ミセリコルディア
【ミセリコルディアとは、人が、他の誰かの苦しみを自らの苦しみとして理解する限りにおいて、その他者の苦しみに対して抱く嘆きや悲しみである。それは、家族や友人など社会的絆の有無を区別しない。(アラスデア・マッキンタイア(1929-))】ミセリコルディアとは。
人が、他の誰かの苦しみを自らの苦しみとして理解する限りにおいて、その他者の苦しみに対して抱く嘆きや悲しみである(アクィナス)。ミセリコルディアは、以下の2つの要求を区別しない。
(a)私たち自身が所属するコニュニティの中で、その人が占める位置のために、私たちとある明確な社会関係を有する人々の要求。例えば、家族の絆にもとづく要求や、直接的な社会的絆にもとづく要求。
(b)私たちとの間にそのような関係があろうとなかろうと、現に何らかのしかたでひどく苦しんでいる人々の要求。特にその悪が、その苦しむ個人の選択から直接的に生じたものでない場合。
「誰であれ、何らかの顕著な悪に苦しむすべての人々に対してであり、その悪がその苦しむ個人の選択から直接的に生じたものでない場合にはとりわけそうである。ただし、このような条件づけは、おそらくそれ自体、さらなる条件づけを必要としている。すなわち、〔ある行為者にとって〕ある他者が極度の苦境に陥り、緊急に援助を必要としているという事実そのものが、もっとも親密な家族の絆にもとづいて発せられる要求が提供する行動の理由をもしのぐほど強力な行動の理由を〔当該行為者に対して〕提供している。また、そうした他者のニーズがそれほど由々しきものではなく、かつまた、それほど緊急のものではない場合でさえ、そうした他者のニーズはしばしば、家族の絆にもとづく要求や、その他の直接的な社会的絆にもとづく要求に優先するものであると、適切にも判断されうる。とはいえ、どのようなケースがそうしたケースにあてはまるのかを決定する規則など存在しないのであって、それを判断するためには思慮 prudence という徳が発揮されねばならない。以上を踏まえる場合、私たちは、ときに相互に対立しあう、二種類の異なる要求にさらされているように思われる。すなわち、私たちは一方において、私たち自身が所属するコニュニティの中でその人が占める位置のために、私たちとある明確な社会関係を有する人々の要求にさらされているだろう。また他方において、私たちとの間にそのような関係があろうとなかろうと、現に何らかのしかたでひどく苦しんでいる人々の要求にさらされているだろう。しかし、ミセリコルディアという徳に関するアクィナスの説明は、少なくも私が右に定式化したような〔二つの要求の間の〕対比を拒絶するように私たちに求めている。
ミセリコルディアとは、人が他の誰かの苦しみをみずからの苦しみとして理解するかぎりにおいて、その他者の苦しみに対して抱く嘆きや悲しみである、とアクィナスはいう。人がそのような嘆きや悲しみを抱くのは、その他者が以前からの友人であったり親族であったりする場合のように、かねてからその他者との間に何等かのつながりがあったからかもしれないし、あるいはまた、その人が当該他者の苦しみを理解するにあたって、ことによるとこの苦しみは自分にふりかかっていたものかもしれないと気づくからかもしれない。だが、そのような理解に必要とされているものは何であろうか。ミセリコルディアとは、私たちをして、私たちの隣人の必要とするものを彼らに提供するべく衝き動かす慈愛の一側面であって、そのようなものとしてミセリコルディアは私たちを私たちの隣人にかかわらせる諸徳のうちもっとも重要なものである。」
(アラスデア・マッキンタイア(1929-),『依存的な理性的動物』,第10章 承認された依存の諸徳,pp.178-180,法政大学出版局(2018),高島和哉(訳))
(索引:ミセリコルディア)
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(出典:wikipedia)
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(アラスデア・マッキンタイア(1929-),『依存的な理性的動物』,第1章 傷つきやすさ、依存、動物性,pp.1-2,法政大学出版局(2018),高島和哉(訳))
(索引:)
アラスデア・マッキンタイア(1929-)
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