2018年5月26日土曜日

命題から虚飾をはぎとり、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する幾何学者の方法は、無秩序に増大する情報の増大に対処し、また各命題の発見者の名声を忘却から救う。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

幾何学者の方法

【命題から虚飾をはぎとり、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する幾何学者の方法は、無秩序に増大する情報の増大に対処し、また各命題の発見者の名声を忘却から救う。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
 多くの発見、重要な考察、真理の探究のための熱意に事欠かない卓越した精神が、どれだけ多く存在するかを思うとき、われわれはもっと多くのことをなしうる状態にあり、学問に関する人類の状況は、わずかの間に様相を一変しうると思う。その一方、対立、敵意、構築するよりは破壊、協力よりは仲間を差し押さえ、論争、うわべだけのお話、無駄な好奇心の浪費などを考えると、自分たちの過ちのせいで、混乱と欠乏の状態に陥るのではないかと危惧する。
 さらに、たえず増えていく恐ろしいばかりのこの本の数、そして無秩序はほとんど乗り越えがたいものとなり、著者たちはすべて全き忘却にさらされかねない。古代の幾何学者のなかには、われわれがその作品を手にできない人々がいる。しかし、彼らの名声は、彼らのものとされるいくつかの命題によって保持されてきた。先に示した、普遍的学問と幾何学者の方法によって、各命題の発見者の名声を讃えながら、秩序と調和をもった知恵の体系を維持していくことが可能となる。
 「私は、われわれがどれだけ多くの発見を行なってきたか、どれだけ多くの堅固で重要な考察をもたらしてきたか、どれだけ多くの、真理の探究のための熱意に事欠かない卓越した精神が存在することか、ということに思いをこらすとき、われわれはもっと多くのことをなしうる状態にあり、学問に関する人類の状況はわずかの間に様相を一変しうると思う。しかし、他方で、人々の計画はほとんど一致せず、人々が取る方途は対立しており、一方の人々は他方の人々に敵意をむきだしにして、構築することよりは破壊することを考え、一緒に進むことよりは自分の仲間を差し押さえることを考えているのを見ると、そして最後には、実践は理論があたえる光をまったく活用せず、人々は論争の数を減らそうとはまったくせずむしろ増やそうと努めており、真面目で決定的な方法の変わりに、うわべだけのお話に満足しているということを考えるとき、私は、われわれが自分たちの過ちのせいで陥っている混乱と欠乏の状態に長くとどまろうとしているのではないかと恐れるのである。私はさらに、人々は、われわれの探究からわれわれの幸福のために重要な何らかの益を引き出すこともなしに好奇心を無駄に使い果たしたことから、学問に嫌気がさしているのではないか、また、決定的な絶望感から人間は再び野蛮状態に戻るのではないかとさえ危惧する。
 この怖れに、たえず増えていく恐ろしいばかりのこの本の数がおおいに加担しうるであろう。というのも、最後には本の無秩序はほとんど乗り越えがたいものとなり、わずかの間に著者の数が無数にものぼるために、著者たちはすべて全き忘却にさらされかねず、多くの人々を学問研究の仕事へと駆り立てる栄光に対する期待も一挙に止むであろう。」(中略)「古代の幾何学者のなかには、ニコメデスやディノストラトスのように、われわれがその作品を手にできない人々がいる。しかし、彼らの名声は、彼らのものとされるいくつかの命題によって保持されてきたのである。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『諸学問を進展させるための格率』、ライプニッツ著作集10、pp.242-244、[小林道夫・1991])
(索引:幾何学者の方法)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)
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およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。さて、内心では大きな利益を求めつつ表向きは高い名誉を求める相手には、どのように説得すれば良いか。(韓非(B.C.280頃-B.C.233))

