2020年6月11日木曜日

99.化学者が放射性物質を扱う場合、%とかppmのオーダーの化学とは異なり、例えば水100gに(10の-14乗)gというような非常な微量を扱う。それでも、予想外の汚染とかを経験しながら、放射性物質の取扱いの難しさと様々な技術とを学んでいく。(高木仁三郎(1938-2000))

科学の実証性

【化学者が放射性物質を扱う場合、%とかppmのオーダーの化学とは異なり、例えば水100gに(10の-14乗)gというような非常な微量を扱う。それでも、予想外の汚染とかを経験しながら、放射性物質の取扱いの難しさと様々な技術とを学んでいく。(高木仁三郎(1938-2000))】

 「一般に化学者が実験的に放射性物質を扱う場合は、通常は遠隔操作ではなく手で扱います。手といっても、もちろんゴム手袋をしたり、必要に応じてはマスクをしたり、鉛ガラス入りの眼鏡をしたり、放射線防護用の服を着たり、鉛の板で生殖器部分を守ったりというように、必要な措置を施します。そんなに特別なことをしないで扱うのは、放射能にして一〇の五乗から七乗ベクレルくらいまでです。

 一〇の六乗ベクレルというのは、どの程度の濃度かというと、一〇〇グラムの水に、水の分子量は一八ですから、約五モルの水が入っているわけですけれども、それに対してセシウム-一三七は一〇のマイナス一四乗グラムということになります。モル数にするとおよそ一〇のマイナス一六乗モルくらいになるわけで、水の分子が一あるところに対して、セシウム-一三七の原子は一〇のマイナス一六乗モル個しかない。これは非常にわずかな量です。

このような微量な領域になってくると、一グラムの中に数ミリグラムが溶けていたというようなパーセントとか、ppmのオーダーの化学とは、化学自体が全然違ってきます。非常に特殊な振る舞いをするということが出てきます。

 私の経験では、セシウムはとにかく挙動が難しくて、少量の場合にはすぐに揮発してしまいます。非常に揮発性が高い元素です。

セシウムはアルカリ金属の一つで、あまり化学はややこしくないほうですけれども、もう少しややこしい化学のアクチノイド元素とか、ランタノイド元素だと、少量ではすぐにコロイドというものを作ります。つまり、少ない量の物質というのは、何分子も集まって、コロイド状に固まった状態になってしまって、溶液の中に溶けているのか、溶けていないのか、よくわかりません。

したがって、ふつうの化学の教科書に書いてあるように、沈殿を落としたり、溶媒抽出といって有機溶媒を使って溶媒中に取り出したりしようとすると、教科書どおりでないことが起こります。

 教科書どおりと思って扱っても、目に見えないですから、うっかりしていると、意外に大きな汚染を起こしたり、揮発を起こしたりしてしまいます。そんなことで、実験室を汚してしまったとか、手袋を汚してしまったとか、そういう経験はしょっちゅうあります。

そういう経験を経ながら、放射性物質は非常に難しいものだということを学んでいくのが、放射化学者として一人前になっていく道です。当然、扱い方が慎重になります。」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第三巻 脱原発へ歩みだすⅢ』原発事故はなぜくりかえすのか 3 放射能を知らない原子力屋さん、pp.354-355)
(索引:科学の実証性)

脱原発へ歩みだす〈3〉 (高木仁三郎著作集)


(出典:高木仁三郎の部屋
友へ―――高木仁三郎からの最後のメッセージ
 「「死が間近い」と覚悟したときに思ったことのひとつに、なるべく多くのメッセージを多様な形で多様な人々に残しておきたいということがありました。そんな一環として、私はこの間少なからぬ本を書き上げたり、また未完にして終わったりしました。
 未完にして終わってはならないもののひとつが、この今書いているメッセージ。仮に「偲ぶ会」を適当な時期にやってほしい、と遺言しました。そうである以上、それに向けた私からの最低限のメッセージも必要でしょう。
 まず皆さん、ほんとうに長いことありがとうございました。体制内のごく標準的な一科学者として一生を終わっても何の不思議もない人間を、多くの方たちが暖かい手を差しのべて鍛え直して呉れました。それによってとにかくも「反原発の市民科学者」としての一生を貫徹することができました。
 反原発に生きることは、苦しいこともありましたが、全国、全世界に真摯に生きる人々とともにあることと、歴史の大道に沿って歩んでいることの確信から来る喜びは、小さな困難などをはるかに超えるものとして、いつも私を前に向って進めてくれました。幸いにして私は、ライト・ライブリフッド賞を始め、いくつかの賞に恵まれることになりましたが、繰り返し言って来たように、多くの志を共にする人たちと分かち合うものとしての受賞でした。
 残念ながら、原子力最後の日は見ることができず、私の方が先に逝かねばならなくなりましたが、せめて「プルトニウム最後の日」くらいは、目にしたかったです。でもそれはもう時間の問題でしょう。すでにあらゆる事実が、私たちの主張が正しかったことを示しています。なお、楽観できないのは、この末期的症状の中で、巨大な事故や不正が原子力の世界を襲う危険でしょう。JCO事故からロシア原潜事故までのこの一年間を考えるとき、原子力時代の末期症状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物が垂れ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。
 後に残る人々が、歴史を見通す透徹した知力と、大胆に現実に立ち向かう活発な行動力をもって、一刻も早く原子力の時代にピリオドをつけ、その賢明な終局に英知を結集されることを願ってやみません。私はどこかで、必ず、その皆さまの活動を見守っていることでしょう。
 私から一つだけ皆さんにお願いするとしたら、どうか今日を悲しい日にしないでください。
 泣き声や泣き顔は、私にはふさわしくありません。
 今日は、脱原発、反原発、そしてより平和で持続的な未来に向っての、心新たな誓いの日、スタートの楽しい日にして皆で楽しみましょう。高木仁三郎というバカな奴もいたなと、ちょっぴり思い出してくれながら、核のない社会に向けて、皆が楽しく夢を語る。そんな日にしましょう。
 いつまでも皆さんとともに
 高木 仁三郎
 世紀末にあたり、新しい世紀をのぞみつつ」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第四巻 プルートーンの火』未公刊資料 友へ―――高木仁三郎からの最後のメッセージ、pp.672-674)

高木仁三郎(1938-2000、物理学、核化学)
原子力資料情報室(CNIC)
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認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金|THE TAKAGI FUND for CITIZEN SCIENCE
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高木仁三郎 略歴・業績Who's Whoarsvi.com立命館大学生存学研究センター
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