2019年8月30日金曜日

人間は、自然の中に目的を導入し、自然、生命、自らの身体と精神や社会を、目的と機能の言葉で説明する。この目的は、人間が創造できるにもかかわらず、また同時に、何らかの自然の諸法則に基礎を持つ。 (ハーバート・ハート(1907-1992))

目的論的な自然観

【人間は、自然の中に目的を導入し、自然、生命、自らの身体と精神や社会を、目的と機能の言葉で説明する。この目的は、人間が創造できるにもかかわらず、また同時に、何らかの自然の諸法則に基礎を持つ。(ハーバート・ハート(1907-1992))】

 自然を支配している諸法則を考えると、そこには善いものと悪いものを基礎づける何らかの根拠があるようには思えない。このことから、どうあるべきかという言明(価値の言明)は、何が起こっているのかという言明(事実の言明)からは基礎づけられ得ないと考えられた。
 考察するための事例。
 (1)全ての出来事は、自然を支配している諸法則に従っている。
 (2)地球が、自然を支配している諸法則に従って、自転している。
 (3)地球が、自然を支配している諸法則に従って、温暖化している。
 (4)時計が、自然を支配している諸法則に従って、止まっている。
 (5)時計が、自然を支配している諸法則に従って、正確に動いている。
  (a)目的と機能
   時計の目的に従って、時計の諸構造の機能を説明することができる。
  (b)目的は人間が導入した
 (6)どんぐりが、自然を支配している諸法則に従って、腐ってしまう。
 (7)どんぐりが、自然を支配している諸法則に従って、樫の木になる。
  (a)目的と機能
   成長して樫の木になることが「目的」だとしたら、この目的のために中間段階が「良い」とか「悪い」と記述することもできるし、どんぐりの諸構造とその変化を、目的のための「機能」として説明することもできる。
  (b)目的は人間が導入した
  (c)目的自体は何らかの自然の諸法則を基礎に持つ
   人間が、説明のために目的を導入したとしても、どんぐりは自ら、自然を支配している諸法則に従って、樫の木になる。目的自体も何らかの自然の諸法則を基礎に持つ。この意味において、目的は、どんぐり自身のなかに含まれていたとも言い得る。
 (8)人間が、自然を支配している諸法則に従って、滅亡する。
 (9)人間が、自然を支配している諸法則に従って、目的を創造し、それを実現する。
  (a)目的と機能
   人間は、自分自身の目的を創造し、それを実現しようとする。健康と病気の区別と、身体の機能および精神の諸機能。善と悪の区別と、社会の機能。
  (b)目的自体は何らかの自然の諸法則を基礎に持つ
   人間は、自ら意識的に目的を創造できるため、なお、目的自体が何らかの自然の諸法則に基礎を持っていることが信じられなかった。すなわち、何が良いか悪いかを決めるのは人間であり、自然を支配している諸法則からは独立しているのだと考えた。しかし、これは誤りである。

