人間原理
我々の存在と矛盾するような物理理論は、いずれも、とにかく正しくない。従って、検証可能な予言を導く人間原理の定式化は難しい。それにもかかわらず、宇宙の諸法則が生命に都合のよいような形で形成されているという事実は、注目すべきことであろう。 (ポール・デイヴィス(1946-))
「むろん、このような議論は, 正しい物理理論に対する代用品では ない。たとえば,人間原理が検証可能な予言をするために, いった いどのように用いられるのかを知ることはむずかしい. というのは, 我々の存在ということと矛盾するような物理理論は,いずれもとに かく正しくないからである。 さらに, 地球外生命についての知識が ないので,生命に対する物理的な必要条件については、むしろ一般 的なことしかいえない。 おそらく, 生命は今まで考えられてきたよ りは, もっと広い条件のもとで形成が可能であろう.
将来の発展によって, これまでの各章において議論されてきた数 値的符合性のいくつかに対して, 生物学よりはむしろ基本的な物理 学に基礎をおいた説明がなされることはありうることであろう. た とえば,各力のあいだの強さの比は, 将来完成するであろう GUT の超統一理論から現われうるであろう. その場合に 10の40乗という不 思議な数は,数学的に導かれるものであろう. 宇宙の一様性と等方 性についても同様な理由が発見されるであろう. ほとんどわからな かった原始宇宙で起こった, これまで思いもよらなかった種々の 過程も, もしそれがわからなかったら考えもされなかったような対 称性のあるふるまいをするように, 宇宙の運動に強制力を与えるこ とができるであろう.
見かけ上, 偶然のような宇宙の配置の状態に対して,基本的な物理学的理由付けを与えることが将来成功したとすると, 人間原理は、 どのような説明能力をも失うことになるであろう。にもかかわらず、 基本的物理学は生命に都合のよいような形で形成されていることが わかったということは,やはり注目すべきことであろう。 自然法則 が,宇宙のさまざまな符合性に強制力を与えうるかどうかによらず、 これらの関係が我々の存在に対して必要なものであるという事実は、 現代の科学の最も魅力ある発見の一つであることにはちがいない。」
(ポール・デイヴィス(1946-),『偶然の宇宙』(日本語書籍名『魔法の数10の40乗』),5 人間原理,5.4 多宇宙理論,pp.167-168,地人書館,1990, 田辺健茲)