2023年3月27日月曜日

情念論(第3版) 情動、欲求、意志の総合理論

情念論(第3版) ──情動、欲求、意志の総合理論



《概要》

 情動、欲求、意志とは何か。この問いへの解答の骨格は、既にデカルト『情念論』に与えら れており、基礎的な部分における修正は不要である。むしろ、人間に関する最も基礎的な概念を明確化し、総合的に理解するためには、デカルト『情念論』の再評価が必要である。ここで は、デカルト『情念論』のアップデートを試みる。
 情動は、その発動機制において神経生理学的な基盤を持ち、概念的にはある程度明確である にもかかわらず、具体的な発現バリエーションが余りに多様で、総合的に論じられることがな かったように思われる。なぜ、このように多様な情動が生じるのかが、全体理解の鍵である。 
 バリエーション展開の次元が、3つある。(1)情動誘発刺激の感覚様相の違い、すなわち外部感 覚、肢体感覚、内臓感覚などによる違いである。次に、(2)情動誘発刺激は、感覚だけでなく、想起対象、想像対象であることによって、過去、未来(予測、規範、構想)といった様相を帯び、さらに認知対象、概念・理論対象の場合にまで及ぶ。さらに、(3)情動誘発刺激として認知された対象が、外的対象、他者だけでなく、自己状態、他者状態、自己行為の他者評価、 自己行為の自己評価、自己向け他者行為などの違いによって、情動の様相が変わってくる。これら3つの次元は、ほぼ独立の次元であり、この組み合わせが極めて多様な情動を生む。
 欲求と意志は、情動の中で基礎づけられる。情動は、個人の認知構造、信念体系を通じて、 集団の持つ文化特性とも相関するため、情動の総合的な理解は、社会的な事象の解明のためにも基礎的な役割を演ずると思われる。

《改訂履歴》
2019/07/22 第1版 情念論
2020/07/27 第2版 情念論(第2版)──情動、欲求、意志の総合理論
2023/03/27 第3版 情念論(第3版)──情動、欲求、意志の総合理論
 (11.2)マレーの高次の動機の新解釈...追加
 (12)自由意志論...大幅に追加
 (7.5) 模倣する人に注意を向け、好意を抱く傾向、模倣する傾向(マルコ・イアコボーニ(1960-))...追加
 (1.2)情動とは何か、情動の暫定的定義に、アントニオ・ダマシオ(1944-)の概念を追加
 (1.2.5.1)構成主義的情動理論(リサ・フィルドマン・バレット(1963-)) 追加
 (1.2.5.2)エモーティヴ(ウィリアム・M・レディ(1947-)) 追加



《目次》

(1)驚き、恐怖
(1.1)概要
(1.2)情動とは何か、情動の暫定的定義
(1.2.1)感覚で与えられた対象や事象
(1.2.2)あるいは想起された対象や事象
(1.2.3)自動的に 引き起こされる
(1.2.4)身体的パターン
(1.2.5)喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される
(1.2.5.1)構成主義的情動理論(リサ・フィルドマン・バレット(1963-))
(1.2.5.2)エモーティヴ(ウィリアム・M・レディ(1947-))

(1.2.6)対象や事象の評価を含む
(1.2.7)脳や身体の状態を一時的に変更する
(1.2.8)思考や行動に 影響を与える
(1.2.9)情動誘発因
(1.2.10)あるものは進化の過程で獲得
(1.2.11)他のものは個人の生活の中で学習
(1.2.12)あるときは無意識的に情動が誘発される
(1.2.13)あるときは意識的な評価段階を経て情動 が誘発される
(1.2.14)誘発された情動の実体

(1.3)情動の種類
(1.3.1)背景的情動
(1.3.1.1)気分
(1.3.1.2)感情円環図(ジェイムズ・A・ラッセル(1947-))

(1.3.2)基本的情動
(1.3.3)社会的情動
(1.4)受動としての情動、情動の認知が喚起する情念、意志による構想が喚起する情操 (アラン/エミール=オーギュスト・シャルティエ(1868-1951))
(1.4.1)情念
(1.4.2)情操

(1.5)感情
(1.6)驚き、過剰な驚きとしての恐怖
(1.6.1)情念の起源としての驚き(アラン/エミール=オーギュスト・シャルティエ (1868-1951)
(1.7)生物的準備性(スティーブン・ピンカー(1954-))
(1.8)重視、軽視、崇敬、軽蔑
(1.9)秩序欲求、理解欲求
(2)快、嫌悪
(2.1)概要
(2.2)視覚表象が誘発する快と嫌悪による美、醜の感知
(2.3)外的感覚による表象が誘発する愛と憎しみによる広義の美、醜の感知
(2.4)内的感覚と精神固有の理性による表象が誘発する愛と憎しみによる善、悪の感知
(2.5)感覚が誘発する快と嫌悪、愛と憎しみは、通例強烈で欺くことがある
(2.6)真なる美、醜、善、悪かどうかは別問題
(2.7)所有への愛、対象への愛の区別
(2.8)愛着、友愛、献身の区別
(2.9)感覚欲求
(3)喜び、悲しみ
(3.1)概要
(3.2)喜び、悲しみ
(3.3)善の保存の欲望、喜び
(3.4)悪の回避の欲望、悲しみ
(3.5)善の獲得の欲望、完全性への欲求、秩序と調和への愛
(3.6)安心、希望、不安、執着、絶望、恐怖
(3.7)現実自己、理想自己、あるべき自己
(3.8)倦怠、嫌気、心残り、爽快
(3.9)優越欲求、被害回避欲求
(4)内的自己満足、後悔
(4.1)概要
(4.2)内的自己満足、後悔
(4.3)自己評価基準、自己称賛、自己非難
(4.4)遊び欲求、自律欲求、達成欲求、反動欲求
(5)誇り、恥
(5.1)概要
(5.2)誇り、恥
(5.3)内的帰属原因、外的帰属原因
(5.4)同胞からの称賛への希望、非難への不安
(5.5)顕示欲求、支配欲求、屈辱回避欲求、屈服欲求、服従欲求
(6)喜び、憐れみ、羨み、笑いと嘲り
(6.1)概要
(6.2)喜び、憐れみ、羨み、笑いと嘲り
(6.3)愛育欲求、性愛欲求
(7)好意、憤慨
(7.1)概要
(7.2)好意、憤慨
(7.3)欲情の愛、好意の愛の区別
(7.4)親和欲求、拒否欲求、隔離欲求
(7.5) 模倣する人に注意を向け、好意を抱く傾向、模倣する傾向(マルコ・イアコボーニ(1960-))

(8)感謝、怒り
(8.1)概要
(8.2)感謝、怒り
(8.3)怒りの効用
(8.4)怒りの治療法
(8.5)援助欲求、防衛欲求、攻撃欲求
(9)善、悪、美、醜と、情念の関係
(9.1)善・悪、美・醜には真・偽の区別がある
(9.2)真なる善、真なる美とは何か
(9.2.1)真なる善への疑問(エリーザベト・フォン・デア・プファルツ(1618-1680))
(9.2.2)情動が美・醜・善・悪を定義するわけではない
(9.2.3)価値基準が普遍的なら、美・醜・善・悪が定義できる
(9.2.4)事実言明から価値を導出することはできない(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタ イン(1889-1951))
(9.2.5)価値とは単にある権威の恣意的な受容とは思われない(ジョージ・ゲイロード・ シンプソン(1902-1984))
(9.2.6)人間の本性や「自然」による価値基準の基礎づけは誤りである(アントニー・フ ルー(1923-2010))
(9.2.7)世界の諸事実の中の人間の倫理という現象の理解が、価値を基礎づけることがで きる(コンラッド・ハル・ウォディントン(1905-1975))
(9.2.8)諸事実だけでなく価値基準も、誤謬を含み得る仮説であり、その論理的帰結と経 験による批判的討論の対象である(カール・ポパー(1902-1994))
(9.2.9)善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理性を用いて認識することがで きる(ルネ・デカルト(1596-1650))
(9.3)真なる善・悪、偽なる善・悪による情念の評価
(9.3.1)真なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(9.3.2)真なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り
(9.3.3)偽なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(9.3.4)偽なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り
(10)情動誘発刺激の様々な様相、自然的欲求の位置づけ
(10.1)情動とは何か、情動の暫定的定義
(10.2)情動誘発刺激
(10.3)情動誘発刺激の様々な様相
(10.3.1)概要
(10.3.2)外部感覚
(10.3.3)共通感覚
(10.3.4)自分の肢体のなかにあるように感じる痛み、熱さ、その他の変様
(10.3.5)身体ないしその一部に関係づける知覚としての、飢え、渇き、その他の自然的 欲求
(10.3.6)精神の能動によらない想像、夢の中の幻覚や、目覚めているときの夢想
(10.3.7)認知
(10.3.8)想起
(10.3.9)想像
(10.3.10)理解
(10.3.11)運動・行動
(10.4)有能性への欲望(ロバート・W・ホワイト(1904-2001))
(11)欲求の階層
(11.1)マズローの欲求の階層の新解釈(アブラハム・マズロー(1908-1970))
(11.2)マレーの高次の動機の新解釈(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(12)自由意志論
(12.1)受け継がれてきた文化の受け容れ(真理、価値)
(12.1.1)デカルトの第一格率
(12.1.2)問題中心的、共同社会感情、対人関係、民主的性格構造、文化からの自律性(ア ブラハム・マズロー(1908-1970))
(12.2)真理は、経験と理性によって認識することができる
(12.2.1)欲望は、真なる認識に従っているかどうか
(12.2.2)より包括的な真理の把握は、自由意志の要素の一つ
(12.2.3)偏見、先入見からの自由、現実の受容、不確かさへの志向(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))
(12.3)自己の情念は概ね頼りになる
(12.3.1)情念は、事物の価値の可能性を感知させるので、巧みに利用すること
(12.3.2)自己の情動の自然な受容、絶えず新鮮な評価、創造性、神秘的経験、大洋感情 (アブラハム・マズロー(1908-1970))
(12.4)自己の情念に従うことの是非
(12.4.1)道徳が腐敗している社会でなければ、自分の情念を頼りにできる
(12.4.2)自己実現における二分性の解決(アブラハム・マズロー(1908-1970))
(12.5)価値も、経験と理性により認識できる
(12.5.1)善・悪、美・醜には真・偽の区別がある
(12.5.2)自律的な価値体系、多様な価値体系の受容(アブラハム・マズロー(1908- 1970))
(12.6)私たちに依存するものと、依存しないものを区別すること
(12.7)意志の自由の存在
(12.8)意志決定に伴う情動
(12.8.1)概要
(12.8.2)自己状態の予測に伴う情動(再掲)
(12.8.3)自己行為の自己評価に伴う情動(再掲)
(12.8.4)意志決定に伴う情動
(12.8.5)不確かさへの志向(リチャード・M・ソレンティーノ(1943-)
(12.8.6)過去の意志決定に伴う情動
(12.8.7)徳という欲望
(12.8.8)自己評価の高慢と高邁の違い
(12.8.8.1)高邁
(12.8.8.2)高慢
(12.8.8.3)超越性、プライバシーの欲求、他者からの自律性(アブラハム・マズロー (1908-1970))
(12.8.9)高邁の反対の卑屈の情念

《情動と欲望の一覧》

(1)驚き、恐怖

《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
   (時間様相)     (現在)     (過去)      (未来)     (未来)     (未来)
  《認知対象》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
  《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
  《属性》
すべて 新奇性             驚き   驚き  好奇心
         面白い(Malatesta/Haviland 1982)
         動揺(Fromme/O'Brien 1982)
         緊張(Arieti 1970)
         恐怖   恐怖        好奇心
                    秩序欲求
                    理解欲求
                    認知の欲求
                    安全と安定
                      の欲求
外的対象  価値  重視                   所有欲求
                    支配欲求
      無価値 軽視
人間       価値   崇敬                   服従欲求
      無価値 軽蔑                   支配欲求

(2)快、嫌悪
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
           (時間様相)      (現在)     (過去)      (未来)      (未来)     (未来)
  《認知対象》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
  《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
  《属性》
外的対象   美               快                         感覚遊び
                        感覚欲求
                        芸術
        美への愛
                        審美的欲求
     醜     嫌悪
    広義の美 美への愛
        所有への愛                   所有欲求
        対象への愛
    広義の醜 醜への憎しみ
他者        広義の美 美への愛
        愛情(Darwin 1872)
    低い価値  愛着
    同等価値  友愛
    高い価値      献身
    広義の醜 醜への憎しみ
認知対象と  善         愛
理論対象         悪    憎しみ



(3)喜び、悲しみ
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己状態 健康 快 予感(Pluchik 1980)
病気 不快 予感 安全と安心の欲求
善 喜び 安心 善の保存の欲望
幸せ(Fehr/Russell 1984)
意気揚々(Fromme/O'Brien 1982)
満足(Fromme/O'Brien 1982)
静穏(Osgood 1966)
善→善 倦怠、嫌気 希望 優越欲求
退屈(Osgood 1966)
不安、恐怖
執着
絶望
苦悩(Izard 1977,1992b)
期待(Osgood 1966)
悪→善 喜び 爽快
善→悪 悲しみ 心残り
悪 悲しみ 不安、恐怖 悪の回避の欲望
悪→悪 悲しみ 絶望 被害回避欲求
の癒し 善の獲得の欲望
受容(Pluchik 1980)
完全性へ
の欲望
秩序と調和
への欲望
現実自己 喜び 理想自己
落胆、不満 理想自己
現実自己 喜び あるべき自己
罪悪感と あるべき自己
自己卑下
現実自己 喜び 他者(理想自己)
恥、当惑 他者(理想自己)
現実自己 喜び 他者(あるべき自己)
危機感と 他者(あるべき自己)
恐れ

(4)内的自己満足、後悔
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己行為の 成功 快 身体遊び
自己評価 活動欲求
楽しい(Izard 1977,1992b)
遊び欲求
スポーツ
失敗 不快
善 内的自己満足 自己評価 意志を実現
自己の尊厳感 の基準 させる力へ欲求
自律欲求
達成欲求
自己尊重の欲求
悪 後悔 自己評価 反動欲求
廉恥心 の基準

(5)誇り、恥
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己行為の 成功 快 同情的な
他者評価 失敗 不快 支持への欲求
自己行為の 善 誇り 同胞からの
他者評価 賞賛への希望
顕示欲求
支配欲求
屈辱回避欲求
承認の欲求
悪 恥 同胞からの 屈服欲求
非難への不安 服従欲求
罪(Izard 1977,1992b)
内的理由 成功 大きい誇り
外的理由 成功 小さい誇り
内的理由 失敗 大きい恥
外的理由 失敗 小さい恥

(6)喜び、憐れみ、羨み、笑いと嘲り
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
他者状態 他者情動 共感 愛育欲求
博愛感情 性愛欲求
善 喜び 羨み
悪 憐れみ 笑いと嘲り

(7)好意、憤慨

《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
   (時間様相)     (現在)     (過去)      (未来)     (未来)     (未来)
  《認知対象》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
  《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
    《属性》
他者行為   善           好意                     親和欲求
                言い寄り(Trevarthen 1984)
         欲情の愛
         好意の愛
模倣する他者   好意     模倣欲求
     悪              憤慨               拒否欲求
                反抗(Trevarthen 1984)
                隔離欲求
         侮蔑(Izard 1977,1992b)

(8)感謝、怒り
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己向け 善 感謝 援助欲求
他者行為 愛と集団帰属
の欲求
悪 怒り 防衛欲求
攻撃欲求
(10)情動誘発刺激の様々な様相、自然的欲求の位置づけ
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
すべて 新奇性 驚き 驚き 好奇心
面白い(Malatesta/Haviland 1982)
動揺(Fromme/O'Brien 1982)
緊張(Arieti 1970)
恐怖 恐怖 好奇心
秩序欲求
理解欲求
認知の欲求
安全と安定
の欲求
外部感覚 広義の美 快 有能性への欲望
感覚遊び 刺激への欲求
美への欲求
芸術
広義の醜 嫌悪
共通感覚 広義の美 快
広義の醜 嫌悪
肢体状況 広義の美 快
広義の醜 嫌悪
痛み
自然的 広義の美 快 自然的欲求
欲求 広義の醜 嫌悪
飢え、渇き
気持ち悪い
嘔吐
幻覚・ 広義の美 快
夢想 広義の醜 嫌悪
認知対象 広義の美 快 有能性への欲望
認知の欲求
広義の醜 嫌悪
想起対象 広義の美 快 有能性への欲望
広義の醜 嫌悪
想像対象 広義の美 快 有能性への欲望
想像遊び
広義の醜 嫌悪
理解対象 広義の美 快 有能性への欲望
知的遊び 認識への欲求
学問
広義の醜 嫌悪
理論対象 善 愛
悪 憎しみ
運動・ 広義の美 快 有能性への欲望
行動 身体的遊び 活動欲求
スポーツ
広義の醜 嫌悪

(12.8)意志決定に伴う情動
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己状態 善 喜び 安心
悪 悲しみ 希望
不安
執着
絶望
自己行為の 善 内的自己満足
自己評価 悪 後悔
意志以外の 高慢
属性保持者 謙虚
としての自己
意志決定者 高邁 良心の 不決断 徳という
としての自己 卑屈 悔恨 欲望
大胆、勇気 自己効力期待
対抗心
臆病、恐怖
不確かさ 快 不確かさ志向
不快 不確かさ回避
自己の情動 喜び


(1)驚き、恐怖
《目次》
(1.1)概要
(1.2)情動とは何か、情動の暫定的定義
(1.2.1)感覚で与えられた対象や事象

(1.2.2)あるいは想起された対象や事象
(1.2.3)自動的に 引き起こされる
(1.2.4)身体的パターン
(1.2.5)喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される
(1.2.5.1)構成主義的情動理論(リサ・フィルドマン・バレット(1963-))
(1.2.5.2)エモーティヴ(ウィリアム・M・レディ(1947-))
(1.2.6)対象や事象の評価を含む
(1.2.7)脳や身体の状態を一時的に変更する
(1.2.8)思考や行動に 影響を与える
(1.2.9)情動誘発因
(1.2.10)あるものは進化の過程で獲得
(1.2.11)他のものは個人の生活の中で学習
(1.2.12)あるときは無意識的に情動が誘発される
(1.2.13)あるときは意識的な評価段階を経て情動 が誘発される
(1.2.14)誘発された情動の実体

(1.3)情動の種類
(1.3.1)背景的情動
(1.3.1.1)気分
(1.3.1.2)感情円環図(ジェイムズ・A・ラッセル(1947-))

(1.3.2)基本的情動
(1.3.3)社会的情動


(1.4)受動としての情動、情動の認知が喚起する情念、意志による構想が喚起する情操 (アラン/エミール=オーギュスト・シャルティエ(1868-1951))
(1.4.1)情念
(1.4.2)情操

