2018年5月26日土曜日

4.他人を不愉快にさせるに違いないようなことは、決して口にしないこと。なぜなら、それは君自身にはかり知れぬ害をもたらすからである。(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540))

他人の悪口

【他人を不愉快にさせるに違いないようなことは、決して口にしないこと。なぜなら、それは君自身にはかり知れぬ害をもたらすからである。(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540))】
 「君が口を開くとき、必要でもないかぎり、他人を不愉快にさせるにちがいないようなことは決して口にせぬように注意をはらわなければならない。というのは、時と場所とをわきまえずにそのような発言をすれば、それは君自身にはかり知れぬ害をもたらすからである。この点については、じゅうぶん気をつけるように、と言っておく。というのも、用心ぶかい人間でも、このことではずいぶん失敗するものだからである。また、これを避けるのは至難のわざである。けれども、それがどれほどむずかしいことであっても、それを乗りこえる方法を知っている人にとっては、それだけ大きな報いがあるというものである。」
(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)C、7 発言に注意、p.52、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳))
(索引:他人の悪口)

フィレンツェ名門貴族の処世術―リコルディ (講談社学術文庫)



フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
 「この書物の各断章を考えつくのはたやすいことではないけれども、それを実行に移すのはいっそうむずかしい。それというのも、人間は自分の知っていることにもとづいて行動をおこすことはきわめて少ないからである。したがって君がこの書物を利用しようと思えば、心にいいきかせてそれを良い習慣にそだてあげなければならない。こうすることによって、君はこの書物を利用できるようになるばかりでなく、理性が命ずることをなんの抵抗もなしに実行できるようになるだろう。」
(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)B、100 本書の利用のし方、p.227、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳))

フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)
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情報の信憑性の確認:(a)提供者の利害関係、(b)入手経路、(c)別の筋の情報、(d)裏づけ事実。入手先候補者:(a)当事者、(b)不平家、感情家、(c)大臣の談話、身振り表情、(d)見栄で話す人、(e)口の軽い人。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

情報の信憑性、情報の入手先

【情報の信憑性の確認:(a)提供者の利害関係、(b)入手経路、(c)別の筋の情報、(d)裏づけ事実。入手先候補者:(a)当事者、(b)不平家、感情家、(c)大臣の談話、身振り表情、(d)見栄で話す人、(e)口の軽い人。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
   情報の信憑性の確認方法は、
(a)情報を提供した人たちの利害関係と情熱
(b)情報の対象になっている企みごとを、彼らがどうやって発見できたのか
(c)別の筋から知っていることと一致するか
(d)その情報を本当らしく思わせるような動きや準備が何かされているか
その他、問題の情報をめぐるすべての事情

 情報収集の相手方の候補者は、
(a)交渉家の誘惑にのるような直接の当事者
(b)憤懣を晴らすために時折は重大な事柄を洩らす不平家や感情家
(c)最も有能で忠実な大臣たちの不用意にした談話や身振り表情
(d)自分の洞察力を人に誉められたいために、喜んでとかく人に話してしまう連中
(e)しばしば言うべきでないことまでしゃべる口の軽い人間
 「有能な交渉家は、彼が受け取る情報を、すべてそのまま軽々に信じはしない。その前に、問題の情報をめぐるすべての事情や、情報を提供した人たちの利害関係と情熱や、情報の対象になっている企みごとを、彼らがどうやって発見できたのか、その情報は彼が同じ事柄の様子について別の筋から知っていることと一致するか、その情報を本当らしく思わせるような動きや準備が何かされているか、を検討する。」(中略)
 「交渉家は、任国の秘密を、国事にたずさわっている人々、または、その連中の打ち明け話しをきいている人々から探り出すことができる。交渉家の誘惑にのるような直接の当事者、しばしばいうべきでないことまでしゃべる口の軽い人間、憤懣を晴らすために時折は重大な事柄を洩らす不平家や感情家が、ほとんど必ずといってよいほどに、何人かは存在するものである。
 最も有能で忠実な大臣たちでさえも、常に身構えて用心しているとは限らない。君主と国家に対して一所懸命な大臣でも、不用意にした談話や身振り表情から、いちばん秘密にしていた利害の結びつきや色恋の関係までも、人に見破られた例がいくつかある。
 顧問会議のメンバーでない廷臣でも、その宮廷の政務を長年見聞してきた経験にものをいわせて、顧問会議で決定したことをかぎつけ、自分の洞察力を人に誉められたいために、喜んでとかく人に話してしまう連中がいる。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.62-64、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:情報の信憑性、情報の入手先)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)



