2018年8月14日火曜日

(事例)数字の共感覚は、視覚的外形によって引き起こされる。ローマ数字では、色は誘発されない。白黒の人参は、何色としても想起できるが「7の場合はそれが無理なんです。7が私に向って赤だと叫びつづけるので。」(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))

共感覚

【(事例)数字の共感覚は、視覚的外形によって引き起こされる。ローマ数字では、色は誘発されない。白黒の人参は、何色としても想起できるが「7の場合はそれが無理なんです。7が私に向って赤だと叫びつづけるので。」(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))】

 「私たちが医学生にまず教えることの一つに、患者の話によく耳を傾け、綿密に病歴をとるということがある。細心の注意を払い、それから、勘があたっていることを確認するため(そして保険請求の額を多くするため)に、身体の検診や高度なラボ検査をおこなうと、9割がたは薄気味悪いほど正確な診断に到達できる。私は、それが患者だけでなく共感覚者にもあてはまるかもしれないと思いはじめた。
 そこでスーザンに簡単なテストと質問をすることにした。たとえば、色を誘発するのは数字の視覚的外形なのだろうか? それとも数の概念――順序性や量の概念――なのだろうか? もし後者であれば、ローマ数字でも色は誘発されるだろうか? それともアラビア数字だけにかぎられるのだろうか? (アラビア数字は、紀元前にインドで発明され、それからアラビアを経由してヨーロッパに伝わったものなので、ほんとうはインド数字と呼ぶべきであるが)。
 私はメモ用紙に大きくVIIと書いて彼女に見せた。
 「どんなふうに見えますか?」
 「七だということはわかりますが、黒に見えます――赤はまったく見えません。いつもそうなんです。ローマ数字ではだめなんです。あ、先生。これは、記憶ではないという証明にはなりませんか? 私はこの字が七だと知っているのに、赤が生じないんですよ!」
 エドと私は、自分たちが相手にしているのが頭脳明晰な学生であることを知った。どうやら共感覚は本物の感覚現象であり、数字の視覚的外形によって引き起こされる(数の概念によって引き起こされるのではない)らしかった。しかしまだ立証というにはほど遠い。彼女が幼稚園の頃に、冷蔵庫の扉にとめてあった赤い7のマグネットをくり返し見たことが原因で起きているのではないと、絶対的な確信をもって言うことはできるだろうか? 記憶によって特定の色と強く結びついていることの多い果物や野菜の白黒写真を見せたらどうなるだろうかと私は考えた。そこで人参、トマト、かぼちゃ、バナナの絵を描いて彼女に見せてみた。
 「どんなふうに見えますか?」
 「えーっと、色はまったく見えません――そのことを聞いていらっしゃるのでしたら。人参はオレンジ色だと知っているし、この人参をオレンジ色として想像するというか、オレンジ色として視覚的に思い描くこともできます。でも、さっき数字の7を見て赤が見えたのと同じように、実際にオレンジ色が見えるかというと、それはないです。説明するのがむずかしいのですが、こんな感じです。白黒の人参を見ているときは、それがオレンジ色だと知っているけれど、その気になればどんな変な色にでも視覚化できます。青い人参とか。7の場合はそれが無理なんです。7が私に向って赤だと叫びつづけるので。こういう言いかたでわかりますか?」」
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,第3章 うるさい色とホットな娘――共感覚,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.123-124,山下篤子(訳))
(索引:共感覚)

脳のなかの天使



(出典:wikipedia
ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「バナナに手をのばすことならどんな類人猿にもできるが、星に手をのばすことができるのは人間だけだ。類人猿は森のなかで生き、競いあい、繁殖し、死ぬ――それで終わりだ。人間は文字を書き、研究し、創造し、探究する。遺伝子を接合し、原子を分裂させ、ロケットを打ち上げる。空を仰いでビッグバンの中心を見つめ、円周率の数字を深く掘り下げる。なかでも並はずれているのは、おそらく、その目を内側に向けて、ほかに類のない驚異的なみずからの脳のパズルをつなぎあわせ、その謎を解明しようとすることだ。まったく頭がくらくらする。いったいどうして、手のひらにのるくらいの大きさしかない、重さ3ポンドのゼリーのような物体が、天使を想像し、無限の意味を熟考し、宇宙におけるみずからの位置を問うことまでできるのだろうか? とりわけ畏怖の念を誘うのは、その脳がどれもみな(あなたの脳もふくめて)、何十億年も前にはるか遠くにあった無数の星の中心部でつくりだされた原子からできているという事実だ。何光年という距離を何十億年も漂ったそれらの粒子が、重力と偶然によっていまここに集まり、複雑な集合体――あなたの脳――を形成している。その脳は、それを誕生させた星々について思いを巡らせることができるだけでなく、みずからが考える能力について考え、不思議さに驚嘆する自らの能力に驚嘆することもできる。人間の登場とともに、宇宙はにわかに、それ自身を意識するようになったと言われている。これはまさに最大の謎である。」
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,はじめに――ただの類人猿ではない,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.23-23,山下篤子(訳))

ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-)
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