(1.5)感情
(1.6)驚き、過剰な驚きとしての恐怖
(1.6.1)情念の起源としての驚き(アラン/エミール=オーギュスト・シャルティエ (1868-1951)
(1.7)生物的準備性(スティーブン・ピンカー(1954-))
(1.8)重視、軽視、崇敬、軽蔑
(1.9)秩序欲求、理解欲求

(1.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
   (時間様相)     (現在)     (過去)      (未来)     (未来)     (未来)
  《認知対象》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
  《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
  《属性》
すべて 新奇性             驚き   驚き  好奇心
         面白い(Malatesta/Haviland 1982)
         動揺(Fromme/O'Brien 1982)
         緊張(Arieti 1970)
         恐怖   恐怖        好奇心
                    秩序欲求
                    理解欲求
                    認知の欲求
                    安全と安定
                    の欲求
外的対象  価値  重視                   所有欲求
                    支配欲求
      無価値 軽視
人間       価値   崇敬                   服従欲求
      無価値 軽蔑                   支配欲求

※面白い、動揺、緊張は下記参照。
原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

(1.2)情動とは何か、情動の暫定的定義
 感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。 それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に 影響を与える。情動誘発因のあるものは進化の過程で獲得され、他のものは個人の生活の中で学習される。あるときは無意識的に情動が誘発され、またあるときは意識的な評価段階を経て情動 が誘発される。誘発された情動の実体はまた意識の諸様相であり情動誘発因の場合もある。

参照: 狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(1.2.1)感覚で与えられた対象や事象
 (a.1)物理的環境
  もともと情動の基本的役割は、生来の生命監視機能と結びついている。情動の役割 は、命の状態を心にとどめ、その命の状態を行動に組み入れることだった。

(1.2.2)あるいは想起された対象や事象
 (b.1)文化的環境
  (i)文化的環境は、情動の誘発に大きな影響を与える。そして逆に情動が、文化的構築 物の評価、発展において重要な役割を担っている。それが、有益な役割を担うためには、文化 が科学的で正確な人間像に基づかなければならない。

 (b.2)社会的環境
  社会的環境も、情動の誘発に大きな影響を与える。それは、人間集団の命の状態の 指標でもある。そして逆に情動が、社会的環境の評価、改善において重要な役割を担ってい る。情動と、社会的な現象との関係を知的に考察することは、社会の苦しみを軽減し幸福を強 化するような物質的、文化的環境状況を生み出すために必要なことである。


(1.2.3)自動的に 引き起こされる
 (c.1)意識的熟考なしに自動的に作動する。

(1.2.4)身体的パターン
 (d.1)情動は有機体の身体(内部環境、内臓システム、前庭システム、筋骨格システム)に 起因する。情動は、一つのパターンを形成する一連の複雑な化学的、神経的反応である。
 (d.2)情動は生物学的に決定されるプロセスであり、生得的に設定された脳の諸装置に依存 している。
 (d.3)情動を生み出すこれらの装置は、脳幹のレベルから始まって上位の脳へと昇っていく、かなり範囲の限定された様々な皮質下部位にある。これらの装置は、身体状態の調節と表象を担う一連の構造の一部でもある。


(1.2.5)喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される

(1.2.5.1)構成主義的情動理論(リサ・フィルドマン・バレット(1963-))



(c)同じ刺激が多様に解釈される
 食卓に座っているときに感 じた胃の痛みは、空腹として経験されるだろう。インフルエンザが流行っていたら、同じ痛 みは吐き気として経験するだろう。 あるいは判事なら、被告を信用してはならないという虫の知らせ として、この種の痛みを受け取るかもしれない。



(1.2.5.2)エモーティヴ(ウィリアム・M・レディ(1947-))


(a)思考材料
 短時間のうちには注意が翻訳することのできない思考材料が現れる。ここには、何らかの事実が起こっている。私たちが誰かを愛するのは「事実」である。
(b)概念化
 思考材料は、概念化されている。(心理学的構築論)
(c)目的や目標
 感情とは、ある目的や目標のために、思考材料を活性化させることである。(認知科学)
(d)エモーティヴ
「あなたを愛している」という発言は、思考材料が感情的な発話行為へと「翻訳され」活性化された結果である。私たちはそのように発言するとき、「あなたを愛している」と言うことでかろうじて表現される、様々な気持ちをそのもの全体として抱いている。
(e) エモーティヴの効果
 エモーティヴは感情的状態を描写し、エモーティヴは対象を変容させ、そしてエモーティヴはその発言 をした人に様々な気持ちを呼び起こすのである。 エモーティヴは「感情に関する活性化した思考材料に対して、説明を付与する効果と、自ら変化する効果を持つ」。
(f)エモーティヴの誠実、不誠実
 エモーティヴは、それと合致する目標 が一つだという点で誠実である。しかし、人は一つ以上の目標を持つ故に、同一のエモーティヴが競 合する目標と関連づけられる点において、 エモーティヴは不誠実である。



(1.2.6)対象や事象の評価を含む
 (f.1)意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれ ない。

(1.2.7)脳や身体の状態を一時的に変更する

(g.1)情動対象を感知する
 (g.1.1)感覚で与えられた対象や事象を感知し、評価する。(場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (g.1.2)「あたかも身体ループ」:想起された対象や事象を感知し、評価する。この「あたかも」機構は、単に情動と感情にとって重要なだけでなく、「内的シ ミュレーション」とも言える一種の認知プロセスにとっても重要である。
(g.2)有機体の状態が一時的に変化する
 (g.2.1)身体状態と関係する変化:「身体ループ」または「あたかも身体ループ」
  (i)自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。(場所:例えば「恐れ」であれば扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実 行する。)
  (i.1)内受容ネットワーク
  (i.2) 身体予算管理領域
   身体に予測を送る一連の脳領域である。我々はこれを「身体予算管理領域 (body-budgeting regions)」と呼ん でいる。
   (a)エネルギーは、様々な内臓器官、代謝、免疫系の機能を維持するために使われる。 
   (b)すべての消費や補給を管理するために、脳はつねに、身体の予算を立てるかの ごとく、身体のエネルギー需要を予測しなければならない。
   (c)身体予算管理領域が心拍数の高 まりなどの運動の変化を予測する。


  (ii)2種類の信号が変化を伝播する。
   (1)体液性信号:血流を介して運ばれる化学的メッセージ
   (2)神経信号:神経経路を介して運ばれる電気化学的メッセージ
  (iii)身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。情動的状態は、身体の化学特性の無数の変化、内臓の状態の変化、そして顔面、 咽喉、胴、四肢のさまざまな横紋筋の収縮の程度を変化させる。
  (iv)身体風景の表象が変化する。二種類の信号の結果として身体風景が変化し、脳幹から上の中枢神経の体性感覚 構造に表象される。
  (iv.1)一次内受容皮質
   体内の感覚刺激を表現する「一次内受容皮質」と呼ばれる領域である。
   (i)胸の高鳴りなど の感覚の変化を予測する。このような感覚予測は「内受容予測」と呼ばれる。
   (ii)心臓、 肺、腎臓、皮膚、筋肉、血管などの器官や組織から感覚入力を受け取る。 
   (iii)一次内受容皮質のニューロ ンは、シミュレーションの結果と感覚入力を比べ、予測エラーがあればそれを計算して予測ループを 完結させ、最終的に内受容刺激を生み出す。

 (g.2.2)認知状態と関係する変化
  脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
次項目「思考や行動に影響を与える」へ。
(g.3)有機体の一時的変化の表象
 一時的に変化した有機体の状態は、イメージとして表象される。
(g.4)対象の意識化と自己感の発生
 有機体の一時的変化の表象は、情動の対象を強調し意識的なものに変化させる。同時 に、対象を認識している自己感が出現する。


(1.2.8)思考や行動に 影響を与える
 (h.1)すべての情動は何がしか果たすべき調節的役割を有し、有機体の命の維持を助けている。
 (h.2)認知状態と関係する変化
  (h.2.1)情動のプロセスによって前脳基底部、視床下部、脳幹の核にいくつかの化学物質が 分泌される。
  (h.2.2)分泌された神経調節物質が、大脳皮質、視床、大脳基底核に送られる。
  (h.2.3)その結果、以下のような重要な変化が多数起こる。
 (i)特定の行動の誘発
  引き起こされた特有な身体的パターン、行動パターンの種類がいくつか存在す る。たとえば、絆と養育、遊びと探索。
 (ii)現在進行中の身体状態の処理の変化
  たとえば、身体信号がフィルターにかけられたり通過を許されたり、選択的に抑制 されたり強化されたりして、快、不快の質が変化することがある。
 (iii)認知処理モードの変化
  たとえば、聴覚イメージや視覚イメージに関して、遅いイメージが速くなる、 シャープなイメージがぼやける、といった変化。この変化は情動の重要な要素である。


(1.2.9)情動誘発因
 (i.1)狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動 を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。
 (i.2)ある情動の根拠は進化の過程で獲得され、他の情動の根拠は個人の生活の中で学習 される。あるときは無意識的に情動が誘発され、またあるときは意識的な評価段階を経て情動 が誘発される。このような情動が、人間の発達の歴史において重要な役割を演じている。
参照:情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情 動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は 自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ (1944-))
 (i.3)情動誘発刺激の様々な様相
  視覚だけではなく、〈特殊感覚〉のうち聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚、〈表在性感覚〉(皮 膚の触覚、圧覚、痛覚、温覚)、〈深部感覚〉(筋、腱、骨膜、関節の感覚)、〈内臓感覚〉 (空腹感、満腹感、口渇感、悪心、尿意、便意、内臓痛など)、「精神の能動によらない想 像、夢の中の幻覚や、目覚めているときの夢想」によって情念が生じる場合も、同様である。 


(1.2.10)あるものは進化の過程で獲得
 (j.1)長い進化によって定着したものであり、有機体に有利な状況をもたらしている。

(1.2.11)他のものは個人の生活の中で学習
 (k.1)情動誘発因の形成においては、文化や学習の役割が大きく、これにより情動の表出が 変わり、情動に新しい意味が付与される。
 (k.2)その結果、個的な差もかなりある。

 (k.3)「精神だけに関係づけられる精神の受動」

(1.2.12)あるときは無意識的に情動が誘発される
 (l.1)意識的な評価は、情動が生じるためには必要というわけではない。
 (l.2)意識的な評価どころか、情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づ いていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。
 参照: 情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は 自動的に引き起こされる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(1.2.13)あるときは意識的な評価段階を経て情動 が誘発される
 (m.1)意識的な思考の役割
 その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が 行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の 要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一 つである。

(1.2.14)誘発された情動の実体
 誘発された反応は再び意識の内容となる。デカルトの分類に従って記載し直すと、引き起こされた情動の意識現象としての実体が分かる。

(n.1)精神の能動

 (n.1.1)精神そのもののうちに終結する精神の能動

 (i)認知

 ⇒認知処理モードの変化

  たとえば、聴覚イメージや視覚イメージに関して、遅いイメージが速くなる、 シャープなイメージがぼやける、といった変化。この変化は情動の重要な要素である。

 ⇒対象の意識化と自己感の発生

  有機体の一時的変化の表象は、情動の対象を強調し意識的なものに変化させる。同時 に、対象を認識している自己感が出現する。

 (ii)想起

 (iii)想像

 (iv)理解

 (n.1.2)身体において終結する精神の能動(運動、行動)

 ⇒特定の行動の誘発

  引き起こされた特有な身体的パターン、行動パターンの種類がいくつか存在す る。たとえば、絆と養育、遊びと探索。


(n.2)精神の受動

 (n.2.1)身体を原因とする知覚

 (i)外部感覚

 (ii)共通感覚

 (iii)自分の肢体のなかにあるように感じる痛み、熱さ、その他の変様

 (iv)身体ないしその一部に関係づける知覚としての、飢え、渇き、その他の自然的欲求

  ⇒有機体の一時的変化の表象

   身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。情動的状態は、身体の化学特性の無数の変化、内臓の状態の変化、そして顔面、 咽喉、胴、四肢のさまざまな横紋筋の収縮の程度を変化させる。


()情動と表情

 顔は社会的コミュニケーションの道具と見なせる。 しかし、顔面の動きは必ずしも情動的なものだとは言えないし、それが表わす意味もつねに同じわけではない。それは、文化に基づく予想や社会的状況、ボディランゲージなどの文脈に依存している。(リサ・フェルドマン・バレット(1963-))



  ⇒現在進行中の身体状態の処理の変化

   たとえば、身体信号がフィルターにかけられたり通過を許されたり、選択的に抑制 されたり強化されたりして、快、不快の質が変化することがある。

  (v)精神の能動によらない想像、夢の中の幻覚や、目覚めているときの夢想

 (n.2.2)精神を原因とする知覚

 (n.2.3)身体を原因とする知覚や、精神を原因とする知覚を原因とする、精神だけに関係づけられる知覚(情念)


(a)背景的情動の例
 疲労、やる気、興奮、好調、不調、緊張、リラックス、高ぶり、気の重さ、安定、不 安定、バランス、アンバランス、調和、不調和などがある。

(b)内的状態の指標
 (i)血液などの器官の平滑筋系や、心臓や肺の横紋筋の時間的、空間的状態。
 (ii)それらの筋肉繊維に近接する環境の化学特性。
 (iii)生体組織の健全性に対する脅威か、最適ホメオスタシスの状態か、そのいずれか を意味する化学特性のあり、なし。

(d)背景的情動と欲求や動機との関係
 欲求は、背景的情動の中に直接現れ、最終的に背景的情動により、われわれはその存 在を意識するようになる。

(e)背景的情動とムードとの関係
 ムードは、調整された持続的な背景的情動と、一次の情動との調整された持続的な感 情とからなっている。たとえば、落ち込んでいる背景的情動と悲しみとの調整された持続的感 情。

(f)背景的情動と意識の関係
 背景的情動と中核意識は極めて密接に結びついているので、それらを容易には分離で きない。
(1.3.1.1)気分
(a)気分
 爽快感、不機嫌、落ち着いている、興味津々、活力がみなぎっ ている、退屈や倦怠など。
(b)気分の感情価
 それがど れくらい快、もしくは不快に感じられるかで、科学者はこの特徴を「感情価 (affective valence)」と呼ぶ。 たとえば肌にあたる日光の快さ、好物のおいしさ、胃痛やつねられたときの不快さはすべて感情価の 例である。
(c)気分の覚醒度
 どれくらい穏やかに、あるいは興奮して感じられるかで、科学者は「覚 醒 (arousal)」と呼んでいる。 よい知らせを期待しているときの活力あふれる感覚、コーヒーを飲みす ぎたあとの苛立ち、長距離を走ったあとの疲労、睡眠不足に起因する倦怠感などは、覚醒の度合 の高さ、あるいは低さを示す例だ。
(d)気分は恒常的な内受容感覚
 気分は内受容に依存する。つまり生涯を通じ、じっとしているときでも 眠っているときでも、恒常的な流れとして存在し続ける。 


(1.3.1.2)感情円環図(ジェイムズ・A・ラッセル(1947-))


不快・覚醒度高い 快・覚醒度高い
(動転,動揺)    (高揚,興奮)
不快・覚醒度中立 快・覚醒度中立
(惨めさ,不機嫌)  (満足,喜び)
不快・覚醒度低い 快・覚醒度低い
(無気力,落込み)  (穏やか,落着き)





(1.3.2)基本的情動
 基本的情動:《例》恐れ、怒り、嫌悪、驚き、悲しみ、喜び。様々な文化や、人間以外の種に おいても、共通した特徴が見られる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(1.3.3)社会的情動
 社会的情動:共感、当惑、恥、罪悪感、プライド、嫉妬、羨望、感謝、賞賛、憤り、軽蔑など (アントニオ・ダマシオ(1944-))



()社会的情動の形成過程
 特定の社会的状況と個人的経験が、情動誘発刺激となるために蓄積される知識(a)特定の問 題、(b)問題解決のための選択肢、(c)選択した結果、(d)結果に伴う情動と感情(直接的結 果、および将来的帰結)(アントニオ・ダマシオ(1944-))
 社会的状況と、それに対する個人的経験に関する、以下のような知識が蓄積されてい くことで、特定の情動誘発刺激が学習されていく
(a)ある問題が提示されたという事実
(b)その問題を解決するために、特定の選択肢を選んだということ
(c)その解決策に対する実際の結果
(d)その解決策の結果もたらされた情動と感情
 (i)行動の直接的結果は、何をもたらしたか。罰がもたらされたか、報酬がもたら されたか。利益か、災いか。苦か快か、悲しみか喜びか、羞恥かプライドか。
 (ii)直接的行動がどれほどポジティブであれ、あるいはどれほどネガティブであ れ、行動の将来的帰結は、何をもたらしたのか。結局事態はどうなったのか。罰がもたらされ たか、報酬がもたらされたか。利益か、災いか。苦か快か、悲しみか喜びか、羞恥かプライド か。


()感情体制とエモーティヴ(ウィリアム・M・レディ(1947-))


(a)感情体制
 エモー ティヴは、感情体制の支配下にある。感情体制とは、「規範的感情の一式と、 それを表現し、人々に教え込む公的な儀礼、実践およびエモーティヴ」のことである。
 (i)規範的感情の一式
 (ii)支配的な感情規範
  感情を表現し、人々に教え込む公的な儀礼、実践
 (iii)エモーティヴ

(b)感情コントロールとしての権力行使
 「感情のコントロールは、権力行使の現場である。 所与の文脈や関係性のもとに立ち現れた気持ちや欲望を、不当なものとして抑圧したり、価値あるものとして重視したりする責務を負うのは誰なのか。政治とはまさに、この誰かを決める過程である」。

(c)エモーティヴの自己変容効果
 どのような感情も、「短時間のうちには注意が翻訳することのできない」ものであり、表現された感 情は人を常に自己 探求へと導くかもしれない。
(d)支配的な感情規範からの「感情の避難所」
 感情体制は、ほぼその定義 ゆえに、エモーティヴが潜在的可能性を十全に発揮することを許さないため、感情の避難所、すなわち「支配的な感情規範から人を安全に解放し、感情的努力を軽減する(...)また、既存の感情体制を補 助したり脅かしたりする可能性のある、(...)関係、作法、もしくは組織」を創出する。 
(e)統制的な感情体制と感情の避難所
 感情体制があまりにも統制的であり、エモーティヴの自己変容効果を妨害し、人々が目標を変化させることを妨げ ると仮定しよう。すると、感情体制は人々に感情的苦痛をもたらすばかりでなく、感情体制に損失を与えうる感情の避難所を生み出すのである。


(b)エモーショノロジー(ピーター・スターンズ(1936-))