説得の難しさ

【およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。さて、内心では大きな利益を求めつつ表向きは高い名誉を求める相手には、どのように説得すれば良いか。(韓非(B.C.280頃-B.C.233))】
 およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。
(1) 説得しようとする相手が高い名誉を求める心でいたとしよう。
 その相手に大きな利益を得る話をしたなら、相手はこちらのことを下品なやつで自分を俗物扱いにしていると考え、きっと見すてて遠ざけることであろう。
(2) 説得しようとする相手が大きな利益を求める心でいたとしよう。
 その相手に高い名誉を得る話をしたなら、相手はこちらのことを考えが足りなくて現実に疎いと見なし、きっと採用しないであろう。
(3) 説得しようとする相手が、内心では大きな利益を求めながら、表向きは高い名誉を求めるふりをしているとしよう。
 (3.1) その相手に高い名誉を得る話をしたなら、相手はうわべではこちらを受け容れながら、実際は遠ざけるだろう。
 (3.2) もし相手に大きな利益を得る話をしたなら、相手は陰ではこっそりこちらの話を採用しながら、表向きはこちらの身を見すてるだろう。
 「およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。説得しようとする相手が高い名誉を求める心でいたとしよう。それなのに、その相手に大きな利益を得る話をしたなら、〔相手はこちらのことを〕下品なやつで自分を俗物扱いにしていると考え、きっと見すてて遠ざけることであろう。〔反対に〕説得しようとする相手が大きな利益を求める心でいたとしよう。それなのに、その相手に高い名誉を得る話をしたなら、〔相手はこちらのことを〕考えが足りなくて現実に疎いと見なし、きっと採用しないであろう。説得しようとする相手が、内心では大きな利益を求めながら、表向きは高い名誉を求めるふりをしているとしよう。それなのに、その相手に高い名誉を得る話をしたなら、〔相手は〕うわべではこちらを受け容れながら、実際は遠ざけるだろう。もし相手に大きな利益を得る話をしたなら、〔相手は〕陰ではこっそりこちらの話を採用しながら、表向きはこちらの身を見すてるだろう。これはよくよく考えなければならないことである。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』説難 第十二、(第1冊)pp.230-231、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(索引:説得の難しさ)
(原文:12.説難韓非子法家先秦兩漢中國哲學書電子化計劃

韓非子 (第1冊) (岩波文庫)



(出典:twwiki
韓非(B.C.280頃-B.C.233)の命題集(Collection of propositions of great philosophers) 「国を安泰にする方策として七つのことがあり、国を危険にするやり方として六つのことがある。
安泰にする方策。第一は、賞罰は必ず事の是非に従って行うこと、第二は、禍福は必ず事の善悪に従ってくだすこと、第三は、殺すも生かすも法のきまりどおりに行うこと、第四は、優秀か否かの判別はするが、愛憎による差別はしないこと、第五は、愚か者と知恵者との判別はするが、謗ったり誉めたりはしないこと、第六は、客観的な規準で事を考え、かってな推量はしないこと、第七は、信義が行われて、だましあいのないこと、以上である。
 危険にするやり方。第一は、規則があるのにそのなかでかってな裁量をすること、第二は、法規をはみ出してその外でかってな裁断をくだすこと、第三は、人が受けた損害を自分の利益とすること、第四は、人が受けた禍いを自分の楽しみとすること、第五は、人が安楽にしているのを怯かして危うくすること、第六は、愛すべき者に親しまず、憎むべき者を遠ざけないこと、以上である。こんなことをしていると、人々には人生の楽しさがわからなくなり、死ぬことがなぜいやなのかもわからなくなってしまう。人々が人生を楽しいと思わなくなれば、君主は尊重されないし、死ぬことをいやがらなくなれば、お上の命令は行われない。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』安危 第二十五、(第2冊)pp.184-185、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(原文:25.安危韓非子法家先秦兩漢中國哲學書電子化計劃

韓非(B.C.280頃-B.C.233)
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4.他人を不愉快にさせるに違いないようなことは、決して口にしないこと。なぜなら、それは君自身にはかり知れぬ害をもたらすからである。(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540))

