機械式時計の喩え
【脳の各構造が実現している機能の観点から定義された「階層」という考え方を用いて、脳の各構造と構造間のインタフェースなどの仕組みを、明確に理解することができる。(マイケル・S・ガザニガ(1939-))】例えば、機械式時計の多様な部品の仕組みを理解するには、「この車輪があのぜんまいにつながって、それからあの車輪につながっている」というような構造を理解しても、分かったような気にならない。
しかし、各部品が実現している目的、機能の観点から、階層という考えを利用して理解すると、その仕組みが明確になる。機械式時計の場合、階層は5つある。
(a)エネルギー層:時計が動くにはエネルギーが必要である。
(b)分配層:車輪がそのエネルギーを時計の隅々にまで分配する。
(c)逃し止め層:エネルギーが一度に放出されることを防ぐ。
(d)制御層:逃し止め機能を制御する。
(e)時間表示層:以上のすべての機構を利用して、時刻を表示する。
「機械式時計のふたを外して中をのぞき込んだら、たくさんの車輪や歯車やぜんまいが相互に連結されているのが見えるだろう。これらが忙しく動いて計時係が誕生する。時計は自分が時を測っていることを知らず、その各部もみずからが果たす機能について何も知らない。脳においても同様に、忙しく働いて個人の意識的な体験を生みだしている個々のニューロンも、みずから何をしているのか知らない。単純な時計の背後にある多様な部品の仕組みを理解するには、「この車輪があのぜんまいにつながって、それからあの車輪につながっている」とは違う観点から考える必要のあることがすぐに明らかになる。昔ながらの「AがBに接続し、BがCに接続する」という考え方ではどこにも行き着けないのだ。
それでは階層という観点から考えよう。時計の場合、階層は5つある。階層という観点から機械を見ると、その構造が明らかになる。すべての機械式時計についてもそれが言える。機械式時計の層には、エネルギー層、分配層、逃し止め層、制御層、時間表示層がある。第一に、時計が動くにはエネルギーが必要であるため、ぜんまいを巻かなければならない。そのエネルギーが蓄えられ、それからゆっくりと放出されなくてはならない。第二に、車輪がそのエネルギーを時計の隅々にまで分配する。第三に、逃し止め機構がエネルギーが一度に放出されることを防ぐ。第四に、制御機構が逃し止め機能を制御する。最後に、これらすべての機構が第五の階層、すなわち時間の表示につながる。階層を先に進んでも、各層が次の層の機能のもつ役割を予測しないことに注目してほしい。エネルギー層は逃し止め層とは関係ない。他についてもそうだ。」
(マイケル・S・ガザニガ(1939-),『右脳と左脳を見つけた男』,第4部 脳の階層,第9章 階層と力学 新しい展望を求めて,青土社(2016),pp.391-393,小野木明恵(訳))
(索引:機械式時計の喩え)
(出典:scholar google)
「私たちは、人類共通の倫理が存在するという立場に立って、その倫理を理解し、定義する努力をしなければならない。信じ難い考え方であるし、一見すると荒唐無稽にも思える。だが、他に手立てはない。世界について、また人間の経験の本質について、私たちが信じていることは実際には偏っている。また、私たちが拠り所にしてきたものは過去に作られた物語である。ある一面では、誰もがそれを知っている。しかしながら、人間は何かを、何らかの自然の秩序を信じたがる生き物だ。その秩序をどのように特徴づけるべきかを考える手助けをすることが、現代科学の務めである。」
(マイケル・S・ガザニガ(1939-),『脳のなかの倫理』,第4部 道徳的な信念と人類共通の倫理,第10章 人類共通の倫理に向けて,紀伊國屋書店(2006),p.214,梶山あゆみ(訳))
(索引:)
マイケル・S・ガザニガ(1939-)
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