言論の自由
【異論を唱えるたった一人に対してであっても、彼を沈黙させるのは不当であり、特別の害悪がある。それは、人類全体や次世代にも及び得る被害をもたらす。その異論が正しい場合も、間違っている場合も。なぜか?(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873))】「国民は、みずから実行するのであれ、政府に要求して実行させるのであれ、言論を統制するために強制力を行使する権利をもっていない。こうした権力はそもそも不当である。最善の政府であっても、最悪の政府の場合と同様に、このような強制力を行使するのは不当である。世論にしたがって行使されるのであっても、世論の反対を無視して行使されるときとくらべて、有害さに変わりがないか、もっと有害である。人類の意見がほぼ一致していて、たったひとり異論を唱える人がいる場合、そのひとりを沈黙させるのは、意見の違うひとりが権力を握っていて圧倒的多数の意見を沈黙させるのと変わらないほど不当な行為である。意見というものがそもそも本人以外にとって何の価値もなく、ある意見をもつことを禁じられても本人以外は何の被害も受けないのであれば、被害を受ける人がごく少数なのか多数なのかで、ある程度の違いがあるともいえよう。しかし、意見の発表を禁じることには特別の害悪があり、人類全体が被害を受ける。そのときの世代だけでなく、後の世代も被害を受ける。そして、発表を禁じられた意見をもつ人以上に、その意見に反対する人が被害を受ける。その意見が正しかった場合、自分の間違いをただす機会を奪われる。その意見が間違っている場合にも、間違った意見にぶつかることによって、真理をそれ以前よりしっかりと、活き活きと認識する機会を奪われるのだから、意見が正しかった場合とほとんど変わらないほどの被害を受けるのである。
発表を禁じられた意見が正しいと想定した場合と間違っていると想定した場合とは、それぞれ別に考えていく必要があり、それぞれの場合で議論すべき点が違っている。発表を禁じようとしている意見が確かに間違った意見だと断言することはそもそもできないし、たとえそう確信していても、その意見の発表を禁じるのが害悪であることに変わりはない。」
(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『自由論』,第2章 思想と言論の自由,pp.40-42,日経BP(2011), 山岡洋一(訳))
(索引:言論の自由)
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(出典:wikipedia)
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(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『功利主義』,第2章 功利主義とは何か,集録本:『功利主義論集』,pp.275-277,京都大学学術出版会(2010),川名雄一郎(訳),山本圭一郎(訳))
(索引:)
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