他人の悪口

【他人を不愉快にさせるに違いないようなことは、決して口にしないこと。なぜなら、それは君自身にはかり知れぬ害をもたらすからである。(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540))】
 「君が口を開くとき、必要でもないかぎり、他人を不愉快にさせるにちがいないようなことは決して口にせぬように注意をはらわなければならない。というのは、時と場所とをわきまえずにそのような発言をすれば、それは君自身にはかり知れぬ害をもたらすからである。この点については、じゅうぶん気をつけるように、と言っておく。というのも、用心ぶかい人間でも、このことではずいぶん失敗するものだからである。また、これを避けるのは至難のわざである。けれども、それがどれほどむずかしいことであっても、それを乗りこえる方法を知っている人にとっては、それだけ大きな報いがあるというものである。」
(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)C、7 発言に注意、p.52、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳))
(索引:他人の悪口)

フィレンツェ名門貴族の処世術―リコルディ (講談社学術文庫)



フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
 「この書物の各断章を考えつくのはたやすいことではないけれども、それを実行に移すのはいっそうむずかしい。それというのも、人間は自分の知っていることにもとづいて行動をおこすことはきわめて少ないからである。したがって君がこの書物を利用しようと思えば、心にいいきかせてそれを良い習慣にそだてあげなければならない。こうすることによって、君はこの書物を利用できるようになるばかりでなく、理性が命ずることをなんの抵抗もなしに実行できるようになるだろう。」
(フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)『リコルディ』(日本語名『フィレンツェ名門貴族の処世術』)B、100 本書の利用のし方、p.227、講談社学術文庫(1998)、永井三明(訳))

フランチェスコ・グィッチャルディーニ(1483-1540)
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情報の信憑性の確認:(a)提供者の利害関係、(b)入手経路、(c)別の筋の情報、(d)裏づけ事実。入手先候補者:(a)当事者、(b)不平家、感情家、(c)大臣の談話、身振り表情、(d)見栄で話す人、(e)口の軽い人。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

情報の信憑性、情報の入手先

【情報の信憑性の確認:(a)提供者の利害関係、(b)入手経路、(c)別の筋の情報、(d)裏づけ事実。入手先候補者:(a)当事者、(b)不平家、感情家、(c)大臣の談話、身振り表情、(d)見栄で話す人、(e)口の軽い人。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
   情報の信憑性の確認方法は、
(a)情報を提供した人たちの利害関係と情熱
(b)情報の対象になっている企みごとを、彼らがどうやって発見できたのか
(c)別の筋から知っていることと一致するか
(d)その情報を本当らしく思わせるような動きや準備が何かされているか
その他、問題の情報をめぐるすべての事情

 情報収集の相手方の候補者は、
(a)交渉家の誘惑にのるような直接の当事者
(b)憤懣を晴らすために時折は重大な事柄を洩らす不平家や感情家
(c)最も有能で忠実な大臣たちの不用意にした談話や身振り表情
(d)自分の洞察力を人に誉められたいために、喜んでとかく人に話してしまう連中
(e)しばしば言うべきでないことまでしゃべる口の軽い人間
 「有能な交渉家は、彼が受け取る情報を、すべてそのまま軽々に信じはしない。その前に、問題の情報をめぐるすべての事情や、情報を提供した人たちの利害関係と情熱や、情報の対象になっている企みごとを、彼らがどうやって発見できたのか、その情報は彼が同じ事柄の様子について別の筋から知っていることと一致するか、その情報を本当らしく思わせるような動きや準備が何かされているか、を検討する。」(中略)
 「交渉家は、任国の秘密を、国事にたずさわっている人々、または、その連中の打ち明け話しをきいている人々から探り出すことができる。交渉家の誘惑にのるような直接の当事者、しばしばいうべきでないことまでしゃべる口の軽い人間、憤懣を晴らすために時折は重大な事柄を洩らす不平家や感情家が、ほとんど必ずといってよいほどに、何人かは存在するものである。
 最も有能で忠実な大臣たちでさえも、常に身構えて用心しているとは限らない。君主と国家に対して一所懸命な大臣でも、不用意にした談話や身振り表情から、いちばん秘密にしていた利害の結びつきや色恋の関係までも、人に見破られた例がいくつかある。
 顧問会議のメンバーでない廷臣でも、その宮廷の政務を長年見聞してきた経験にものをいわせて、顧問会議で決定したことをかぎつけ、自分の洞察力を人に誉められたいために、喜んでとかく人に話してしまう連中がいる。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.62-64、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:情報の信憑性、情報の入手先)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)