(出典:wikipedia
フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)の命題集(Collection of propositions of great philosophers) 「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))


フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)
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2018年5月25日金曜日

03.命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わす。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

幾何学者の方法

【命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わす。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
 命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わす。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する。すなわち、われわれは党派的精神を離れ、目新しさに対する熱意を捨てなければならない。そこで幾何学者たちを真似なければならない。
 「この混乱から抜け出すためには、われわれは党派的精神を離れ、目新しさに対する熱意を捨てなければならない。そこで幾何学者たちを真似なければならない。彼らにあっては、ユークリッドもアルキメデスもいないが、誰もがユークリッドに従い、誰もがアルキメデスに従う。」(中略)「そこで、そういう命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わしさえすればよい。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列しさえすればよい。そうすると、飛躍しないようにしさえすれば、それらの命題の結合関係はすぐにもひとりでに現われ、一つの命題がもう一つの命題から証明されることになる。そして、無意識のうちに人間がすでに獲得したすべての知識の構成要素を形成することになるであろう。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『諸学問を進展させるための格率』、ライプニッツ著作集10、pp.239-240、[小林道夫・1991])
(索引:幾何学者の方法)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)
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02.「普遍的学問」とは何か。それは、手中にある所与のものから、必要なときには、人間の知力が引き出し得るものは何でも、確実な方法により発見させるようなものである。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

普遍的学問の夢

【「普遍的学問」とは何か。それは、手中にある所与のものから、必要なときには、人間の知力が引き出し得るものは何でも、確実な方法により発見させるようなものである。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
 理性の諸原理と本源的な諸経験とがそこに含まれている「普遍的学問」とは、どのようなものか。
(1)人間は、真理に関して、あるいは、少なくとも蓋然性の程度に関して誤ることなく、判断できるようになる。
(2)人間の手中にあるもの、あるいは、所与のものから、人間の知力によっていつか引き出されうるようになるものは何でも、必要なときに、確実な方法により発見できるようになる。
 これによって、人間の幸福を増加させるために、何世代にもわたる研究と途方もない費用とを費やして期待しうるよりも、多くの成果が、より少ない年月の間に、より小さな苦労と支出で引き出されることになる。
 「諸学問の刷新と拡大とに関しての、あるいは、次のような理性的根拠に関しての普遍的学問の基礎と範例[がここで論じられる]。すなわち、その根拠によって、人間は、注意を傾けることにより真理に関して、あるいは、少なくとも蓋然性の程度に関して誤ることなく、判断できるのであり、また、人間の手中にあるもの、あるいは、所与のものから人間の知力によっていつか引き出されうるようになるものは何でも、必要なときに、確実な方法により発見できるようになるだろう。その結果、人間の幸福を増加させるために、さもなければ、何世代にもわたる研究と途方もない費用とを費やして期待しうるよりも、多くの成果が、より少ない年月の間に、より小さな苦労と支出で引き出されることになる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『普遍学の基礎と範例』、ライプニッツ著作集10、p.224、[松田毅・1991])
(索引:普遍的学問)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

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01.理性の諸原理と本源的な諸経験とを含む「普遍的学問」を基礎に集成された、あらゆる有用なものを導き出すための公共の宝庫である「百科全書」が、人類の幸福のために重要である。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

