2018年8月9日木曜日

23.社会的情動のいくつかは集団と関係し、集団内と集団外に対して異なる機能を持つ。人間の文化の歴史は、これら情動を、個的な集団の制約を超え、最終的には人類全体の包含を目指した努力の歴史である。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

社会的情動と集団

【社会的情動のいくつかは集団と関係し、集団内と集団外に対して異なる機能を持つ。人間の文化の歴史は、これら情動を、個的な集団の制約を超え、最終的には人類全体の包含を目指した努力の歴史である。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(a)親切な情動、賞賛に値する適応的利他主義は、集団と関係がある。家族、部族、市、国などである。
(b)集団外のものに対する反応は、少しも親切ではない。適切なはずの情動が、集団外に向けられると、いとも簡単に悪意に満ちた、残忍なものになる。その結果が、怒り、恨み、暴力である。それらすべては、部族間の憎しみや人種差別や戦争の潜在的な芽として容易に認識できる。
(c)われわれ人間の文化の歴史は、ある程度まで、最善の「道徳的感情」を、個的な集団の制約を超え、最終的には人類全体を包含するように、より広い世界へ広めていこうとする努力の歴史である。
(d)その仕事は、まったく、未だ完成していない。

参照: 社会的情動:共感、当惑、恥、罪悪感、プライド、嫉妬、羨望、感謝、賞賛、憤り、軽蔑など
 「進化とその手荷物である遺伝子はこのような適切な行動をわれわれにもたらすことで事態をよくしてきた、などと考えないように一つ指摘をしておこう。 

親切な情動、賞賛に値する適応的利他主義は、〈集団〉と関係がある。動物の世界では、こうした集団には、たとえばオオカミの群れやサルの群れがある。人間界には、家族、部族、市、国などがある。

しかし反応の進化史が示していることは、集団外のものに対する反応は少しも親切ではないということ。 

適切なはずの情動が、集団外に向けられると、いとも簡単に悪意に満ちた、残忍なものになる。その結果が、怒り、恨み、暴力である。

それらすべては、部族間の憎しみや人種差別や戦争の潜在的な芽として容易に認識できる。

最善の人間の行動はかならずしもゲノムの制御下で用意されてはいないという事実を忘れてはならない。

われわれ人間の文化の歴史は、ある程度まで、最善の「道徳的感情」を、個的な集団の制約を超え最終的には人類全体を包含するように、より広い世界へ広めていこうとする努力の歴史である。その仕事がまったく終わっていないことは、新聞の見出しを読めば簡単にわかる。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、p.214、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:社会的情動,集団)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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