共感覚
【共感覚という現象が存在する:「数字を見るといつも特定の色が見えます。数字の5はいつも特定の色合いの鈍い赤で、3は青、7は鮮やかな濃い赤、8は黄色、9は黄緑色です」(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))】『「いつからそういうことがありましたか?」と私は聞いた。
「小さいときからです。でもその頃はあまり気にしていなかったように思います。それからだんだん、とても変なことなのだと気がつきだしたのですが、だれにも話しませんでした。頭がどうかしているとか、そんなふうに思われたくなかったからです。さっき先生の話を聞くまで、これに名前がついているなんて知りませんでした。なんとおっしゃいましたっけ。シネ……ス……麻酔(アネスシージア)と韻を踏んでいるような感じの」
「共感覚(シネスシージア)といいます」と私は言った。「スーザン、あなたの体験をくわしく話してもらえますか。うちの研究室は共感覚に特別な関心をもっているので。具体的にどんなことを体験しますか」
「数字を見るといつも特定の色が見えます。数字の5はいつも特定の色合いの鈍い赤で、3は青、7は鮮やかな濃い赤、8は黄色、9は黄緑色です」
私はテーブルの上にあったサインペンとメモ用紙をつかみ、大きな7を書いた。
「どんなふうに見えますか?」
「あまりきれいな7じゃないですね。でも赤に見えますよ……さっき言ったように」
「ではちょっと質問しますので、よく考えてから返事をしてください。実際に赤が見えるのですか? それとも、その7を見ると赤のことが頭に浮ぶとか、赤い色が思い浮ぶとか、そういうことでしょうか……記憶心象のように。たとえば私は〈シンデレラ〉と言う言葉を聞くと、若い女性や、かぼちゃや、馬車が頭に浮かびますが、そういう感じですか? それとも文字どおりに色が見えるのですか?」
「それはむずかしい質問ですね。私もよくそれを自問するのですが、おそらく実際に見えているのだと思います。先生が書かれたこの数字はあきらかに赤に見えます。でも実際は黒だということもわかります――というか、黒だということを承知しています。だからある意味では、一種の記憶心象だと言えます――心の眼とかそういうもので見ているにちがいありません。でも、けっしてそういうふうには感じられないのです。実際に見えているような感じがします。表現するのがとてもむずかしいです、先生」
「とてもうまく表現していますよ、スーザン。あなたはすぐれた観察者です。だからあなたの言葉は価値がある」
「一つ確実に言えるのは、シンデレラの絵を見たり、〈シンデレラ〉という言葉を聞いたりしたときに、かぼちゃを想像するのとはちがうということです。色は実際に見えます。」』
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,第3章 うるさい色とホットな娘――共感覚,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.121-122,山下篤子(訳))
(索引:共感覚)
![]() |

(出典:wikipedia)
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,はじめに――ただの類人猿ではない,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.23-23,山下篤子(訳))
ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-)
ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドランの関連書籍(amazon)

検索(ラマチャンドラ)


脳科学ランキング
ブログサークル