2020年6月28日日曜日

(仮説)他者の行動の意図や感情を感知する能力が、自己認識の基礎にある。従って、この能力に問題があると、自己と他者の同定が困難となり、対人的相互交流の不全、人称表現の不全、自他の状態概念の理解不能などが生じる。(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))

自閉症についてのミラーニューロン機能不全仮説

【(仮説)他者の行動の意図や感情を感知する能力が、自己認識の基礎にある。従って、この能力に問題があると、自己と他者の同定が困難となり、対人的相互交流の不全、人称表現の不全、自他の状態概念の理解不能などが生じる。(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-))】

(1)自己認識の誕生の仮説
 (1.1)他者の行動の意図や感情を知る能力(心の理論)
  (a)他者の行動の意図や感情の内部モデルをつくるための能力が、最初に獲得される。
  (b)神経的な基盤が、ミラーニューロン・システムである。
 (1.2)自己認識の誕生
  次に、進化して内面に向い、自分自身の心を自分の心に再表象するようになったのかもしれない。それはおそらく、私たち人間が、ほんの何十万年か前に経験した心の相転移の時期に起き、それが本格的な自己認識のはじまりとなったのだろう。
(2)自閉症についてのミラーニューロン機能不全仮説
 (2.1)仮説
  (a)十分に成熟した心の自己表象が欠けている。
  (b)確固とした自己同定ができない。
  (c)自他の区別を理解するのがむずかしい。
 (2.2)予測される症状
  (a)会話のなかで一人称「私」や二人称「あなた」を正しく使えない自閉症児が多数いる。
  (b)対人的相互交流を苦手とする。
  (c)予測:自分の状態なのか、他者の状態なのかを概念的に区別するのに、困難が伴う。例として、「自己評価」、「憐憫」、「情け」、「寛容」、「きまり悪さ」。

 「ミラーニューロン・システムはそもそも、他者の行動や意図の内部モデルをつくるために進化したのであるが、人間においては、そこからさらに進化して内面に向い、自分自身の心を自分の心に表象(もしくは再表象)するようになったのかもしれない。心の理論は、友人やあかの他人や敵対者の心のなかを直感でとらえるのに有用であるが、それだけでなく、ホモ・サピエンスにかぎっては、心の理論によって、自分自身の心の動きをとらえる洞察力も飛躍的に向上したのではないだろうか。それはおそらく、私たち人間がほんの何十万年か前に経験した心の相転移の時期に起き、それが本格的な自己認識のはじまりとなったのだろう。もしミラーニューロン・システムが心の理論の基盤であり、正常な人間の心の理論が、内面の自己に向けて応用されるというかたちでパワーアップされているのだとしたら、自閉症の人たちが対人的相互交流や確固とした自己同定をひどく苦手とする理由は、会話のなかで一人称(「私」)や二人称(「あなた」)を正しく使えない自閉症児が多数いる理由の説明がつきそうである。人称代名詞を正しく使えない子どもたちは、十分に成熟した心の自己表象が欠けているために、自他の区別を理解するのがむずかしいのかもしれない。 この仮説からは、普通に話すことができる高機能の自閉症者(言語能力の高い自閉症者は、自閉症スペクトラムのサブタイプの一つであるアスペルガー症候群とみなされる)でも、「自己評価」、「憐憫」、「情け」、「寛容」、「きまり悪さ」といった言葉の概念的な区別には困難がともなうであろう――本格的な自己感がないと意味をなさない「自己憐憫」についてはなおさらであろう――という予測が導かれる。このような予測はまだ系統的に検証されていないが、私の学生のローラ・ケイスが現在それをおこなって。いる自己表象と自己認識にかかわる問題や障害については、最終章でまたとりあげる。」
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,第5章 スティーヴンはどこに? 自閉症の謎,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.207-208,山下篤子(訳))
(索引:自閉症,ミラーニューロン機能不全仮説,ミラーニューロン)

脳のなかの天使



(出典:wikipedia
ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「バナナに手をのばすことならどんな類人猿にもできるが、星に手をのばすことができるのは人間だけだ。類人猿は森のなかで生き、競いあい、繁殖し、死ぬ――それで終わりだ。人間は文字を書き、研究し、創造し、探究する。遺伝子を接合し、原子を分裂させ、ロケットを打ち上げる。空を仰いでビッグバンの中心を見つめ、円周率の数字を深く掘り下げる。なかでも並はずれているのは、おそらく、その目を内側に向けて、ほかに類のない驚異的なみずからの脳のパズルをつなぎあわせ、その謎を解明しようとすることだ。まったく頭がくらくらする。いったいどうして、手のひらにのるくらいの大きさしかない、重さ3ポンドのゼリーのような物体が、天使を想像し、無限の意味を熟考し、宇宙におけるみずからの位置を問うことまでできるのだろうか? とりわけ畏怖の念を誘うのは、その脳がどれもみな(あなたの脳もふくめて)、何十億年も前にはるか遠くにあった無数の星の中心部でつくりだされた原子からできているという事実だ。何光年という距離を何十億年も漂ったそれらの粒子が、重力と偶然によっていまここに集まり、複雑な集合体――あなたの脳――を形成している。その脳は、それを誕生させた星々について思いを巡らせることができるだけでなく、みずからが考える能力について考え、不思議さに驚嘆する自らの能力に驚嘆することもできる。人間の登場とともに、宇宙はにわかに、それ自身を意識するようになったと言われている。これはまさに最大の謎である。」
(ヴィラヤヌル・S・ラマチャンドラン(1951-),『物語を語る脳』,はじめに――ただの類人猿ではない,(日本語名『脳のなかの天使』),角川書店(2013),pp.23-23,山下篤子(訳))

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