(a)基本感情は普遍的であり、変化することはな い。(ポール・エクマン(1934-))
(b)感情は「管理される」ものである。(アーリ ・ホックシールド(1940-))
(c)基本感情が変化を被らなかったとしても、人が感情をどこでどのように表現するべきかに関する基準は急速に変化してきた。
(d)エモーショノロジー(ピーター・スターンズ(1936-))
 ある社会やその内部の特定の集団が、基本感情とその適切な表現に対して 保持する態度や基準。こうした態度や基準は、諸制度に反映され、促進される。
 (i)求愛行為には、婚姻関係において情動がどのように評価されるのかが、反映されている。
 (ii)社員研修には、 職務上の人間関係において怒ることがどう評価されるのかが、反映されている。






(c)意志決定過程への情動の影響
 意志決定の過程:(a)状況に関する事実(b)選択肢(c)予想される結果(d)推論戦略により(e) 意志決定されるが、状況が自動的に誘発する情動および関連して想起される諸素材が(c)に影 響し(d)に干渉する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))
(1) 反応が求められる状況が発生する。
(2) (3)と(4)の経路は並行する。しかし、(3)を経由しないで、(4)が直に決定をもたらす こともある。各経路が単独に、あるいは組になって使われる程度は、個人の成長の程度、状況 の性質、環境などに依存する。
(3) 意志決定の経路A
 (3.1) 状況に関する事実、表象が誘発される。
 (3.2) 決定のための選択肢が誘発される。
 (3.3) 予想される将来の結果の表象が誘発される。
(4) 意志決定の経路Bは、経路Aと並行する。
 (4.1) 類似状況における以前の情動経験が活性化する。
 (4.2) 情動と関係する素材が想起され、(3.3)「将来の結果の表象」への影響する。
 (4.3) 同様に、想起された素材は、(5)「推論戦略」へ干渉する。
(5) (3)の認識に基づき、推論戦略が展開される。
(6) (3)と(5)から、意志決定する。


(d)集団内に対する情動、集団外に対する情動
 社会的情動のいくつかは集団と関係し、集団内と集団外に対して異なる機能を持つ。人間の文 化の歴史は、これら情動を、個的な集団の制約を超え、最終的には人類全体の包含を目指した 努力の歴史である。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

 (i)親切な情動、賞賛に値する適応的利他主義は、集団と関係がある。家族、部族、 市、国などである。
 (ii)集団外のものに対する反応は、少しも親切ではない。適切なはずの情動が、集団 外に向けられると、いとも簡単に悪意に満ちた、残忍なものになる。その結果が、怒り、恨 み、暴力である。それらすべては、部族間の憎しみや人種差別や戦争の潜在的な芽として容易 に認識できる。
 (iii)われわれ人間の文化の歴史は、ある程度まで、最善の「道徳的感情」を、個的 な集団の制約を超え、最終的には人類全体を包含するように、より広い世界へ広めていこうと する努力の歴史である。
 (iv)その仕事は、まったく、未だ完成していない。

(d) 社会的情動のうち支配と従順も、人間のコミュニティにおいて不可欠な役割を果たすととも に、同時にまた、集団全体の破滅を早めてしまうようなネガティブな作用を及ぼすこともあ る。(アントニオ・ダマシオ(1944-))


(1.4)受動としての情動、情動の認知が喚起する情念、意志による構想が喚起する情操 (アラン/エミール=オーギュスト・シャルティエ(1868-1951))
「情操(sentiment):これは感情(affection)の最も高い段階である。最も低い段 階は情動(émotion)であり、それは外的な刺激とそれが喚起する本能的な反応(震 える、泣く、赤くなる)に次いで、突然、われわれの意に反して襲ってくるものである。中間 の段階は情念(passion)であり、これは情動についての反省であり、情動についての恐れで あり、情動についての欲望であり、予見であり呪いである。例えば、恐れは情動であり、臆病 は情念である。これらに対応する情操(sentiment)は勇気である。あらゆる情操は意志を再 獲得することによって形作られる(愛は愛することを誓うことであるように)。そして根本情 操(le sentiment fondamental)とは、自由意志(libre arbitre)の情操(又は尊厳 の情操、又はデカルトが述べたように高邁(générosité)の情 操)である。この情操はどこかしら崇高さを帯びており、種々の特殊情操(les sentiments particuliers)の内に見出されるものである。情操の境位では、自らが欲する通りに感じることを望むのだが、もちろんそれは決して達せられることはない。情操の中の、乗り越えられ た情動と情念のざわめく残滓が、情操の素材なのである。例えば、勇気の中の恐れ、愛の中の 欲望、慈愛の中の痛みへの恐怖。人は情操とは最も深い確実さの源泉であることに気づくであ ろう。(AD 1088 “Définition”)」
(出典:アランの情念論の二つの源泉--デカルトの情念論とラニョーの反省哲学 (小林敬,2019)

(1.4.1)情念
 情念(passion)は、情動についての反省であり、情動についての恐れで あり、情動についての欲望であり、予見であり呪いである。例えば、恐れは情動であり、臆病 は情念である。

《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
   (時間様相)     (現在)     (過去)      (未来)     (未来)     (未来)
  《認知対象》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
  《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》


(1.4.2)情操
 情操(sentiment)は意志を再 獲得することによって形作られる。愛は愛することを誓うことであるように。情操の境位では、自らが欲する通りに感じることを望むのだが、もちろんそれは決して達せられることはない。情操の中の、乗り越えられ た情動と情念のざわめく残滓が、情操の素材なのである。例えば、勇気の中の恐れ、愛の中の 欲望、慈愛の中の痛みへの恐怖。人は情操とは最も深い確実さの源泉であることに気づくであ ろう。



(1.5)感情
(a)感情表出反応
(b)例えば、欲望
 意識を持つ個体が、自分の欲求やその成就、挫折に関して持つ認識と感情

(c)感情の特徴
 感情の特徴:(a)情動が、感情と思考を誘発する。(b)誘発される感情と思考は、学習され る。(c)特定の脳部位への電気刺激も、情動、感情、思考を誘発する。(d)感情、思考は、新 たな情動誘発刺激となる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(d)感情の情動依存性
 情動が、感情と思考を誘発する。
感覚/想起された ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
対象/事象
(情動を誘発する
対象/事象)

(e)感情、思考は学習される
 情動によって誘発される感情と思考は、学習されたものである。

(f)情動誘発の神経機構の相対的自律性
 特定の脳部位への電気刺激により誘発された情動でも、学習された感情と思考を誘発す る。
(特定の脳部位 ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
への電気刺激)
※ 学習によって情動と結びつけられた思考が、呼び起こされる。

(g)情動の連鎖
 呼び起こされた思考が、さらに情動の誘発因となる。
呼び起こされた ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
思考
※ 呼び起こされた思考は、現在進行中の感情状態を高めるか、静めるかする。思考の 連鎖は、気が散るか、理性によって終止符が打たれるまで継続する。
参考:最初の「情動を誘発しうる刺激」の存在が、しばしば、その刺激と関連する別の「情動を誘発 しうる刺激」をいくつか想起させ、当初の情動を拡大、変化、減少させ、複雑な感情の土台を 作る。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

《概念図》
「情動を誘発しうる刺激」A
 │
 ├→Aと関連して想起された対象や事象B
 ↓       (新たな情動誘発刺激となる)
情動a  │
   ├→想起された対象や事象C
   ↓                     ↓
   情動b   情動c
 情動aは持続、拡大したり、変化したり、減少したりする。これら、身体的状態のパターンである情動a、b、cと、心の内容である対象や事象の全体 が、特定の「感情」の土台を構成する。

(h)感情の身体性、ヴェイレンス、感情の知性化
 感情のコンテンツはつねに身体を参照し(身体性)、その状態が望ましいか、望ましくないか、中立かを明示する(ヴェイレンス)。同様な状況を繰り返し経験すると、状況の概念が形成され、自分自身や他者に伝達可能なものとなる(感情の知性化)。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(i)身体性

 そのコンテンツはつねに、それが生じた生物の身体を参照する。

(ii)ヴェイレンス

 これらの 特殊な状態のもとで形成される結果として、内界の描写、すなわち感情は、ヴェイレンスと呼 ばれる特質に満たされている。その状態が望ましいか、望ましくないか、その中間かを必然的に明示する。

(iii)感情の知性化

 同様な状況に繰り返し遭遇し何度も同じ感情を経験すると、多かれ少な かれその感情プロセスが内化されて「身体」との共鳴の色合いが薄まることがある。私たちはそれを独自の内的なナラティブに よって描写する(言葉が用いられないこともあれば用いられることもある)。そしてそれをめ ぐってコンセプトを築き、それに注ぐ情念の度合いをいく分抑え、自分自身や他者に提示可能 なものに変える。感情の知性化がもたらす結果の一つは、このプロセスに必要とされる時間と エネルギーの節約である。


 

(1.6)驚き、過剰な驚きとしての恐怖
「驚き」に不意を打たれ、激しく揺り動かさるとき、 そこには既知ではない、想定外の、初めて出会う新しい対象が存在する。驚きが、知らなかっ たことを学ばせ、記憶にとどめさせる。(ルネ・デカルト(1596-1650))



(1.6.1)情念の起源としての驚き(アラン/エミール=オーギュスト・シャルティエ (1868-1951))
「知性最初の接触、それも新しい対象がわれわれを害するものか益するものかを想定す るより以前の、最初の接触のうちに情念的なるものが在る、ということを見抜くのは、まさに デカルトのような人でないと不可能だ。さらに、初発の好奇心を恐れおよび希望から切り離し て、しかも身体から切り離すことをしなかったのは、まさに天才のやり方だ。そしてもう一つ の指摘は、驚異をあらゆる情念のうちで最初のものであり、あらゆる情念の起源(origine) に見出されるものであると見抜いたことであるが、そうであるが故にいっそう素晴らしいので ある。(PS 983 “Descartes”)」
(出典:アランの情念論の二つの源泉--デカルトの情念論とラニョーの反省哲学 (小林敬,2019)

(1.7)生物的準備性(スティーブン・ピンカー(1954-))
恐怖の対象となるものは、習慣や文化の違いを超えた共通性が存在する。例えば、ヘビ、ク モ、血、嵐、高所、暗闇、見知らぬ人への恐怖。恐怖以外に共通な能力の例:言語の獲得、数 学的な技能、音楽の観賞、空間知覚など(スティーブン・ピンカー(1954-))


(1.8)重視、軽視、崇敬、軽蔑
重視:価値ある、偉大な対象であるという判断に伴う驚き。
軽視:価値のない、つまらない対象であるという判断に伴う驚き。
参照:〈重視〉と〈軽視〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))
崇敬:他者が、価値ある、偉大な対象であるという判断に伴う驚き。
軽蔑:他者が、価値のない、つまらない対象であるという判断に伴う驚き。
参照:〈崇敬〉と〈軽蔑〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))
参照:崇敬とは、愛や献身とは異なり、善または悪をなしう る驚くべき大きな自由原因に対し、その対象から好意を得ようと努め何らかの不安を持って、 その対象に服従しようとする、精神の傾向である。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(1.9)秩序欲求、理解欲求
 (a)マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
驚き、恐怖を回避する未来が指向される(秩序、理解欲求)
秩序:秩序と清潔さを達成すること
理解:疑問をもち、考えること
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)

(b)不規則性や変化への恐れ、斉一性への傾向
 原始より人間には、不規則性や変化を恐れ、斉一的なものを求める傾向があり、自らの行為とともに他者の行為を、予測可能なものにしようと努力してきた。伝統を創造し守ろうとする傾向もまた同じである。批判的合理主義は、この伝統の重要性を理解し、かつ寛容の伝統を基本に自由な批判によってより良い伝統の創造を主張する。(カール・ポパー(1902-1994))


(2)快、嫌悪
《目次》
(2.1)概要
(2.2)視覚表象が誘発する快と嫌悪による美、醜の感知
(2.3)外的感覚による表象が誘発する愛と憎しみによる広義の美、醜の感知
(2.4)内的感覚と精神固有の理性による表象が誘発する愛と憎しみによる善、悪の感知
(2.5)感覚が誘発する快と嫌悪、愛と憎しみは、通例強烈で欺くことがある
(2.6)真なる美、醜、善、悪かどうかは別問題
(2.7)所有への愛、対象への愛の区別
(2.8)愛着、友愛、献身の区別
(2.9)感覚欲求

(2.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
外的対象 美 快 感覚遊び
感覚欲求
芸術
美への愛
審美的欲求
醜 嫌悪
広義の美 美への愛
所有への愛 所有欲求
対象への愛
広義の醜 醜への憎しみ
他者 広義の美 美への愛
愛情(Darwin 1872)
低い価値 愛着
同等価値 友愛
高い価値 献身
広義の醜 醜への憎しみ
認知対象と 善 愛
理論対象 悪 憎しみ

※愛情は下記参照。
原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

(2.2)視覚表象が誘発する快と嫌悪による美、醜の感知
 視覚で与えられた対象に「快」を感じるとき、そこには私たちの本性に適するであろう何 かが存在する。それが本性に適するものであるとき、それが〈美〉である。視覚で与えられた 対象に「嫌悪」ないし「嫌忌」を感じるとき、そこには私たちの本性を害するであろう何かが 存在し、それが本性を害するとき、それが〈醜〉である。
参照: 美の感知(快)、醜の感知(嫌悪)、広義の美の感知(愛)、広義の醜の感知(憎しみ)、善の感知 (愛)、悪の感知(憎しみ)。快と嫌悪の情念は、他の種類の愛や憎しみより、通例いっそう強烈 であり、また欺くこともある。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(2.3)外的感覚による表象が誘発する愛と憎しみによる広義の美、醜の感知

(2.4)内的感覚と精神固有の理性による表象が誘発する愛と憎しみによる善、悪の感知
 意志に依存するいっさいの想像、思考や理性がとらえた対象に「快」を感じるとき、そこ には私たちの本性に適するであろう何かが存在する。それが本性に適するものであるとき、そ れが〈善〉であり、この快の情動を、〈善への愛〉という。快を感じさせるすべてのものが 〈善〉であるわけではない。
 意志に依存するいっさいの想像、思考や理性がとらえた対象に「嫌悪」ないし「嫌忌」を 感じるとき、そこには私たちの本性を害するであろう何かが存在する。それが本性を害すると き、それが〈悪〉である。

(2.5)感覚が誘発する快と嫌悪、愛と憎しみは、通例強烈で欺くことがある
 快と嫌悪の情念は、他の種類の愛や憎しみより、通例いっそう強烈である。なぜなら、感 覚が表象して精神にやってくるものは、理性が表象するものよりも強く精神を刺激するからで ある。
参照: 〈欲望〉の種類は、〈愛〉や〈憎しみ〉の種類の数だけある。そして最も注目すべき最強の 〈欲望〉は、〈快〉と〈嫌悪〉から生じる〈欲望〉である。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(2.6)真なる美、醜、善、悪かどうかは別問題
 快を感じさせるすべてのものが〈美〉であるわけではない。「それらはふつう、真理性が より少ない。したがって、あらゆる情念のうちで、最も欺くもの、最も注意深く控えるべきも のは、これらの情念である。」情動と〈美〉とのこの関係性は、以下、情動と〈醜〉、 〈善〉、〈悪〉との関係においても同様である。

(2.7)所有への愛、対象への愛の区別
参照: 〈所有への愛〉、〈対象そのものへの愛〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
(a)ある対象を「所有したい」と感じるとき、それは、私たちの本性に適するであろう対 象である。それが本性に適するものであるとき、その対象は〈美〉〈広義の美〉〈善〉であ り、この情動は〈愛〉の一つの種類である。例として、野心家が求める栄誉、主銭奴が求める 金銭、酒飲みが求める酒、獣的な者が求める女。
(b)ある対象を第二の自己自身と考えて、その対象にとっての〈善〉を自分の〈善〉のご とく求めるとき、あるいはそれ以上の気遣いをもって求めるとき、それは、私たちの本性に適 するであろう対象である。それが本性に適するものであるとき、その対象は〈善〉であり、こ の情動は〈愛〉の一つの種類である。例として、有徳な人にとっての友人、よき父にとっての 子供たち。

(2.8)愛着、友愛、献身の区別
参照: 〈愛着〉、〈友愛〉、〈献身〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
(a)ある対象に「愛着」を感じるとき、それは、自分以下に評価されている、私たちの本 性に適するであろう対象である。それが本性に適するものであるとき、その対象は〈美〉〈広 義の美〉〈善〉であり、この情動は〈愛〉の一つの種類である。例として、一つの花、一羽の 鳥、一頭の馬。
(b)ある対象に「友愛」を感じるとき、それは、自分と同等に評価されている、私たちの 本性に適するであろう対象である。それが本性に適するものであるとき、その対象は〈善〉で あり、この情動は〈愛〉の一つの種類である。
(c)ある対象に「献身」を感じるとき、それは、自分よりも高く評価されている、私たち の本性に適するであろう対象である。それが本性に適するものであるとき、その対象は〈善〉 であり、この情動は〈愛〉の一つの種類である。例として、神に対して、ある国に対して、あ る個人に対して、ある君主に対して、ある都市に対して。

(2.9)感覚欲求
 マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
外的対象が快となる未来が指向される(感覚欲求)
感覚:感覚的満足を得ること
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)
(3)喜び、悲しみ
《目次》
(3.1)概要
(3.2)喜び、悲しみ
(3.3)善の保存の欲望、喜び
(3.4)悪の回避の欲望、悲しみ
(3.5)善の獲得の欲望、完全性への欲求、秩序と調和への愛
(3.6)安心、希望、不安、執着、絶望、恐怖
(3.7)現実自己、理想自己、あるべき自己
(3.8)倦怠、嫌気、心残り、爽快
(3.9)優越欲求、被害回避欲求

(3.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己状態 健康 快 予感(Pluchik 1980)
病気 不快 予感 安全と安心の欲求
善 喜び 安心 善の保存の欲望
幸せ(Fehr/Russell 1984)
意気揚々(Fromme/O'Brien 1982)
満足(Fromme/O'Brien 1982)
静穏(Osgood 1966)
善→善 倦怠、嫌気 希望 優越欲求
退屈(Osgood 1966)
不安、恐怖
執着
絶望
苦悩(Izard 1977,1992b)
期待(Osgood 1966)
悪→善 喜び 爽快
善→悪 悲しみ 心残り
悪 悲しみ 不安、恐怖 悪の回避の欲望
悪→悪 悲しみ 絶望 被害回避欲求
の癒し 善の獲得の欲望
受容(Pluchik 1980)
完全性へ
の欲望
秩序と調和
への欲望
現実自己 喜び 理想自己
落胆、不満 理想自己
現実自己 喜び あるべき自己
罪悪感と あるべき自己
自己卑下
現実自己 喜び 他者(理想自己)
恥、当惑 他者(理想自己)
現実自己 喜び 他者(あるべき自己)
危機感と 他者(あるべき自己)
恐れ

※予感、幸せ、意気揚々、満足、静穏、退屈、苦悩、期待、受容は下記参照。
原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