(出典:wikipedia
フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)の命題集(Collection of propositions of great philosophers) 「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))


フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)
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2018年5月25日金曜日

03.命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わす。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

幾何学者の方法

【命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わす。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
 命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わす。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列する。すなわち、われわれは党派的精神を離れ、目新しさに対する熱意を捨てなければならない。そこで幾何学者たちを真似なければならない。
 「この混乱から抜け出すためには、われわれは党派的精神を離れ、目新しさに対する熱意を捨てなければならない。そこで幾何学者たちを真似なければならない。彼らにあっては、ユークリッドもアルキメデスもいないが、誰もがユークリッドに従い、誰もがアルキメデスに従う。」(中略)「そこで、そういう命題から虚飾をはぎとり、それらを、幾何学者が行なうように、明白で簡潔なしかたで表わしさえすればよい。ついで、それらを、相互依存の順序と主題の順序に従って配列しさえすればよい。そうすると、飛躍しないようにしさえすれば、それらの命題の結合関係はすぐにもひとりでに現われ、一つの命題がもう一つの命題から証明されることになる。そして、無意識のうちに人間がすでに獲得したすべての知識の構成要素を形成することになるであろう。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『諸学問を進展させるための格率』、ライプニッツ著作集10、pp.239-240、[小林道夫・1991])
(索引:幾何学者の方法)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

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02.「普遍的学問」とは何か。それは、手中にある所与のものから、必要なときには、人間の知力が引き出し得るものは何でも、確実な方法により発見させるようなものである。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

普遍的学問の夢

【「普遍的学問」とは何か。それは、手中にある所与のものから、必要なときには、人間の知力が引き出し得るものは何でも、確実な方法により発見させるようなものである。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
 理性の諸原理と本源的な諸経験とがそこに含まれている「普遍的学問」とは、どのようなものか。
(1)人間は、真理に関して、あるいは、少なくとも蓋然性の程度に関して誤ることなく、判断できるようになる。
(2)人間の手中にあるもの、あるいは、所与のものから、人間の知力によっていつか引き出されうるようになるものは何でも、必要なときに、確実な方法により発見できるようになる。
 これによって、人間の幸福を増加させるために、何世代にもわたる研究と途方もない費用とを費やして期待しうるよりも、多くの成果が、より少ない年月の間に、より小さな苦労と支出で引き出されることになる。
 「諸学問の刷新と拡大とに関しての、あるいは、次のような理性的根拠に関しての普遍的学問の基礎と範例[がここで論じられる]。すなわち、その根拠によって、人間は、注意を傾けることにより真理に関して、あるいは、少なくとも蓋然性の程度に関して誤ることなく、判断できるのであり、また、人間の手中にあるもの、あるいは、所与のものから人間の知力によっていつか引き出されうるようになるものは何でも、必要なときに、確実な方法により発見できるようになるだろう。その結果、人間の幸福を増加させるために、さもなければ、何世代にもわたる研究と途方もない費用とを費やして期待しうるよりも、多くの成果が、より少ない年月の間に、より小さな苦労と支出で引き出されることになる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『普遍学の基礎と範例』、ライプニッツ著作集10、p.224、[松田毅・1991])
(索引:普遍的学問)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

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01.理性の諸原理と本源的な諸経験とを含む「普遍的学問」を基礎に集成された、あらゆる有用なものを導き出すための公共の宝庫である「百科全書」が、人類の幸福のために重要である。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))