普遍的学問の必要性

【理性の諸原理と本源的な諸経験とを含む「普遍的学問」を基礎に集成された、あらゆる有用なものを導き出すための公共の宝庫である「百科全書」が、人類の幸福のために重要である。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
(1)理性の諸原理と本源的な諸経験とがそこに含まれている、一種の「普遍的学問」が必要である。
(2)次に、普遍的学問を基礎に、あらゆる有用なものを導き出すために十分な、諸々の「真理」の秩序づけられた集成、すなわち一種の「百科全書」を作成すること。これは、あらゆる素晴らしい発見や観察が運び込まれうるような公共の宝庫にも等しいものとなるだろう。
(3)全知識の膨大さに比べ、一人の人間の人生は短く、また精神的にも弱い。しかし、人間は共同体に希望を託すことができ、人類の幸福のためには、これら普遍的学問と百科全書が重要である。
 「しかし、これらの学問をすべて知ることが人間にとって重要であるとか、また、それらをひとりひとりが認識しなくてはならないとか、考える必要はない。なぜなら、生命の短さや、学ぶべきことの多さ、そして人間「精神」の弱さのために、それらに応じて節約が追求されるべきだからであり、また「神」の恩寵のうち非常に大きな二つのもの、つまり、事物の探究において重荷を軽減する方向に自らを動かす人間の共同体と、忘却から認識されたものが一度に呼び起こされうるようにする文字の記録とが用いられるべきだからである。」(中略)「一種の「百科全書」、つまり、諸々の「真理」の秩序づけられた―――それが可能であるかぎり、そこからあらゆる有用なものを導き出すために十分なものの―――集成を作成することが、人類の幸福のために重要であることがここから帰結する。そして、そのような百科全書は、あらゆる素晴らしい発見や観察が運び込まれうるような公共の宝庫にも等しいものとなるだろう。しかし、そのような発見や観察の量は非常に大きいものとなるだろうから、それらのものがとくにその量に比例して国家と自然との研究のために役立つとはいえ、理性の諸原理と本源的な諸経験とがそこに含まれている一種の「普遍的学問」が必要となる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『百科全書あるいは普遍学のための予備知識』、ライプニッツ著作集10、pp.216-217、[松田毅・1991])
(索引:普遍的学問、百科全書)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)
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2018年5月24日木曜日

15.狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))

狡猾の一覧表

【狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
(1)相手を用心深く見る。
(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるようなかたちで、言い(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする。
(14)「私はこういうことはしない」。
(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待つ。
(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。

 「われわれは狡猾を陰険なもしくは邪悪な知恵と考える。そして確かに、狡猾な人間と賢明な人間との間には大きな違いがある。誠実の点ばかりでなく、能力の点においてもそうである。」(中略)

「こうした狡猾の小間物やつまらぬ特徴は、無数にある。それらの一覧表を作ることは、やりがいのあることであろう。狡猾な人間が賢明な人間として通用することほど、国家に害をなすものはないからである。」

(1)相手を用心深く見る。
 「狡猾の一つの特徴は、対談する相手を用心深く見ることである。」

(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
 「もう一つの特徴は、何かすぐにも片づけたいことがあったら、交渉の相手を何か別の話をして喜ばせ、面白がせることである。相手が油断なくかまえていて異議を唱えたりしないためである。」

(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
 「同じような不意打ちは、相手が急いでいて提案されたことをとくと考えるゆとりがない時に案件を持ち出すことによってなされるだろう。」

(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
 「誰かほかの人が手際よく提案して効果を収めそうな議題を阻止したければ、自分もその成功を願っているふりをして、それを失敗させるようなやり方で提案するとよい。」

(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
 「言い出したことを、思いとどまったかのように、途中で打ち切ることは、かえって話し相手にもっと知りたい欲望を掻き立てる。」

(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
 「どんなことでも、こちらから申し出るより、相手に訊き出されてしまったように思われる時のほうが、うまくいくのであるから、いつもと違う様子や顔つきを見せて、訊きやすいようにするのもよい。相手にいつもと違っているのはどうしたわけかと尋ねさせるためである。」

(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるようなかたちで、言いたかったことを提案する。
 「話しにくく、相手に喜ばれそうにもない事柄にあっては、言うことが余り重んぜられていない誰かに口火を切ってもらい、その後でもっと発言力のある人がたまたま口に出し、前の人の言ったことで問い質されるようにするのは、よいことである。」