(3.2)喜び、悲しみ
 私たちの現在の状況が「喜び」を感じさせるとき、そこには私たちの本性に適するであろ う何かが存在する。それが本性に適するものであるとき、それは〈善〉である。また、「悲し み」を感じさせるとき、そこには私たちの本性を害するであろう何かが存在する。それが本性 を害するものであるとき、それは〈悪〉である。
参照:〈喜び〉、〈悲しみ〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))
(3.3)善の保存の欲望、喜び
 わたしたち自身の現在の状況が、「喜び」を感じさせるとき、未来においてもそれを保存 しようと「欲望」されるとき、そこには、私たちの本性に適するであろう何かが存在する。そ れが本性に適するものであるとき、それは〈善〉である。
(3.4)悪の回避の欲望、悲しみ
 わたしたち自身の現在の状況が、「悲しみ」を感じさせるとき、未来においてはそれを無 くそうと「欲望」されるとき、そこには、私たちの本性を害するであろう何かが存在する。そ れが本性を害するものであるとき、それは〈悪〉である。

(3.5)善の獲得の欲望、完全性への欲求、秩序と調和への愛
(a)わたしたち自身のめざすべき未来が、新たな未来の獲得として「欲望」されるとき、 このめざすべき未来には私たちの本性に適するであろう何かが存在する。それが本性に適する ものであるとき、それは〈善〉である。
(b)参照:〈欲望〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
(c)完全性への欲求
あらゆる理想的目的をそれ自体として追求すること。
(d)秩序と調和への愛
あらゆる事物における秩序、適合、調和や、それらが目的にかなっていることへの愛で ある。

(3.6)安心、希望、不安、執着、絶望、恐怖
善の獲得、悪の回避等が可能であると考えただけで、〈欲望〉がそそられる。そして、実現の 見込みの大きさに応じて、次の情動が生じる:〈安心〉〈希望〉〈不安〉〈執着〉〈絶望〉。 (ルネ・デカルト(1596-1650))

(a)善の獲得、悪の回避等の「欲望がそそられる」ときは、善の獲得、悪の回避等は可能 だと考えられている。
(b)善の獲得、悪の回避等が欲望され「安心」を感じているときは、善の獲得、悪の回避 等の見込みが極度に大きいと考えられている。
(c)善の獲得、悪の回避等が欲望され「希望」を感じているときは、善の獲得、悪の回避 等の見込みが多いと考えられている。
(d)善の獲得、悪の回避等が欲望され「不安」を感じているときは、善の獲得、悪の回避 等の見込みがわずかであると考えられている。
(e)善の獲得、悪の回避等が欲望され、それに「執着」しているときも、善の獲得、悪の 回避等の見込みがわずかであると考えられている。この情動は、不安の一種である。
(f)善の獲得、悪の回避等が欲望され「絶望」を感じているときは、善の獲得、悪の回避 等の見込みが極度にわずかであると考えられている。
(g)不安の過剰は〈恐怖〉となる。


(3.7)現実自己、理想自己、あるべき自己
(a) 自己に関する概念のタイプ:現実自己、理想自己、あるべき自己に関する信念。特定の重要他 者が考えているであろう現実自己、理想自己、あるべき自己に関する自分自身の想定。 (E・トーリー・ヒギンズ(1946-))
(b) 現在の状況が感じさせる「落胆および不満」と「罪悪感および自己卑下」が、理想自己、ある べき自己を暗示する。「恥および当惑」と「恐れおよび危機感」が、特定の重要他者が考える と想定している理想自己、あるべき自己を暗示する。(E・トーリー・ヒギンズ(1946- ))

(出典:Social Psychology Network)
検索(E・トー リー・ヒギンズ)

(c)現実自己、理想自己、あるべき自己
(c.1)私(現実自己):自分が実際に持っている属性に関する信念
(c.2)私(理想自己):自分が理想として持ちたい属性に関する信念
(c.3)私(あるべき自己):自分が持つべき属性に関する信念
(c.4)私(他者(現実自己)):特定の重要他者が考える自分が実際に持っている属性に関 する想定
(c.5)私(他者(理想自己)):特定の重要他者が考える自分が理想として持ちたい属性に 関する想定
(c.6)私(他者(あるべき自己)):特定の重要他者が考える自分が持つべき属性に関する 想定

(3.8)倦怠、嫌気、心残り、爽快
善も持続すれば、倦怠やいやけを生じさせる。これに対し、悪も持続すれば、悲しみを軽 減する。過ぎ去った善からは心残りが生じ、それは悲しみの一種である。そして過ぎ去った悪 からは爽快が生じ、これは喜びの一種である。
参照:・〈倦怠〉、〈いやけ〉、〈心残り〉、〈爽快〉 (ルネ・デカルト(1596-1650))

(3.9)優越欲求、被害回避欲求
マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
不快な自己状態を回避する未来が指向される(優越、被害回避欲求)
優越:障害物を乗り越えること
被害回避:苦痛と傷害を避ける
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)
(4)内的自己満足、後悔
《目次》
(4.1)概要
(4.2)内的自己満足、後悔
(4.3)自己評価基準、自己称賛、自己非難
(4.4)遊び欲求、自律欲求、達成欲求、反動欲求

(4.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己行為の 成功 快 身体遊び
自己評価 活動欲求
楽しい(Izard 1977,1992b)
遊び欲求
スポーツ
失敗 不快
善 内的自己満足 自己評価 意志を実現
自己の尊厳感 の基準 させる力へ欲求
自律欲求
達成欲求
自己尊重の欲求
悪 後悔 自己評価 反動欲求
廉恥心 の基準

※楽しいは下記参照。
原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

(4.2)内的自己満足、後悔
意志に依存する想像、思考や理性がとらえた、わたしたち自身によって過去なされたこと が、「内的自己満足」を感じさせるとき、そこには私たちの本性に適するであろう何かが存在 する。それが本性に適するものであるとき、それは〈善〉である。また、わたしたち自身に よって過去なされたことが、「後悔」を感じさせるとき、そこには私たちの本性を害するであ ろう何かが存在する。それが本性を害するものであるとき、それは〈悪〉である。
参照:〈内的自己満足〉、〈後悔〉、後悔の効用(ルネ・ デカルト(1596-1650))

(4.3)自己評価基準、自己称賛、自己非難
人は、自己評価基準を持っており、これにより自己を査定、評価し、これに合わせて自己賞賛 や自己非難、報酬や罰を自分自身に与えることができる。(アルバート・バンデューラ (1925-))

(出典:wikipedia)
検索(アルバート・バンデューラ)

(a)人は、自分のために自分で開発した評価基準を、持っている。
(b)人は、この評価基準により、自分自身の行動や、行動の結果を査定、判断し、自分自 身を肯定的に評価したり、否定的に評価し、自信が持てなくなったりする。
(c)人は、自己評価に合わせて、心理的に自己賞賛や自己非難をしたり、社会的、物的な 報酬を与えて甘やかしたり、罰を与えて傷つけたりすることができる。

(4.4)遊び欲求、自律欲求、達成欲求、反動欲求
マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
自己行為の自己評価が快となる未来が指向される(遊び、自律、達成欲求)
遊び:リラックスすること
自律:独立に向けて努力すること
達成:目標に向けて、すばやく、うまく努力し、到達すること
不快な自己行為の自己評価を回避する未来が指向される(反動欲求)
反動:挫折に打ち克つこと
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)
(5)誇り、恥
《目次》
(5.1)概要
(5.2)誇り、恥
(5.3)内的帰属原因、外的帰属原因
(5.4)同胞からの称賛への希望、非難への不安
(5.5)顕示欲求、支配欲求、屈辱回避欲求、屈服欲求、服従欲求

(5.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己行為の 成功 快 同情的な
他者評価 失敗 不快 支持への欲求
自己行為の 善 誇り 同胞からの
他者評価 賞賛への希望
顕示欲求
支配欲求
屈辱回避欲求
承認の欲求
悪 恥 同胞からの 屈服欲求
非難への不安 服従欲求
罪(Izard 1977,1992b)
内的理由 成功 大きい誇り
外的理由 成功 小さい誇り
内的理由 失敗 大きい恥
外的理由 失敗 小さい恥

※罪は下記参照。
原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

(5.2)誇り、恥
 わたしたち自身によって過去なされたことについての、または現在のわたしたち自身につ いての、他の人たちが持ちうる意見を考えるときに「誇り」を感じさせるとき、そこには私た ちの本性に適するであろう何かが存在する。それが本性に適するものであるとき、それは 〈善〉である。また、他の人たちが持ちうる意見を考えるときに「恥」を感じさせるとき、そ こには私たちの本性を害するであろう何かが存在する。それが本性を害するものであるとき、 それは〈悪〉である。
参照:〈誇り〉、〈恥〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(5.3)内的帰属原因、外的帰属原因
一般的に誇りや恥は、達成の結果つまり失敗や成功が、内的に帰属されるときに最大化され、 外的に帰属されるときに最小化される。(バーナード・ウェイナー(1935-))

(出典:ResearchGate)
検索(バーナード・ウェイ ナー)
検索(Bernard Weiner)

(5.4)同胞からの称賛への希望、非難への不安
誇りは希望によって徳へ促し、恥は不安によって徳へ 促す。また仮に、真の善・悪でなくとも、世間の人たちの非難、賞賛は十分に考慮すること。 (ルネ・デカルト(1596-1650))
(a)善の保存、獲得の欲望、同胞からよく思われたいという希望
(b)悪の回避の欲望、同胞からの不興を買うことを恐れる気持ち

(5.5)顕示欲求、支配欲求、屈辱回避欲求、屈服欲求、服従欲求
マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
自己行為の他者評価が快となる未来が指向される(支配、顕示、屈辱回避欲求)
顕示:興奮させ、衝撃を与え、自己脚色すること
支配:他者を支配し、影響を与えること
屈辱回避:屈辱を避ける
不快な自己行為の他者評価を回避する未来が指向される(屈服、服従欲求)
屈服:罰に従い、受け入れること
服従:喜んで仕えること
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)
(6)喜び、憐れみ、羨み、笑いと嘲り
《目次》
(6.1)概要
(6.2)喜び、憐れみ、羨み、笑いと嘲り
(6.3)愛育欲求、性愛欲求

(6.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
他者状態 他者情動 共感 愛育欲求
博愛感情 性愛欲求
善 喜び 羨み
悪 憐れみ 笑いと嘲り

(6.2)喜び、憐れみ、羨み、笑いと嘲り
他の人たちの現在の状況や未来に生じる状況が「喜び」や「うらやみ」を感じさせると き、そこには私たちの本性に適するであろう何かが存在する。それが本性に適するものである とき、それは〈善〉である。この〈善〉が、その人たちにふさわしいか、ふさわしくないかに 応じて、「喜び」または「うらやみ」を感じる。
また、「笑いと嘲り」や「憐れみ」を感じさせるとき、そこには私たちの本性を害するで あろう何かが存在する。それが本性を害するものであるとき、それは〈悪〉である。この 〈悪〉が、その人たちにふさわしいか、ふさわしくないかに応じて、「笑いと嘲り」または 「憐れみ」を感じる。
参照:〈喜び〉、〈うらやみ〉、〈笑いと嘲り〉、〈憐れ み〉(ルネ・デカルト(1596-1650))

(6.3)愛育欲求、性愛欲求
マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
他者状態が快となる未来が指向される(愛育、性愛欲求)
愛育:無力な子どもを助け、あるいは守ること
性愛:性愛関係をつくること
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)


(7)好意、憤慨
《目次》
(7.1)概要
(7.2)好意、憤慨
(7.3)欲情の愛、好意の愛の区別
(7.4)親和欲求、拒否欲求、隔離欲求
(7.5) 模倣する人に注意を向け、好意を抱く傾向、模倣する傾向(マルコ・イアコボーニ(1960-))

(7.1)概要

《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
   (時間様相)     (現在)     (過去)      (未来)     (未来)     (未来)
  《認知対象》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
  《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
    《属性》
他者行為   善           好意                     親和欲求
                言い寄り(Trevarthen 1984)
         欲情の愛
         好意の愛
     悪              憤慨               拒否欲求
                反抗(Trevarthen 1984)
                隔離欲求
         侮蔑(Izard 1977,1992b)


※言い寄り、反抗、侮蔑は下記参照。
原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

(7.2)好意、憤慨
参照:〈好意〉、〈感謝〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))
参照:〈憤慨〉、〈怒り〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(7.3)欲情の愛、好意の愛の区別
参照: 〈欲情の愛〉、〈好意の愛〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
(a)ある対象に「欲望」を感じるとき、それは、私たちの本性に適するであろう対象であ る。それが本性に適するものであるとき、その対象は〈美〉〈広義の美〉〈善〉であり、この 情動は〈愛〉の一つの種類である。
(b)ある対象に「好意」を感じ、その対象のために〈善〉を意志することを促されると き、それは、私たちの本性に適するであろう対象である。それが本性に適するものであると き、その対象は〈善〉であり、この情動は〈愛〉の一つの種類である。

(7.4)親和欲求、拒否欲求、隔離欲求
 マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
他者行為が快となる未来が指向される(親和欲求)
親和:友情を形成すること
不快な他者行為を回避する未来が指向される(拒否、隔離欲求)
拒否:嫌いな人を拒絶すること
隔離:他者と離れたところにいること
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)

(7.5) 模倣する人に注意を向け、好意を抱く傾向、模倣する傾向(マルコ・イアコボーニ(1960-))
(i)自分を模倣する人に注意を向ける傾向、模倣する傾向
  赤ん坊は、模倣ごっこが大好きだ。自分を模倣する人に注意を向ける。幼児も、模倣ごっこが大好きだ。あらゆるものが二つずつ用意してある遊び場を設定すると、自発的な模倣ごっこが始まり、果てしなく続く。(マルコ・イアコボーニ(1960-))

(ii)模倣する人に好意を抱く傾向
 カメレオン効果:(a)私たちは、自分の自然発生的な姿勢や動き、癖などを模倣する人に対して、好意を抱く傾向がある。(b)私たちは、他人の模倣をする傾向が強いほど、他人に対する共感傾向も強い。(マルコ・イアコボーニ(1960-))
次の仮説を検証する実験が存在する。
(a)被験者が他の人たちと作業しているとき、被験者は、被験者の自然発生的な姿勢や動きや癖を模倣する人に対して、より好意を抱く傾向が強い。また、作業の円滑さについても、高い評価をする傾向が強い。
(b)被験者が、他人の模倣をする傾向が強いほど、他人の感情を気にかけ、共感を覚えやすい傾向が強い。

(iii)セラピーにおける模倣の効果
  模倣は、個人と個人を感情的に通じあわせるものであり、それはミラーニューロンが実現していると思われる。また模倣は、自閉症児に社会的問題を克服させる非常に有効な方法かもしれない。(マルコ・イアコボーニ(1960-))
次の事実が存在する。
(a)セラピーにおける模倣の効果
 セラピストが、自閉症患者とコミュニケーションがとれなくて困っているときに、患者の反復的で定型的な動きの真似をする。「するとほとんど即座に私を見るので、そこでようやく私たちのあいだに相互作用が生まれ、私は患者の治療が始められる」。
(b)模倣による相互作用
 自閉症の少年を、彼をよく知っている少女が訪れる。そして、二人は部屋にあったおもちゃで、模倣ごっこで遊び始める。少年の「常同的な衒奇的運動」は、急速に消えていく。少女が部屋を出ていくと、少年はほとんど即座に引きこもり、例の手をばたばたさせる動きを再開する。少女が戻ってくると、その身ぶりは消滅する。

(iv)言語の進化における模倣の役割
 すべての会話は、共通の目標をもった協調活動であり、模倣と刷新の相乗効果で、新しい言語の進化の場でもある。聴覚障害児によって創出された自然発生的な「ニカラグア手話」は、その実例である。(マルコ・イアコボーニ(1960-))



(8)感謝、怒り
《目次》
(8.1)概要
(8.2)感謝、怒り
(8.3)怒りの効用
(8.4)怒りの治療法
(8.5)援助欲求、防衛欲求、攻撃欲求

(8.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己向け 善 感謝 援助欲求
他者行為 悪 怒り 防衛欲求
攻撃欲求
愛と集団帰属
の欲求

(8.2)感謝、怒り
意志に依存する想像、思考や理性がとらえた、他の人たちによってなされた行為が、「好 意」を感じさせるとき、またその行為がわたしたちに対してなされ「感謝」を感じさせると き、そこには私たちの本性に適するであろう何かが存在する。それが本性に適するものである とき、それは〈善〉である。
意志に依存する想像、思考や理性がとらえた、他の人たちによってなされた行為が、「憤 慨」を感じさせるとき、またその行為がわたしたちに対してなされ「怒り」を感じさせると き、そこには私たちの本性を害するであろう何かが存在する。それが本性を害するものである とき、それは〈悪〉である。
参照:〈好意〉、〈感謝〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))
参照:〈憤慨〉、〈怒り〉(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(8.3)怒りの効用
参照:怒りの効用、および怒りの治療法(ルネ・デカル ト(1596-1650))

(a)怒りは、他から受ける損害を押しのける活力を与えてくれることで有用である。

(8.4)怒りの治療法
(a)高慢は、怒りを過剰にする。
参照:自由意志以外のすべての善、例えば才能、美、富、名 誉などによって、自分自身を過分に評価してうぬぼれる人たちは、真の高邁をもたず、ただ高 慢をもつだけだ。高慢は、つねにきわめて悪い。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(b)高邁こそが、怒りの過剰に対して見いだされる最良の治療法である。
参照:自ら最善と判断することを実行する確固とした決意 と、この自由意志のみが真に自己に属しており、正当な賞賛・非難の理由であるとの認識が、 自己を重視するようにさせる真の高邁の情念を感じさせる。(ルネ・デカルト(1596- 1650))
(i)高邁は、奪われることがあり得るような善を、すべて重視しないようにさせる。
(ii)怒ることにより失われてしまう自由や、自己支配を重視するので、他の人ならふつ う腹を立てるような損害に対しても、軽視、あるいはたかだか憤慨を持つだけにさせる。

(8.5)援助欲求、防衛欲求、攻撃欲求
マレーの高次欲求を、以下の仮説に従って分類した。すなわち、欲求とは、想起、想像、 理解された対象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快 または不快の情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
自己向け他者行為が快となる未来が指向される(援助欲求)
援助:栄養、愛情、援助を求めること
不快な自己向け他者行為を回避する未来が指向される(防衛、攻撃欲求)
防衛:防衛し、正当化すること
攻撃:他者を傷つけること
参照:高次の動機:秩序、理解、感覚、優越、 被害回避、遊び、自律、達成、反動、支配、顕示、屈辱回避、屈服、服従、愛育、性愛、親 和、拒否、隔離、援助、防衛、攻撃(ヘンリー・マレー(1893-1988))
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)


