共形サイクリック宇宙論
【仮説:この宇宙は、今の宇宙のビッグバンの前に「前の宇宙相」の未来の果てが存在し、この宇宙のはるか未来の時空の「向こう側」に「次の宇宙相」のビッグバンが存在するような、無限に連なる構造なのではないか。(ロジャー・ペンローズ(1931-))】(4)追加記載。
(1)ビッグバン直後の宇宙の状態
ビッグバンの直後は極めて高温で、すべての粒子が事実上、光子のように質量がゼロと考えてもいいような時空構造であったと考えられる。この構造では、局所的なスケール変化の影響を受けない。(ロジャー・ペンローズ(1931-))
ビッグバンの直後、恐らくビッグバンの瞬間から10-12秒後あたりまで遡ると、温度は約1016Kを超えていて、物理学はスケール因子Ωをまったく気にしないものになり、共形幾何学が、その物理過程に適した時空構造になると考えられる。そのため、当時の物理的活動のすべては、局所的なスケール変化の影響を受けなかったと考えられる。
(2)はるか未来の宇宙の状態
指数関数的な膨張が続く宇宙の未来は、宇宙マイクロ波背景放射とホーキング放射による光子、重力子、そして恐らく大量の「ダークマター」から構成され、局所的なスケール変化の影響を受けない構造となる。(ロジャー・ペンローズ(1931-))
正の宇宙定数Λをもつ宇宙モデルによれば、われわれの宇宙は最終的には指数関数的な膨張に落ち着くはずだ。それは、なめらかで空間的な未来の共形境界I+をもつだろう。その構成は、
(a)非常に強く赤方遷移した星の光、宇宙マイクロ波背景放射
(b)無数の巨大ブラックホールの質量エネルギーのほとんどすべてを、非常に低エネルギーの光子の形で運び去ってしまうホーキング放射
(参照: ブラックホールは非常に小さな温度を持つ。宇宙の指数関数的な膨張が続くと、やがて宇宙の温度があらゆるブラックホールの温度より低くなる。ブラックホールはエネルギーを放射するようになり、最後は消滅する。(ロジャー・ペンローズ(1931-)))
(c)重力子(グラビトン)
(d)おそらく大量の「ダークマター」
(3)ビッグバン直後の宇宙の状態と、はるか未来の宇宙の状態に共通する性質
宇宙の始めと遥か未来の状態の共通点:(1)質量のない粒子のみ存在する、(2)粒子にとって時間経過が無限に遅くなる、(3)局所的なスケール変化の影響を受けない、(4)始めと無限の未来の「向こう側」への時空の拡張可能性。(ロジャー・ペンローズ(1931-))
(3.1)宇宙には、質量のない粒子しか存在しなくなる。
(3.2)時間の経過が意味を持つためには、静止質量をもつ粒子が必要である。質量のない粒子にとっては、時間の経過が無限に遅くなる。すなわち、質量のない粒子は、その内なる時計が最初の時を刻む前に、宇宙においては永遠の時間が経過する。「永遠なんて、たいしたことじゃない」のである!
(3.3)質量ゼロの粒子は、時空の計量がどのようなものであるかにあまり関心がなく、局所的なスケール変化の影響を受けない構造となる。
(3.4)理論的には、ビッグバン超曲面をビッグバンの前、「向こう側」までなめらかに拡張することを許容しているように思われる。また、正の宇宙定数Λがあるときには、はるか未来の宇宙の時空を、無限の「向こう側」の未来方向に拡張できることが、数学的に強く支持されている。
(4)宇宙の構造についての、一つの可能性。
(4.1)はるか未来の宇宙の時空を、無限の「向こう側」の未来方向に拡張した先に、「この」宇宙のビッグバン超曲面が「ぐるりと輪になって」存在しているのではないだろうか。しかし、このような時空には閉じた時間的曲線があるため、因果関係にパラドックスが生じるために、これは除外される。
(4.2)はるか未来の宇宙の時空を、無限の「向こう側」の未来方向に拡張した先が、「次の宇宙相」の〈ビッグバン〉につながり、この宇宙のビッグバン超曲面をビッグバンの前の「向こう側」までなめらかに拡張したところには、「前の宇宙相」の未来の果てが存在しているのではないだろうか。そして、恐らく宇宙全体は、このようなビッグバンから指数関数的な果てしない膨張までのサイクルが、無限個連続した時空として存在しているのではないだろうか。
「この点で、一つの可能性が立ち現われてくる。I+とB-が同じ一つのものである可能性はないのだろうか? ひょっとすると、われわれの宇宙は、共形多様体として単純に「ぐるりと輪になって」いるのではないだろうか? I+の先にはまたビッグバンから始まるわれわれの宇宙があって、トッドの提案にしたがい、共形的に引き延ばされてB-となるのではないだろうか? このアイディアの魅力は、その経済性にある。けれども私は個人的に、この提案には一貫性の点で深刻な問題があるため成り立たないと考えている。基本的に、そのような時空には閉じた時間的曲線があるため、因果関係にパラドックスが生じたり、少なくとも、行動に不愉快な制約を課したりするからだ。こうしたパラドックスや制約は、一貫性のある情報がI+/B-超曲面を横切れるかどうかにかかっている。第18章では、私がここで提案するような体系のなかで、このようなことが現実になる可能性があり、また、閉じた時間的曲線が本当に深刻な矛盾を引き起こすおそれがあることを見ていく。このような理由から、私はI+とB-が同じ一つのものであるとは考えない。」