(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
 「自分も関係していると見られたくない事柄にあっては、「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか述べるように、世間の名を借りるのも、狡猾の特徴である。」

(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
 「私が知っている人は、手紙を書く時、最も重要なことを、あたかもそれが付けたりであるかのように、追伸で述べたものである。」

(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
 「私の知っているもう一人は、話をする段になると、最も話したいことをとばして先へ進み、また後戻りして、そのことについて、ほとんど忘れていたことでもあるかのように、話したものである。」

(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
 「説得したい相手が不意にやってきそうだと思っていた時なのに、驚いた顔をし、手に手紙をもっていたり、いつもしない何かをしていたりするところを見られるようにする。自分から言い出したいことについて尋ねられたいためである。」

(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
 「他の人が覚えて使ってもらいたいと思う言葉を、独言のようにふと漏らし、そうなったら、それにつけこむのも、狡猾の特徴である。」

(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする。
 「われわれイギリスで「フライパンの中で猫を引っくり返す」と言っている狡猾もある。これは自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする場合である。実際のところ、二人の間でそんなことが起こる時、それが二人のどちらから最初に持ち出され、どちらから始まったかを明らかにするのは、容易ではない。」

(14)「私はこういうことはしない」。
 「「私はこういうことはしない」と言うように、否定して自分を正当化しながら、他の人をあてこすって間接に非難する人もいるが、それも一つの方法である。」

(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
 「噂話や物語をいくつでもすらすらと話せるので、何かあてこすりたいことがあっても、むきつけに言わず、噂話でくるむことができる人もある。これはむきつけに言うより、話す人自身を保護することに、また他の人々に面白がって吹聴させるのに役だつ。」

(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
 「もらいたいと思う返事を〔あらかじめ〕自分の言葉や提案でまとめておくのも、狡猾のうまい点である。そうしておけば、相手は返事をすることに、それほどこだわらなくてすむからである。」

(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待つ。
 「ある人々が何か自分の言いたいことをしゃべるのに、どんなに長い間待っているか、どんなに遠廻りするか、肝腎の話をするまでに、どんなに多くの別のことを持ち出すか、不思議な気がする。しれは大いに忍耐を要することであるが、しかし非常に有効である。」

(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。
 「不意の、無遠慮な、思いがけない問いは、しばしば人を驚かせ、本心を打ち明けさせる。」

(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』二二、pp.103-109、[渡辺義雄・1983])
(索引:狡猾の一覧表)

ベーコン随想集 (岩波文庫 青 617-3)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


フランシス・ベーコン(1561-1626)
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16.悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))

ヘビの賢さとハトの素直さ

【悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
 悪に対して、どう対処するか。
(1)無防備にも、ぺてんと邪悪な手管に先手を取られれば、あなたの生命が危うくされるが、逆に、あなたが先に悪を見破れば、悪はその効力を失う。
(2)あなたが悪を知っているということを認めさせることができなくては、卑劣で精神の腐敗した人たちは、一切の道徳を軽蔑することになる。また、正直な人も、悪の知識の助け無くしては、邪な人たちを改悛させることができない。
(3)従って、人間は何をなすべきかとは別に、人間は実際に何をなしているか、すなわち悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。

 「パシリスクス〔ひとをにらんで殺すという伝説のヘビ〕について伝えられる寓話では、これがあなたをさきに見つければあなたはそのために死ぬが、あなたがそれをさきに見つければそれは死ぬといわれているように、ぺてんとよこしまな手管についても同様だからである。

すなわち、それらは、見破られたら生命を失うが、先手をとれば相手の生命を危くする。

それゆえに、われわれはマキアヴェルリやその他の、人間はどんなことをするかをしるして、どんなことをすべきかはしるさなかった人びとに負うところが大きいのである。

というのは、ヘビの性情を残らず正確に知っていなければ、その卑劣さとはらばい、そのうねり歩きとすべっこさ、その嫉妬と毒牙など、すなわち、悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さ〔『マタイによる福音書』一〇の一六〕を兼ねそなえることはできないからである。