普遍的学問の必要性

【理性の諸原理と本源的な諸経験とを含む「普遍的学問」を基礎に集成された、あらゆる有用なものを導き出すための公共の宝庫である「百科全書」が、人類の幸福のために重要である。(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716))】
(1)理性の諸原理と本源的な諸経験とがそこに含まれている、一種の「普遍的学問」が必要である。
(2)次に、普遍的学問を基礎に、あらゆる有用なものを導き出すために十分な、諸々の「真理」の秩序づけられた集成、すなわち一種の「百科全書」を作成すること。これは、あらゆる素晴らしい発見や観察が運び込まれうるような公共の宝庫にも等しいものとなるだろう。
(3)全知識の膨大さに比べ、一人の人間の人生は短く、また精神的にも弱い。しかし、人間は共同体に希望を託すことができ、人類の幸福のためには、これら普遍的学問と百科全書が重要である。
 「しかし、これらの学問をすべて知ることが人間にとって重要であるとか、また、それらをひとりひとりが認識しなくてはならないとか、考える必要はない。なぜなら、生命の短さや、学ぶべきことの多さ、そして人間「精神」の弱さのために、それらに応じて節約が追求されるべきだからであり、また「神」の恩寵のうち非常に大きな二つのもの、つまり、事物の探究において重荷を軽減する方向に自らを動かす人間の共同体と、忘却から認識されたものが一度に呼び起こされうるようにする文字の記録とが用いられるべきだからである。」(中略)「一種の「百科全書」、つまり、諸々の「真理」の秩序づけられた―――それが可能であるかぎり、そこからあらゆる有用なものを導き出すために十分なものの―――集成を作成することが、人類の幸福のために重要であることがここから帰結する。そして、そのような百科全書は、あらゆる素晴らしい発見や観察が運び込まれうるような公共の宝庫にも等しいものとなるだろう。しかし、そのような発見や観察の量は非常に大きいものとなるだろうから、それらのものがとくにその量に比例して国家と自然との研究のために役立つとはいえ、理性の諸原理と本源的な諸経験とがそこに含まれている一種の「普遍的学問」が必要となる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『百科全書あるいは普遍学のための予備知識』、ライプニッツ著作集10、pp.216-217、[松田毅・1991])
(索引:普遍的学問、百科全書)

中国学・地質学・普遍学 (ライプニッツ著作集)



(出典:wikipedia
ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「すべての実体は一つの全たき世界のようなもの、神をうつす鏡もしくは全宇宙をうつす鏡のようなものである。実体はそれぞれ自分の流儀に従って宇宙を表出するが、それはちょうど、同一の都市がそれを眺める人の位置が違っているのに応じて、さまざまに表現されるようなものである。そこでいわば、宇宙は存在している実体の数だけ倍増化され、神の栄光も同様に、神のわざについてお互いに異なっている表現の数だけ倍増化されることになる。また、どの実体も神の無限な知恵と全能という特性をいくぶんか具えており、できる限り神を模倣している、とさえ言える。というのは、実体はたとえ混雑していても、過去、現在、未来における宇宙の出来事のすべてを表出しており、このことは無限の表象ないしは無限の認識にいささか似ているからである。ところで、他のすべての実体もそれなりにこの実体を表出し、これに適応しているので、この実体は創造者の全能を模倣して、他のすべての実体に自分の力を及ぼしていると言うことができる。」
(ゴットフリート・ヴィルヘルム・ライプニッツ(1646-1716)『形而上学叙説』九、ライプニッツ著作集8、pp.155-156、[西谷裕作・1990])

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2018年5月24日木曜日

15.狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))

狡猾の一覧表

【狡猾の一覧表(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
(1)相手を用心深く見る。
(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるようなかたちで、言い(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする。
(14)「私はこういうことはしない」。
(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待つ。
(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。

 「われわれは狡猾を陰険なもしくは邪悪な知恵と考える。そして確かに、狡猾な人間と賢明な人間との間には大きな違いがある。誠実の点ばかりでなく、能力の点においてもそうである。」(中略)

「こうした狡猾の小間物やつまらぬ特徴は、無数にある。それらの一覧表を作ることは、やりがいのあることであろう。狡猾な人間が賢明な人間として通用することほど、国家に害をなすものはないからである。」

