我の意識の起源
【生存と認識にとって最重要なものが、身体との関係事象として最初に現われる。次に対象が出現するが、道具や玩具の事物に向き合うのは全体としての身体である。最後に、関係事象から我が客体化され分離する。(マルティン・ブーバー(1878-1965))】我の意識の起源
(1)関係事象、作用しかけてくるもの
向かいあう存在がありありと体感され、ただ全身で受けとめられる関係事象が、最初に存在する。次に、関係における作用の担い手が対象化される。神秘的威力を持った、月、太陽、野獣、酋長、シャーマン、死者たち。(マルティン・ブーバー(1878-1965))
(a)生存本能にとってもっとも重要なもの、認識本能にとってもっとも顕著なものである、作用しかけてくるものが、最も強く前面に現われ、独立する。
(b)生殖によって自己を保存しようとするのは、我ではなくて、我というものをまだ知らぬ身体である。
(2)対象の出現
(a)重要ではないものは、後方に退き、徐々に対象化され、そして少しずつ相い集まってきわめて徐々に群や類をなしてゆく。
(b)道具や玩具などの事物をつくろうとし、その創始者であろうとするのも、我ではなくて、まだ分たれぬ全体としての身体である。
(3)互いに作用しつつある我と汝の関係事象から我が客体化され分離する
我は原初的体感の分裂によって浮びあがり、また、我に作用しつつある汝、汝に作用しつつある我という生命にみちた始原語の分裂によって、つまり、この作用しつつあるという分詞が名詞化され、客体化されてから、はじめて単独な要素として浮びあがってくるのである。
「記憶は訓練されることによって、さまざまな重大な関係事件や根元的な震撼などを分類しはじめるが、そのときもっとも強度に前面にあらわれ、きわだち、ひとり立ちするのは、生存本能にとってもっとも重要なものや、認識本能にとってもっとも顕著なもの、ほかでもなくあの《作用しかけてくるもの》である。
一方、さまざまな体験のうちでも、たいして重要ではないもの、共通の事件ではなかったもの、次々と交代する《汝》は、後方にしりぞき、記憶のなかに離ればなれに残り、徐々に対象化し、そしてすこしずつ相い集まってきわめて徐々に群や類をなしてゆく。
そして第三のものとして、分離された場合には怖るべきものとなり、死者や月よりも時としては妖怪めいて、しかし次第にまがうことなく明らかに現れてくるのだ、もうひとつのものが、《つねに同一である》伴侶が、――《我》が。
《自己》保存本能や、その他の諸本能の原初的な活動には、《我の意識》は付随していない。
本能がまだ自然のままに活動している段階では、生殖によって自己を保存しようとするのは《我》ではなくて、《我》というものをまだ知らぬ身体である。
そこでは道具や玩具などの事物をつくろうとし、その《創始者》(Urheber)であろうとするのも《我》ではなくて、まだ分たれぬ全体としての身体なのである。
また原始的な認識機能のなかには《われ識る、ゆえにわれあり》(Cognosco ergo sum)はいかに素朴なかたちにおいても見出されない。
およそ経験主体に関する擬人化はいかに子供っぽいかたちでもここには見出されない。
《我》は原初的体感の分裂によって浮びあがり、また、《我に作用しつつある汝》(Ich-wirkend-Du)、《汝に作用しつつある我》(Du-wirkend-Ich)という生命にみちた始原語の分裂によって、つまり、この《作用しつつある》という分詞が名詞化され、客体化されてから、はじめて単独な要素として浮びあがってくるのである。」
(マルティン・ブーバー(1878-1965)『我と汝』第1部(集録本『我と汝・対話』)pp.30-31、みすず書房(1978)、田口義弘(訳))
(索引:)
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(出典:wikipedia)
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(マルティン・ブーバー(1878-1965)『我と汝』第2部(集録本『我と汝・対話』)pp.67-68、みすず書房(1978)、田口義弘(訳))
(索引:汝を言う能力)
マルティン・ブーバー(1878-1965)
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