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2020年5月30日土曜日

社会的認識,思想,信念を自分たちに有利な方向に形成する方法:(a)教育,官公庁,マスコミへの影響力の活用(b)社会的距離,社会的に構築されたカテゴリーの活用(c)研究機関と宣伝,広告を活用した思想の売り込み(d)経済学を通じた影響(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

社会的認識,思想,信念を自分たちに有利な方向に形成する方法

【社会的認識,思想,信念を自分たちに有利な方向に形成する方法:(a)教育,官公庁,マスコミへの影響力の活用(b)社会的距離,社会的に構築されたカテゴリーの活用(c)研究機関と宣伝,広告を活用した思想の売り込み(d)経済学を通じた影響(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(3)社会的認識、思想、信念を、自分たちに有利な方向に形成する方法
 (3.1)教育、官公庁、マスコミへの影響力の活用
  もしひとつのグループが、教育の機会あるいは官公庁やマスコミへのアクセスの点できわめて不利な立場に立たされていたら、“一般通念”が生まれる審議の場に対等の立場で参加することはできない。それゆえに生まれない思想もあれば、効果的に抑制される思想もあるだろう。
 (3.2)社会的距離、社会的に構築されたカテゴリーの活用
  (3.2.1)貧しい人々を、そのままにすること
   経済的機会に恵まれず、はるかに貧しいままであれば、ほかのグループとの人的交流が限られて、異なる文化を発展させる可能性が高い。貧しいグループを特別視する思想が、ほぼ確実に根づいて長く存在しつづける。
  (3.2.2)社会的カテゴリーを使うこと
   社会的に構築されたカテゴリーが持つ力は、社会的に構築されているようには見えないことから生じている。異なるカテゴリーに入れられた人々は、異なる行動をとるようになり、ひいては本質的に異なるように見えてしまうのである。
 (3.3)政策を下支えする思想は、一切の制限なく自由に市場で売り込むことができる
  (3.3.1)研究機関の活用
   十分な財源を持っている人々にとっては、有利な思想を形成するための道具、研究所やシンクタンクを使うことができる。
  (3.3.2)宣伝と広告の活用
   製品を売り込むときにゆがめられた情報を提供しても、さらには嘘をついても、心が痛まなかった企業が多い。
 (3.4)経済学が公正や平等の理念へ及ぼした影響
  もちろん、教育も信念や認識をつくり上げるし、おそらくそれは誰より経済学者にあてはまる。経済学の訓練が認識を形成するという証拠もある。そして、経済学者がだんだんと公共政策で果たすようになった役割を考えると、経済学者が持つ、何が公正かについての認識と、平等と効率性の兼ね合いについての見解は、本来の価値からすれば不釣り合いなほどに重視されてきたのかもしれない。

 「政策についての認識のつくられ方
 いま、社会の不平等をそのまま残したいと望む人々は、そういう不平等を受け入れやすくするような認識や信念の形成をもくろんでいる。そういう人々は、その目的を遂げるための知識も道具も資産もインセンティブも持っている。たとえ過去に社会的認識を形成しようとする試みがすでに数多くなされていたとしても、現在はその手法がますます洗練されている。たとえば、そうしようとする人々は思想や好みを形成する方法についての知識を増やしている。思想が自分に有利な方向へ進化するのをただ祈りながら座して待つ必要はないのだ。
 上位1パーセントが社会の認識を形成できるという事実は、誰も思想の進化をコントロールできないという考えかたに、重大な警告を突きつける。コントロールのしかたはいろいろある。ひとつは、教育とマスコミを利用する方法だ。もしひとつのグループが教育の機会あるいは官公庁やマスコミへのアクセスの点できわめて不利な立場に立たされていたら、“一般通念”が生まれる審議の場に対等の立場で参加することはできない。それゆえに生まれない思想もあれば、効果的に抑制される思想もあるだろう。
 ふたつめの方法は、社会的距離を生み出す方法だ。ひとつのグループがほかのグループと比べて、経済的機会に恵まれず、はるかに貧しいままであれば、ほかのグループとの人的交流が限られて、異なる文化を発展させる可能性が高い。その場合、貧しいグループを特別視する思想が、ほぼ確実に根づいて長く存在しつづける。“認知の枠組み”について過去の著作で触れたように、このように社会的に構築されたカテゴリーが持つ力は、社会的に構築されているようには見えないことから生じている。異なるカテゴリーに入れられた人々は異なる行動をとるようになり、ひいては本質的に異なるように見えてしまうのである。
 最も重要なのは、もし品物を市場で売ることができるのなら、思想、特に政策を下支えする思想も市場で売ることができるという点だ。現代の市場取引は、認識を形成する技と科学を教えた。そして、じゅうぶんな財源を持っている人々(富裕層)にとっては、形成するための道具も存在している。
 製品を売り込むときにゆがめられた情報を提供しても――さらには嘘をついても――心が痛まなかった企業が多い。だからこそ、煙草会社は喫煙が健康に害をもたらすという科学的な証拠に疑いを投げかけることに成功したのだ。疑いの余地はないという証拠を自分たちが持っていたにもかかわらず。
 同じように〈エクソン〉は、地球温暖化の危険にかんする科学的証拠に疑いを投げかけたシンクタンクを支援することに、良心の呵責を感じているそぶりも見せなかった。公正広告法は、企業の行動をきびしく制限しようとするが、思想と政策を売り込むときには、そういう制限はいっさいない。すでにいくつもの例を見てきた――アメリカは他国ほど平等ではないかもしれないが、機会の平等は他国より保障されているという主張や、大不況の根本的原因は、貧しい者への住宅供給を促進しようという政府の努力にあるという主張などだが、ほかの例も見てみよう。
 もちろん、教育も信念や認識をつくり上げるし、おそらくそれは誰より経済学者にあてはまる。公正さなどについての経済学者の認識が、社会に生きるほかの人々の認識とは著しく異なっているという証拠は、いまではかなりそろっている。シカゴ学派の経済学者リチャード・ターラーは、一般の回答者のうち82パーセントが暴風雨のあとに除雪用シャベルの値段を上げるのは不当だと思っているのに対して、自分が教えているビジネススクールの学生でそう考えている者はたった24パーセントしかいないと報告している。それはひとつには、経済学に魅力を感じる層が、全国民のうち公正さという観念にあまり重きを置かない人々だからだとも考えられる。しかし、経済学の訓練が認識を形成するという証拠もある。そして、経済学者がだんだんと公共政策で果たすようになった役割を考えると、経済学者が持つ、何が公正かについての認識と、平等と効率性の兼ね合いについての見解は、本来の価値からすれば不釣り合いなほどに重視されてきたのかもしれない。
 保守派は認識を形成する際の教育の重要性を認めてきた。だからこそ、学校のカリキュラム設計に積極的に影響力を行使しようとしてきたし、より“経済的に洗練された”判断を下すための、つまり、世界を保守的経済学者の狭いレンズを通して見るようにするための、“教育”プログラムの制定に乗り出したのだ。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.240-241,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:社会的認識,思想,信念,社会的距離,社会的カテゴリー,宣伝,広告,研究機関,経済学)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2020年5月7日木曜日

基礎的な思想、枠組み思考は、社会的構築物であり、諸個人の世界観と、政策決定の過程とを通じて深刻で現実的な影響を及ぼす。新たな状況や事実により変化し得るが、社会的背景が基盤にあるため、たいてい遅い。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

基礎的な思想、枠組み思考

【基礎的な思想、枠組み思考は、社会的構築物であり、諸個人の世界観と、政策決定の過程とを通じて深刻で現実的な影響を及ぼす。新たな状況や事実による変化し得るが、社会的背景が基盤にあるため、たいてい遅い。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(2)基礎的な思想、枠組み思考とは何か
 (2.1)思想は、社会的構築物である
  (a)社会的構築物
   思想や認識は、社会的構築物である。わたしがある信念を持ちたいと思うのは、ほかの人々が同じような信念を持っていることと関係している。
  (b)個人の思想が変わりにくい理由
   ほとんどの個人は、その証拠を自分で検証したりはしない。また、時間があったとしても、証拠を評価する能力をそなえている人はほとんどいない。
  (c)思想の社会的背景
   信念の社会的背景は決定的な意味を持つ。異なるグループのあいだに交流がほとんどなかったら、現実についての認識も異なってしまう。
 (2.2)思想は、現実的な影響を及ぼす
  (a)世界の見方への影響
   社会で築き上げられた思想と認識の一部は、私たちが世界を見るときにかける眼鏡のレンズとなる。
  (b)政策決定への影響
   これらの“思想”は、政策決定の過程を通じて、現実的な影響を及ぼし、その帰結が尾を引くこともある。
   参考: 公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))
 (2.3)思想の変化は、たいていゆっくり生じる
  (a)思想が、社会的構築物であることから、ほとんどの場合、社会的変化と信念の変化はゆっくりと生じる。
  (b)変化は理想の速度よりも遅く進むことが多い。そして、思想の変化が遅いことが、ときに社会の変化を遅くする要因のひとつになる。
 (2.4)思想の変化が生じるとき
  (a)ただし、知の分野や現実から別の流れが押し寄せて知的均衡を乱すと、状況が変わる。
  (b)なんらかの理由で、じゅうぶんな数の人が特定の考えかたに魅力を感じると、転換点が訪れるのかもしれない。

