政治腐敗の8原因
【政治腐敗の8原因:(1)夫人・愛妾・愛人、(2)権力にすり寄る俳優・道化者、近習、(3)権力者の親戚筋、爵位や俸禄に誘惑された重臣・内官、(4)重税、欲望・浪費の権力者(5)財貨のばらまきによる民衆の機嫌取り、(6)誰かの私益のために巧妙に飾りたてた言葉で嘘をたれ流す雄弁家、(7)恐怖で私欲を遂げるテロリスト、(8)外国の威勢を利用し、権力に影響を及ぼし国益を害する者。(韓非(B.C.280頃-B.C.233))】
(1) 夫人・愛妾・お気に入りの美女に黄金宝玉を贈りとどけて、主君の心を惑わすようにさせる。
(2) 君主のお側近くにいるもの、俳優や侏儒のような滑稽な道化者、君主の身のまわりの近習に、秘かに黄金宝玉や愛玩物を贈りとどけ、また、外では彼らのために不法なこともしてやって、主君の心が変わるようにさせる。彼らは、主君の意向を先取りしてその意図をうけつぎ、主君の容貌からその心を予測する。
(3) 君主の親戚、兄弟など君主が親愛する人々に歌舞や美女を贈りとどけ、また、君主がともに事を画策する重臣や宮廷の内官には甘い言葉で取り入り、爵位や俸禄を重くして彼らの心をはげまし、君主に約束どおりのことを進言させる。
(4) 人民からは重税を取り立てて労力を使い果たし、政治とは関係のない主君の壮麗な宮殿や庭園造りなどにお金を使い、主君を喜ばせてその心を乱し、主君の欲望を広げさせて、一方で私利をはかる。
(5) 公けの財貨をばらまいて人民たちを悦ばせ、私恩を施して民衆をなつける。それによって主君と民衆の間を閉じてしまって、自分の望みをとげる。
(6) 諸国の雄弁家を探したり、国内のうまい話し手を養ったりして、彼らにおのれの利益になることを話させ、巧妙に飾りたてた言葉や流暢な弁舌を振るわせて、利のある形勢を見せ、害になる心配ごとで脅しつけ、嘘っぱちを並べたててその主君をだめにしてしまう。
(7) 刀剣を帯びた侠客を集め、命知らずの武士を養って、おのれの威勢を輝かせ、自分のために働く者は必ず利益があり、自分のために働かない者は必ず殺されるということを世間に知らせ、それによって群臣や万民を恐れさせて、自分の私欲を遂げてゆく。
(8) 重税を取り立てながら国力を使い果たし、大国に貢いでお仕えし、その大国の威勢を利用して主君を思いどおりにあやつろうと望む。大国の使者をたびたび引き入れて、その主君に脅しをかける。
「すべて、人臣が君主に対して悪事をはたらく手段としては、八つの方法がある。第一は同床、〔すなわち君主と添い寝をするものを利用することである。〕何を同床というのか。身分の高い夫人・愛妾・お気にいりの美女のことであって、これは君主が心を惑わされるものである。くつろいだ寝室の楽しみにことよせ、飲み食いに満ちたりたときにつけこんで、自分の欲しいものをねだるのは、これは必ず聞きいれられる方法である。そこで人臣たる者、ひそかにこれらの人に黄金宝玉を贈りとどけて、主君の心を惑わすようにさせる、これが同床というものである。第二は在傍、〔すなわち君主のお側近くにいるものを利用することである。〕何を在傍というのか。俳優や侏儒のような滑稽な道化者、君主の身のまわりの近習のことであって、彼らは主君が命令も出さないうちから「はい、はい」と答え、使役もしていないうちから「へい、へい」と従い、主君の意向を先取りしてその意図をうけつぎ、主君の容貌を見てとってその心を予測するものである。彼らはみな歩調をあわせて進退し、口をあわせて応答し、言葉づかいを一つにし、行動の規準を同じにして、それによって主君の心を動かすものである。そこで人臣たる者、ひそかにこれらの人に黄金宝玉や愛玩物を贈りとどけ、外では彼らのために不法なこともしてやって、主君の心が変わるようにさせる、これが在傍というものである。
第三は父兄、〔すなわち君主のおじたちや兄弟すじを利用することである。〕何を父兄というのか。傍系のおじや公子たちのことであって、君主が親愛する人々である。また重臣や宮廷の内官のことであって、君主がともに事を画策する人々である。彼らがみな極力議論を尽くしたなら、君主は必ずそれを聞きいれるものである。そこで人臣たるもの、公子やおじたちに歌舞や美女を贈りとどけ、重臣や内官に甘いことばでとりいり、約束どおり君主に進言させて、それが成功すると爵位や俸禄を重くして彼らの心をはげまし、主君の地位を侵害させる、これが父兄というものである。第四は養殃、〔すなわち君主の災いを助長することである。〕何を養殃というのか。君主が宮殿や庭園を壮麗に造ることを楽しみ、美女や犬馬を美しく飾りたてることを好んで、それによって自分の心の喜びとするのは、これは君主にとっての災いである。そこで人臣たる者、人民の労力を使いはたして主君の宮殿や庭園をりっぱに造りあげ、重税をとりたてて美女や犬馬を美しく飾りたて、それによって主君を喜ばせてその心を乱し、主君の欲望をひろげさせて、その間で私利をはかる、これが養殃――災いを養う――というものである。第五は民萌、〔すなわち民衆の機嫌とりをすることである。〕何を民萌というのか。人臣たる者が公けの財貨をばらまいて人民たちを悦ばせ、いささかの私恩を施して民衆をなつけ、朝廷から町なかまですべての人々に自分をほめあげさせて、それによって主君と民衆の間を閉じてしまって、自分の望みをとげる、これが民萌というものである。