《目次》
(9)善、悪、美、醜と、情念の関係
(9.1)善・悪、美・醜には真・偽の区別がある
(9.2)真なる善、真なる美とは何か
(9.2.1)真なる善への疑問(エリーザベト・フォン・デア・プファルツ(1618-1680))
(9.2.2)情動が美・醜・善・悪を定義するわけではない
(9.2.3)価値基準が普遍的なら、美・醜・善・悪が定義できる
(9.2.4)事実言明から価値を導出することはできない(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタ イン(1889-1951))
(9.2.5)価値とは単にある権威の恣意的な受容とは思われない(ジョージ・ゲイロード・ シンプソン(1902-1984))
(9.2.6)人間の本性や「自然」による価値基準の基礎づけは誤りである(アントニー・フ ルー(1923-2010))
(9.2.7)世界の諸事実の中の人間の倫理という現象の理解が、価値を基礎づけることがで きる(コンラッド・ハル・ウォディントン(1905-1975))
(9.2.8)諸事実だけでなく価値基準も、誤謬を含み得る仮説であり、その論理的帰結と経 験による批判的討論の対象である(カール・ポパー(1902-1994))
(9.2.9)善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理性を用いて認識することがで きる(ルネ・デカルト(1596-1650))
(9.3)真なる善・悪、偽なる善・悪による情念の評価
(9.3.1)真なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(9.3.2)真なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り
(9.3.3)偽なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(9.3.4)偽なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り
──────────────────

(9.1)善・悪、美・醜には真・偽の区別がある
善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理性を用いて認識することができる。 (ルネ・デカルト(1596-1650))

(9.2)真なる善、真なる美とは何か

(9.2.1)真なる善への疑問(エリーザベト・フォン・デア・プファルツ(1618-1680))
問題:(1)善を完全に知るには,無限といえるほどの知識が必要ではないか(2)善の評価には,他 の人の有益性も考慮すべきか(3)他人の有益性への考慮がその人の性向だとしたら,違う人には違 う"善"があることにならないか。(エリーザベト・フォン・デア・プファルツ(1618- 1680))

エリーザベト・フォン・
デア・プファルツ(1618- 1680)













(9.2.2)情動が美・醜・善・悪を定義するわけではない
《説明図》
選択1が善とは限らない。
(a)ある人
選択1→快
選択2→嫌悪
(b)別の人
選択1→嫌悪
選択2→快

(9.2.3)価値基準が普遍的なら、美・醜・善・悪が定義できる
《説明図》
 価値基準を共有していれば、選択1が善であると言える。
(a)ある人
目的(価値)┬→選択1(目的に適う)
状況(事実)┘
(b)別の人
目的(価値)┬→選択2(目的に適わない)
状況(事実)┘

(9.2.4)事実言明から価値を導出することはできない(ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタ イン(1889-1951))
《説明図》
 価値基準が異なると選択基準が異なるので、どちらが善とは言えない。
(a)ある人
目的1(価値1)┬→選択1(目的1に適う)
状況(事実)──┘
(b)別の人
目的2(価値2)┬→選択2(目的2に適う)
状況(事実)──┘
(c) 事実の叙述は、絶対的価値の判断ではあり得ない。しばしば価値表明は、特定の目的が暗黙で 前提されており、その目的(価値)に対する手段としての相対的価値の判断である。 (ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(1889-1951))
(d) 仮に,物理的な状況や,苦痛や憤慨などの情動,心理的な状況の詳細を記述し尽くしたとしても, 「いかなる倫理的意味においても善または悪ではない」.(ルートヴィヒ・ウィトゲン シュタイン(1889-1951))

(9.2.5)価値とは単にある権威の恣意的な受容とは思われない(ジョージ・ゲイロード・ シンプソン(1902-1984))
《説明図》
(a)ある人
ある権威1の受容
 ↓
目的1(価値1)┬→選択1(目的1に適う)
状況(事実)──┘
(b)別の人
ある権威2の受容
 ↓
目的2(価値2)┬→選択2(目的2に適う)
状況(事実)──┘
(c)単に権威の受容ではなく、倫理的な判断による自由な選択に倫理の本質があるのな らば、自然主義を全面的に拒否して選択が恣意的なものだとしない限りは、倫理的な判断が何 らかの事実の考慮に基礎をおくと考えざるを得ない。(ジョージ・ゲイロード・シンプソン (1902-1984))(出典:伊勢田哲治(1968-)生物学者は「自然主義的誤謬」概念をどう使ってきたか(伊勢田哲 治,2020)

(9.2.6)人間の本性や「自然」による価値基準の基礎づけは誤りである(アントニー・フ ルー(1923-2010))
《説明図》
(a)ある人
人間の本性(自然)
 ↓合致
目的1(価値1)┬→選択1(目的1に適う)
状況(事実)──┘
(b)別の人
人間の本性(自然)
 ×矛盾
目的2(価値2)┬→選択2(目的2に適う)
状況(事実)──┘
(c)「自然」で価値を基礎づけることはできない(アントニー・フルー(1923-2010)) (出典:伊勢田哲治(1968-)生物学者は「自然主義的誤謬」概念をどう使ってきたか(伊勢田哲 治,2020)

(9.2.7)世界の諸事実の中の人間の倫理という現象の理解が、価値を基礎づけることがで きる(コンラッド・ハル・ウォディントン(1905-1975))
(a)世界の出来事の因果的連関の中における進化において、人類の倫理というものが果 たしている機能と、その進化が生理的健康という方向を示していることとを科学的に解明する ならば、先行して存在する倫理的信念を認識することに依存しないような倫理規準を定義でき るだろう。(コンラッド・ハル・ウォディントン(1905-1975))(出典:伊勢田哲治(1968-)生物学者は「自然主義的誤謬」概念をどう使ってきたか(伊勢田哲 治,2020)
《説明図》
(b)ある人
世界の諸事実 
人間の倫理という現象に関する事実
 ↓
倫理的な判断1─┬→選択1(目的1に適う)
状況(事実1)───┘
(c)別の人
世界の諸事実 
人間の倫理という現象に関する事実
 ↓
倫理的な判断2─┬→選択2(目的2に適う)
状況(事実2)───┘
(d)倫理的な判断が、「生理的健康」などの判断基準を含んでいれば、再び価値が諸事 実から導かれるかどうかという疑問へ逆戻りしてしまう。
(e)しかし、倫理的な判断というものの性格が、価値基準を含まないのならば、諸事実 から倫理を基礎づけたことになるのではないか。
(f)そのような倫理的な判断が、異なる事実に基づき判断される場合には、より包括的 で正確な事実に基づいた判断が、善・悪の基準となるのではないか。
(g)同じように把握された諸事実から、異なる倫理的判断が為される場合もあるだろ う。その場合は、双方の選択が同じように善であるという評価も可能であろう。

(9.2.8)諸事実だけでなく価値基準も、誤謬を含み得る仮説であり、その論理的帰結と経 験による批判的討論の対象である(カール・ポパー(1902-1994))
《説明図》
(a)ある人
世界の諸事実 
人間の倫理という現象に関する事実
 ↓
倫理的な判断1─┬→選択1(目的1に適う)
目的1(価値1)──┤
状況(事実1)───┘
(b)別の人
世界の諸事実 
人間の倫理という現象に関する事実
 ↓
倫理的な判断2─┬→選択2(目的2に適う)
目的2(価値2)──┤
状況(事実2)───┘
(c)倫理的な判断が、目的や価値基準を含む場合であっても、合理的討論が可能であ る。
合理的討論の前提には無条件的な原理があり (独断論),原理自体は討論の対象外で(共約不可能性),全て同等の資格を持つ(相対主義).これ は誤りである.原理は常に誤謬の可能性があり,その論理的帰結によって合理的討論ができる. (カール・ポパー(1902-1994))
(d)より包括的な真理の探究という「価値」基準の選択
帰結による合理的討論によっても,各自の原理 の外へは出れないという反論に対する再反論.相手の原理を無視し自己強化するのでなく,自他 の原理を超えた,より包括的な真理の探究という原理によって乗り越え可能である.(カー ル・ポパー(1902-1994))

(9.2.9)善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理性を用いて認識することがで きる(ルネ・デカルト(1596-1650))
(a)エリーザベトへのデカルトの解答
(再掲)
問題:(1)善を完全に知るには,無限といえるほどの知識が必要ではないか(2)善の評価には,他 の人の有益性も考慮すべきか(3)他人の有益性への考慮がその人の性向だとしたら,違う人には違 う"善"があることにならないか。(エリーザベト・フォン・デア・プファルツ(1618- 1680))
解答:(1)自己の傾向性と自己の良心に頼ること(2)この世界と個人の真実を知れば,全体の共 通の善も認識できる(3)仮に自己利益の考慮のみでも,思慮を用いて行為すれば共通の善も実現 される。但し,道徳が腐敗していない時代に限る。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(b) 善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理性を用いて認識することができる。 (ルネ・デカルト(1596-1650))
(c) 第一格率:理性による判断が決意を鈍らせ不決断に陥らせるような場合には、私を育ててきた 宗教、聡明な人たちの穏健な意見、国の法律、慣習に服従することで、日々の生活をできるだ け幸福に維持すること。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(d) 第二格率:日常の生活行動において最も真実な意見が分からないときには、蓋然性の最も高い 意見に従うこと。そして、薄弱な理由のゆえに自らのこの決定を変えてはならない。志を貫き 行動することによって、真偽の見極めと軌道修正も可能となる。(ルネ・デカルト (1596-1650))
(e) 第三格率:運命に、よりはむしろ自分にうち勝とう、世界の秩序を、よりはむしろ自分の欲望 を変えよう、と努めること。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(f)まとめ
(i)受け継がれてきた文化の受け容れ(真理、価値)
 何が真理なのか、何が価値あるものなのかについて、聡明な人たちの穏健な意見、 国の法律、慣習を学ぶこと。(第一格率)
(ii)真理は、経験と理性によって認識することができる
(iii)自己の情念は概ね頼りになる
 善・悪、美・醜については、様々な情念を通じて感知することができる。この自分 の傾向性と感じたままの良心に、概ね頼ることができる。(エリーザベトへの解答)
(iv)自己の情念に従うことの是非
 人は、伝統的な価値を受け容れているものなので、その文化が腐敗しているのでな ければ、自分の情念を頼りにしても、大きな間違いは起こらない。(エリーザベトへの解答)
(v)価値も、経験と理性により認識できる
 情念は常に正しいとは限らず、善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理 性を用いて認識しなければならない。
(vi)私たちに依存するものと、依存しないものを区別すること
 自分が生きている状況のうち、変えられるものと変えられないものを区別し、自分 の欲望を制御することが必要である。(第三格率)
・変えられない諸事実、諸法則
・受け継がれた諸価値(世界の秩序)
・自己の情念
・新たな価値、自己の欲望




(9.3)真なる善・悪、偽なる善・悪による情念の評価
《目次》
(9.3.1)真なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(9.3.2)真なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り
(9.3.3)偽なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(9.3.4)偽なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り

(9.3.1)真なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(a) 善への愛と悪への憎しみが、真の認識にもとづくとき、愛は憎しみよりも比較にならないほど 善い。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(9.3.2)真なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り
(a) 自分に欠けている真理を知ることが、悲しみをもたらし不利益であったとしても、それを知ら ないことよりもより大きな完全性である。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(b)不可欠性
悲しみと憎しみは、喜びと愛よりも不可欠である。なぜなら、害を斥けるほうが、より完全性 を加えてくれるものを獲得するよりも、いっそう重要だからだ。(ルネ・デカルト (1596-1650))
(c)悪への憎しみについての注意
悪への憎しみは、真の認識に基づくときでも、やはり必ず有害である。なぜなら、この場合で も善への愛より行為することがつねに可能であるし、人における悪は善と結合しているから だ。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(9.3.3)偽なる原因に基づく快、愛、喜び、内的自己満足、誇り、好意、感謝
(a) 不十分な根拠にもとづく場合であっても、喜びや愛は、悲しみや憎しみよりも望ましい。しか し、偽なる善への愛は、害をなしうるものへ、わたしたちを結びつけてしまう。(ルネ・ デカルト(1596-1650))
(b)否定的な自己関連情報の選択的注意
脅威が無視できない状況にならない限り,否定的な自己関連情報の選択的注意により,肯定的で 社会的に望ましい自己像を一貫して維持し,自己高揚的な肯定バイアスを持つことは,適応的で 精神的に健康なパーソナリティである。(ウォルター・ミシェル(1930-))
次のようなパーソナリティ次元が存在する。
(i)否定的な自己関連情報は避け、日常的なストレスや不安に対してあまり敏感では なく、自分には問題や困難がほとんどないと考える。肯定的で社会的に望ましい用語で、自分 自身のより好ましい点を一貫して表現するように記述する。ただし、脅威を単に無視すること が許されない状況になると、それに注意を向け始め、ひどく心配する。
(ii)否定的な自己関連情報に注意を向ける傾向があり、より批判的で否定的な自己像 を描く。
(iii)精神力動論は、(i)のような否定的な情報や脅威の抑圧と認知的回避を「抑圧 性」と記述し、脆弱で傷つきやすいパーソナリティの顕著な特徴であり、(ii)のような正確な 自覚と、自己の限界・不安・欠点への気づきは、「鋭敏性」と記述し、健康なパーソナリティ の重要な構成要素であると考えてきた。しかし、自己高揚的な肯定バイアスを持ち、多くの状 況下で脅威となる情報を意図的に避ける情動的鈍感さという態度は、洞察に欠けている脆弱な パーソナリティというより、きわめて適応的で精神的に健康なパーソナリティなのである。

(出典:COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK)

(c)肯定的な自己像と精神的健康の関連
精神的健康には,肯定的な自己像が必要である。もちろん,現実と全く異なるものは害悪である が,仮にそれが,現実よりいくらか過度でも,肯定的であること。逆に,事実でも否定的なら,低 い自尊心や抑うつ傾向がみられやすい。(ウォルター・ミシェル(1930-))
(i)伝統的に心理学者は、正確な自己知覚が精神的健康にとって不可欠なものである と考えてきた。しかしながら、精神的に健康な人々の多くはいくらか非現実的に肯定的なゆが んだ自己像をもっており、一方で自身をより正確にとらえている人のほうが精神的に健康でな いことを研究者たちはみいだした。
(ii)小集団状況で相互作用を行い、自分自身と相互作用相手の性格の特徴を評定する ように求められた被験者のうち、他者からの評定よりも好ましい自己評定をするのが健常者 で、抑うつ患者の自己評定は他者からの評定と一致していた。
(iii)例えば、現実に即した自己知覚を行っている人は低い自尊心や抑うつ傾向がみ られやすく、一方で精神的に安定した人は、肯定的な性格特性が、よりうまく自分自身を記述 する傾向がみられる。
(iv)もちろん現実に対するひどい認知のゆがみが、健常者の特徴であるということを 示していると読み違えてはならない。

(d)欲望を介して現実的となる情念
情念が、欲望を介して行動や生活態度を導く場合には、原因が誤りである情念はすべて有害で ある。特に、偽なる喜びは、偽なる悲しみよりも有害である。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(9.3.4)偽なる原因に基づく嫌悪、憎しみ、悲しみ、後悔、恥、憐れみ、憤慨、怒り


(10)情動誘発刺激の様々な様相、自然的欲求の位置づけ
《目次》
(10.1)情動とは何か、情動の暫定的定義
(10.2)情動誘発刺激
(10.3)情動誘発刺激の様々な様相
(10.3.1)概要
(10.3.2)外部感覚
(10.3.3)共通感覚
(10.3.4)自分の肢体のなかにあるように感じる痛み、熱さ、その他の変様
(10.3.5)身体ないしその一部に関係づける知覚としての、飢え、渇き、その他の自然的 欲求
(10.3.6)精神の能動によらない想像、夢の中の幻覚や、目覚めているときの夢想
(10.3.7)認知
(10.3.8)想起
(10.3.9)想像
(10.3.10)理解
(10.3.11)運動・行動
(10.4)有能性への欲望(ロバート・W・ホワイト(1904-2001))

(10.1)情動とは何か、情動の暫定的定義
感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に 引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。 それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に 影響を与える。
参照: 狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(10.2)情動誘発刺激
視覚だけではなく、〈特殊感覚〉のうち聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚、〈表在性感覚〉(皮 膚の触覚、圧覚、痛覚、温覚)、〈深部感覚〉(筋、腱、骨膜、関節の感覚)、〈内臓感覚〉 (空腹感、満腹感、口渇感、悪心、尿意、便意、内臓痛など)、「精神の能動によらない想 像、夢の中の幻覚や、目覚めているときの夢想」によって情念が生じる場合も、同様である。

(10.3)情動誘発刺激の様々な様相
(10.3.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
すべて 新奇性 驚き 驚き 好奇心
面白い(Malatesta/Haviland 1982)
動揺(Fromme/O'Brien 1982)
緊張(Arieti 1970)
恐怖 恐怖 好奇心
秩序欲求
理解欲求
認知の欲求
安全と安定
の欲求
外部感覚 広義の美 快 有能性への欲望
感覚遊び 刺激への欲求
美への欲求
芸術
広義の醜 嫌悪
共通感覚 広義の美 快
広義の醜 嫌悪
肢体状況 広義の美 快
広義の醜 嫌悪
痛み
自然的 広義の美 快 自然的欲求
欲求 広義の醜 嫌悪
飢え、渇き
気持ち悪い
嘔吐
幻覚・ 広義の美 快
夢想 広義の醜 嫌悪
認知対象 広義の美 快 有能性への欲望
認知の欲求
広義の醜 嫌悪
想起対象 広義の美 快 有能性への欲望
広義の醜 嫌悪
想像対象 広義の美 快 有能性への欲望
想像遊び
広義の醜 嫌悪
理解対象 広義の美 快 有能性への欲望
知的遊び 認識への欲求
学問
広義の醜 嫌悪
理論対象 善 愛
悪 憎しみ
運動・ 広義の美 快 有能性への欲望
行動 身体的遊び 活動欲求
スポーツ
広義の醜 嫌悪

