウェアネスが存在していることから、宣言記憶の形成はアウェアネスそのものを生み出す独自のプロセスからは独立した過程である、という考えを立証できます。痕跡条件付けには、被験者が刺激間の時間関係に《気づいていること》が必要であるという発見から、なぜ痕跡条件付けが宣言的で海馬に依存しているかを説明できます。また、すべての学習パラダイムの中でも最もよく研究されている古典的条件付けを、現在解明されている脳の記憶システムの中で統一的に理解することができます。』

 この発見の重要な意味合いというのは、痕跡条件付けは人間以外の動物のアウェアネスを研究できる手法を提供できることです。単純遅延条件付けは非宣言的です。すなわち、これを形成するには海馬またはアウェアネスは必要ではありません。このことは、短期宣言記憶を喪失している健忘症の患者において(もこの条件付けが見られることから)わかります。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.73-74,下條信輔(訳))
(索引:単純遅延条件付け,痕跡条件付け)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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2018年8月27日月曜日

両方の海馬構造が損傷している患者は、顕在記憶を失っているが、意識経験があることは、自覚ある想起の証拠を必要としない心理認知テストで確認できる。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

海馬を損傷した患者の意識経験

【両方の海馬構造が損傷している患者は、顕在記憶を失っているが、意識経験があることは、自覚ある想起の証拠を必要としない心理認知テストで確認できる。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】

(3)両方の海馬構造が損傷した患者の事例
 (3.1)今起こったばかりの出来事について、実際想起できるアウェアネスがまったく無い。
 (3.2)しかしながら、今現在と、自身について自覚する能力を維持している。起こったばかりのことを覚えられない自分の能力の欠陥についても自覚しており、これが生活の質に深刻な損害を与えている、と苦痛さえ訴える。また、潜在的なスキルの学習能力もある。
 (3.3)顕在記憶とは関係なく意識経験が発生するとしても、意識に必要な最低0.5秒間持続する活動についての、短期記憶がなければ意識経験は発生しないのではないか。「どのような短命の記憶であっても、依然としてそれはアウェアネスが生じる潜在的な基盤となる」。実際、両方の海馬を損傷した患者でも「1分程度だったら、この患者はものを覚えている」。

          記憶の想起と内観報告に代えて、
          自覚ある想起の証拠を必要としない
          心理認知テスト
            ↑
意識的な皮膚感覚──この感覚の短期記憶があるはず
 ↑
アウェアネスに必要な0.5秒間の活動持続時間
 ↑(これが、顕在記憶そのものではあり得ない。)
 │
単発の有効な皮膚への刺激パルス

 「両方の海馬を喪失していても、ある事象の後、最低でも0.5秒間存続する宣言記憶が形成されるのかということについては、まだ疑問があります。どのような短命の記憶であっても、依然としてそれはアウェアネスが生じる潜在的な基盤となるからです。先ほど述べた患者を研究した研究者であるロバート・ドーティは、「1分程度だったら、この患者はものを覚えている」と自信を持って言います。その一方、同様の患者に対しては通常、自覚ある想起の証拠を必要としない心理認知テストが使われます(たとえば、ドラックマンとアービット(1966年))。したがって、実際に観察される短期記憶は、ある非宣言的な潜在記憶の証拠に実質的になり得るのです。だとすれば、(短期記憶はたとえ患者で観察されたとしても)意識経験の遅延に記憶が果たす役割、という疑問とは関係がなくなります。〔訳注=このあたり、著者の論旨がわかりにくいかもしれない。海馬損傷による記憶障害の患者は、健常な潜在記憶を持ち、また日常生活でのアウェアネスにも異常がない。したがって患者の潜在記憶がアウェアネスを支えている、という議論が成立しそうに思えるかもしれない。しかし、アウェアネスに関係するのは(定義上)顕在記憶のほうだから、こうした記憶障害のケースを根拠に、0.5秒以上の神経活動というアウェアネスの必要条件が「意識経験は記憶に依存する」ことの反映にすぎないと結論はできない、と著者は言っている。〕いずれにせよ、記憶プロセス分野の指導的研究者であるラリー・スクワイアは、意識経験は記憶形成プロセスとは無関係である(私信)、という意見を主張しています。すると、新たな顕在記憶を形成する能力を深刻に損なった人がアウェアネスを保持できるということは、アウェアネスの現象は記憶プロセスの機能では《ない》ことを示していると思われます。この基本的な考え方は、アウェアネスは記憶形成に関係があるとしているすべての仮説と矛盾することになります。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.72-73,下條信輔(訳))
(索引:海馬を損傷した患者の意識経験)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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