(1)相手を用心深く見る。
 「狡猾の一つの特徴は、対談する相手を用心深く見ることである。」

(2)別の話しで喜ばせ、油断に乗じて提案する。
 「もう一つの特徴は、何かすぐにも片づけたいことがあったら、交渉の相手を何か別の話をして喜ばせ、面白がせることである。相手が油断なくかまえていて異議を唱えたりしないためである。」

(3)相手が考えるゆとりがない時に、不意打ちで提案する。
 「同じような不意打ちは、相手が急いでいて提案されたことをとくと考えるゆとりがない時に案件を持ち出すことによってなされるだろう。」

(4)成功を願っているふりをして、失敗する要素を提案する。
 「誰かほかの人が手際よく提案して効果を収めそうな議題を阻止したければ、自分もその成功を願っているふりをして、それを失敗させるようなやり方で提案するとよい。」

(5)言い出したことを途中で打ち切り、知りたいという欲望を掻き立てる。
 「言い出したことを、思いとどまったかのように、途中で打ち切ることは、かえって話し相手にもっと知りたい欲望を掻き立てる。」

(6)いつもと違う様子や顔つきを見せて、相手に尋ねさせる。
 「どんなことでも、こちらから申し出るより、相手に訊き出されてしまったように思われる時のほうが、うまくいくのであるから、いつもと違う様子や顔つきを見せて、訊きやすいようにするのもよい。相手にいつもと違っているのはどうしたわけかと尋ねさせるためである。」

(7)ほかの誰かに口火を切ってもらい、もっと発言力のある人が、その人の質問に答えるようなかたちで、言いたかったことを提案する。
 「話しにくく、相手に喜ばれそうにもない事柄にあっては、言うことが余り重んぜられていない誰かに口火を切ってもらい、その後でもっと発言力のある人がたまたま口に出し、前の人の言ったことで問い質されるようにするのは、よいことである。」

(8)「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか。
 「自分も関係していると見られたくない事柄にあっては、「世間の噂では」とか「こんな話が広がっている」とか述べるように、世間の名を借りるのも、狡猾の特徴である。」

(9)最も重要なことを、付けたりであるかのように追伸で書く。
 「私が知っている人は、手紙を書く時、最も重要なことを、あたかもそれが付けたりであるかのように、追伸で述べたものである。」

(10)最も話したいことを、ほとんど忘れていたことのように話す。
 「私の知っているもう一人は、話をする段になると、最も話したいことをとばして先へ進み、また後戻りして、そのことについて、ほとんど忘れていたことでもあるかのように、話したものである。」

(11)偶然を装って、相手に見せたい行動を、相手に見せる。
 「説得したい相手が不意にやってきそうだと思っていた時なのに、驚いた顔をし、手に手紙をもっていたり、いつもしない何かをしていたりするところを見られるようにする。自分から言い出したいことについて尋ねられたいためである。」

(12)相手に使わせようとする言葉を、ふと漏らしておき、相手が使ったら、それにつけこむ。
 「他の人が覚えて使ってもらいたいと思う言葉を、独言のようにふと漏らし、そうなったら、それにつけこむのも、狡猾の特徴である。」

(13)自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする。
 「われわれイギリスで「フライパンの中で猫を引っくり返す」と言っている狡猾もある。これは自分が他の人に言ったことを、まるで他の人が自分に言ったことのように、他の人のせいにする場合である。実際のところ、二人の間でそんなことが起こる時、それが二人のどちらから最初に持ち出され、どちらから始まったかを明らかにするのは、容易ではない。」

(14)「私はこういうことはしない」。
 「「私はこういうことはしない」と言うように、否定して自分を正当化しながら、他の人をあてこすって間接に非難する人もいるが、それも一つの方法である。」

(15)むきつけに言わず、噂話や物語を使って間接的に言う。
 「噂話や物語をいくつでもすらすらと話せるので、何かあてこすりたいことがあっても、むきつけに言わず、噂話でくるむことができる人もある。これはむきつけに言うより、話す人自身を保護することに、また他の人々に面白がって吹聴させるのに役だつ。」