 「変化を起こす力を持つ思想もあるが、ほとんどの場合、社会的変化と信念の変化はゆっくりと生じる。ときには、思想と社会の変化の速さがずれてくる。信念と現実の相違がびっくりするほど大きいので、思想を――あるいは社会の変化を――再考せざるをえないときもある。
 変化は理想の速度よりも遅く進むことが多い。そして、思想の変化が遅いことが、ときに社会の変化を遅くする要因のひとつになる。1776年の独立宣言で、すべての人間は平等に作られているという原則が明確に述べられたかもしれないが、アメリカがこの原則を取り入れた市民権法を制定するのは2世紀ほどあとのことであり、完全な平等はいまだに実現されていない。
 思想の変化が遅い理由のひとつは、思想や認識が社会的構築物だという点にある。わたしがある信念を持ちたいと思うのは、ほかの人々が同じような信念を持っていることと関係している。国内や世界を旅すると、特定の思想――政府は必然的に非効率的だとか、政府が不況を引き起こしたとか、地球温暖化は捏造だとか――が一般通念になっているところもあれば、それとは正反対の思想が“真実”であると受け入れられているところもある。ほとんどの個人はその証拠を自分で検証したりはしない。時間があったとしても、地球温暖化にかんする証拠を評価する能力をそなえている人はほとんどいないからだ。しかし、自分たちが会話を交わし、信頼している他人が同じ信念を持っていれば、自分たちは正しいという確信が強まるだろう。
 このように社会で築き上げられた思想と認識の一部は、わたしたちが世界を見るときにかける眼鏡のレンズとなる。人種や身分などのカテゴリーが問題となる社会もあれば、ならない社会もある。しかし、すでに触れたように、これらの“思想”には現実の帰結が伴い、その帰結が尾を引くこともある。
 ある科学者たちが特定の信念に“はまってしまう”ことがあり、そういう場合、各個人は、ほかのじゅうぶんな数の科学者が信念を変えた場合にだけ信念を変える。しかし、大体は、自分以外の全員が信念を変えないかぎり、その特定の信念にはまったままだろう。
 信念と認識は社会的構築物であるという考えは、社会的信念がときにはかなりすばやく変化することを理解するのにも役立つ。なんらかの理由で、じゅうぶんな数の人が特定の考えかたに魅力を感じると、転換点が訪れるのかもしれない。その思想は新しい一般通念となる。その場合、たとえば人種によるちがいという考えが、証明すべき概念から論駁すべき概念に移行する。あるいは、信念そのものになんらかのスイッチがあって、たとえば不平等は市場経済が機能するために必要だという考えが、現代アメリカの不平等のレベルはアメリカ経済と社会の機能をそこなっているという信念へと変化するかもしれない。新しい思想は一般通念の一部となるが、ただし、知の分野や現実から別の流れが押し寄せて知的均衡を乱すと、状況が変わる。
 信念の社会的背景は決定的な意味を持つ。異なるグループのあいだに交流がほとんどなかったら、現実についての認識も異なってしまう。同じことは、合法性や不平等の大きさについての議論にも言える。一部のグループ(豊かなグループも貧しいグループもふくまれる)では、豊かな人々は主にみずからの勤勉さによって富を獲得してきたのであって、他人の貢献や幸運はささいな役割を果たしているにすぎないと信じられている。別のグループは、まったく正反対の信念を持っている。もっともなことながら、これらのグループは税制政策についても異なる見解を持っている。もしある個人がいま持っているものは自分の努力のみによって得た成果だと信じていたら、その人はあまり努力しないことをみずから選んだと思われる他人と、自分の富を分かち合おうとは思わないだろう。逆に、もしある個人が、自分の成功は主に幸運のおかげだとみなしていたら、その幸運がもたらしてくれた財産を進んで分ち合おうとするだろう。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.238-240,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:基礎的な思想,枠組み思考,社会的構築物,世界観,政策決定,社会的背景)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2020年4月27日月曜日

公共政策をめぐる戦いの例。(a)国家による介入は悪なのか、是正や公共財への投資は正義なのか、(b)貧困は自己責任なのか、再分配は正義なのか、(c)依存や福祉は悪なのか、人間の本質なのか、など。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

公共政策をめぐる戦い

【公共政策をめぐる戦いの例。(a)国家による介入は悪なのか、是正や公共財への投資は正義なのか、(b)貧困は自己責任なのか、再分配は正義なのか、(c)依存や福祉は悪なのか、人間の本質なのか、など。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

参考: 公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))


(1)市場と国家の役割
 (a1)国家による介入は悪である
  国家が、市場の働きを妨げる。国家は、市場に介入すべきではない。あらゆる価値の源泉は諸個人であり、個人が私的にお金を使うことは、政府が託されたお金を使う場合よりも絶対に良い。
 (a2)自由に儲けさせろ
  実のところ、自らの収益源であるレントシーキングが、国家によって禁止されるのは困る。国家が、自らのためにお金を使ってくれるのは、大歓迎である。
 (b)国家による是正、公共財への投資が必要
  自由な市場は、失敗する。経済機会と流動性を拡大するためには、国家による介入が必要である。国家は、インフラや技術や教育などの公共財へ投資することで、諸個人が開花するための環境を準備する。
(2)貧困の原因
 (a)貧困の自己責任論
  貧困は、自ら招いた結果であり、本人の責任である。
 (b)再分配は正義である
  貧困は、生まれ落ちた境遇、教育、偶然的な運・不運に左右されるものであり、国家による介入、再分配の実施が公平な社会をつくり出すのに必要である。
(3)福祉の性質
 (a)依存や福祉は悪である
  福祉は、他人に依存する人間を作り出す。“福祉に頼る怠け者”“福祉の女王”キャンペーン。
 (b)依存や福祉は人間の本質である
  そもそも依存性は、人間の本質の一つである。幼少期、老年期、傷病や障害を負ったとき、社会に依存して生き、開花することは人間の本質の一つである。
(4)法外な報酬の是非
 (a)法外な報酬は貢献による
  最上層の人々が法外な報酬を受けとるのは、社会に対して非常に大きな貢献をしたからである。
 (b.1)法外な報酬は単なる運
  法外な報酬は、社会的貢献や勤勉の結果ではなく、単なる幸運によるものである。
 (b.2)法外な報酬は悪行の結果
  むしろ、市場を独占して消費者を搾取したり、本来は違法とすべき活動によって貧しい無学の借り手を搾取したりする能力から生じたものである。
(5)格差の是非
 (a)トリクルダウン経済
  全ての人々が平等に貧しいよりも、大きな不平等が存在したとしても社会全体が豊かになれば、結果として全員が豊かになれる。大きな不平等は悪いものではない。
 (b)不平等が生産性を低下させ、民主主義を蝕む
  大きな不平等は、社会を不安定なものにし、生産性を低下させ、民主主義を蝕む。

