2019年8月3日土曜日

37.一般の行動規則から道徳的な原則を区別する4つの特徴がある。まず(a)重要性。(a.1)要求される個人的利益の犠牲の程度、(a.2)社会的圧力の大きさの程度、(a.3)基準が遵守されない場合の影響力の程度。(ハーバート・ハート(1907-1992))

道徳的な原則の特徴:重要性

【一般の行動規則から道徳的な原則を区別する4つの特徴がある。まず(a)重要性。(a.1)要求される個人的利益の犠牲の程度、(a.2)社会的圧力の大きさの程度、(a.3)基準が遵守されない場合の影響力の程度。(ハーバート・ハート(1907-1992))】

(a.1)~(a.3)追記。

一般の行動規則、道徳的な原則、正義の原則の違い。
(1)一般の行動規則:個人の行動に関する一定のルールや原則
(2)道徳的な原則:個人の行為を義務づける道徳に関する一定のルールや原則
 (2.1)在る法に対する批判のすべてが、正義の名においてなされるわけではない。道徳的な原則も、在る法を批判する根拠の一つである。
 (2.2)道徳的な原則は、次の4つの特徴を持つ。
  (a)重要性
   (a.1)要求される個人的利益の犠牲の程度
    大きい:強力な感情の発現を禁じるために、かなりの個人的利益の犠牲が要求される。
    小さい:あまり大きな犠牲が要求されない。
   (a.2)社会的圧力の大きさの程度
    大きい:個々の場合に基準を遵守させるためだけでなく、社会の全ての者に教育し教え込むための社会的圧力の色々な形態が用いられる。
    小さい:大きな圧力は加えられない。
   (a.3)基準が遵守されない場合の影響力の程度
    大きい:個人の生活に、広範で不愉快な変化が生じるであろうと認識されている。
    小さい:社会生活の他の分野には何ら大きな変化が生じない。

  (b)意図的な変更を受けないこと
  (c)道徳的犯罪の自発的な性格
  (d)道徳的圧力の形態
(3)正義の原則:個人の行動にではなく、さまざまな部類の人々の取り扱い方に主としてかかわる道徳の一部である。法や、他の公的ないしは社会的制度を批判する根拠である。
(4)法:実際に在る法

 「(1)重要性 どのような道徳的ルールまたは基準であれ、その基本的特徴はそれぞれ何か維持されるべき非常に重要なものと見られているところにある、と言うのは、わかりきったことのようであると同時に曖昧である。しかし、この特徴はどのような社会集団または個人の道徳であれ、それを忠実に説明しようとする場合には決して省くことができないし、またそれ以上に詳しく表現することもできないものである。この特徴はいろいろな形であらわされる。まず第一に、道徳的基準はそれが禁じている強力な感情の発現を押さえるために、しかもかなりの個人的利益の犠牲において維持されるという単純な事実のなかに、第二に、個々の場合に道徳的基準を順守されるためにだけではなく、社会のすべての者に対してそれを当然のこととして教え込み、伝えるためにも用いられる社会的圧力の重要な諸形態のなかに、第三に、もし道徳的基準が一般に受けいれられないならば、個人の生活に広範で不愉快な変化が生じるであろうという一般的な認識のなかに、あらわされているのである。道徳にくらべて、行儀、作法、服装についてのルール、それにすべてではないとしても法のいくつかのルールは、大きな重要性という尺度では比較的低い位置を占めるものである。この種のルールは、それを守るのは面倒であろうが、大きな犠牲を要求するものではない。つまり、服従をえるために大きな圧力は何ら加えられないし、それらが順守されず改められなくても、社会生活の他の分野には何ら大きな変化が生じるものでもないであろう。このようにして道徳的ルールの維持が重要だとされることは、大部分納得のいく合理的な線で簡単に説明することができるであろう。というのは、たとえ道徳的ルールがその拘束を受ける個人の私的利益の犠牲を要求するとしても、それに服従することはすべての者が同様に共有している重大な利益を保障するからである。それは、明白な害悪から人々を直接保護することによって、または何とかがまんのできる秩序ある社会の組織を維持することによって、なされるのである。しかし、多くの社会道徳の合理性は、明白な害悪からの保護としてこのように弁護されるだろうが、このような単純な功利的アプローチがいつも可能であるとは限らないし、また可能である場合でも、それが道徳に従って生活している者の見解を代表しているものと受けとられるべきでもない。」
(ハーバート・ハート(1907-1992),『法の概念』,第8章 正義と道徳,第2節 道徳的および法的責務,pp.189-191,みすず書房(1976),矢崎光圀(監訳),川島慶雄(訳))
(索引:道徳的な原則の特徴,道徳的な原則の重要性)

法の概念


(出典:wikipedia
ハーバート・ハート(1907-1992)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「決定的に重要な問題は、新しい理論がベンサムがブラックストーンの理論について行なった次のような批判を回避できるかどうかです。つまりブラックストーンの理論は、裁判官が実定法の背後に実際にある法を発見するという誤った偽装の下で、彼自身の個人的、道徳的、ないし政治的見解に対してすでに「在る法」としての表面的客観性を付与することを可能にするフィクションである、という批判です。すべては、ここでは正当に扱うことができませんでしたが、ドゥオーキン教授が強力かつ緻密に行なっている主張、つまりハード・ケースが生じる時、潜在している法が何であるかについての、同じようにもっともらしくかつ同じように十分根拠のある複数の説明的仮説が出てくることはないであろうという主張に依拠しているのです。これはまだこれから検討されねばならない主張であると思います。
 では要約に移りましょう。法学や哲学の将来に対する私の展望では、まだ終わっていない仕事がたくさんあります。私の国とあなたがたの国の両方で社会政策の実質的諸問題が個人の諸権利の観点から大いに議論されている時点で、われわれは、基本的人権およびそれらの人権と法を通して追求される他の諸価値との関係についての満足のゆく理論を依然として必要としているのです。したがってまた、もしも法理学において実証主義が最終的に葬られるべきであるとするならば、われわれは、すべての法体系にとって、ハード・ケースの解決の予備としての独自の正当化的諸原理群を含む、拡大された法の概念が、裁判官の任務の記述や遂行を曖昧にせず、それに照明を投ずるであろうということの論証を依然として必要としているのです。しかし現在進んでいる研究から判断すれば、われわれがこれらのものの少なくともあるものを手にするであろう見込みは十分あります。」
(ハーバート・ハート(1907-1992),『法学・哲学論集』,第2部 アメリカ法理学,5 1776-1976年 哲学の透視図からみた法,pp.178-179,みすず書房(1990),矢崎光圀(監訳),深田三徳(訳))
(索引:)

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