(ロジャー・ペンローズ(1931-),『時間のサイクル』(日本語名『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』),第3部 共形サイクリック宇宙論,第13章 無限とつながる,新潮社(2014),p.173,竹内薫(訳))
(索引:)
「だから私は次善の策を提案したい。B-の前には「前の宇宙相」の未来の果てにあたる物理的にリアルな時空領域があり、I+の先にも物理的にリアルな時空領域があって、「次の宇宙相」の〈ビッグバン〉が起こると考えるのだ。この提案に合わせて、われわれのB-から始まりI+まで続く宇宙相を「現イーオン〔訳注=aeonとは、はかり知れないほど長い年月のことである〕と呼び、宇宙全体は(おそらく無限に)連続するイーオンからなる、拡張された共形多様体として理解できると考えよう。図3-3を参照されたい。各イーオンの「I+」を次のイーオンの「B-」と同一視することで、前のイーオンと次のイーオンとの連続性が確保され、両者の結合は共形時空構造として完全になめらかなものとなる。
読者諸氏は、未来の果てと〈ビッグバン〉の爆発を同一視することを不安に思われるかもしれない。未来の果てでは、放射の温度が下がってゼロとなり、膨張により宇宙の密度もゼロになるのに対して、〈ビッグバン〉では、放射の温度も密度も無限大であるからだ。けれども、〈ビッグバン〉での共形的な「引き伸ばし」は、無限大の密度と温度を有限の値まで引き下げ、無限遠の未来での共形的な「押しつぶし」は、ゼロだった密度と温度を有限の値まで引き上げる。これらは両者を一致させるための再スケーリングにすぎず、引き伸ばしも押しつぶしも、両側の物理学に対してなんの影響も及ぼさない。もう一つ言っておくべきことがある。クロスオーバー〔訳注=イーオンとイーオンが重なる部分〕の両側の物理的活動がとりうるすべての状態を記述する位相空間Pは(第3章参照)、共形不変な体積をもつ。その基本的な理由は、距離が減少するときには対応する運動量が増加し、距離が増加するときには対応する運動量が減少して、距離と運動量の積が再スケーリングによって完全に不変になっているからだ。この事実は、第16章で決定的に重要になる。私は、この宇宙論の体系を共形サイクリック宇宙論(conformal cyclic cosmology、CCC)と呼んでいる。」
(ロジャー・ペンローズ(1931-),『時間のサイクル』(日本語名『宇宙の始まりと終わりはなぜ同じなのか』),第3部 共形サイクリック宇宙論,第13章 無限とつながる,新潮社(2014),pp.173-174,竹内薫(訳))
(索引:共形サイクリック宇宙論)
(出典:wikipedia)
「さらには、こうしたことがらを人間が理解する可能性があるというそのこと自体が、意識がわれわれにもたらしてくれる能力について何らかのことを語っているのだ。」(中略)「「自然」の働きとの一体性は、潜在的にはわれわれすべての中に存在しており、いかなるレヴェルにおいてであれ、われわれが意識的に理解し感じるという能力を発動するとき、その姿を現すのである。意識を備えたわれわれの脳は、いずれも、精緻な物理的構成要素で織り上げられたものであり、数学に支えられたこの宇宙の深淵な組織をわれわれが利用するのを可能ならしめている――だからこそ、われわれは、プラトン的な「理解」という能力を介して、この宇宙がさまざまなレヴェルでどのように振る舞っているかを直接知ることができるのだ。
これらは重大な問題であり、われわれはまだその説明からはほど遠いところにいる。これらの世界《すべて》を相互に結びつける性質の役割が明らかにならないかぎり明白な答えは現れてこないだろう、と私は主張する。これらの問題は互いに切り離し、個々に解決することはできないだろう。私は、三つの世界とそれらを互いに関連づけるミステリーを言ってきた。だが、三つの世界ではなく、《一つの》世界であることに疑いはない。その真の性質を現在のわれわれは垣間見ることさえできないのである。」
プラトン的
/世界\
/ \
3 1
/ \
心的───2────物理的
世界 世界
(ロジャー・ペンローズ(1931-),『心の影』,第2部 心を理解するのにどんな新しい物理学が必要なのか,8 含意は?,8.7 三つの世界と三つのミステリー,みすず書房(2001),(2),pp.235-236,林一(訳))
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