 「もし底辺の人々の問題がみずから招いた結果であるのなら、そして、(1980年代や1990年代の“福祉に頼る怠け者”キャンペーンや“福祉の女王”キャンペーンが示唆していたように)生活保護を受けている人々がほんとうに他人に寄りかかって贅沢な生活をしてきたのなら、そういう人々を援助しなくても良心の呵責はほとんど感じない。もし最上層の人々が社会に非常に大きな貢献をしたという理由で高給を受け取るのなら、そういう人々の報酬は、特にその貢献がたんなる幸運によるものではなく勤勉の成果であったとすれば、正当化されるように思われる。ほかにも、不平等を減らすと大きなツケがまわってくるだろうとほのめかす考えかたもある。さらに、大きな不平等はそれほど悪いものではない、なぜならそういう大きな不平等のない世界で生きるよりも全員が豊かに暮らせるのだから、とほのめかす考えかたもある(トリクルダウン経済)。
 しかし、この戦いの反対陣営は、対照的な信念を持つ。平等の価値を心から信じ、これまでの章で示してきたように、現在のアメリカにおける大きな不平等が社会をさらに不安定なものにし、生産性を低下させ、民主主義をむしばんでいると分析する。さらに、その不平等の大半は社会的貢献とは無関係に生じており、むしろ市場の力を使いこなす能力――市場を独占することで消費者を搾取したり、本来は違法とすべき活動によって貧しい無学の借り手を搾取したりする能力――から生じていると分析する。
 知的な戦いは、キャピタルゲインに対する税金を引き上げるべきかどうかなどの、特定の政策をめぐって繰り広げられることが多い。しかし、そういう論争の背後で、認識をめぐって、そして市場や国家や市民社会の役割のような重要な思想をめぐって、前述のような重要な戦いが繰り広げられているのだ。これはたんなる哲学的議論ではなく、そういうさまざまな機構の有用性についての認識を形成しようとする戦いなのだ。
 すばらしい収益源であるレントシーキングを国家に禁止されることを望まない人々や、国家が再分配を実施したり、経済機会と流動性を拡大しようとすることを望まない人々は、国家の失敗を全面に打ち出す(意外にも、自分たちが政権を担当していて、問題に気づいていたら正すことができたし、また正すべきであるような場合でも、同じことをする)。国家が市場の働きを妨げていると力説するのだ。政府の失敗を誇張すると同時に、市場の長所を誇張する。わたしたちから見て最も重要なのは、そういう人々がやっきになって、以下のような認識を社会全体のものの見かたに組み込もうとする点だろう。それは、個人が私的にお金を使うことは(おそらくギャンブルに使う場合でも)、政府が託されたお金を使う場合よりも絶対にいいという認識だ。そして、市場の失敗――たとえば企業が環境をひどく汚染してしまう傾向――を政府が正そうとすることは、益よりも害をもたらすという認識だ。
 この重要な戦いは、アメリカにおける不平等の進展を理解するのに欠かせない。過去30年にわたって保守派がこの戦いで勝利を収めてきたことが、政府のありようを決めてしまった。わたしたちは自由論者が提唱するミニマリスト国家(小さな政府)を築き上げたわけではない。わたしたちが築き上げたのは、活気あふれる経済を生み出すであろう公共財――インフラや技術や教育への投資――を提供できないほど抑制され、公平な社会をつくり出すのに必要な再分配を実施できないほど弱い国家なのだ。しかし、それでも今の国家は、富裕層にさまざまな恩恵をたっぷり与えることができるほどには大きくて、ゆがんでいる。小さな国家を信奉する金融業界の人々は、2008年に政府が自分たちを救い出すだけの資金を持っていたことを喜んだ。そして、実は、救済措置は何世紀も前から資本主義に組み込まれていたのだ。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.232-235,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2019年8月31日土曜日

公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

公共政策をめぐる戦い

【公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

公共政策をめぐる戦い
(1)利害関係
 実際には、特別な利害関係を考慮した現実的政策が争われている。
(2)表向きの主張
 表向きの主張では、効率性や公平さに焦点があてられる。すなわち、あくまでも自分たちの利益ではなく、他の人々の利益にもなるという主張がなされる。
(3)枠組み思考の重要性
 市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想が、大きな“枠組み作り”を行い、個別の認識は、この枠組みの影響を受ける。

 「不平等の政治学
 ここまで、どのようにしてわたしたちの認識が“枠組み作り”の影響を受けるか説明した。だから、今日の戦いの多くが不平等の枠組み作りの戦いであることは驚くにあたらない。美と同じく公平さも、少なくとも多少は見る人の見かたに左右されるし、最上層の人々は、いまのアメリカにおける不平等が公平なものに見えるような、少なくとも許容範囲内のものに見えるような枠組みになっていることを確信したいと思っている。不公平だと認識されると、職場の生産性に響くおそれがあるだけでなく、不平等を緩和しようとする法律が制定されることにもなりかねないからだ。
 公共政策をめぐる戦いにおいては、特別な利害関係を考慮した現実的政策がどのようなものであろうとも、一般大衆の会話では、効率性や公平さに焦点があてられる。わたしが政府の役職に就いていたころ、産業への助成金を求める嘆願者が、財源が豊かになるからという理由だけで助成金を求めるのを耳にしたことは一度もない。むしろ、嘆願者は公平という言葉を使って――そして、そうすることがほかの人々の利益にもなるという表現を使って――自分たちの要望を伝えてきた。
 同じことは、アメリカで不平等を拡大させた政策についても言える。“枠組み作り”についての戦いは、まず、わたしたちが不平等をどう見るのか――不平等はどのくらい大きいのか、その原因は何か、どのように正当化できるのか――が焦点となる。
 それゆえ企業のCEO、特に金融部門のCEOは、自分たちの高給は社会に大きな貢献をした成果だから正当化できると主張してきた。このような貢献を続ける意欲を持つには高給が必要だということを、他人に(そして自分自身に)納得させようとしてきた。だからこそCEOの高給は報奨金と呼ばれているのだ。しかし、金融危機が、そういうCEOの主張はごまかしだということを白日のもとにさらした。4章で触れたように、報奨金という名称の報酬は、とても報奨金と呼べる代物ではなかった。業績がよければ報酬は高くなったが、業績が悪くても報酬は高いままだった。変わったのは名称だけだ。業績が悪いと、報酬の名称は“慰留金”に変えられた。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.231-232,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:公共政策をめぐる戦い)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2019年4月18日木曜日

高水準の生産性を保つには奨励給が必須だとする理論は、事実に反する非科学的な主張である。生産的で効率的な経済のためには、協力の促進が必要であり、人間的な諸動機の事実に基づく科学的な解明が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

外因性の報酬と内因性の報酬

【高水準の生産性を保つには奨励給が必須だとする理論は、事実に反する非科学的な主張である。生産的で効率的な経済のためには、協力の促進が必要であり、人間的な諸動機の事実に基づく科学的な解明が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(1)勤勉な労働を促す人間の諸動機
 (1.1)外因性の報酬(金銭)
  (a)外因性の報酬(金銭)を過大評価する理論
   (i)合理的な“個人”は、自分の利益だけを考慮し、他人の行動や待遇には全く関心を払わない。
   (ii)羨望や嫉妬やフェアプレー精神など人間的な感情は、“経済的”行動には何の役割も果たさない。
  (b)外因性の動機が、内因性の動機を弱めてしまうという事例。
  “正しいこと”をしたいという欲求に支えられていた行動が、インセンティブとして導入された罰金によって逆効果が生じ、違反行為を増やしてしまう。罰金が、社会的義務を金銭的取引へと姿を変えさせたことが理由である。
 (1.2)内因性の報酬
  (a)例として、科学者たちの研究や発想を支える動機がある。
   真実の追究、知性を使う喜び、発見したときの達成感、同業者たちから認められること。
  (b)チームワークと個人のインセンティブ
   (i)“チーム成績”にもとづく報酬制度は、協力をうながす効果を持っている。
   (ii)逆に、“個人”のインセンティブが強すぎると、チームワークを阻害する。
   (iii)チームがある程度の規模を超えると、チーム成績に占める各人の貢献度が小さくなりすぎ、結果として各人がインセンティブを持てなくなる。
(2)生産的で効率的な経済のために必要なこと
 (2.1)個人の利己主義を基礎とし人間的な感情を考慮しない外因性の報酬(金銭)を過大評価する理論は、事実を捉え損ねており、科学的に誤りである。
 (2.2)他者への配慮や人間的な感情を無視して理論化することは、素朴で単純な第0次近似の理想化理論としては意義があっても、“合理的”で“経済的”な行動の理論では「無視すべきだ」と主張されるならば、もはや科学ではない。
 (2.3)高水準の生産性を保つには奨励給が“必須”であるという主張は、事実に基づかない非科学的な主張である。生産的で効率的な経済のためには、チームワークが必要であり、個人の競争には、建設的なものもあれば、破壊的なものもある。どのような要因が協力を促すかが問題なのであり、事実に基づいた科学的な解明が必要である。

