2020年5月8日金曜日

「私は川から水を汲んできた。だから、この水は私のものである」。私は水を作ってはいない。様々なものの活動・作用によって存在しているもの、もともと誰のものでもないものが、何故、私のものになるのか。(立岩真也(1960-))

所有を正当化する理論の暗黙の前提

【「私は川から水を汲んできた。だから、この水は私のものである」。私は水を作ってはいない。様々なものの活動・作用によって存在しているもの、もともと誰のものでもないものが、何故、私のものになるのか。(立岩真也(1960-))】

(1)所有を正当化する理論の暗黙の前提
 (a)私は川から水を汲んできた。だから、この水は私のものである
  私は川から水を汲んできた。私は牛から乳を絞った。確かに私にとってその水や牛乳が利用可能になるためにはそうした行為が必要だった。
 (b)私は、水を作ってはいない
  その水や牛乳があることに私はいったいどれほどの貢献をしたか。私は、水を作ってはいない。
 (c)結論を導くための暗黙の前提
  世界に存在するものは、確かに誰のものでもなく、様々なものの活動・作用の結果によって存在している。しかし、所有という概念が意味を持つのは、人間が関わる場合だけである。人間が貢献し、作り出したとき、所有が正当化されるのである。

「このように、多くの論者が生産・制御→所有という主張をしている。だが少しでも考えるなら、これは随分おかしな論理である。▽078
 (1)誰もが、一見してこれを随分乱暴な議論だと思うはずである。基本的にこの論理は、結果に対する貢献によってその結果の取得を正当化する論理である。しかし、この世にあるもののどれだけを私達が作っただろうか。例えば、私は川から水を汲んできた。私は牛から乳を絞った。確かに私にとってその水や牛乳が利用可能になるためにはそうした行為が必要だった。しかし、その水や牛乳があることに私はいったいどれほどの貢献をしたか。もちろん、このことはその「製品」がもっと「手のかかった」ものであっても言いうることである。つまりここでは、「作り出す」「貢献する」と言う時に、そもそも人間による営為しか考えられてはいない。こうした言明は人間の特権性――第5章で検討する――を前提にして初めて成立する。この論理が成立するためには、単に労働→取得というのではすまず、世界中のものが人間のものとしてあらかじめ与えられていなければならない。あるいは、この労働とは(馬や牛の労働ではなく、人間以外の全てのものの活動・作用ではなく)人間の労働でなければならないのである。これは神が世界を人間のものとして与えたのだというキリスト教的な世界観のもとでは自然なことかもしれない。ロックは「地とすべての下級の被造物が万人の共有のもの」だと、このことをはっきりと述べている◆09。しかし、このことを自明のこととして受け入れなければ、別である。このような「宗教」を信じず、なお人間の特権性を言おうとすれば、何か根拠を▽079 提出しなければならない。例えばエンゲルハートは次のように言う。

「動物は、自己を意識しておらず、自らを道徳法則に服するものと見なしえないかぎり、その一部が、利用されたり、作り変えられたり、あるいは、そのまま取られるような物件である。」(Engelhardlt[1986=1989:167])」
(立岩真也(1960-),『私的所有論 第2版』,第2章 私的所有の無根拠と根拠,2 自己制御→自己所有の論理,[2]批判,<Kyoto Books生存学
(索引:私的所有,自己制御)
立岩真也(1960-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)

(出典:立命館大学大学院・先端総合学術研究科
立岩真也(1960-)の命題集(Propositions of great philosophers) 「人は有限の身体・生命に区切られ、他者と隔てられる。そこに連帯や支配も生じる。人々は、とくにその身体障害と呼ばれるもの、性的差異、…に関わり、とくにこの国の約100年、何を与えられ、何から遠ざけられたか。何を求めたか。この時代を生きてきた人たちの生・身体に関わる記録を集め、整理し、接近可能にする。そこからこの時代・社会に何があったのか、この私たちの時代・社会は何であったのかを総覧・総括し、この先、何を避けて何をどう求めていったらよいかを探る。
 既にあるものも散逸しつつある。そして生きている間にしか人には聞けない。であるのに、研究者が各々集め記録したその一部を論文や著書にするだけではまったく間に合わないし、もったいない。文章・文書、画像、写真、録音データ等、「もと」を集め、残し、公開する。その仕組みを作る。各種数値の変遷などの量的データについても同様である。それは解釈の妥当性を他の人たちが確かめるため、別の解釈の可能性を開くためにも有効である。
 だから本研究は、研究を可能にするための研究でもある。残されている時間を考慮するから基盤形成に重点を置く。そして継続性が決定的に重要である。仕組みを確立し一定のまとまりを作るのに10年はかかると考えるが、本研究はその前半の5年間行われる。私たちはそれを可能にする恒常的な場所・組織・人を有している。著作権等を尊重しつつ公開を進めていける仕組みを見出す。本研究では生命・生存から発し、各地にある企てと分業・連携し、この国での調査データ全般のアーカイブの拠点形成に繋げ、その試みを近隣諸地域に伝える。」
生を辿り途を探す 身体×社会アーカイブの構築生存学

立岩真也(1960-)
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