それというのも、この心得がなければ、徳はあけっぱなしで、無防備になるからである。

それどころか、正直なひとも、悪の知識の助けなくしては、よこしまな人たちを改悛させるのに役だつことができないからである。

というのは、精神の腐敗した人たちは、正直は品性の単純さから生まれ、説教者や学校教師や人びとのうわべだけのことばを信ずることから生まれるのだときめてかかっているからである。

それゆえ、かれら自身の腐った考えのぎりぎりいっぱいのところをも知っているのだということをかれらに認めさせることができなければ、かれらはいっさいの道徳を軽蔑するのである。

―――「愚かな者は、かれが心に考えていることを告げられなければ、知恵のことばをうけいれない」〔『箴言』一八の二〕。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第二巻、二一・九、pp.282-283、[服部英次郎、多田英次・1974])

(索引:ぺてんと邪な手管の研究、ヘビの賢さ、ハトの素直さ)

学問の進歩 (岩波文庫 青 617-1)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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2018年5月23日水曜日

13.反乱の防止法(フランシス・ベーコン(1561-1626))

反乱の防止法

反乱の防止法(フランシス・ベーコン(1561-1626))


(1)反乱の諸原因

(a)宗教における革新
(b)重税
(c)法律や慣例の変更、特権の廃止
(d)一般的圧政
(e)くだらない人物の抜擢
(f)他国人
(g)食糧不足
(h)除隊兵士
(i)どうにもならなぬ派閥争い
(j)国民を怒らせて共通の目的のために集合団結させる全て


(2)上層階級と一般大衆の両方に不満を抱かせないこと。とくに、上層階級の人たちの不満が危険である。
(a)国民の不満の危険性は大きくない。
(b)一般大衆は上層階級によって扇動されない限り、動きがにぶい。
(c)上層階級は群衆が自ら動き出そうとしない限り、微力である。

(3)貧富の差を大きくし過ぎないこと。

(a)欠乏と貧困を防止する。
(b)財宝と金銭が少数の手に集まらないようにする。
(c)暴利をむさぼる高利貸し、独占、大牧場などを抑制する。


(4)国民に適度の自由を与えること。
 苦痛や不満を解消させるために、適度の自由を与えること。


(5)国民に希望を抱かせ続けること。
 巧みに希望を抱かせつづけ、人々を希望から希望へ進ませること。

(6)政策の真の意図を隠しておくこと


(7)反対派のリーダーを作らない。
 不満を抱く人々が頼りにし、彼らの団結の中心になれる有望な頭首がいないように用心し予防する。

(8)反対派のリーダーを国家の側に引き入れること。
 傑出して名声もあり信頼されている人物は国家の側に、しっかりした間違いのない仕方で引き入れて、これと妥協する。

(9)反対派にもう一人のリーダーを立て、反対派を分裂させること。
 力のあるリーダーに対抗させるために、同派の他の誰かと対決させて、その名声を二分しなければならない。

(10)反対派を分裂、分断し、お互いに反目させること。
 一般に、国家に敵対する全ての党派や同盟を分裂させたり分断したりして、彼らを互に反目させ、少なくとも信用しないようにすること。
(11)実力による担保も必要だ。


(1)反乱の諸原因

(a)宗教における革新
(b)重税
(c)法律や慣例の変更、特権の廃止
(d)一般的圧政
(e)くだらない人物の抜擢
(f)他国人
(g)食糧不足
(h)除隊兵士
(i)どうにもならなぬ派閥争い
(j)国民を怒らせて共通の目的のために集合団結させる全て

 「反乱の原因と動機は、宗教における革新、重税、法律や慣例の変更、特権の廃止、一般的圧政、くだらない人物の抜擢、他国人、食糧不足、除隊兵士、どうにもならなぬ派閥争い、そのほか国民を怒らせて共通の目的のために集合団結させるすべてである。
 対策について言えば、一般的予防法がいくつかあるかもしれない。それについて述べることにしよう。適切な治療について言えば、それは個々の病弊に応えなければならない。したがって、それは規則よりむしろ思慮に委ねなければならない。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.73、[渡辺義雄・1983])
(索引:反乱の防止法)