 「本章が展開してきた奨励給への批判は、伝統的な経済分析の範囲内に収まっている。しかし、たとえば勤勉な労働をうながす場合を考えてみると、インセンティブとは人間に対する“動機付け”だ。人間の動機付けにかんしては、心理学者や労働経済学者や社会学者が仔細な研究を行なっており、経済学者たちは多くの環境について読み違いをしてきたように見える。
 しばしば個人は外因性の報酬(金銭)ではなく、内因性の報酬(仕事をうまくやり遂げた満足感)からより良い動機を与えられる。ひとつ例を挙げよう。過去200年間、わたしたちの生活を一変させてきた科学者たちの研究や発想は、大部分が富の追求に動機づけられたものではなかった。それはわたしたちにとっては幸運と言える。金が目的なら、彼らは銀行家の道を選び、科学者にはなっていなかったかもしれない。このような人々にとって大切なのは、真実の追究、知性を使う喜び、発見したときの達成感、そして、同業者たちから認められることだ。もちろん、彼らが金銭的報酬をつねに固辞するわけではないが、前にも述べたとおり、自分や家族の次の食事をどうまかなうかで頭がいっぱいの人間は、有意義な研究に没頭することなどできない。
 外因性の報酬(金銭)を求めすぎると、本当に努力の量が減少する場合もある。教師の大多数(少なくとも多数)は、金のために仕事を選んだのではない。彼らの動機は、子供への愛情や、教育への献身だ。トップレベルの教師たちは、銀行業界に入っていれば、はるかに大きな稼ぎを手にしていただろう。彼らに高いボーナスを出せばもっと力を発揮する、と推測するのは彼らに対する冒涜と言っていい。じっさい、奨励給は教育界に悪影響を及ぼす可能性がある。奨励給によって給与の低さに気づかされ、金を重視するようになった教師たちは、もっと稼ぎの良い職業に移っていき、教育界にはほかの選択肢を持たない教師だけが残されるだろうからだ(もちろん、給与の低さが認識されれば、教師たちの士気は下がり、逆インセンティブの効果が生まれるはずだ)。
 もうひとつ有名な例を紹介しよう。ある託児所は問題を抱えていた。子供を時間どおりに迎えに来ない親たちがいたのだ。託児所はインセンティブを与えるべく、遅刻に罰金を科すことを決めた。しかし、遅刻しない親の中にも、子供の送り迎えに苦労している親はたくさんいた。彼らが遅刻しなかったのは、社会的圧力が原因だった。具体的に言うと、たとえ完璧には程遠くても“正しいこと”をしたいという欲求だ。しかし、罰金を科されたことで、社会的義務は金銭的取引へと姿を変えた。親は社会に対する責任から解放され、遅刻による利益が罰金のコストより大きいと判断した。そして、遅刻は前よりも増えてしまったのだ。
 奨励給制度の欠陥はまだある。ビジネススクールの授業では、チームワークの重要性が強調される。おそらくほとんどの雇用主は、会社の成功にチームワークが必要不可欠だと認識しているだろう。ここで問題となるのは、“個人”のインセンティブがチームワークを阻害しうることだ。個人の競争には、建設的なものもあれば破壊的なものもある。対照的に、“チーム成績”にもとづく報酬制度は、協力をうながす効果を持っている。皮肉にも、標準的な経済理論は、つねにこのような報酬制度をおとしめようとする。チームがある程度の規模を超えると、チーム成績に占める各人の貢献度が小さくなりすぎ、結果として各人がインセンティブを持てなくなる、というのだ。
 経済理論が集団的インセンティブの実効性を正確に測れないのは、人間関係の重要性を過小評価してしまうからだ。現実の世界では、個人はチームメンバーを喜ばせるために一生懸命働き、それが正しい行動であると信じている。対照的に、経済学者が過大評価するのは、個人の利己性だ(数々の証拠が示すとおり、経済学者はほかの人々より利己的なので、彼らから教えを学ぶ人々は、時間とともに自己中心性を高めていく……)。集団的インセンティブの重要性を考えれば、労働者によって所有される企業――労働者に収益が分配される企業――が、今回の金融危機で高い業績をあげ、レイオフを少なく抑えてきたことは、驚くに値しないのかもしれない。
 チームワークにかんする幅広い誤認は、経済理論に目隠しをしてしまっている。標準的な経済理論では、人間の行動を分析する際、合理的な“個人”を想定する。この個人は、ひとつの観点からすべてを評価し、他人の行動や待遇にはまったく関心を払わない。羨望や嫉妬やフェアプレー精神など、人間的な感情は存在せず、存在したとしても、“経済的”行動には何の役割も果たさない。たとえ果たしているように見えても、果たすべきではないとみなされ、果たさなかったものとして経済分析は進められる。経済学の外から見れば、この手法はばかげている。わたしも同意見だ。本書はすでに、不公正に扱われていると感じる個人が努力を低下させうることと、チームスピリットが努力を増加させうることを説明してきた。しかし、アメリカの短期市場向けにあつらえられた実利的かつ個人中心主義的な経済学は、現実の経済における信頼感と忠誠心をむしばんでいるのである。
 要するに、高水準の生産性を保つには奨励給が“必須”である、という右派の主張とは裏腹に、多くの企業に採用された奨励給制度は、不平等を拡大させるうえに、存在そのものが非生産的なのだ。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第4章 アメリカ経済は長期低迷する,pp.178-180,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:外因性の報酬,内因性の報酬,インセンティブ,チームワーク)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
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 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
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世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
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(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

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2019年4月13日土曜日

所得分配の平等性は、経済成長と強い関連性があり、政府の適切な政策が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

所得分配の平等性と経済成長

【所得分配の平等性は、経済成長と強い関連性があり、政府の適切な政策が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(3.2)追記。

(3)政府の役割
 全体の社会的利益を最大化させ、経済を繁栄させるには、政府の適切な矯正作業が必要である。
 (3.1)市場の失敗の矯正
  (a)市場における公正な競争を維持する。
  (b)市場における透明性を高める。
  (c)そのために政府は、税金と規制にかんする制度設計を通じて、個人のインセンティブと、社会的利益を同調させる必要がある。
 (3.2)所得分配の平等性は、経済成長と強い関連性があり、政府の適切な政策が必要である。
  (a)所得分配の不平等の拡大は、総需要の不足を招く。
  (b)総需要の不足に対して、規制緩和とバブルで対応する政策は、経済の不安定性を増大する。
  (c)経済の不安定性の増大は、企業に投資を控えさせ、結果として経済成長は鈍化する。
  (e)安定性の欠如は、不平等を拡大させる。(悪循環)

 「規制とは、システムをより良く機能させるために設計されたルールであり、具体的には、競争を担保したり、影響力の濫用を防いだり、自分で身を守れない人々を保護したりする。何らかの抑えがなければ、前章で説明したような市場の欠陥は、手に負えないほどの猛威をふるうこととなる。たとえば、金融セクターでは将来、利害の衝突や、過剰な信用や、過剰なレバレッジや、過剰なリスクテークや、バブルなどが問題となるだろう。しかし、実業界の人々は別の視点を持っており、規制がなければもっと利益を稼ぎ出せると考える。彼らの念頭にあるのは、社会と経済に対する幅広い長期的な影響ではなく、いますぐ手に入る限定的かつ短期的な自己利益なのだ。
 同じような“過剰”によって引き起こされた1929年の世界大恐慌のあと、アメリカは1933年のグラス・スティーガル法に代表される強力な金融規制を導入した。これらの法律の実効的な運用は、国家に大きな恩恵をもたらした。大恐慌以前のアメリカ(と、ほかの国々)を何度も苦しめた破滅的な金融危機は、規制の導入後、数十年間にわたって鳴りをひそめてきたのだ。しかし、1999年に規制の解体が始まると、過去をしのぐ勢いで“過剰”がよみがえった。銀行はすぐさま最新の技術と金融論と経済論をとり入れた。彼らはイノベーションを駆使して、略奪的貸付を行なう新しい方法や、無知なクレジットカード利用者をあざむく新しい方法を編み出した。レバレッジを高める方法については、まだ残っている規制をかいくぐる場合もあれば、規制当局が理解できないほど仕組みを複雑化させる場合もあった。」(中略)
 「前述したとおり、不平等の拡大は、規制を緩和する政策と、総需要の不足にバブルで対応する政策を導入しやすくするため、結果として経済の安定性を低下させる。しかし、不平等が“必ず”二つの政策に結びつくわけではない。民主主義がもっとうまく機能していれば、政府は規制緩和の政治圧力を退けるかもしれないし、総需要の不足に取り組む際も、バブルをつくり出すことではなく、持続可能な経済成長を強化することを選ぶかもしれないのだ。
 こうやって生み出された経済の不安定性は、さらにリスクの増大という悪影響をもたらす。企業はリスクを嫌う傾向があり、リスクテークに際しては見返りを要求する。だから、思ったような見返りが得られなければ、企業は投資を控え、結果として経済成長は鈍化するだろう。
 平等性の欠如が安定性を低下させる一方で、安定性の欠如は不平等を拡大させる。これも本章が指摘する悪循環のひとつだ。1章で指摘したとおり、世界大不況はとりわけ下層の人々に大打撃を与え、打撃は中層にも及んだ。一般の労働者はおおむね、失業率の上昇と、賃金の下落と、住宅価格の低下と、富の大幅な縮小に見舞われている。他方、リスク許容度の高い富裕層の人々は、大きなリスクをとった見返りを社会全体から収穫している。いつもどおり、金持ちによって支持される政策は、支持してくれる人々に勝利を与え、残りの人々に高いコストを押しつけているように見える。
 2008年の世界金融危機の余波が続く現在、不平等が不安定をもたらして不安定が不平等をうながす、という世界的なコンセンサスが広がっている。国際通貨基金(IMF)は世界経済の安定維持に責任を負う国際機関だが、みずからの政策が貧困層にどう影響するかを熟慮しておらず、この点をわたしはきびしく批判してきた。しかし、不平等を無視していては使命が達成できないことを、IMFは遅ればせながら認識し、2011年の研究報告では次のように結論づけた。
 『成長期間の長さと、所得分配の平等性のあいだに、強い関連性があることをわれわれは発見した。長い目で見た場合、不平等是正と成長持続は、コインの表と裏の関係になるだろう』
 同年4月、IMFの前専務理事ドミニク・ストロス=カーンは、次のように強調した。
 『結局のところ、雇用と平等というレンガがなければ、経済の安定と繁栄、政治の安定と平和という建物を築き上げることはできない。IMFの使命の中核にかかわるこの考え方を、政策課題の中核に据える必要がある』」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第4章 アメリカ経済は長期低迷する,pp.150-153,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:所得分配の平等性,経済成長)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
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 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
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世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