(10.3.2)外部感覚
(a)〈特殊感覚〉視覚、聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚
(b) 感覚的な遊びが〈芸術〉である。
(c)快と嫌悪から生じる欲望の強さ
〈欲望〉の種類は、〈愛〉や〈憎しみ〉の種類の数だけある。そして最も注目すべき最強の 〈欲望〉は、〈快〉と〈嫌悪〉から生じる〈欲望〉である。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(10.3.3)共通感覚
ある特定の外部感覚は、その原因となる身体の能動が、より広い範囲の身体に影響を与え、こ れら身体の能動を精神において受動する共通感覚を生じる。(ルネ・デカルト(1596- 1650))
(10.3.4)自分の肢体のなかにあるように感じる痛み、熱さ、その他の変様
(a)〈表在性感覚〉皮膚の触覚、圧覚、痛覚、温覚
(b)〈深部感覚〉筋、腱、骨膜、関節の感覚
(10.3.5)身体ないしその一部に関係づける知覚としての、飢え、渇き、その他の自然的 欲求
(a)〈内臓感覚〉空腹感、満腹感、口渇感、悪心、尿意、便意、内臓痛など
参考:精神の受動のひとつ、身体ないしその一部に関係づけ る知覚として、飢え、渇き、その他の自然的欲求、自分の肢体のなかにあるように感じる痛 み、熱さ、その他の変様がある。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(10.3.6)精神の能動によらない想像、夢の中の幻覚や、目覚めているときの夢想
精神の受動のひとつ,身体によって起こる知覚として,意志によらない想像がある。夢の中の幻 覚や,目覚めているときの夢想も,これである。これらは,飢え,渇き,痛みとは異なり,精神に 関連づけられており,これらは情念の一種である。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(10.3.7)認知
(10.3.8)想起
(10.3.9)想像
(a)存在しない何かを想像すること。
存在しない何かを想像しようと努める場合、また、可知的なだけで想像不可能なものを考えよ うと努める場合、こうしたものについての精神の知覚も主として、それらを精神に知覚させる 意志による。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(b)詩人は、精神的なものを形象化するために、想像力を用いる。
悟性は精神的なものを形象化するために、風や光などのようなある種の感覚的物体も、用いる ことができる。これは詩人たちの手法だ。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(10.3.10)理解
(a)可知的なだけで想像不可能なものを考える。
悟性はいかにして、想像力、感覚、記憶から助けられ、あるいは妨げられるか。(ルネ・ デカルト(1596-1650))
(b)モデル、記号
悟性は、感覚でとらえ得ないものを理解するときは、かえって想像力に妨げられる。逆に、感 覚的なものの場合は、観念を表現する物自体(モデル)を作り、本質的な属性を抽象し、物の ある省略された形(記号)を利用する。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(c)抽象的思考
問題となっている対象を表わす抽象化された記号を、紙の上の諸項として表現する。次に紙の 上で、記号をもって解決を見出すことで、当初の問題の解を得る。(ルネ・デカルト (1596-1650))
(d)知的な遊びが〈学問〉である。
(10.3.11)運動・行動
(a) 意志のひとつとして、身体において終結する能動がある。(ルネ・デカルト(1596- 1650))
(b) 想像が、多数のさまざまな運動の原因となる。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(c)身体的な遊びが〈スポーツ〉である。

(10.4)有能性への欲望(ロバート・W・ホワイト(1904-2001))
有能性への欲望:私たちには、活動それ自体を楽しみ、その効力感を感じ、有能性を獲得し効 果的に機能すること、課題に習熟することへの欲求がある。例として、好奇心、刺激への欲 求、遊び、冒険への欲求。(ロバート・W・ホワイト(1904-2001))
好奇心や刺激への欲求、遊びや冒険への欲求は、活動それ自体を楽しむ自発的、積極的 で創造的な活動であり、このとき感じる快は、能動的主体として生きているという効力感から もたらされる。この傾向は、生物が本来的に生きて活動しているという観点からは、有能性を 獲得し効果的に機能すること、課題に習熟することへの欲求ともいえる。動機付けという観点 からは、この欲求は内発的であり、賞賛などの外的報酬によるものではない。
参考:検索(Robert W. White)
参考:検索(ロバート・W・ホワイト)

(11)欲求の階層
《目次》
(11.1)マズローの欲求の階層の新解釈(アブラハム・マズロー(1908-1970))
(11.2)マレーの高次の動機の新解釈(ヘンリー・マレー(1893-1988))

(11.1)マズローの欲求の階層の新解釈(アブラハム・マズロー(1908-1970))
以下の記載は、次の仮説に従っている。すなわち、欲求とは、想起、想像、理解された対 象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快または不快の 情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。
基礎的な欲求の対象(情動の対象)から順に列挙すると、以下の通りである。また、様々 な様相の情動誘発刺激に対する有能性への欲望(ロバート・W・ホワイト(1904-2001))は、生 理的欲求と並ぶ基本的な欲求であると想定されるため、冒頭に整理した。
(a)様々な様相の情動誘発刺激による情動(驚き、快、不快)(有能性への欲望)
(a.1)外部感覚(感覚遊び、刺激への欲求、美への欲求、様々な芸術)
(a.2)表在性感覚、深部感覚、内臓感覚(生理的欲求を含む。)
(a.3)受動的な幻覚、夢想
(a.4)認知対象(認知への欲求)
(a.5)想起対象
(a.6)想像対象(想像遊び)
(a.7)理解対象(知的遊び、認識への欲求、様々な学問)
(a.8)理論対象
(a.9)運動、行動(身体遊び、活動欲求、様々なスポーツ)
(b)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
空気、水、食物、庇護、睡眠、性
(c)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の 欲求)
帰属価値:意味、真、必然、単純(認知の欲求)
帰属価値:善、無礙、楽しみ
(d)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
帰属価値:正義、善
(e)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
帰属価値:正義、善
(f)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
帰属価値:正義、善、自己充実、躍動、完成、個性
(g)外的対象、他者状態を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
(g.1)外的対象の快、不快(快、嫌悪)(審美的欲求)
帰属価値:美、秩序、完全、豊富
(g.2)他者状態の快、不快(喜び、憐れみ)
帰属価値:善
(g.3)他者行為の快、不快(好意、憤慨)
帰属価値:正義、善
参照:(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成, 単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による 尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハ ム・マズロー(1908-1970))
(出典:wikipedia)
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great
 
philosophers)
(11.2)マレーの高次の動機の新解釈(ヘンリー・マレー(1893-1988))
以下の記載は、次の仮説に従っている。すなわち、欲求とは、想起、想像、理解された対 象や、言語などで表現された予測としての未来、または構想としての未来が、快または不快の 情動を喚起する状態のことである。欲求の実体は、情動である。マズローの整理に、マレーの 高次の動機を位置づける。欲求の配列順と「帰属価値」は、マズローによる。
(a)様々な様相の情動誘発刺激による情動(驚き、快、不快)(有能性への欲望)
(a.1)外部感覚(感覚遊び、刺激への欲求、美への欲求、様々な芸術)
(a.2)表在性感覚、深部感覚、内臓感覚(生理的欲求を含む。)
(a.3)受動的な幻覚、夢想
(a.4)認知対象(認知への欲求)
(a.5)想起対象
(a.6)想像対象(想像遊び)
(a.7)理解対象(知的遊び、認識への欲求、様々な学問)
(a.8)理論対象
(a.9)運動、行動(身体遊び、活動欲求、様々なスポーツ)
(b)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
空気、水、食物、庇護、睡眠、性
(c)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の 欲求)
帰属価値:意味、真、必然、単純(認知の欲求)
帰属価値:善、無礙、楽しみ
高次動機:驚き、恐怖を回避する未来が指向される(秩序、理解欲求)
秩序:秩序と清潔さを達成すること
理解:疑問をもち、考えること
高次動機:不快な自己状態を回避する未来が指向される(優越、被害回避欲求)
優越:障害物を乗り越えること
被害回避:苦痛と傷害を避ける
(d)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
帰属価値:正義、善
高次動機:自己向け他者行為が快となる未来が指向される(援助欲求)
援助:栄養、愛情、援助を求めること
高次動機:不快な自己向け他者行為を回避する未来が指向される(防衛、攻撃欲求)
防衛:防衛し、正当化すること
攻撃:他者を傷つけること
(e)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
帰属価値:正義、善
高次動機:自己行為の他者評価が快となる未来が指向される(支配、顕示、屈辱回避 欲求)
顕示:興奮させ、衝撃を与え、自己脚色すること
支配:他者を支配し、影響を与えること
屈辱回避:屈辱を避ける
高次動機:不快な自己行為の他者評価を回避する未来が指向される(屈服、服従欲 求)
屈服:罰に従い、受け入れること
服従:喜んで仕えること
(f)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
帰属価値:正義、善、自己充実、躍動、完成、個性
高次動機:自己行為の自己評価が快となる未来が指向される(遊び、自律、達成欲 求)
遊び:リラックスすること
自律:独立に向けて努力すること
達成:目標に向けて、すばやく、うまく努力し、到達すること
高次動機:不快な自己行為の自己評価を回避する未来が指向される(反動欲求)
反動:挫折に打ち克つこと
(g)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
(g.1)外的対象の快、不快(快、嫌悪)(審美的欲求)
帰属価値:美、秩序、完全、豊富
高次動機:外的対象が快となる未来が指向される(感覚欲求)
感覚:感覚的満足を得ること
(g.2)他者状態の快、不快(喜び、憐れみ)
帰属価値:善
高次動機:他者状態が快となる未来が指向される(愛育、性愛欲求)
愛育:無力な子どもを助け、あるいは守ること
性愛:性愛関係をつくること
(g.3)他者行為の快、不快(好意、憤慨)
帰属価値:正義、善
高次動機:他者行為が快となる未来が指向される(親和欲求)
親和:友情を形成すること
高次動機:不快な他者行為を回避する未来が指向される(拒否、隔離欲求)
拒否:嫌いな人を拒絶すること
隔離:他者と離れたところにいること
(出典:wikipedia)
ヘンリー・マレー(1893-1988)の命題集(Propositions of great philosophers)

(12)自由意志論
《目次》
(12.1)受け継がれてきた文化の受け容れ(真理、価値)
(12.1.1)デカルトの第一格率
(12.1.2)問題中心的、共同社会感情、対人関係、民主的性格構造、文化からの自律性(ア ブラハム・マズロー(1908-1970))
(12.2)真理は、経験と理性によって認識することができる
(12.2.1)欲望は、真なる認識に従っているかどうか
(12.2.2)より包括的な真理の把握は、自由意志の要素の一つ
(12.2.3)偏見、先入見からの自由、現実の受容、不確かさへの志向(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))
(12.3)自己の情念は概ね頼りになる
(12.3.1)情念は、事物の価値の可能性を感知させるので、巧みに利用すること
(12.3.2)自己の情動の自然な受容、絶えず新鮮な評価、創造性、神秘的経験、大洋感情 (アブラハム・マズロー(1908-1970))
(12.4)自己の情念に従うことの是非
(12.4.1)道徳が腐敗している社会でなければ、自分の情念を頼りにできる
(12.4.2)自己実現における二分性の解決(アブラハム・マズロー(1908-1970))
(12.5)価値も、経験と理性により認識できる
(12.5.1)善・悪、美・醜には真・偽の区別がある
(12.5.2)自律的な価値体系、多様な価値体系の受容(アブラハム・マズロー(1908- 1970))
(12.6)私たちに依存するものと、依存しないものを区別すること
(12.7)意志の自由の存在
(12.8)意志決定に伴う情動
(12.8.1)概要
(12.8.2)自己状態の予測に伴う情動(再掲)
(12.8.3)自己行為の自己評価に伴う情動(再掲)
(12.8.4)意志決定に伴う情動
(12.8.5)不確かさへの志向(リチャード・M・ソレンティーノ(1943-)
(12.8.6)過去の意志決定に伴う情動
(12.8.7)徳という欲望
(12.8.8)自己評価の高慢と高邁の違い
(12.8.8.1)高邁
(12.8.8.2)高慢
(12.8.8.3)超越性、プライバシーの欲求、他者からの自律性(アブラハム・マズロー (1908-1970))
(12.8.9)高邁の反対の卑屈の情念

(12.1)受け継がれてきた文化の受け容れ(真理、価値)
(12.1.1)デカルトの第一格率
何が真理なのか、何が価値あるものなのかについて、聡明な人たちの穏健な意見、国の 法律、慣習を学ぶこと。(第一格率)
第一格率:理性による判断が決意を鈍らせ不決断に陥らせるような場合には、私を育ててきた 宗教、聡明な人たちの穏健な意見、国の法律、慣習に服従することで、日々の生活をできるだ け幸福に維持すること。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(12.1.2)問題中心的、共同社会感情、対人関係、民主的性格構造、文化からの自律性(ア ブラハム・マズロー(1908-1970))
(a)問題中心的
(i)自分と関係のない問題でも心にかけ、幅広い視野を保つことができる。
(ii)何らかの使命や達成すべき仕事を持っており、それらは人類一般や国家一般の利 益に関わる場合が多い。
(iii)人類全体に対する帰属意識をもつ。
(b)共同社会感情
(i)人類全般に対して同一感や愛情を持っている。平均的な人々の欠点にいら立った り、腹を立てたりしながらも、人々に同一感を感じ、人類を助けたいと真剣に願っている。
(c)対人関係
(i)他者と深い結びつきを形成し、愛情、親密性、献身性を持って付き合う。そして それゆえに、友人の範囲はかなり狭い。
(ii)偽善的でうぬぼれた尊大な人に対しては厳しい態度を持っているが、面と向かっ てそれを表明したりはしない。
(d)民主的性格構造
(i)階級や教育程度、政治的信念、人種や皮膚の色などに関係なく誰とでも親しくで きる。同じ人間だからという理由だけで、どんな人にもある程度の尊敬を払う。
(ii)学習関係において、外面的威厳を維持しようとしたり、地位や年齢に伴う威信な どを保とうなどとはしない。自分に何かを教えてくれるものを持っている人たちを本当に尊敬 し、謙虚になる。道具や技術をうまく使いこなす人たちにも尊敬をささげる。
(e)文化からの自律性
(i)変化や改善の必要を認め、自分の住む文化からある程度の距離をおくことができ る。
(ii)本質的、内部的には因襲にとらわれないが、つまらないことで人を傷つけたり人 と争ったりしたくないため、できるかぎりは慣習どおりに振舞う。
参照: 自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実 の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者 の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))

(12.2)真理は、経験と理性によって認識することができる
(12.2.1)欲望は、真なる認識に従っているかどうか
欲望の統御:欲望は、真なる認識に従っているか。また、私たちに依存しているものと、依存 していないものが、よく区別できているか。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(12.2.2)より包括的な真理の把握は、自由意志の要素の一つ
(i) 悟性の及ぶ範囲を広げようとすることも、また、意志に違いない。(ルネ・デカルト (1596-1650))
(ii) 認識の欠陥による不決定な状態は,程度の低い自由である. また,真と善を明晰に見たときの躊 躇のない判断・選択は自由を減少させるものではない. 自由意志は,悟性の限界を超える範囲 にまで及び,これが誤りと罪の原因でもある.(ルネ・デカルト(1596-1650))
(12.2.3)偏見、先入見からの自由、現実の受容、不確かさへの志向(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))
(a)偏見、先入見からの自由
(i)抽象、期待、信念、固定観念などにとらわれず、現実を正確に知覚し、現実の世 界の中に生きることができる。
(ii)正反対のパーソナリティ特性は、自己防衛機制の「合理化」である。より受け入 れられる原因に帰属させることで、あることを受け入れられるようにすること。
(b)現実の受容
(i)自己、他者、世界を受け入れている。自分自身や他の人々の人間性を、欠点も含 めて、ありのままに受け入れることができる。
(ii)考え深く賢明で、敵意的でないユーモアのセンスをもつ;人間のおかれた状況を 笑うが、特定の個人を笑いものにしない。
(iii)正反対のパーソナリティ特性は、自己防衛機制の「投影」である。 自身の受 け入れがたい側面を別の誰かに帰属させること。
(c)不確かさへの志向
未知のものや不確かなことがあっても快適でいられる。
参照: 自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実 の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者 の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))

(12.3)自己の情念は概ね頼りになる
(12.3.1)情念は、事物の価値の可能性を感知させるので、巧みに利用すること
(a)善・悪、美・醜については、様々な情念を通じて感知することができる。この自分 の傾向性と感じたままの良心に、概ね頼ることができる。(エリーザベトへの解答)
(b) 情念はその本性上すべて善い、その悪用法や過剰を避けるだけでよい。(ルネ・デカルト (1596-1650))
(c) わたしたちは、情念を巧みに操縦し、その引き起こす悪を十分耐えやすいものにし、情念のす べてから喜びを引き出すような知恵を持つことができる。(ルネ・デカルト(1596- 1650))
(d) 情念は、わたしたちを害したり益したりしうる対象の多様なしかたを反映している。(ル ネ・デカルト(1596-1650))

(12.3.2)自己の情動の自然な受容、絶えず新鮮な評価、創造性、神秘的経験、大洋感情 (アブラハム・マズロー(1908-1970))
(a)自己の情動の自然な受容
(i)思考や情動において自発的・柔軟的で自然体である。
(ii)正反対のパーソナリティ特性は、自己防衛機制の「抑圧」である。脅威となる衝 動や出来事を、意識の外に追い出し、無意識にすることで、強く抑制すること。
(iii)また、自己防衛機制の「反動形成」も正反対のパーソナリティ特性である。不 安を生みだす衝動を、意識の中で、その逆のものに置き換えること。
(b)絶えず新鮮な評価
(i)たとえ非常に単純でありふれた経験に対しても、常に新鮮な認識を保つことがで きる(例:夕暮れ、花、他者に対して)。
(ii)人生の基本的に必要なことを、繰り返し新鮮に、無邪気に、畏敬や喜びや恍惚感 さえもって評価できる。
(c)創造性
(i)健康な子どもの持つ純真で普遍的な創造性と同種の創造性を持つ。
(ii)創造的で独創的であり、必ずしも偉大な才能をもたないが、素朴に、常に新鮮さ をもってものごとに接することができる。
(d)神秘的経験、大洋感情
(i)限りなく地平線が開けている感じ、エクスタシーと畏敬の感じ、非常に重要で価 値あることが起こったという感じ、などを伴う経験によって力づけられている。
(ii)強度の集中、無我状態、自己喪失感、自己超越感などのような、神秘的とも言え る経験に至る場合もある。
参照: 自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実 の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者 の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))

(12.4)自己の情念に従うことの是非
(12.4.1)道徳が腐敗している社会でなければ、自分の情念を頼りにできる
人は、伝統的な価値を受け容れているものなので、その文化が腐敗しているのでなけれ ば、自分の情念を頼りにしても、大きな間違いは起こらない。(エリーザベトへの解答)
(12.4.2)自己実現における二分性の解決(アブラハム・マズロー(1908-1970))
情と知、理性と本能、認知と意欲、仕事と遊び、義務と喜び、成熟と子供っぽさ、親切 心と残忍さ、具象と抽象、自己と社会、内向的と外向的、能動的と受動的、男性的と女性的、 その他のさまざまな対立性や二分性は解消され、相互に融合し合体して統一体となっている。
参照: 自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実 の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者 の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))

(12.5)価値も、経験と理性により認識できる
(12.5.1)善・悪、美・醜には真・偽の区別がある
情念は常に正しいとは限らず、善・悪、美・醜には真・偽の区別があり、経験と理性を 用いて認識しなければならない。
(12.5.2)自律的な価値体系、多様な価値体系の受容(アブラハム・マズロー(1908- 1970))
(a)自律的な価値体系
(i)自己の本質、人間性、多くの社会生活、自然や物質的現実を哲学的に受容するこ とによって、自然に価値体系の確固たる基盤を身につけている。
(ii)この価値体系の基盤によって、現実との快適な関係、社会感情、満たされた状 態、手段と目的との識別などがもたらされる。
(iii)自律的な倫理規定を持ち、その規定に照らして重要と思えることのためであれ ば、慣習には従わないこともある。
(iv)正反対のパーソナリティ特性は自己防衛機制の「昇華」である。社会的に受け入 れられる方法で社会的に受け入れられない衝動を表現する。
(b)多様な価値体系の受容
性別や年齢による差異、身分上の差異、役割上の差異、政治的差異、宗教上の差異な どを受容できる価値体系を持っている。
参照: 自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実 の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者 の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))

