鏡像認識能力と模倣行動
【鏡像認識能力を持った子供のペアは、そうでない子供のペアよりも、自然発生的に多くの模倣行動が生じる。自己認識と模倣の能力とに、ミラーニューロンという共通の基礎があるのではないだろうか。(マルコ・イアコボーニ(1960-))】(1)一部のミラーニューロンは生まれつき存在するものに違いない。
(2) (仮説)ミラーニューロンは、幼児における自己と他者との相互作用によって形成される。また、ミラーニューロンは、自己意識の発生に、ある役割を果たしている。
(3)ミラーニューロンによって、自分が笑っているという意識が生まれる。(自己意識)
(3.1)赤ん坊がにっこり笑う。(運動感覚)
(3.2)笑う運動感覚によって、笑顔の表象が現れる。これは、かつて他人の中に見ていたものである。
二人一組の子供のあいだで自然発生的に生じる模倣についての、次のような調査結果が存在する。
(a)鏡の前で自己を認識する能力を備えた子供のペア
(b)まだ鏡像認識能力をもたない子供のペア
(b)に比べ(a)は、はるかに多く互いを模倣した。
「このような自己と他者、模倣とミラーニューロンの関係の裏づけとも取れる実証的データも存在している。ある発達研究で、二人一組の子供のあいだで自然発生的に生じる模倣についての調査がなされた。いくつかのペアは、子供が二人とも鏡の前で自己を認識する能力を獲得しているが、別のペアの子供はどちらもまだその能力を獲得していない。結果は明らかだった。鏡の前で自己を認識する能力を備えた子供のペアは、まだ鏡像認識能力をもたない子供のペアに比べ、はるかに多く互いを模倣したのである。
自己認識と模倣がこのように足並みを揃えるのは、「他者」が「自己」を模倣する生後初期にミラーニューロンが生まれているからだ。ミラーニューロンは、この自己と他者との初期の運動同期の結果であり、この同期の主体(自己と他者)をコードする神経要素となった。もちろん、幼児の模倣に関するメルツォフのデータから見て、一部のミラーニューロンは生まれつき存在するものに違いない。しかし私の見解は、ミラーニューロンシステムがおもに自己と他者との模倣による相互作用を通じて、とくに生後初期に形成されるという仮説を前提としている(ただし模倣されるという経験は成長後にもミラーニューロンを形成すると思う。詳しくは次章で述べよう)。私の仮説にしたがえば、自己認識のできる子供のペアが、より多くの模倣のできる子供のペアであることも納得がいく。どちらにも同じニューロン――ミラーニューロン――が関わっており、それが一方の機能(自己認識)を果たせるのなら、もう一方の機能(模倣)も果たせて当然である。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第5章 自分に向きあう,早川書房(2009),pp.167-168,塩原通緒(訳))
(索引:)
(出典:UCLA Brain Research Institute)
「ミラーリングネットワークの好ましい効果であるべきものを抑制してしまう第三の要因は、さまざまな人間の文化を形成するにあたってのミラーリングと模倣の強力な効果が、きわめて《局地的》であることに関係している。そうしてできあがった文化は互いに連結しないため、昨今、世界中のあちこちで見られるように、最終的に衝突にいたってしまう。もともと実存主義的現象学の流派では、地域伝統の模倣が個人の強力な形成要因として強く強調されている。人は集団の伝統を引き継ぐ者になる。当然だろう? しかしながら、この地域伝統の同化を可能にしているミラーリングの強力な神経生物学的メカニズムは、別の文化の存在を明かすこともできる。ただし、そうした出会いが本当に可能であるならばの話だ。私たちをつなぎあわせる根本的な神経生物学的機構を絶えず否定する巨大な信念体系――宗教的なものであれ政治的なものであれ――の影響があるかぎり、真の異文化間の出会いは決して望めない。
私たちは現在、神経科学からの発見が、私たちの住む社会や私たち自身についての理解にとてつもなく深い影響と変化を及ぼせる地点に来ていると思う。いまこそこの選択肢を真剣に考慮すべきである。人間の社会性の根本にある強力な神経生物学的メカニズムを理解することは、どうやって暴力行為を減らし、共感を育て、自らの文化を保持したまま別の文化に寛容となるかを決定するのに、とても貴重な助けとなる。人間は別の人間と深くつながりあうように進化してきた。この事実に気づけば、私たちはさらに密接になれるし、また、そうしなくてはならないのである。」
(マルコ・イアコボーニ(1960-),『ミラーニューロンの発見』,第11章 実存主義神経科学と社会,早川書房(2009),pp.331-332,塩原通緒(訳))
(索引:)
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