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2019年4月11日木曜日

グローバル化の影響:(a)賃金下落と労働条件悪化への圧力、(b)法人税率低下への圧力、(c)資本市場、コモディティ市場の不安定化、(d)非効率な産業からの転換による失業者の増加。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

グローバル化の影響

【グローバル化の影響:(a)賃金下落と労働条件悪化への圧力、(b)法人税率低下への圧力、(c)資本市場、コモディティ市場の不安定化、(d)非効率な産業からの転換による失業者の増加。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(1)グローバル化を推進する際に主張される理念
 (1.1)グローバル化は、国全体の産出量、たとえばGDPを上昇させる。
 (1.2)グローバル化の利益が、トリクルダウン効果で国民全体に行きわたる。
(2)グローバル化に伴い、実際に発生する事象
 (2.1)資本が自由に移動できることにより、労働者と政府に対する交渉力が強まる。
  (a)賃金が低く、労働条件が悪い国へ工場を移転させることができる。この結果、国内においても、労働者に対する交渉力が強まり、賃金を引き下げることができる。
  (b)法人税率が低い国へ事業所を移転させることができる。この結果、国内においても、政府に対する交渉力が強まり、法人税率を引き下げることができる。
  (c)仮に、労働力の移動が自由化され、資本の移動が禁止された場合には、各国は労働者を惹きつけるために、良い住環境、良い教育環境、労働者に対する低い税率を競うことだろう。
 (2.2)資本市場、コモディティ市場の変動性が高まる。
 (2.3)輸入増によって失業した人々は、次の仕事にありつけない確率が高く、失業者となる。
  (a)政府は、マクロ経済政策と雇用政策によって、失業率が跳ね上がらないようにする必要がある。
  (b)金融セクターは、破壊された古いビジネスの代わりに、新しいビジネスを創造するという本来の役割を果たす必要がある。
 「グローバル化の管理に用いられた手法は、それ自体が賃金を押し下げる効果を発揮してきた。グローバル化の過程で、労働者の交渉力が骨抜きにされたのだ。資本の移動性が高くて関税率が低い場合、企業は労働者にこう言うだけでいい。賃金や労働条件の引き下げを呑まなければ、工場をどこかへ移転させる、と。ここでは、労働力の移動が自由化され、資本の移動が禁止された世界を想定し、非対称的なグローバル化が交渉力にどのような影響を及ぼすかを見ていこう。まず、各国は労働者をひきつけるために競い合うだろう。彼らは良い住環境や、良い教育環境や、労働者に対する低い税率を約束するだろう。そして、これらの財源を確保するため、資本に対して高い税率を課すだろう。残念ながら、わたしたちが住む世界はそうなっていない。原因のひとつは、上位1パーセントの人々がそう望まないからだ。
 労働者の交渉力を弱める方向で、政府にグローバル化のルールを設定させたあと、企業はさらに政治のテコを使って、法人税率の引き下げを要求することができる。具体的に言えば、税金を下げてくれないなら、もっと税率の低い国に会社を移転させる、と国家に脅しをかけるのだ。彼らは特定の政治課題を推し進めることで、自分たちに都合よく市場の力を形成してきたが、当然ながら、そのプロセスで真の目的を明かしてはいない。企業はグローバル化――資本の自由な移動と投資の保護――を議論する際、結果として自分たちが利益にあずかり、結果として残りがツケを払うことを伏せ、社会全体が恩恵を受けるというまことしやかな主張に終始するのである。
 この主張には二つの穴がある。第一に、グローバル化は国全体の産出量、たとえばGDPを上昇させるという点。第二に、グローバル化の利益がトリクルダウン効果で国民全体に行きわたるという点だ。二つの議論はいずれも正しくない。市場が完璧に機能する環境下で、自由貿易を実現するのであれば、労働者は保護された非効率的なセクターから、保護されていない効率的な輸出関連セクターへ移動できる。結果として、GDPが上昇する”可能性”もあるだろう。しかし、多くの場合、市場はそれほどうまく機能しない。たとえば、輸入増によって失業した人々は、次の仕事にありつけない確率が高く、彼らは失業者となる。保護された非効率的なセクターの労働者が、失業者層へ移動してしまえば、GDPは低下をまぬがれない。アメリカではまさにこのような事態が起こってきたのである。このような事態が起こるのは、政府がマクロ経済の舵取りを誤り、国内の失業率が跳ね上がったときと、金融セクターが本来の仕事を怠り、破壊された古いビジネスの代わりに新しいビジネスを創造できなかったときだ。
 グローバル化がGDPを低下させるもうひとつの理由としては、リスクの増加が挙げられる。開放性を高めた国家は、資本市場の不安定化からコモディティ市場の不安定化まで、あらゆる種類のリスクにさらされる可能性がある。市場の変動性が大きくなればなるほど、企業は事業上のリスクを縮小させる方向へ動くと予想されるが、リスクの低い事業はえてして収益性も低い。このリスク回避の効果がふくらんだ場合、全国民の暮らし向きが悪化するような事態も起こりうる。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第3章 政治と私欲がゆがめた市場,pp.114-116,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:グローバル化の影響,賃金下落,労働条件悪化,法人税率低下,市場の不安定化)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2019年4月10日水曜日

レントシーキングに都合の悪い規制の廃止、緩和方法:(a)規制の取り込み(規制対象セクターへの天下り)、(b)認知の取り込み(ロビー活動、規制当局の人事への影響力の行使)。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

レントシーキングに都合の悪い規制の廃止、緩和方法

【レントシーキングに都合の悪い規制の廃止、緩和方法:(a)規制の取り込み(規制対象セクターへの天下り)、(b)認知の取り込み(ロビー活動、規制当局の人事への影響力の行使)。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.3)(a)追記

 (4.3)都合の悪い規制の廃止、緩和
  レントシーキングに都合の悪い法律が作られないようにする。政府の規制は少ない方がいい。
  (a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、政策決定に影響力を行使する。
   (a.1)規制の取り込み
    (i)政治的影響力を使って、自分の意見に近い人々を規制当局へ送り込む。
    (ii)規制当局者が退任した後、規制対象のセクターへ天下りさせ、太っ腹な報酬で迎える。
   (a.2)認知の取り込み
    (i)大量のロビイストを送り込む。
    (ii)何らかの方法で“取り込み済み”の人々が規制当局者に任命されるよう、政府に対して働きかける。
    (iii)逆に「市場には自らを規制する能力があり、銀行には自らのリスクを管理する能力がある」という業界の綱領を踏みはずす候補者が現れれば、途方もなく大きな抗議の声によって、人事案を葬り去る。
  (b)反競争的行為が法律で禁止されないようにする。
  (c)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようする。
  (d)法律家たちのインセンティブ。
   法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。

 「認知の取り込み
 “公正な”ゲームに勝利する能力と、ゲームのルールを設定する能力は、まったく別のものだ。特定の人々の勝率が上がるようルールを設定する能力も別物であり、参加者が審判を選べれば、状況はもっと悪くなる。現在、多くのセクターで規制当局が監督の任(ルールと規制の設定および執行)に就いている。たとえば、電気通信セクターでは連邦通信委員会(FCC)、証券セクターでは証券取引委員会(SEC)、銀行セクターのさまざまな分野では連邦準備銀行。ここで問題となるのは、各セクターの有力者たちが政治的影響力を使って、自分の意見に近い人々を規制当局へ送り込んでしまうことだ。
 経済学者はこれを“規制の取り込み”と呼ぶ。規制当局者が取り込まれる背景には、金銭的インセンティブが存在する場合もある。なぜなら、彼らは規制対象のセクターから選ばれ、やがては規制対象のセクターへ戻っていくからだ。彼らのインセンティブは、残りの社会のインセンティブより、古巣のインセンティブのほうと一致している。規制当局者がセクターのために尽力すれば、退任後には太っ腹な報酬が待ち受けているのだ。
 しかし、取り込まれる動機が金だけとは限らない。規制当局者の思考様式が、規制対象者の思考様式に取り込まれてしまう場合もある。これは社会学的な現象で、“認知の取り込み”と呼ばれる。アラン・グリーンスパンもティム・ガイトナーも大銀行で働いた経験はないが、連銀に来て以降、銀行業界に対して自然な親近感を抱いていった。ひょっとすると、同じ考え方を共有していたかもしれない。銀行家たちはみずから大混乱を招いておきながら、政府救済のひきかえとして銀行にきびしい条件を課すべきでないと考えていた。
 規制に何らかの役割を果たしている人々全員に、銀行を規制するべきではないという主張を受け入れさせるため、これまで銀行業界は大量のロビイストを送り込んできた(推定では連邦議員1人あたり2.5人)。しかし、ターゲットが初めから業界寄りの意見を持っていれば、説得の作業はたやすくなる。だからこそ銀行業界とそのロビイストたちは、何らかの方法で“取り込み済み”の人々が規制当局者に任命されるよう、政府に対して猛烈な働きかけを行なっているのだ。逆に、考えのちがう人々が任命されそうになると、候補者が同じ業界の出身者であろうと、銀行家たちは拒否権を発動しようとする。FRBの人事案が漏れるたびに繰り返されるこの動きを、わたしが初めて目の当たりにしたのはクリントン政権時代だった。現在でも、市場にはみずからを規制する能力があり、銀行にはみずからのリスクを管理する能力がある、という業界の綱領を踏みはずす候補者が現れれば、途方もなく大きな抗議の声によって、人事案の提出は見送られるだろう。たとえ提出されても、議会の承認は決して得られないだろう。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.96-98,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:レントシーキング,規制の取り込み,認知の取り込み)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2019年4月9日火曜日