(2)上層階級と一般大衆の両方に不満を抱かせないこと。とくに、上層階級の人たちの不満が危険である。
(a)国民の不満の危険性は大きくない。
(b)一般大衆は上層階級によって扇動されない限り、動きがにぶい。
(c)上層階級は群衆が自ら動き出そうとしない限り、微力である。

 「これらの一つが不満である時、危険は大きくない。一般大衆は上層階級によって扇動されない限り、動きがにぶいし、また上層階級は群衆がみずから動き出そうとしない限り、微力だからである。上層階級が下層階級の間に騒動が持ち上がるのをひたすら待ち望み、いよいよとなったら態度を表明しかねない時が危険である。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.75、[渡辺義雄・1983])

(3)貧富の差を大きくし過ぎないこと。

(a)欠乏と貧困を防止する。
(b)財宝と金銭が少数の手に集まらないようにする。
(c)暴利をむさぼる高利貸し、独占、大牧場などを抑制する。

 「第一の対策もしくは予防法は、前述した反乱の材料となる原因をあらゆる手段を尽くして取り除くことである。それは国内の欠乏と貧困である。」(中略)

「何よりもまず、国家の財宝と金銭が少数の手に集まらないように、適切な政策が取られなければならない。さもなければ、国家に大きな蓄えがあっても、飢えることがありうるからである。

また金銭は肥料のようなものであって、ばら蒔かなければ役には立たない。

そうするには真っ先に、暴利をむさぼる高利貸し、独占、大牧場などを抑制すること、少なくともきびしく取り締まることである。」

(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.74、[渡辺義雄・1983])

(4)国民に適度の自由を与えること。
 苦痛や不満を解消させるために、適度の自由を与えること。
 「苦痛や不満を解消させるために適度の自由を与えることは、(そのために度はずれの尊大とか横柄とかにならない限り)安全な方法である。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.75、[渡辺義雄・1983])

(5)国民に希望を抱かせ続けること。
 巧みに希望を抱かせつづけ、人々を希望から希望へ進ませること。

 「時宜をはかって巧みに希望を抱かせつづけ、人々を希望から希望へ進ませることは、不満という毒に対する最上の解毒剤の一つである。

人々の心を満足によって引きつけられなくても、希望によって引きつけられるとしたら、またどんな害悪もはけ口の希望が少しもないほど、避けられぬものではないと思わせるように、事態を処理できるとしたら、それは賢明な統治と行政の確かなしるしである。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、pp.75-76、[渡辺義雄・1983])

(6)政策の真の意図を隠しておくこと

 「私は王侯の口からふと洩れた才気走った辛辣な言葉が、反乱を燃え立たせたことに気づいている。」(中略)

確かに、微妙な事件や不安定な時代に対処するには、王侯は自分の言うことに気をつける必要がある。

とくに短い言葉に気をつけなければならない。それは矢のように飛び出し、彼らの秘密の意図から発射されたと思われる。

くだくだしい談話は、かえって退屈なものであって、それほど注意されないからである。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.77、[渡辺義雄・1983])

(7)反対派のリーダーを作らない。
 不満を抱く人々が頼りにし、彼らの団結の中心になれる有望な頭首がいないように用心し予防する。

(8)反対派のリーダーを国家の側に引き入れること。
 傑出して名声もあり信頼されている人物は国家の側に、しっかりした間違いのない仕方で引き入れて、これと妥協する。

(9)反対派にもう一人のリーダーを立て、反対派を分裂させること。
 力のあるリーダーに対抗させるために、同派の他の誰かと対決させて、その名声を二分しなければならない。

(10)反対派を分裂、分断し、お互いに反目させること。
 一般に、国家に敵対する全ての党派や同盟を分裂させたり分断したりして、彼らを互に反目させ、少なくとも信用しないようにすること。