 「これが、事物はそれ自身のなかに実現すべき高いレベルを含んでいるという、目的論的な自然観である。いかなる種類の事物でも、それに特定ないしは固有の目的に向かって前進するときの諸段階は、規則的なものであり、したがって、その事物の変化、行動、あるいは発展の特徴的な態様を記述するものとして一般的に定式化されよう。そのかぎりで、目的論的な自然観は、近代的な思想と重なりあう。相違点は、目的論的な観点では、事物に対して規則的に起こる出来事が、《単に》規則的に起こると考えられず、また、出来事が《現に》規則的に《起こる》のかどいうかという問題と、起こる《べき》かどうか、つまり起こるのが《よい》のかどうかという問題とが、別々の問題であるとみなされないところにある。これに反して(「偶然」に帰しうるいくらかのまったく稀な場合を除いて)、一般的に起こるものは、その事物の固有の目的あるいは目標に向かう一歩であることを示すことによって、善あるいは起こるべきものと説明されるとともに評価されうるのである。したがってある事物の発展法則は、その事物がどのように規則的に行動あるいは変化すべきか、また現にするかの双方を示さなければならないということになる。
 自然に関するこの思考様式は、抽象的にのべると奇妙におもわれる。もし少なくとも生物に対していまでもわれわれが言及する仕方のいくつかを想い起こすならば、この思考様式は、それほど風変わりなものではないようにおもわれる。というのは、生物の成長を記述する普通の仕方には、今もなお、目的論的な見方がみられるからである。たとえばどんぐりの場合、成長して樫の木になることは、どんぐりによって単に規則的に達成されることであるだけではなく、どんぐりの腐る場合(これもまた規則的である)と違って、成熟という最適状態であるとも認められる。そしてこの最適状態に照らして、中間段階が良いとか悪いとか説明されるとともに、構造的な変化を伴うどんぐりのさまざまな部分の「働き」も確認されるのである。木の葉について言えば、もし「十分な」あるいは「適切な」発育に必要な水分が得られれば、それは正常に成長すべきものである。そしてこの水分を供給するのが木の葉の「働き」なのである。だからわれわれは、この成長を「当然起こるべき」ことであると考え、またそう言うのである。無生物の作用や運動の場合には、それが人間によってある目的のために作られた加工物である場合を除いて、そのような言い回しはどうみてももっともらしくない。石が地面に落ちるさいに、何か適切な「目的」を実現しているとか、馬屋へ駆けて帰る馬のように、その「しかるべき場所」へ帰っていると考えることは、いまでは少しこっけいである。
 実際、目的論的な自然観を理解する困難の一つは、それが、規則的に起こることの陳述と起こるべきことの陳述との相異を軽視したのとまったく同様に、近代的な思想にとって非常に重要な相異、すなわち、自分自身の目的を《もち》それを実現しようと意識的に努力する人間と他の生物もしくは無生物との相異を軽視することである。というのは、目的論的な世界観においては、人間は他の生物と同様、彼に設定された特有の最適状態あるいは目的へと向かう傾向があると考えられており、人間が他の物とは違って、これを意識的に実現するかもしれないという事実は、人間とその他の自然のものとの根本的な相異ではないと考えられているからである。この人間に特有の目的あるいは善は、部分的には他の生物のそれと同様、生物学的成熟および発達した物理的な力の状態である。しかしそれはまた、人間に特有な要素として思考や行動に表わされる知力や性格の発達と卓越さをも含むのである。他の事物と異なり、人間は、このすぐれた知力と性格を身につけることによってもたらされるものを、推論と反省によって発見できるし、また望むこともできる。しかしそれでも、この目的論的な見方によれば、この最適状態は、人間がそれを望んだから人間の善あるいは目的となるのではない。むしろそれがすでに人間の自然の目的であるから、人間はそれを望むのである。」
(ハーバート・ハート(1907-1992),『法の概念』,第9章 法と道徳,第1節 自然法と法実証主義,pp.206-208,みすず書房(1976),矢崎光圀(監訳),明坂満(訳))
(索引:目的論的な自然観)

法の概念


(出典:wikipedia
ハーバート・ハート(1907-1992)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「決定的に重要な問題は、新しい理論がベンサムがブラックストーンの理論について行なった次のような批判を回避できるかどうかです。つまりブラックストーンの理論は、裁判官が実定法の背後に実際にある法を発見するという誤った偽装の下で、彼自身の個人的、道徳的、ないし政治的見解に対してすでに「在る法」としての表面的客観性を付与することを可能にするフィクションである、という批判です。すべては、ここでは正当に扱うことができませんでしたが、ドゥオーキン教授が強力かつ緻密に行なっている主張、つまりハード・ケースが生じる時、潜在している法が何であるかについての、同じようにもっともらしくかつ同じように十分根拠のある複数の説明的仮説が出てくることはないであろうという主張に依拠しているのです。これはまだこれから検討されねばならない主張であると思います。
 では要約に移りましょう。法学や哲学の将来に対する私の展望では、まだ終わっていない仕事がたくさんあります。私の国とあなたがたの国の両方で社会政策の実質的諸問題が個人の諸権利の観点から大いに議論されている時点で、われわれは、基本的人権およびそれらの人権と法を通して追求される他の諸価値との関係についての満足のゆく理論を依然として必要としているのです。したがってまた、もしも法理学において実証主義が最終的に葬られるべきであるとするならば、われわれは、すべての法体系にとって、ハード・ケースの解決の予備としての独自の正当化的諸原理群を含む、拡大された法の概念が、裁判官の任務の記述や遂行を曖昧にせず、それに照明を投ずるであろうということの論証を依然として必要としているのです。しかし現在進んでいる研究から判断すれば、われわれがこれらのものの少なくともあるものを手にするであろう見込みは十分あります。」
(ハーバート・ハート(1907-1992),『法学・哲学論集』,第2部 アメリカ法理学,5 1776-1976年 哲学の透視図からみた法,pp.178-179,みすず書房(1990),矢崎光圀(監訳),深田三徳(訳))
(索引:)

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