2018年8月20日月曜日

眼を閉じて手に書かれた7や、聴覚からの情報も、数字を想起して視覚化すると色が見える。7の数字そのものに赤色があり、黒地に白の数字だと赤がはっきりする。また、緑の数字だと緑と赤が同時に見える。(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))

共感覚

【眼を閉じて手に書かれた7や、聴覚からの情報も、数字を想起して視覚化すると色が見える。7の数字そのものに赤色があり、黒地に白の数字だと赤がはっきりする。また、緑の数字だと緑と赤が同時に見える。(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))】

 『「だいじょうぶ」と私は言った。「じゃあ今度は眼を閉じて手を出してください」
 彼女はちょっと驚いた様子だったが、指示にしたがってくれた。私は彼女の手のひらに数字の7を書いた。
 「私は何と書きましたか? いいですか、もう一度書きますよ」
 「7です!」
 「色はついていますか?」
 「いいえ、全然。えーっと、言いかたを変えます。最初は、7だと〈感じている〉のに赤が見えません。でもその7を視覚化すると、それはちょっと赤みを帯びています」
 「オーケイ、スーザン、では私が〈七〉と言ったらどうだろう? やってみましょう。セブン、セブン、セブン」
 「最初は赤くなかったのですが、赤が見えてきました……その形を視覚化しはじめると、赤が見えるんです。視覚化する前は見えません」
 私はふと思いついて言った。「七、五、三、二、八。今度は何が見えましたか?」
 「なにこれ……おもしろいです。虹が見えます!」
 「どういうことですか?」
 「それぞれの色が、目の前に虹のように広がって見えるんです。数字と結びついた色が先生の言った順番にならんで。とてもきれいな虹です」
 「もう一つ質問をしていいですか、スーザン。これはさっきの7ですが、色は数字の上にありますか、それともまわりに広がっていますか」
 「数字の上にあります」
 「黒い紙に白い字だったらどうでしょう。これです。どんなふうに見えますか?
 「黒い字のときより、もっと赤がはっきりしています。なぜだかわかりませんが」
 「二桁の数字だったらどうでしょう」。私はメモ用紙に太く75と書いて彼女に見せた。彼女の脳は色を混ぜるだろうか? それともまったく新しい色が見えるのだろうか?
 「それぞれの数字にそれぞれいつもの色がついて見えます。そうなるのは自分でも気づいていました。数字と数字があまりにも近すぎなければですが」
 「ではやってみましょう。これは7と5をもっと近づけてあります。どんなふうに見えますか?」
 「まだ、いつもの色が見えます。でも色どうしが争っているというか、打ち消しあっているというか、そんな感じです。ぼんやりして見えるんです」
 「7を違う色で書いてみたらどうなるでしょうね」
 私はメモ用紙に緑色で7と書いて彼女に見せた。
 「うわ。すごく嫌な感じです。どこかがおかしいという不快感があります。実際の色と心の色が混ざっているわけではなくて、両方の色が同時に見えるのですが、その見えかたが嫌な感じなのです」
 私はスーザンの言葉で、色の体験にはしばしば情動が付帯しており、不適切な色は強い嫌悪感を生じさせる場合があると共感覚の文献に書いてあったのを思い出した。』
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,第3章 うるさい色とホットな娘――共感覚,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.124-126,山下篤子(訳))
(索引:共感覚)

脳のなかの天使



(出典:wikipedia
ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「バナナに手をのばすことならどんな類人猿にもできるが、星に手をのばすことができるのは人間だけだ。類人猿は森のなかで生き、競いあい、繁殖し、死ぬ――それで終わりだ。人間は文字を書き、研究し、創造し、探究する。遺伝子を接合し、原子を分裂させ、ロケットを打ち上げる。空を仰いでビッグバンの中心を見つめ、円周率の数字を深く掘り下げる。なかでも並はずれているのは、おそらく、その目を内側に向けて、ほかに類のない驚異的なみずからの脳のパズルをつなぎあわせ、その謎を解明しようとすることだ。まったく頭がくらくらする。いったいどうして、手のひらにのるくらいの大きさしかない、重さ3ポンドのゼリーのような物体が、天使を想像し、無限の意味を熟考し、宇宙におけるみずからの位置を問うことまでできるのだろうか? とりわけ畏怖の念を誘うのは、その脳がどれもみな(あなたの脳もふくめて)、何十億年も前にはるか遠くにあった無数の星の中心部でつくりだされた原子からできているという事実だ。何光年という距離を何十億年も漂ったそれらの粒子が、重力と偶然によっていまここに集まり、複雑な集合体――あなたの脳――を形成している。その脳は、それを誕生させた星々について思いを巡らせることができるだけでなく、みずからが考える能力について考え、不思議さに驚嘆する自らの能力に驚嘆することもできる。人間の登場とともに、宇宙はにわかに、それ自身を意識するようになったと言われている。これはまさに最大の謎である。」
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,はじめに――ただの類人猿ではない,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.23-23,山下篤子(訳))

ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-)
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