 「不満を抱く人々が頼りにし、彼らの団結の中心になれる有望な、あるいは適当な頭首がいないように用心し予防することも、衆知の、しかしすぐれた注意事項である。

私の言う適当な頭首とは、傑出して名声もあり、不満を抱く一派に信頼があり、彼らの注目の的となり、当人自身にも不満があると思われる人のことである。

この種の人物は国家の側に、しっかりした間違いのない仕方で引き入れて、これと妥協するか、さもなければこれに対抗させるために、同派の他の誰かと対決させて、その名声を二分しなければならない。一般に、国家に敵対するすべての党派や同盟を分裂させたり分断したりして、彼らを互に反目させ、少なくとも信用しないようにすることは、一考の余地がある対策である。国家の行政を支持する人々が、仲たがいや派閥争いに明け暮れ、反対する連中が仲よく団結しているならば、それは絶望的な状況だからである。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.76、[渡辺義雄・1983])

(11)実力による担保も必要だ。

 「最後に、王侯は万一に備え、反乱を初期のうちに鎮圧するために、武勇に秀でた誰か傑出した人物を、一人またはそれ以上、必ずそば近くにおくがよい。そうしないと、騒動が突発した初期に、宮廷内に相応以上に、動揺が起こるにきまっているからである。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』一五、p.77、[渡辺義雄・1983])

ベーコン随想集 (岩波文庫 青 617-3)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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2018年5月22日火曜日

39.学問の真の目的は、人類の利益に役立つことだ。以下のような目的の見誤りは大きな過ちである。金儲けや生活の手段、戦いに勝つための知恵、装飾と名声、好奇心と探求の欲求、心を楽しませてくれる喜び。(フランシス・ベーコン(1561-1626))

学問の目的

【学問の真の目的は、人類の利益に役立つことだ。以下のような目的の見誤りは大きな過ちである。金儲けや生活の手段、戦いに勝つための知恵、装飾と名声、好奇心と探求の欲求、心を楽しませてくれる喜び。(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
(a)金儲けと生活の資のため
 利得や販売のための店を求めているようである。
(b)知恵で勝って相手をやっつけることができるため
 戦い争うための砦や展望のきく陣地を求めているようである。
(c)装飾と名声のため
 高慢な精神がその上に登るための高い塔を求めているようである。
(d)自然な好奇心と探求の欲求のため
 さ迷い歩く移り気な精神が美しい景色を見ながらあちこちと歩くためのテラスを求めているようである。
(e)様々な喜びで心を楽しませるため
 探し求めて落ち着かない精神を休ませるための臥床を求めているようである。
(f)人類の利益になり、役に立つよう誠実に立派に使うため
 創造主を賛美し人間のみじめさを救うために、豊かな倉庫を求めているようである。
 「しかし、他のどれよりも大きなあやまちは、知識の最後の、あるいは終極の目的を見誤りあるいははきちがえることである。というのは、人びとが学問と知識を求めるようになるのは、ときとして、自然な好奇心と探求の欲求からであり、ときとして、さまざまな喜びで心を楽しませるためであり、ときとして、装飾と名声のためであり、またときとして、知恵で勝って相手をやっつけることができるためであるが、しかしたいていは、かねもうけと生活の資のためであって、神から授かった理性を、人類の利益になり、役にたつよう、誠実に、りっぱに使うためであることはまれであって、人びとはまるで、知識のなかに、探し求めておちつかない精神を休ませるための臥床を求めているようでもあり、さまよい歩く移り気な精神が美しい景色を見ながらあちこちと歩くためのテラスを求めているようでもあり、高慢な精神がそのうえにのぼるための高い塔を求めているようでもあり、戦い争うためのとりでや展望のきく陣地を求めているようでもあり、利得や販売のための店を求めているようでもあるが、創造主を賛美し人間のみじめさを救うために、豊かな倉庫が求められているようではない。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、五・一一、pp.67-68、[服部英次郎、多田英次・1974])
(索引:学問の不健康な状態、学問の目的)

学問の進歩 (岩波文庫 青 617-1)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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