(12.6)私たちに依存するものと、依存しないものを区別すること
自分が生きている状況のうち、変えられるものと変えられないものを区別し、自分の欲望 を制御することが必要である。(第三格率)
(a) 第三格率:運命に、よりはむしろ自分にうち勝とう、世界の秩序を、よりはむしろ自分の欲望 を変えよう、と努めること。(ルネ・デカルト(1596-1650))
・変えられない諸事実、諸法則
・受け継がれた諸価値(世界の秩序)
・自己の情念
・新たな価値、自己の欲望

(b)私たちに依存するものと、依存しないもの
永遠の決定が、私たちの自由意志に依存させようとしたもの以外は、すべて必然的、運命的で ないものは何も起こらない。私たちにのみ依存する部分に欲望を限定し、理性が認識できた最 善を尽くすこと。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(i)私たちに依存するものとしての自由意志
(ii)自由意志以外は、すべて必然的、運命的なものである
まったく私たちに依存しないものについては、それれがいかに善くても、情熱的に欲してはな らない。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(c)知性の誤りから生ずる偶然的運
私たちに依存しないものを可能だと認め欲望を感じるとき、これは偶然的運であり、知性の誤 りから生じただけの幻なのである。なぜなら摂理は、運命あるいは不変の必然性のようなもの であり、私たちは原因のすべてを知り尽くすことはできないからである。(ルネ・デカル ト(1596-1650))

(d)統制の錯覚
統制の錯覚:成功の原因を内的帰属し、失敗の原因は外的帰属する。また、完全に偶然的な出 来事でも、何かしら原因と秩序と意味があり、予測と統制が可能であると考える。これらは、 自己高揚的バイアスの一部であり、パーソナリティにとって潜在的に有益でもある。 (ウォルター・ミシェル(1930-))

(出典:COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK)

(i)人間は、客観的に統制可能な出来事と、そうでない出来事を区別できない傾向があ る。
(ii)成功原因の内的帰属
自らのある行為の結果が良かったとき、その行為は自分自身が引き起こしたものであ るとみなす傾向がある。
(iii)失敗原因の外的帰属
うまくいかなかったときや負けたときは自分のせいでないと考える。
(iv)統制の錯覚
まったくの偶然による出来事でも、その出来事はその人が引き起こした、その本人に ふさわしいこと、すなわち世界は予測可能で公平なものであると考えたいという根源的な傾向 がある。
(v)意味と秩序への欲求
特に悲劇的な事件のように、結果がよくないものであったときはなおさら、その出来 事を「もっとも」なことで、意味があり、秩序正しいとみなすことができないかぎり、対処す るのは難しいと感じる。

(e)統制の錯覚の効果
嫌悪的な課題や、ストレスや苦痛を伴う出来事を、予測可能で自分で統制できると信じると、 そう信じることがたとえ現実と合わない幻想のような場合でさえ、否定的な感情が弱まり、課 題遂行の悪化がかなり防げる。(ウォルター・ミシェル(1930-))

(12.7)意志の自由の存在
(a) 意志の自由は、確かにある。これはまさに、完全に確実ではないことを信ずるのを拒み得る自 由が、我々のうちにあることを経験したときに、自明かつ判然と示された。(ルネ・デカ ルト(1596-1650))
(b) しかしながら、私が自分の意志により選択するように思えることも、これがこの全宇宙の一部 であるのならば、この宇宙を支配する法則によって、あらかじめ予定されていたものに違いな い。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(i)予定されているのなら、いずれを選ぶか無関心でも結果は同じなのか
いずれを選ぶかに無関心であってはならないし、この神意の決定の不変の運命に頼っ てもならない。私たちにのみ依存する部分を正確に見きわめ、この部分以上に欲望が広がらな いようにすること。そして、理性が認識できた最善を尽くすこと。

(c) 我々の精神が有限であるのに対して、この宇宙を支配する諸法則はあまりに深遠で知りがた く、いかにして人間の自由な行為が、未決定に残されるかを、未だ明快には理解することがで きていない。しかし、この自由は確かに経験される。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(12.8)意志決定に伴う情動

(12.8.1)概要
《情動誘発刺激》 《感覚》《想起》《想像》《想像》《想像》
(時間様相) (現在)(過去)(未来)(未来)(未来)
《認知対象》《属性》《認知》《認知》《認知》《認知》《欲望》
《理論対象》 《状況》《状況》《予測》《規範》《構想》
自己状態 善 喜び 安心
悪 悲しみ 希望
不安
執着
絶望
自己行為の 善 内的自己満足
自己評価 悪 後悔
意志以外の 高慢
属性保持者 謙虚
としての自己
意志決定者 高邁 良心の 不決断 徳という
としての自己 卑屈 悔恨 欲望
大胆、勇気 自己効力期待
対抗心
臆病、恐怖
不確かさ 快 不確かさ志向
不快 不確かさ回避
自己の情動 喜び

(12.8.2)自己状態の予測に伴う情動(再掲)
善の獲得、悪の回避等が可能であると考えただけで、〈欲望〉がそそられる。そして、実現の 見込みの大きさに応じて、次の情動が生じる:〈安心〉〈希望〉〈不安〉〈執着〉〈絶望〉。 (ルネ・デカルト(1596-1650))
(12.8.3)自己行為の自己評価に伴う情動(再掲)
〈内的自己満足〉、〈後悔〉、後悔の効用(ルネ・ デカルト(1596-1650))
(12.8.4)意志決定に伴う情動
(a) わたしたちに依存する行為の手段選択の困難から〈不決断〉、実現における困難さに対して、 実現しようとする確固とした意志の強さに応じて、〈大胆〉〈勇気〉〈対抗心〉〈臆病〉〈恐 怖〉の情念が生じる。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(b) 不決断の効用、および過剰な不決断に対する治療法。(ルネ・デカルト(1596- 1650))
(c) 臆病の効用、および臆病の治療法。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(d) 恐怖の治療法。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(12.8.5)不確かさへの志向(リチャード・M・ソレンティーノ(1943-)
不確かさへの志向:次のようなパーソナリティ次元が存在する。不確実さを正面から受けとめ 新しい情報を求めて解決しようとする。逆に、不確実さに不快を感じて状況を回避し、新しい 情報も求めない。(リチャード・M・ソレンティーノ(1943-)

(出典:Western University )
検索(Richard M. Sorrentino)

次のようなパーソナリティ次元が存在する。
(i)不確実さを扱うことに比較的自信があり、それを正面から解決しようとする傾向。
(ii)不確かさに不快になり、不確かさの主観的感覚が増加する状況を回避しようとする 傾向。
結果についてコントロールできない状況を経験した後、(i)の傾向の強い人は、その 状況に関連する新しい情報を求めるのに対して、(ii)の傾向の強い人は新しい情報を回避す る。
特殊例として、(i)の傾向の強い人は、「あるテストが重要な能力を診断する」と言 われた方が、良い成績をとり、(ii)の傾向の強い人は「テストが重要な能力を診断するもので はない」と伝えられた方がが、よりよい成績をとる。(リチャード・M・ソレンティーノ (1943-))

(12.8.6)過去の意志決定に伴う情動
〈不決断〉が取り除かれないうちに何かの行動を決した場合、そこから〈良心の悔恨〉が生ま れる。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(12.8.7)徳という欲望
(a) 自由意志にのみ依存する善きことをなすのが、徳という欲望である。これは、私たちに依存す るものであるゆえに、必ず成果をもたらす。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(b) 徳とは、精神をある思考にしむける、精神のうちの習性である。この習性は、思考や教育から 生み出される。(ルネ・デカルト(1596-1650))
(c) 人間は,自由意志により自分の行為の創造者となり,賞賛に値するその行為によって,人間にお ける最高の完全性に至る.(ルネ・デカルト(1596-1650))
(d) わたしたちが正当に賞賛または非難されうるのは、ただ、この自由意志に依拠する行動だけで あり、これだけが、自分を重視する唯一の正しい理由である。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(12.8.8)自己評価の高慢と高邁の違い
(12.8.8.1)高邁
(a)自己を価値に対する驚き(重視)の情念
自ら最善と判断することを実行する確固とした決意 と、この自由意志のみが真に自己に属しており、正当な賞賛・非難の理由であるとの認識が、 自己を重視するようにさせる真の高邁の情念を感じさせる。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(b)様々な情念が喚起する知的な喜び
不思議な出来事を本で読んだり、舞台で演じられるのを見たりするときに感じるさまざまな情 念は、私たちに、知的な喜びともいえる快感を経験させる。(ルネ・デカルト(1596- 1650))

(c)完全性の認識による喜び
私たちが、自分が最善と判断したすべてを実行したこ とによる満足を、つねに持ってさえいれば、よそから来るいっさいの混乱は、精神を損なう力 を少しももたない。むしろ精神は、みずからの完全性を認識させられ、その混乱は精神の喜び を増す。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(d)自己効力期待
自己効力期待:自分自身が行為の主体であり、自分にはうまく実行できるという期待と信念 が、価値ある目標の追求、的確な判断、効果的な行動を助け、努力を持続させる。反対は無力 感で、諦め、無気力、抑うつへの確実な道である。(ウォルター・ミシェル(1930-))

(出典:COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK)

(e)他者の価値に対する驚き(重視)の情念
高邁の情念をもつ人々は、善き意志という点で等し く、それ以外の美点で異なっていても過大に劣っているとか優れていると考えることはない。 また、犯された過ちも認識の欠如によると考えて許そうとする。(ルネ・デカルト (1596-1650))

(12.8.8.2)高慢
自由意志以外のすべての善、例えば才能、美、富、名誉などによって、自分自身を過分に評価 してうぬぼれる人たちは、真の高邁をもたず、ただ高慢をもつだけだ。高慢は、つねにきわめ て悪い。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(12.8.8.3)超越性、プライバシーの欲求、他者からの自律性(アブラハム・マズロー (1908-1970))
(a)超越性、プライバシーの欲求
(i)孤独やプライバシーを欲する。自分自身の潜在能力や手腕を信頼できる。
(ii)高い集中力を持ち、極度の集中によって外部環境のことを忘れたりすることが ある。
(iii)比較的少数の他者と非常に深い結びつきを作りあげる。
(iv)普通の人々からは、冷たい、俗物主義である、愛情が欠如している、友情がな い、などと思われることもある。
(b)他者からの自律性
(i)比較的、外発的な満足に左右されない。例えば、他者からの受容や人気に動か されない。
(ii)自然環境や社会環境からの独立性を持ち、名誉、地位、報酬、威信、愛、など よりも、自分自身の成長や発展のために、自分自身の可能性や潜在能力を頼みとしている。
参照: 自己実現的人間のパーソナリティ特徴の例:偏見,先入見からの自由/現実 の受容/不確かさへの志向/新鮮な評価/創造性/神秘的経験,大洋感情/自律的な価値体系/他者 の多様な価値体系の受容/プライバシーの欲求/他者からの自律性(アブラハム・マズ ロー(1908-1970))

(12.8.8.2)高慢
自由意志以外のすべての善、例えば才能、美、富、名誉などによって、自分自身を過分に評価 してうぬぼれる人たちは、真の高邁をもたず、ただ高慢をもつだけだ。高慢は、つねにきわめ て悪い。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(12.8.9)高邁の反対の卑屈の情念
自分は決断力がなく、自由意志の全面的な行使能力がないと考えるのが、卑屈すなわち悪しき 謙虚であり、高邁の正反対である。(ルネ・デカルト(1596-1650))


《概念図》(ルネ・デカルト(1596-1650))
┌─────────────身体(外界)─┐
│┌精神─────────┐ │
││┌─────(受動)┐│ │
│││外部感覚 ←─(身体←外界)│
│││(他者情動、意図)←─(身体←他者)│
│││ (記号、意図)←─(身体←文化)│
│││共通感覚 ←─(身体) │
│││ 肢体の感覚 ←─(身体←外界)│
│││ 内臓感覚 ←─(身体) │
│││ 幻覚、夢想←─(受動)────記憶│
│││想像された観念←想像力(能動)─記憶│
│││情念・情動(受動)←─┐←────┐│
││└────┬────┘││ ││
││ ↓ ││ ││
││┌認知──┴(能動)┐││ ││
│││外部感覚の認知 ├─┘ ││
│││共通感覚の認知 ←─機能と一体化││
│││ 肢体の感覚 ││ した記憶 ││
│││ 内臓感覚 ─→記憶化 ││
│││ 幻覚・夢想 ││(身体の受動)││
│││想像された観念 ││ ││
│││情念・情動(認知)││ ││
││└────┬────┘│ ││
││ ↓ │ ││
││┌意志──┴(能動)┐│ ││
│││想起 ├───────┘│
│││想像、理解 ←─機能と一体化 │
│││予測、規範、構想 ││ した記憶 │
│││状況理論(過去) ─→記憶化 │
│││状況理論(現在) ││(身体の受動) │
│││状況理論(予測) ││ │
│││価値理論(規範) ││ │
│││価値理論(構想) ││ │
│││諸法則・真理 ││ │
│││諸芸術 ││ │
│││計画 ││ │
│││行動────────→(身体→外界)│
│││行動────────→(身体→他者)│
││└─────────┘│ │
│└───────────┘ │
└────────────────────┘

《概念図》(アブラハム・マズロー(1908-1970))
┌───────────────┐
│生体の状態(身体) │
│ 意識的な動機、行為の背後には│生理的欲求
│ 根本的で無意識的な、優勢度に│安全と安定の欲求
│ おいて階層づけられた、多数の│愛と集団帰属の欲求
│ 欲求、動機が存在し、多様な文│承認の欲求
│ 化的な経路を通じて、具体化さ│自己尊重の欲求
│ れている。 │自己実現欲求
│┌────────────┐ │
││文化(特殊的、局所的) │ │
││┌─────────┐ │ │
│││引き継がれた文化 ← │ │文化
│││ 諸事実・真理 → │ │a1 問題中心的
│││ 諸価値・芸術 │ │ │a2 共同社会感情
│││ │↑ │ │ │a3 対人関係
│││ ││ │ │ │a4 民主的性格構造
│││ ││ │ │ │a5 文化からの自律性
│││ ↓│ │ │ │
│││意識的な動機←情動─── │意識的な動機
│││ 究極目的 ─────→ │e1 自律的な価値体系
│││ ↓ │ │ │e2 多様な価値体系の受容
│││ 部分目標 │ │ │
│││ └───┐ │ │ │情動
│││ │ │ │ │c1 自己の情動の自然な受容
│││ │ │ │ │c2 絶えず新鮮な評価
│││ │ │ │ │c3 創造性
│││ │ │ │ │c4 神秘的経験、大洋感情
│││ │ │ │ │
│││環境(状況)←情動─── │環境(状況)
│││ 過去・現在─────→ │b1 偏見、先入見からの自由
│││ 予測・規範│ │ │ │b2 現実の受容
│││ │┌──┘ │ │ │b3 不確かさへの志向
│││ ↓↓ 分離的←─── │
│││意志決定 特殊的 │ │ │d1 自己実現における二分性の解決
│││計画││ 反応 │ │ │意志決定
│││ ↓↓↓ ↓ │ │ │h1 超越性、プライバシーの欲求
│││行為・行動・反応 │ │ │h2 他者からの自律性
││└─────────┘ │ │
││文化(特殊的、局所的) │ │
│└────────────┘ │
│生体の状態(身体) │
└───────────────┘
参考:動機は、人間の統合的全体性の観点から解明される。すな わち、階層づけられた多数の無意識的な欲求に基盤を持ち、文化的な環境と相互作用する意識 的な目標と、力動的に解釈された環境との相互作用から人間の行動が理解できるだろう。 (アブラハム・マズロー(1908-1970))


《概念図》統合
┌─────────────身体(外界)─┐
│身体 │
│ 意識的な動機、行為の背後には根本的で無│生理的欲求
│ 意識的な、優勢度において階層づけられた│安全と安定の欲求
│ 多数の欲求、動機が存在し、多様な文化的│愛と集団帰属の欲求
│ な経路を通じて、具体化されている。 │承認の欲求
│ │自己尊重の欲求
│ │自己実現欲求
│┌精神─────────┐ │
││┌─────(受動)┐│ │
│││外部感覚 ←─(身体←外界)│
│││(他者情動、意図)←─(身体←他者)│
│││ (記号、意図)←─(身体←文化)│
│││共通感覚 ←─(身体) │
│││ 肢体の感覚 ←─(身体←外界)│
│││ 内臓感覚 ←─(身体) │
│││ 幻覚、夢想←─(受動)────記憶│
│││想像された観念←想像力(能動)─記憶│
│││情念・情動(受動)←─┐←────┐│
││└────┬────┘││ ││
││ ↓ ││ ││
││┌認知──┴(能動)┐││ ││
│││外部感覚の認知 ├─┘ ││
│││共通感覚の認知 ←─機能と一体化││
│││ 肢体の感覚 ││ した記憶 ││
│││ 内臓感覚 ─→記憶化 ││
│││ 幻覚・夢想 ││(身体の受動)││
│││想像された観念 ││ ││
│││情念・情動(認知)││ ││
││└────┬────┘│ ││
││ ↓ │ ││
││┌意志──┴(能動)┐│ ││
│││想起 ├───────┘│
│││想像、理解 ←─機能と一体化 │
│││予測、規範、構想 ││ した記憶 │
│││状況理論(過去) ─→記憶化 │
│││状況理論(現在) ││(身体の受動) │
│││状況理論(予測) ││ │
│││価値理論(規範) ││ │
│││価値理論(構想) ││ │
│││諸法則・真理 ││ │
│││諸芸術 ││ │
│││ ││ │
│││引き継がれた文化 ││ │文化
│││ 諸事実・真理 ││ │a1 問題中心的
│││ 諸価値・芸術 ││ │a2 共同社会感情
│││ │↑ ││ │a3 対人関係
│││ ││ ││ │a4 民主的性格構造
│││ ││ ││ │a5 文化からの自律性
│││ ↓│ ││ │
│││意識的な動機 ││ │意識的な動機
│││ 究極目的 ││ │e1 自律的な価値体系
│││ ↓ ││ │e2 多様な価値体系の受容
│││ 部分目標 ││ │
│││ └───┐ ││ │情動
│││ │ ││ │c1 自己の情動の自然な受容
│││ │ ││ │c2 絶えず新鮮な評価
│││ │ ││ │c3 創造性
│││ │ ││ │c4 神秘的経験、大洋感情
│││ │ ││ │
│││環境(状況)│ ││ │環境(状況)
│││ 過去・現在│ ││ │b1 偏見、先入見からの自由
│││ 予測・規範│ ││ │b2 現実の受容
│││ │┌──┘ ││ │b3 不確かさへの志向
│││ ↓↓ 分離的←── │
│││意志決定 特殊的 ││ │d1 自己実現における二分性の解決
│││計画││ 反応 ││ │意志決定
│││ ↓↓↓ ↓ ││ │h1 超越性、プライバシーの欲求
│││行為・行動・反応 ││ │h2 他者からの自律性
│││行為────────→(身体→外界)│
│││行為────────→(身体→他者)│
│││行為────────→(身体→文化)│
││└─────────┘│ │
│└───────────┘ │
└────────────────────┘