法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

法律家たちのインセンティブ

【法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.3)(d)追記。


(4)市場を通じて、社会に対する貢献以上の報酬を獲得するための方法
  社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)公正さや社会的正義より自分の利益を最優先する、(b)レントシーキング、(c)都合の悪い法律が作られないための政治的対策、(d)都合のよい税制、労働法、会社法、その他の経済政策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

 (4.1)基本的な考え方
  (a)公正なルールに従ったフェアプレイは問題ではなく、重要なのは勝つか負けるかだ。市場は勝ち負けの基準をはっきりと示してくれる。持っている金の量である。
  (b)必要とあれば“アンフェア”なプレーをする意志もなければならない。例えば、
   (b.1)法律をかいくぐる能力や、法律を都合よくねじ曲げる能力。
   (b.2)貧困者をふくむ他人の弱味につけ込む意志。
 (4.2)レントシーキングの例
   社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

   レントシーキングの例:(a)市場の独占、(b)市場の透明性を低下させ、他者を食いものにする、(c)政府から資源を移転する(例:補助金給付,天然資源へのアクセス権,独占輸入権,社会へのコスト転嫁,損失補填)(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

  (a)市場の競争性を低下させ、独占力を確保する。(独占利益(モノポリー・レント))
   (a.1)参入障壁や、競争の障壁を構築する。
   (a.2)政府に、市場の競争性を低下させる法律を、作らせる。
  (b)市場の透明性を低下させ、情報の非対称性を利用する。
   (b.1)公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手に必要な情報を与えず、取引を有利に進める。
   (b.2)略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務。
   (b.3)他者を食いものにすることを規制する法律を、政府に作らせない。
  (c)政府からの、公然または非公然の資源移転と、補助金給付。
   (c.1)政府から、天然資源へのアクセス権を有利な条件で入手する。
   (c.2)政府から、独占輸入権(輸入割当(クオータ))を与えられる。
   (c.3)政府から、コストを社会に転嫁することを許される。
   (c.4)過剰なリスクを取ったことによる失敗の損失を、政府に補填してもらう。

 (4.3)都合の悪い規制の廃止、緩和
  レントシーキングに都合の悪い法律が作られないようにする。政府の規制は少ない方がいい。
  (a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、政策決定に影響力を行使する。
  (b)反競争的行為が法律で禁止されないようにする。
  (c)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようする。
  (d)法律家たちのインセンティブ。
   法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。
 (4.4)税制を、自分に都合のよいものに変える。
   (a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、税制の設計に影響力を行使する。
   (b)実態が隠蔽できるような複雑さを持った“逆累進課税制度”を実現させる。
 (4.5)労働法や会社法を、自分に都合のよいものに変える。
 (4.6)政府のマクロ経済政策を、自分に都合のよいものに変える。


 「最後に挙げるレントシーキング集団は、第一級の法律家たちで構成されている。彼らは顧客の刑務所行きを(おおむね)防ぎつつ、法律の回避方法を指南することで、富を築き上げてきた。法曹界は、顧客に税金逃れをさせるべく、抜け穴のある複雑な法律を案出しておき、その後は、抜け穴を利用するための込み入った取引を組み立てる。複雑かつ不透明なデリバティブ市場の設計に手を貸したのも彼らだ。独占力を創り出すため、合法的に見える契約をお膳立てするのも、法律家たちの仕事だ。彼らはこのような支援活動を通じて、市場が本来果たすべき機能を妨げ、上層を利する道具としての機能を発揮させ、結果として太っ腹な報酬にありついているのだ。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,p.90,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:法律家たちのインセンティブ,レントシーキング)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

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2019年4月5日金曜日

レントシーキングの例:(a)市場の独占、(b)市場の透明性を低下させ、他者を食いものにする、(c)政府から資源を移転する(例:補助金給付,天然資源へのアクセス権,独占輸入権,社会へのコスト転嫁,損失補填)(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

レントシーキング

【レントシーキングの例:(a)市場の独占、(b)市場の透明性を低下させ、他者を食いものにする、(c)政府から資源を移転する(例:補助金給付,天然資源へのアクセス権,独占輸入権,社会へのコスト転嫁,損失補填)(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.2.2)へ追記。

 (4.2.2)レントシーキング
  (a)市場の競争性を低下させ、独占力を確保する。(独占利益(モノポリー・レント))
   (a.1)参入障壁や、競争の障壁を構築する。
   (a.2)政府に、市場の競争性を低下させる法律を、作らせる。
  (b)市場の透明性を低下させ、情報の非対称性を利用する。
   (b.1)公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手に必要な情報を与えず、取引を有利に進める。
   (b.2)略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務。
   (b.3)他者を食いものにすることを規制する法律を、政府に作らせない。
  (c)政府からの、公然または非公然の資源移転と、補助金給付。
   (c.1)政府から、天然資源へのアクセス権を有利な条件で入手する。
   (c.2)政府から、独占輸入権(輸入割当(クオータ))を与えられる。
   (c.3)政府から、コストを社会に転嫁することを許される。
   (c.4)過剰なリスクを取ったことによる失敗の損失を、政府に補填してもらう。

 「さまざまなレントシーキング
 これまで本書は、富裕層が残りの人々を食いものにする目的で政治プロセスの協力を求める手法の多くに、“レントシーキング”のレッテルを貼ってきた。レントシーキングはさまざまな形態をとる。政府からの公然・非公然の資源移転と補助金給付。市場の競争力を低下させる法規。既存の競争法にかんする甘い取り締まり。企業が他者を食いものにすることをゆるす法律や、企業がコストを社会に転嫁することをゆるす法律……。地代(レント)という用語はもともと、土地からあがる収益を指していた。地主は地代を得るために、何かを“行なう”必要はなく、ただ土地を所有しているだけでいい。この状況は、“努力”の提供とひきかえに資金を得る労働者と対照的だ。やがて“レント”は地代の意味だけでなく、独占状態を管理することで得る利益(独占利益もしくはモノポリー・レントと呼ばれる)という意味を含むようになり、さらには、所有権から生まれる同じような収益を全般的に指すようになった。たとえば、政府が一企業に砂糖の独占輸入権(輸入割当(クオータ))を与えた場合、権利の所有によって生み出される余分な収益は、“クオータ・レント”と呼ばれる。
 天然資源に恵まれた国々は、レントシーキングが活発なことで知られている。資源へのアクセス権を有利な条件で入手すれば、みずから富を創出するより、はるかにたやすく財産を築き上げることができるからだ。資源国ではたいていの場合、マイナスサム・ゲームが繰り広げられる。原因のひとつとして挙げられるのは、天然資源に恵まれていない国と比べて、資源国の経済成長率がおおむね低くなるという点だ。
 豊かな資源を持っているなら、貧困者の援助に使ったり、国民皆教育や国民皆保険の財源に使ったりできると思われがちだが、情けないことにそうはなっていない。労働と貯蓄に対する課税がインセンティブを弱める可能性があるのに対して、土地や石油やほかの資源から生じる“レント”に課税をしても、天然資源は同じ場所に存在しつづけ、いつかは採掘されるため、インセンティブに悪影響がおよぶ心配はない。基本的に、レントからの豊かな税収は、社会保障支出と公共投資――たとえば医療や教育――の両分野に振りむけることができる。しかし、世界の不平等大国の中には、名だたる資源大国がふくまれている。このような国では、少数の人々(たいていは政治権力を持つ人々)が、ほかの人々より上手にレントシーキングを行い、資源から生じる利益の大部分を確保してしまう。ラテンアメリカで最も豊かな産油国のベネズエラでは、ウゴ・チャベス大統領が登場するまで、国民の半分が貧困生活を余儀なくされていた。豊かさと貧しさが混在する国情が、チャベスのような変革者を生み出したのである。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.85-87,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:レントシーキング)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2019年3月31日日曜日

