信号の無意識の検出
【信号の無意識の検出を示す諸事例:(a)閾値に達しない弱い刺激に対する強制的選択による反応、(b)皮膚に与えられた振動性パルスの周波数の弁別、(c)盲視の患者の事例。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】(a)意識的な感覚経験に基づく反応
意識的な感覚経験────┐
↑ │
│ │
事象関連電位(ERP) │
↑500ms以上の持続時間│
│ │
後続する脳活動────┐│
↑信号の無意識の検出││
│ ││
初期誘発電位 ││
↑14~50ms後。 ││
│ ↓↓
閾値に近い刺激 反応
(b)刺激を意識できないレベルまで下げると、ERPは突然消失する。この実験の場合、被験者は意識経験の有無にかかわらず、強制的選択により、反応するように指示される。
結果:被験者は限りなくゼロに近い低刺激信号に対しても、「偶然のレベルよりも高い確率で反応」する。この場合信号の無意識の検出においては、閾値レベルのようなものは事実上存在せず、「反応の正確さは、ゼロから始まる刺激の強さと正確さとを関係づけたカーブに沿ってなめらかに増加」する。
事象関連電位(ERP)
↑消失
│
後続する脳活動────┐
↑信号の無意識の検出│
│ │
初期誘発電位 │
↑14~50ms後。 │
│ ↓
閾値以下の刺激 反応
(c)信号の無意識の検出を示す他の事例。
(c1)皮膚からの感覚入力については、一本の感覚神経線維にある、単発の神経パルスを検出するらしい。
(c2)皮膚に与えられた振動性パルスの周波数の弁別。
・個々の反復する振動性パルスの間の時間間隔が、500msよりはるかに短い。
・この刺激が、意識に登る前の段階で検出されている。
・その後、周波数の違いを弁別するアウェアネスは、後から生ずる。
(c3)盲視の患者の事例
・視覚野に損傷があるため、視野のある部分で意識を伴う視力を失った患者が、見えない領域にある対象を想像でもよいので指し示すように指示された場合、被験者は卓越した正確さで実行していながら、対象が見えていなかったと報告した。
「(9) 信号の無意識の検出は、意識を伴う信号へのアウェアネスとは明確に区別しなければなりません。この区別は、タイム-オン理論の検証として以前説明した実験の結果によって直接的に提示されています。しかし、その区別はしばしば見落とされ、意識経験の性質について、混乱して誤った結論を導くことがあります。信号検出理論に基づく研究によると、限りなくゼロに近い低刺激信号に対して、被験者は正確に、つまり、偶然のレベルよりも高い確率で反応します。このことから、(意識を伴う)感覚知覚を引き出すための、閾値レベルのようなものは事実上存在しないという結論に至りました。反応の正確さは、ゼロから始まる刺激の強さと正確さとを関係づけたカーブに沿ってなめらかに増加します。その結論は、アウェアネスのない感覚入力の《無意識の検出》という、私たちの結論と正確に一致します。[訳注=「閾値レベルのようなものは存在しない」という言い方は、「0.5秒間の精神活動の持続がアウェアネスに必要」「アウェアネスはオール・オア・ナッシング」という著者の主張と矛盾するように聞こえるかもしれない。それに対する答えは、数行あとで出てくる(すなわち、被験者への質問の仕方で異なる結果が得られる)。]信号検出についての研究(グリーンとスウェッツ(1966年))や多くの心理物理的問題において、被験者は強制選択の反応をするように指示されています。強制選択においては、刺激についての質問に対して、被験者は「はい」または「いいえ」のとちらかで答えるように指示を受けています。被験者は、刺激に気づいているかについては答えを求められていません。この二つの異なる質問から、驚くほど異なる結果を導くことができるのです。
厳密に言うと強制選択の質問によって、無意識であろうと、アウェアネスを伴おうと、どちらの場合でも、信号の《検出》を調べることになります。このことを示す二組の興味深い例があります。まず、ヴァルボ他(1984年)の発見によると、皮膚からの感覚入力については、可能な限りの絶対最小値のメッセージをおそらく知覚することができるのです。その最小値は、一本の感覚神経線維にある、単発の神経パルスです。しかし、強制選択反応は、感覚メッセージがいくらかでも届いたかを被験者が「はい」または「いいえ」で選ぶものです。ヴァルボ自身は、これは感覚アウェアネスを反映したものではないことに、同意しています。そしておそらくこれは無意識の《感覚検出》の場合にあてはまるとしています(私信)。しかし、多くの神経科学者たちは誤って、彼の発見を、《意識を伴う》感覚知覚の無限の可能性を示すものとみなしていました。
人間の被験者は、皮膚への異なる周波数の二つの振動性の刺激を弁別することができます。個々の反復する振動性のパルスの間の時間間隔が、私たちが発見した、感覚事象の閾値のアウェアネスの必要条件である500ミリ秒間という時間間隔よりずっと少なかったとしても、このことは起こり得ます。このように、パルスとパルスの間の時間間隔がとても短い場合でも人間は振動の違いが判別できることから、アウェアネスについての私たちの長年にわたる証拠が正しいはずはない、とある人々によって論議されてきました。しかし、異なる周波数での振動パルスの間の短時間の感覚を弁別する能力は、こうした違いの検出が(意識抜きで)できることを示しているにすぎません。私たちの意見では、こうした弁別のアウェアネスは後から生じます。つまり、私が問うているのは、被験者がパルスとパルスの間隔がどれぐらい短くても検出できるかではなく、《いつ》被験者が弁別に気づくのかということです。
ローレンス・ワイスクランツ(1986年)による盲視の報告は、無意識の検出と意識的なアウェアネスのみごとな例を提供しています。視覚野に損傷があるため、視野のある部分で意識を伴う視力を失った患者を観察しました。見えない領域にある対象を想像でもよいので指し示すように指示された場合、被験者は卓越した正確さで実行していながら、対象が見えていなかったと報告しました。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第3章 無意識的/意識的な精神機能,岩波書店(2005),pp.135-137,下條信輔(訳))
(索引:無意識の信号検出)
(出典:wikipedia)
「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)
ベンジャミン・リベット(1916-2007)
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