(出典:wikipedia)
ルネ・デカルト(1596- 1650)の命題集(Collection of propositions of great philosophers) 「その第一の部門は形而上学で、認識の諸原理を含み、これには神の主なる属性、 我々の心の非物質性、および我々のうちにある一切の明白にして単純な概念の解明が属しま す。第二の部門は自然学で、そこでは物質的事物の真の諸原理を見出したのち、全般 的には全宇宙がいかに構成されているかを、次いで個々にわたっては、この地球および最もふ つうにその廻りに見出されるあらゆる物体、空気・水・火・磁体その他の鉱物の本性が、いか なるものであるかを調べます。これに続いて同じく個々について、植物・動物の本性 、とくに人間の本性を調べることも必要で、これによって人間にとって有用な 他の学問を、後になって見出すことが可能になります。かようにして、哲学全体は一つの 樹木のごときもので、その根は形而上学、幹は自然学、そしてこの幹から出ている枝は、 他のあらゆる諸学なのですが、後者は結局三つの主要な学に帰着します。即ち医学、機械学お よび道徳、ただし私が言うのは、他の諸学の完全な認識を前提とする窮極の知恵であると ころの、最高かつ最完全な道徳のことです。ところで我々が果実を収穫するのは、木の根 からでも幹からでもなく、枝の先からであるように、哲学の主なる効用も、我々が最後に至っ て始めて学び得るような部分の効用に依存します。」
(ルネ・デカルト(1596-1650)『哲学原理』仏訳者への著者の書簡、pp.23-24、[桂寿 一・1964])

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2023年3月23日木曜日

フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集

フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集


「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑 をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべ ての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑 のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかで
ある。 というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千 五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と 都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿 は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのであ る。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精 神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむ からである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域 をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考え られたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。 学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎ と、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部 英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)

《目次》
(1)イドラ論
(2)知識の探究法
(3)技術論
(4)自由意志論
(5)悪を理解することの重要性
(6)反乱の防止法



(1)イドラ論

 今、あなたが、この文を読んでいる。この事実だけから、明らかになる真理がある。以下、読者であるあなたを、一人称「私」で記述する。最も基本的な真理は、私が存在するということ、私が私以外の人たちから様々なことを学んできたということ、この世界には人間以外の様々な動物や植物が存在するということ、真理とはこの宇宙すべてに関するものであることである。
 真理は、人間がとらえた真理であり、ここには人間としての何らかの制約があるはずである(種族のイドラ)。また、真理とは過去から現在までの人々の行為に関わるものであり、新たな真理の発見や、その技術的な応用の担い手は間違いなく諸個人に他ならないにも関わらず、諸個人は間違えることがあり(洞窟のイドラ)、真理とは諸個人を超えて人々に共有される何らかの遺産である。
 諸個人を超えて引き継がれる真理の獲得のためには、言語の果たす役割が決定的に重要であるが、言語は同時に、誤謬の最大の原因でもある(市場のイドラ)。過去、様々な誤った学説が「真理」として唱えられてきた(劇場のイドラ)。
 誤りは、ずるさや意図的な騙しによって混入する(詭弁的哲学)だけではない。私たちは、様々な真理を他者から引き継ぐのであって、もともと他者の言葉を信じやすく、学説の創始者への過度の信用から誤る場合もある。変革を憎む保守的な考えも、古いものを抹殺しようする革新的な考えも、ともに不健康な状態である。また、経験的な技術への過信から誤りが混入したり(経験的哲学)、言葉を使うことによる誤りの混入(衒った学問迷信的哲学論争的な学問)は、最もありふれたものである。





(b)人の信じやすい傾向

(c)他愛のないお喋り、詮索、噂
 言語を媒介としていることによる。



(d)技術に対する過度の信頼

(e)学説の創始者への過度の信用








(2)知識の探究法
 観察や実験の結果を集めるだけ(経験派)では、知識は得られない。

 
(2)経験派(蟻の流儀)
()世界の分析と解剖

()過度の一般化に注意せよ

(2)合理派(蜘蛛のやり方)
()精神と知性に対する過度の尊敬

()独断的な哲学


(3)蜜蜂のやり方

()普遍的認識を扱う第一哲学の必要性


()異常で驚異的な現象による理論の是正
 異常な自然の歴史や驚異的な現象を発見、収集し、研究することは、次の点で効用がある。 (1)熟知な例に基づいた一般的命題や学説の偏見を是正する。(2)驚異的な現象を人工的に実 演する技術を発見する。なお、魔術、妖術、夢、占いなど迷信的で超自然的なものも、無意味 ではなかろう。(フランシス・ベーコン(1561-1626))
(a)一般的命題は、ありふれた熟知の例のみに基づいて打ちたてられるのがつねであるが、そ の偏見を是正するのに異常で驚異的な現象が役立つ。
(b)人工的に驚異的な現象を実演する技術を見つけるためには、自然の驚異を研究して、それ がどのような仕組みで起こっているのかを研究するのが、一番の近道である。
(c)なお、魔術や妖術や夢や占いなどに関する迷信的で超自然力のせいにされている結果も、 どのような場合に、どの程度まで自然的原因に関係があるのかがまだわかっていないので、事 実や証拠に基づいて、研究することにも意義があろう。

()発見の方法そのものの改善
 発見の技術は、発見とともに成長しうるものである。(フランシス・ベーコン(1561- 1626))


()質問や疑問の一覧表
 質問や疑問の一覧表の効用は、(1)誤りをもとに誤りを積み重ねてしまうことを防止する、 (2)不用意に見逃されてしまいやすい問題へ注意を喚起し、解決を促す。(フランシス・ ベーコン(1561-1626))
()誤りの一覧表
 言葉として、また意見としては通用しているが、それにもかかわらず、嘘であるとはっきり看 破され確認されているような誤りは、一覧にしておく必要がある。(フランシス・ベーコ ン(1561-1626))
()記憶術の目的
 記憶術の意図は次の通り。(1)目的の記憶を想起するための範囲を「予知」すること、(2)知 的な想念を記憶しやすいように、感覚的な映像で「象徴」すること。(フランシス・ベー コン(1561-1626))
()知識の伝達方法
 二つの方法:(1)教え込むことで、伝達された知識を利用させる方法、(2)発見された方法 や、基礎的な考え方や、証明の仕方を学ばせ、伝達された知識を成長させられるような根を移 植する方法。(フランシス・ベーコン(1561-1626))



(3)技術論

(1)目的と手段

(3)原因から結果を生ぜしめる自然の法則を知る
(4)欲する結果のための原因を配置する
 人間は、原因から結果を生ぜしめる自然の法則を知り、欲する結果のための原因を配置する。 そして、あとは自然が自らのうちで成しとげる。このようにして、人間の知識と力とはひとつ に合一する。(フランシス・ベーコン(1561-1626))
(5)あとは自然が自らのうちで成しとげる



(6)知識を求める真の目的

(a)愛(人生の福祉と有用 )
(a.1)人類の利益になり役に立つよう、誠実に立派に使うため。創造主を賛美し人間のみじめさを救うために、豊かな倉庫を求めているようである。


(b)野心
(b.1)自分の祖国において、自己の力を伸ばそうと欲する。
(b.2)祖国の勢力と支配とを、人類の間に伸長することに努める。
(b.3)もしも人が、人類そのものがもつ全世界への力と支配とを、革新し伸長することに努めるとしたならば、疑いもなくその野心こそは、残余のものに比べて、より健全でもあればより高貴でもある。


(c)力への欲求
(c.1)金儲けと生活の資のため。
 利得や販売のための店を、求めているようである。
(c.2)知恵で勝って相手をやっつけることができるため。戦い争うための砦や展望のきく陣地を求めているようである。
(c.3)装飾と名声のため。高慢な精神が、その上に登るための高い塔を求めているようである。

(d)知識への欲求
(d.1)自然な好奇心と探求の欲求のため。さ迷い歩く移り気な精神が、美しい景色を見ながらあちこちと歩くためのテラスを求めて いるようである。
(d.2)様々な喜びで心を楽しませるため。探し求めて落ち着かない精神を休ませるための臥床を求めているようである。

(e)不死の欲求
 不死への欲求が、名声を求めさせ、建築物と記念碑を作らせてきたが、学問こそ永続するだろ う。それは、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、人々の 精神に種をまき、意見と行動を通じて、知恵と知識と発明の分け前を取らせる。(フラン シス・ベーコン(1561-1626))
(e.1)子をうみ、家名をあげ、不死を得る。
(e.2)遺名と名声と令名を求め、不死を得る。
(e.3)建築物と記念の施設と記念碑をたて、不死を得る。
(e.4)知力と学問の記念碑により、不死を得る。
 人びとの知力と知識の似姿は、書物の中にいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新さ れることができる。それはつねに子を産み、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代 に、果てしなく行動を引き起こし意見を生む。「学問は、さながら船のように、時という広大 な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるの である。」



(4)自由意志論
《目次》

(1)理性による支配から、理性を妨害する3つのもの
(2)理性を助けるための方法
(2.1) 巧妙な詭弁への対策(論理学)
(2.2) 激烈な情念と感情への対策(道徳哲学)
(2.3) しつこい想像、印象への対策(弁論術)
(2.3.1)想像力の大きな力、信仰の力
(2.3.2)想像力と感情の制御(道徳学、政治学)

参考:意志において理性の力を助ける方法:(1)巧妙な詭弁を、論理学の力で見破る。(2)激烈な感 情に十分に対抗できるような想像、印象を、弁論術の力で理性の判断から仕立てる。(フ ランシス・ベーコン(1561-1626))
(1)理性による支配から、理性を妨害する3つのもの
(a1) 巧妙な詭弁:論理学に関係のある罠で、まちがった推論によって理性は罠をかけられ る。
(b1) 激烈な情念と感情:道徳哲学に関係し、我を忘れさせられる。
(c1) しつこい想像、印象:弁論術に関係のある罠で、印象あるいは所見にまといつかれる。 

(2)理性を助けるための方法
 意志を、理性の命ずる方向に動かすにあたっては、どうすれば良いか。すなわち理性の命令 を、想像力に受け入れさせるには、どうすれば良いか。
(2.1) 巧妙な詭弁への対策(論理学)
 論理学の力をかりて巧妙な詭弁を見破り、理性を確実にする。理性は未来と時間の全体とを見るという点で、情念とは異なる。
(2.2) 激烈な情念と感情への対策(道徳哲学)
 (a)感情そのものにも、つねに、善への欲求がある。
 (b)ところが、感情は現在だけを見るので、未来と時間の全体とを見る理性よりも、いっそ う多く想像力をかきたて、理性はふつう負かされてしまう。
そこで、
(2.3) しつこい想像、印象への対策(弁論術)
 弁論術の力をかりて雄弁と説得とで、理性が命ずるもの、例えば未来の遠いものを現在 のように見えさせてしまえば、そのときは想像力が、現在だけを見ている感情から、理性のほ うへ寝がえり、理性が勝つ。
(2.3.1)想像力の大きな力、信仰の力
参考:想像力は、感官や理性の代理人となり真の判定、善の実行を助けるが、想像力自身に真や善の 権威が付与されるか、それを僭称している。信仰の問題で、想像力は理性の及ばないところま で高まる。比喩と象徴、たとえ話、まぼろし、夢。(フランシス・ベーコン(1561- 1626))
(a) 悟性と理性は、決定と判定を生む。
(b) 意志と欲望と感情は、行動と実行を生む。
(c) 想像力は、感官と理性の代理人あるいは「使者」の役割をつとめる。
・感官が、想像力に映像を送ってはじめて、理性が「真」であると判定を下す。
・理性が、想像力に映像を送ってはじめて、理性の判定「善」が実行に移される。すなわち、 想像はつねに意志の運動に先だつ。能弁によって行われるすべての説得や、事物の真のすがた を色どり偽装するような、説得に似た性質の印象づけにおいて、理性を動かすのは、主として 想像力に訴えることによるのである。
(d) 想像力は、感官や理性からの「真」や「善」の伝言の使者に過ぎないのではなく、それ 自身決して小さくない権威そのものを付与されるか、そうっとそれを僭称している。すなわ ち、感官や理性の伝言を超えて、自ら「真」や「善」の権威を僭称する。
(e) 信仰と宗教の問題において、われわれはその想像力を理性の及ばないところに高めるので あって、それこそ、宗教がつねに比喩と象徴とたとえ話とまぼろしと夢によって、精神に近づ こうとした理由なのである。
(2.3.2)想像力と感情の制御(道徳学、政治学)
参考:ある感情を、他の感情によってどう制御し変化させるかについての研究は、道徳と政治に関す ることがらに特別に役だつ。想像力により感情が静められ、あるいは燃え立たされ、行動が抑 制され、あるいは発動する。(フランシス・ベーコン(1561-1626))
(a) 想像力により、どのように感情が燃え立たされ、かき立てられるか。抑えられていた感情 が、どのようにして外に出るか、それがどう活動するか。
(b) 想像力により、感情がどのように静められ、抑えられるか。感情が行動に発展するのをど う抑制されるか。
(c) それらの感情がどのように重なりあうか、どのようにたがいに戦い対立し合うか。ある感 情が、他の感情によってどのように制されるか。どう変化するか。






(5)悪を理解することの重要性
 
 悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえること はできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改 悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))
悪に対して、どう対処するか。
(1)無防備にも、ぺてんと邪悪な手管に先手を取られれば、あなたの生命が危うくされるが、 逆に、あなたが先に悪を見破れば、悪はその効力を失う。
(2)あなたが悪を知っているということを認めさせることができなくては、卑劣で精神の腐敗 した人たちは、一切の道徳を軽蔑することになる。また、正直な人も、悪の知識の助け無くし ては、邪な人たちを改悛させることができない。
(3)従って、人間は何をなすべきかとは別に、人間は実際に何をなしているか、すなわち悪の すべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはで きない。

狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))
(1)相手を用心深く見る。
(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるよう なかたちで、言い(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせい にする。
(14)「私はこういうことはしない」。
(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待 つ。
(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。

(6)反乱の防止法
 反乱の防止法:(a)既得権益の維持(b)上層階級取り込み(c)大きすぎない貧富の差(d)適度の 自由(e)希望を抱かせる(f)政策の真の意図秘匿(g)反対派リーダー籠絡(h)反対派分裂(i)反 対派分断化(j)実力行使(フランシス・ベーコン(1561-1626))

一般に、国民を怒らせて政権に反対する共通の目的のために団結させるようなことが起こら ない限り、政権交代は起らない。注意すべき政策は、
(1)既得権益の維持、重税には注意すること。
(2)上層階級の取り込み
(a)しかし一般に、多数派である貧しい人たちが不満を抱えていても、彼らはやっと生活す るのに忙しく、政治的意識にも乏しく、余裕も知識もある恵まれている人たちによって扇動さ れない限り政治的な動きは概してにぶい。そこで、大切なことは次のことである。
(b)上層階級と一般大衆の両方に不満を抱かせないこと。とくに、上層階級の人たちの不満 が危険である。
(3)貧富の差を大きくし過ぎないこと。
貧富の差や不公平があったとしても、ある程度の生活水準が確保できていれば、政権は維持 できる。その際、考慮すべきは次のことである。
(4)国民に適度の自由を与えること。
(5)国民に希望を抱かせ続けること。
(6)政策の真の意図秘匿
秘密にしておくべき政策の真の意図を、ふとした「失言」によって漏らさないこと。
また、不満を持つ人たちや反対派の人たちを団結させないように、しっかり手を打つこと。
(7)反対派リーダー籠絡
反対派のリーダーを国家の側に引き入れること。
(8)反対派分裂
反対派にもう一人のリーダーを立て、反対派を分裂させること。
(9)反対派分断化
反対派を分裂、分断し、お互いに反目させること。
(10)実力による担保も必要だ。



「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑 をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべ ての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑 のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかで

ある。 というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千 五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と 都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿 は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのであ る。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精 神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむ からである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域 をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考え られたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。 学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎ と、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部 英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)



2022年7月20日水曜日

精神と身体は同一のものであり、身体の能動と受動の秩序、精神の能動と受動の秩序は、同時に生じている。建築や絵画、人間の技術などが、自然法則のみから演繹されるとは思えない一方で、身体自身は自らの法則に従って、精神でさえ驚くようなことを行っている。(バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677),『エチカ』,第3部 感情の起源と本性について,定理2の注解)

心身問題

精神と身体は同一のものであり、身体の能動と受動の秩序、精神の能動と受動の秩序は、同時に生じている。建築や絵画、人間の技術などが、自然法則のみから演繹されるとは思えない一方で、身体自身は自らの法則に従って、精神でさえ驚くようなことを行っている。(バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677),『エチカ』,第3部 感情の起源と本性について,定理2の注解)









(a)精神と身体

 精神と身体は同一のものであり、あるときは思惟の属性のもとで、またあるときは延長の属性のもとで把握される。身体の能動と受動の秩序、精神の能動と受動の秩序は、同時に生じている。

(b)身体の能動

 精神でさえ驚くような多くのことを身体自身が自己の本性の法則のみに従って行っている。そもそも、身体の複雑で精巧な構造は、人間の精神が作り上げたものではない。

(c)精神の能動

 建築や絵画、その他人間の技術によってのみ実現されるようなものは、自然法則のみから演繹されるだろうか。ここに、精神の能動があるのではないだろうか。

 



























(バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677),『エチカ』,第3部 感情の起源と本性について,定理2の注解,中央公論社,世界の名著25,pp.189-191,1969年,工藤喜作,斎藤博(訳))

2022年7月18日月曜日

身体には、精神の思索活動を制限する能力はないし、また精神にも身体の運動や静止、あるいは他のものを(もしそのようなものがあるとしても)制限する能力はない。(バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677),『エチカ』,第3部 感情の起源と本性について,定理2)

心身問題

身体には、精神の思索活動を制限する能力はないし、また精神にも身体の運動や静止、あるいは他のものを(もしそのようなものがあるとしても)制限する能力はない。(バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677),『エチカ』,第3部 感情の起源と本性について,定理2)















(バールーフ・デ・スピノザ(1632-1677),『エチカ』,第3部 感情の起源と本性について,定理2,中央公論社,世界の名著25,p.188,1969年,工藤喜作,斎藤博(訳))





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