社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)公正さや社会的正義より自分の利益を最優先する、(b)レントシーキング、(c)都合の悪い法律が作られないための政治的対策、(d)都合のよい税制、労働法、会社法、その他の経済政策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

社会に対する貢献以上の報酬を獲得する方法

【社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)公正さや社会的正義より自分の利益を最優先する、(b)レントシーキング、(c)都合の悪い法律が作られないための政治的対策、(d)都合のよい税制、労働法、会社法、その他の経済政策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.2)追記。

(4.2)社会に対する貢献以上の報酬を獲得するための方法
 (4.2.1)基本的な考え方
  (a)公正なルールに従ったフェアプレイは問題ではなく、重要なのは勝つか負けるかだ。市場は勝ち負けの基準をはっきりと示してくれる。持っている金の量である。
  (b)必要とあれば“アンフェア”なプレーをする意志もなければならない。例えば、
   (b.1)法律をかいくぐる能力や、法律を都合よくねじ曲げる能力。
   (b.2)貧困者をふくむ他人の弱味につけ込む意志。
 (4.2.2)レントシーキング
  (a)市場の競争性を低下させ、独占力を確保する。
   (a.1)参入障壁や、競争の障壁を構築する。
  (b)市場の透明性を低下させ、情報の非対称性を利用する。
   (b.1)公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手に必要な情報を与えず、取引を有利に進める。
   (b.2)略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務。
  (c)自分にとって都合のいい制度を利用して、過剰なリスクを取る。
 (4.2.3)レントシーキングに都合の悪い法律が作られないようにする。政府の規制は少ない方がいい。
  (a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、政策決定に影響力を行使する。
  (b)反競争的行為が法律で禁止されないようにする。
  (c)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようする。
 (4.2.4)税制を、自分に都合のよいものに変える。
  (a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、税制の設計に影響力を行使する。
  (b)実態が隠蔽できるような複雑さを持った“逆累進課税制度”を実現させる。
 (4.2.5)労働法や会社法を、自分に都合のよいものに誘導する。
 (4.2.6)政府のマクロ経済政策を、自分に都合のよいものに誘導する。

 「ピラミッドの下から上へ金を移動させる
 上流階層の人々が金を稼ぎ出す方法のひとつは、市場と政治に対する影響力を、自分たちに都合よく利用し、残りの人々を犠牲にして収益を得ることだ。
 金融業界はさまざまな形態のレントシーキングについて腕をみがいてきた。すでにいくつかは紹介したが、レントシーキングの手法はほかにもまだまだある。情報の非対称性を利用する方法(買い手が絶対に気づかないと知りながら、破綻するよう仕組んだ証券化商品を売りつける)。過剰なリスクをとる方法(政府が命綱を握ってくれて、窮地から救い出してくれて、損失を肩代わりしてくれるという知識を利用する。この知識を使えば、通常より低い金利で金を借りることも可能になる)。FRBから低金利で資金を調達する方法(現在の金利はほぼ0パーセント)などである。
 しかし、最も悪名高いレントシーキングの形態――近年になって最もみがきのかかった手法――は、金融界が略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務を通じて、貧困者層と情報弱者層から大金を搾り取るというものだ。貧困者のひとりひとりはそれほど金を持っていなくても、大勢の貧困者から少しずつ巻き上げれば、莫大な儲けを手に入れることができる。政府に社会正義の感覚――もしくは経済全体の効率性に対する懸念――が少しでもあれば、これらの活動を禁止するための措置が施されただろう。貧困層から富裕層へ金が移動するプロセスでは、かなりの量の資源が失われる。だからこそ、これはマイナスサム・ゲームと呼ばれるのだ。しかし、実態がどんどんあきらかになってきた2007年ごろでさえ、政府は金融界の行為を禁止しようとはしなかった。理由は明快。金融界はロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投じてきており、その投資が実を結んだのだ。
 ここで金融界をとりあげる理由のひとつは、現在のアメリカ社会で見られる不平等が、金融界から強い影響を受けてきたことにある。今回の世界金融危機の発生に金融界が果たした役割は、誰の目にもあきらかだ。金融界で働く人々でさえ責任を否定していない。内心では、業界内の別部門に責任があると思っているのかもしれないが……。とはいえ、わたしがこれまで金融界について述べてきたことは、現在の不平等を創り出してきたほかの経済主体にもあてはまる。
 近代資本主義は複雑なゲームと化しており、少し頭が切れるくらいでは勝者になれないが、多くの場合、勝者は感心できない特性を持ち合せている。法律をかいくぐる能力や、法律を都合よくねじ曲げる能力や、貧困者をふくむ他人の弱味につけ込む意志や、必要とあれば”アンフェア”なプレーをする意志だ。このゲームで成功している達人のひとりは、「勝負は問題ではない。重要なのはどうプレーするかだ」という昔の金言をたわごとと切り捨てる。重要なのは勝つか負けるかだけなのだ。市場は勝ち負けの基準をはっきりと示してくれる。持っている金の量だ。
 レントシーキングのゲームに勝利して、アメリカ最上層の多くの人々は財を築いてきた。しかし、富を獲得する方法はレントシーキングだけではない。あとでくわしく説明するが、税制も重要な役割を担っている。最上層の人々は、税制の設計に影響力を行使し、払うべき税金を払わずにすませてきた。彼らの所得に占める税金の割合は、貧困層の人々より低いのである。わたしたちはこのような税制を“逆累進課税制度”と呼ぶ。
 この逆累進課税とレントシーキングが中心となって、とりわけ最上層における格差を拡大させてきた。いっぽう、アメリカの不平等をめぐる二つの側面――中間層の空洞化と貧困層の増加――には、幅広い分野から強い影響力が加えられている。企業を律する法規は、企業内の規範と相互作用を起こし、経営者の行動を誘導するとともに、経営陣とほかの利害関係者(労働者と株主と社債保有者)の利益配分を決定する。また、政府のマクロ経済政策は、労働市場の需給――失業率の水準――を決定する。つまり、労働者の取り分を変化させる市場の仕組みに、政府の政策が影響を与えているわけだ。もしもインフレを恐れる金融当局の行動が、失業率の高止まりを招いた場合、労働者の賃金は抑制されるだろう。これまで、強い労働組合は不平等の縮小をうながしてきたが、組合が弱い企業のCEOは、やすやすと不平等を拡大してきた。CEOたちが市場の力の形成に手を貸し、その力を不平等の拡大に利用することもあった。ともあれ、組合の強弱にしても、企業統治の実効性にしても、金融政策の舵取りにしても、決定に中心的役割を果たすのは政治だ。
 形成時に政治からの影響を一部受けるとはいえ、市場の力も重要な役割を果たしている。たとえば、熟練労働者の需給は、技術と教育の変化を反映しつつ、市場がバランスをとっているのだ。しかし、市場の力と政治はたがいに均衡を働かせようとはしない。市場の力が格差を悪化させそうなときでも、政治は不平等の拡大を抑え込もうとはしないし、市場の行き過ぎを政府が“調整”するようなこともない。むしろ今日のアメリカでは、両者が手を取り合って、所得と富の格差を広げているのである。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.82-85,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:レントシーキング)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
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(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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2019年3月30日土曜日

社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

社会に対する貢献以上の報酬を獲得する方法

【社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.1.1)、(4.1.2)、(4.2.1)、(4.2.2)追記。

(4)2つの考え方
 (4.1)全体の社会的利益を最大化させようとするには、政府の適切な矯正作業が必要である。
  (4.1.1)市場における公正な競争を維持する。
   (i)市場に競争性があるとき、正常な資本収益率を上回る利潤は持続できなくなる。なぜなら、企業が商品の利幅を大きくすれば、ライバル会社が価格引き下げを武器に、顧客を奪い取ろうとしてくるからだ。
   (ii)複数の企業が活発な競争を繰り広げると、商品価格は利潤がゼロになるレベルまで下落していく。
  (4.1.2)市場における透明性が高まれば高まるほど、競争は激しくなりやすい。
 (4.2)社会に対する貢献以上の個人的報酬を獲得しようとするには、政府の規制は少ないほうが都合がいい。
  (4.2.1)儲けを大きくするために、市場の競争性を低下させ、独占力を確保すること。
   (i)参入障壁や、競争の障壁を構築する。
   (ii)反競争的行為が法律で禁止されないように対策する。
   (iii)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないよう対策する。
  (4.2.2)市場の透明性を低下させる。
   (i)例として、公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手には必要な情報を与えず、取引を有利に進める。