第六は流行、〔すなわち流れるような弁舌を利用することである。〕何を流行というのか。君主というものは、もともと臣下との自由な談話をとめられていて、人の議論を聞く機会も少ないから、弁舌によって動かされやすいものである。そこで人臣たる者は、諸国の雄弁家をさがしたり、国内のうまい話し手を養ったりして、彼らにおのれの利益になることを話させ、巧妙に飾りたてた言葉や流暢な弁舌を振るわせて、利のある形勢を見せ、害になる心配ごとで脅しつけ、嘘っぱちを並べたててその主君をだめにしてしまう。これが流行というものである。第七は威強、〔すなわち威勢の力を利用することである。〕何を威強というのか。人君というものは、群臣や万民に頼って威勢の力を立てるものである。群臣や万民が善いとすることは君主も善いとし、群臣や万民が善いとすることでなければ、君主も善いとはしない。そこで人臣たる者は、刀剣を帯びた侠客を集め、命知らずの武士を養って、おのれの威勢を輝かせ、自分のために働く者は必ず利益があり、自分のために働かない者は必ず殺されるということを世間に知らせ、それによって群臣や万民を恐れさせて、自分の私欲を遂げてゆく。これが威強というものである。第八は四方、〔すなわち外国の力を利用することである。〕何を四方というのか。人君というものは、この国が小さければ大国に仕え、軍隊が弱ければ強い軍隊を恐れるもので、大国が要求することは小国では必ず聞き従い、強い軍隊の圧迫には弱い軍隊は必ず屈服する。そこで人臣たる者、重税をとりたてながら、お上の倉をからにし、国力を使いはたして大国に貢いでお仕えし、その大国の威勢を利用して主君を思いどおりにあやつろうと望む。はなはだしい場合は、自分で軍を起こして辺境に集め、それによって国内を制覇するが、それほどでない場合でも、大国の使者をたびたびひき入れて、その主君におどしをかけ、ふるえあがらせる。これが四方というものである。
すべて以上の八つのことは、人臣が君主に対して悪事をはたらく手段であり、世の君主が情報を閉ざされ脅迫されて、その所有物を失うに至る理由である。よくよく考えなければならないことだ。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』八姦 第九、(第1冊)pp.144-147,149-150、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(索引:政治腐敗の8原因)
(原文:9.八姦
<韓非子
<法家
<先秦兩漢
<中國哲學書電子化計劃
)
(出典:
twwiki)
「国を安泰にする方策として七つのことがあり、国を危険にするやり方として六つのことがある。
安泰にする方策。第一は、賞罰は必ず事の
是非に従って行うこと、第二は、禍福は必ず事の
善悪に従ってくだすこと、第三は、殺すも生かすも
法のきまりどおりに行うこと、第四は、優秀か否かの判別はするが、
愛憎による差別はしないこと、第五は、愚か者と知恵者との判別はするが、
謗ったり誉めたりはしないこと、第六は、客観的な規準で事を考え、
かってな推量はしないこと、第七は、信義が行われて、
だましあいのないこと、以上である。
危険にするやり方。第一は、規則があるのにそのなかで
かってな裁量をすること、第二は、法規をはみ出してその外で
かってな裁断をくだすこと、第三は、
人が受けた損害を自分の利益とすること、第四は、
人が受けた禍いを自分の楽しみとすること、第五は、
人が安楽にしているのを怯かして危うくすること、第六は、
愛すべき者に親しまず、憎むべき者を遠ざけないこと、以上である。こんなことをしていると、人々には人生の楽しさがわからなくなり、死ぬことがなぜいやなのかもわからなくなってしまう。人々が人生を楽しいと思わなくなれば、君主は尊重されないし、死ぬことをいやがらなくなれば、お上の命令は行われない。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』安危 第二十五、(第2冊)pp.184-185、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(原文:
25.安危
<
韓非子
<
法家
<
先秦兩漢
<
中國哲學書電子化計劃
)
韓非(B.C.280頃-B.C.233)
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