 「ここからは、市場を“うまく機能させない”ために、民間の金融機関が講じる手段をいくつか紹介していこう。アダム・スミスが述べたように、企業には市場の競争性を低下させようとするインセンティブが働く。さらに企業は、反競争的行為がきびしい法律で禁止されないように手を打ち、すでに法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようにあらゆる手段を尽くす。事業家たちが重視するのは、社会の繁栄とは何かを広く知らしめることでもなければ、市場の競争性を高めることでもない。彼らの目的は、“自分に都合よく”市場を機能させ、より大きな利潤を手にすることだけだ。しかし、これらの行為はたいていの場合、経済の効率性を低下させ、不平等を拡大させる結果に終わる。
 ここではひとつの実例を挙げれば充分だろう。市場に競争性があるとき、正常な資本収益率を上回る利潤は持続できない。なぜなら、企業が商品の利幅を大きくすれば、ライバル会社が価格引き下げを武器に、顧客を奪い取ろうとしてくるからだ。複数の企業が活発な競争を繰り広げると、商品価格は利潤がゼロになるレベルまで下落し、大儲けをもくろむ者たちには不幸な結果が訪れる。ビジネススクールで生徒たちが教わるのも、利潤が浸食されるのを防ぐために、どうやって競争の障壁――参入障壁をふくむ――を理解し、どうやって実際に障壁を構築するかという点だ。過去30年の重大なビジネス・イノベーションの一部は、経済効率の向上に主眼を置いていなかった。重視されたのは、独占力を確保することと、個人的報酬と社会的利益を合致させるための政府規制をすりぬけることだった。
 好んで使われるのは、市場の透明性を低下させる手法だ。透明性が高まれば高まるほど、市場における競争は激しくなりやすい。銀行家たちはこの事実を知っている。だからこそ銀行業界は、〈AIG〉の没落の中心的役割を果たした危険な金融商品、デリバティブの引き受け事業を展開するにあたって、不透明な“店頭市場”での取引を必死に守りつづけたのだ。店頭市場では、良い取引と悪い取引を消費者が見極めるのは難しい。透明性の高い現代の公開市場とは対照的に、店頭市場ではすべてが交渉で決まる。売り手が絶え間なく取引を行なう一方、買い手はたまにしか市場を訪れないため、売り手は買い手よりも多くの情報を持ち、その情報を使って取引を有利に進める。要するに、おしなべて見ると、売り手〈デリバティブを引き受ける銀行〉は店頭市場でなら、顧客から多くの金を引き出せるわけだ。
 このような透明性の欠如は、銀行家たちの利益をふくらませる一方、経済全体を落ち込ませるという結果を招く。良い情報が入手できなければ、資本市場は本来の機能を発揮できない。最も収益率の高い事業に、もしくは、最も運用成績の高い銀行に、必ずしも資金が流れ込むとはかぎらないからだ。現在、各金融機関が業界内でどんな位置を占めているかという実情を知る者はひとりとしていない。原因のひとつは、不透明なデリバティブ取引だ。最近の世界金融危機を受けて、状況の変化を期待する向きもあるだろうが、銀行家たちはデリバティブ取引の透明化にも、反競争的行為を取り締まる規制にも抵抗した。このようなレントシーキング活動は、彼らにとって数百億ドル分の価値があった。金融界がすべての抵抗活動に勝利を収めたわけではないが、彼らの通算成績は、問題を今日まで長らえさせるだけの効果を持っていた。たとえば、2011年10月末にアメリカの大手金融機関が破綻したが(負債総額は史上第8位)、原因のひとつは複雑なデリバティブ取引だった。あきらかに市場は、少なくとも問題が表面化するまで、デリバティブ取引の本質を見透かせなかったのである。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.80-82,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:参入障壁,競争障壁,市場の透明性,反競争的行為)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

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2019年3月29日金曜日

(a)不完全な競争、(b)情報の不完全性、非対称性、(c)外部性の働き、(d)リスク市場の非存在によって、市場の失敗が発生する。高い効率性と繁栄のためには、政府による適切な矯正作業が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

市場の失敗と政府の役割

【(a)不完全な競争、(b)情報の不完全性、非対称性、(c)外部性の働き、(d)リスク市場の非存在によって、市場の失敗が発生する。高い効率性と繁栄のためには、政府による適切な矯正作業が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(1)効率的な市場
 市場において個々人が自己利益を最大化させることで、全体の社会的利益を最大化させることができる。
(2)市場の失敗
 市場は、独力で効率的な結果を生み出せない。すなわち、以下の諸原因により、個々人が社会にもたらす利益と個人的報酬が等しくなくなり、全体の社会的利益を最大化させることができなくなる。
 市場の失敗の原因
 (2.1)競争が不完全なとき。
 (2.2)情報の不完全性や情報の非対称性が存在するとき。
  市場取引に関する情報を、誰かが持っている一方で、他の誰かが持っていない状況。
 (2.3)外部性が働いているとき。
  ひとつの集団の行動によって、正もしくは負の影響が他に及ぶ可能性があるものの、集団が正の影響から利益を得ることも、負の影響の代償を支払うこともない状況。
 (2.4)リスク市場が存在しないとき
  たとえば、直面する重大なリスクの多くに対して、保険をかけることができない状況。
(3)政府の役割
 (3.1)政府は、税金と規制にかんする制度設計を通じて、個人のインセンティブと、社会的利益を同調させる必要がある。
 (3.2)重大な市場の失敗に対して、納得できる矯正作業を政府が行なわないかぎり、経済の繁栄は望めないだろう。
(4)2つの考え方
 (4.1)全体の社会的利益を最大化させようとするには、政府の適切な矯正作業が必要である。
 (4.2)社会に対する貢献以上の個人的報酬を獲得しようとするには、政府の規制は少ないほうが都合がいい。
(5)歴史
 世界大恐慌以降の40年間、すぐれた金融規制によって、アメリカと世界は大きな危機を回避してきた。1980年代に規制が緩和されると、その後の30年間は、危機が立て続けに起きるようになった。

 「アダム・スミス自身も、貢献と報酬に差が出る事態を認識していた。「歓楽が目的であれ気晴らしが目的であれ、同業者たちが一堂に会することはまれだが、このような席では最終的に、一般大衆に対する謀議がまとまったり、価格つり上げの仕組みが案出されたりする」とスミスは述べている。
 多くの場合、市場は独力で望ましい効果的な結果を出せないため、政府は市場の失敗を正す役目を果たさなければならない。具体的に言えば、税金と規制にかんする制度設計を通じて、個人のインセンティブと社会的利益を同調させるのだ(もちろん、何が最善の方法なのかについては、意見の一致が見られるとは言いがたいが、今日では、金融市場の放任を主張する者も、企業に無制限の略奪をゆるすべきだと信じている者も、ほとんどいない)。政府がきちんと役目を果たせば、労働者や投資家が得る報酬は、彼らが社会にもたらす利益とひとしくなる。これがひとしくならない状態を、わたしたちは”市場の失敗”と呼ぶ。要するに、市場が効率的な結果を生み出せない状態だ。
 個人的報酬と社会的利益がうまく合致しないのは、次のような場合である。競争が不完全なとき。”外部性”が働いているとき(ひとつの集団の行動によって、プラスもしくはマイナスの影響がほかに及ぶ可能性があるものの、集団がプラスの影響から利益を得ることも、マイナスの影響の代償を支払うこともない状況)。情報の不完全性や情報の非対称性が存在するとき(市場取引にかんする情報を、誰かが持っている一方で、ほかの誰かが持っていない状況)。リスク市場が存在しないとき(たとえば、直面する重大なリスクの多くに対して、保険をかけることができない状況)。事実上、すべての市場はこれらの条件を一つや二つは満たしており、市場がおおむね効率的であるという推定はほぼ成り立たない。つまり、このような市場の失敗に対して、政府が矯正を行なう余地はきわめて大きいわけだ。
 市場の失敗を政府が完璧に正すことは不可能だが、他国に比べてこの作業をうまくこなしている国もある。重大な市場の失敗に対して、納得できる矯正作業を政府が行なわないかぎり、経済の繁栄は望めないだろう。世界大恐慌以降の40年間、すぐれた金融規制によって、アメリカと世界は大きな危機を回避してきた。しかし、1980年代に規制が緩和されると、その後の30年間は、危機が立て続けに起きるようになった。2008年から2009年にかけての世界金融危機は、多数の中のひとつがたまたま最悪になっただけだ。しかし、このような政府の不首尾は偶然の産物ではない。金融界は持てる政治力を使って、市場の失敗が矯正”されない”ように、業界内の個人的報酬が社会的貢献を大きく上回るように、手段を講じてきたのである。これは、金融界に流れ込む利益をふくらませ、最上層のあいだで高水準の不平等を生じさせる一因となった。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.78-79,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:市場の失敗,政府の役割,効率的な市場)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

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