(16)もらいたいと思う返事を、あらかじめ自分の言葉や提案でまとめておく。
 「もらいたいと思う返事を〔あらかじめ〕自分の言葉や提案でまとめておくのも、狡猾のうまい点である。そうしておけば、相手は返事をすることに、それほどこだわらなくてすむからである。」

(17)自分の言いたいことは隠して、多くの別のことを持ち出しまわり道し、忍耐強く長い間待つ。
 「ある人々が何か自分の言いたいことをしゃべるのに、どんなに長い間待っているか、どんなに遠廻りするか、肝腎の話をするまでに、どんなに多くの別のことを持ち出すか、不思議な気がする。しれは大いに忍耐を要することであるが、しかし非常に有効である。」

(18)不意の、無遠慮な、思いがけない問い。
 「不意の、無遠慮な、思いがけない問いは、しばしば人を驚かせ、本心を打ち明けさせる。」

(フランシス・ベーコン(1561-1626)『ベーコン随想集』二二、pp.103-109、[渡辺義雄・1983])
(索引:狡猾の一覧表)

ベーコン随想集 (岩波文庫 青 617-3)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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16.悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))

ヘビの賢さとハトの素直さ

【悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。なぜなら、悪を見破ることなくしては悪に勝つことはできず、邪悪な人たちを改悛させることもできないから。(フランシス・ベーコン(1561-1626))】
 悪に対して、どう対処するか。
(1)無防備にも、ぺてんと邪悪な手管に先手を取られれば、あなたの生命が危うくされるが、逆に、あなたが先に悪を見破れば、悪はその効力を失う。
(2)あなたが悪を知っているということを認めさせることができなくては、卑劣で精神の腐敗した人たちは、一切の道徳を軽蔑することになる。また、正直な人も、悪の知識の助け無くしては、邪な人たちを改悛させることができない。
(3)従って、人間は何をなすべきかとは別に、人間は実際に何をなしているか、すなわち悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さを兼ねそなえることはできない。

 「パシリスクス〔ひとをにらんで殺すという伝説のヘビ〕について伝えられる寓話では、これがあなたをさきに見つければあなたはそのために死ぬが、あなたがそれをさきに見つければそれは死ぬといわれているように、ぺてんとよこしまな手管についても同様だからである。

すなわち、それらは、見破られたら生命を失うが、先手をとれば相手の生命を危くする。

それゆえに、われわれはマキアヴェルリやその他の、人間はどんなことをするかをしるして、どんなことをすべきかはしるさなかった人びとに負うところが大きいのである。

というのは、ヘビの性情を残らず正確に知っていなければ、その卑劣さとはらばい、そのうねり歩きとすべっこさ、その嫉妬と毒牙など、すなわち、悪のすべての種類と本性を心得ていなければ、ヘビの賢さとハトの素直さ〔『マタイによる福音書』一〇の一六〕を兼ねそなえることはできないからである。

それというのも、この心得がなければ、徳はあけっぱなしで、無防備になるからである。

それどころか、正直なひとも、悪の知識の助けなくしては、よこしまな人たちを改悛させるのに役だつことができないからである。

というのは、精神の腐敗した人たちは、正直は品性の単純さから生まれ、説教者や学校教師や人びとのうわべだけのことばを信ずることから生まれるのだときめてかかっているからである。

それゆえ、かれら自身の腐った考えのぎりぎりいっぱいのところをも知っているのだということをかれらに認めさせることができなければ、かれらはいっさいの道徳を軽蔑するのである。

―――「愚かな者は、かれが心に考えていることを告げられなければ、知恵のことばをうけいれない」〔『箴言』一八の二〕。」
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第二巻、二一・九、pp.282-283、[服部英次郎、多田英次・1974])

(索引:ぺてんと邪な手管の研究、ヘビの賢さ、ハトの素直さ)

学問の進歩 (岩波文庫 青 617-1)


(出典:wikipedia
フランシス・ベーコン(1561-1626)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「不死こそ、子をうみ、家名をあげる目的であり、それこそ、建築物と記念の施設と記念碑をたてる目的であり、それこそ、遺名と名声と令名を求める目的であり、つまり、その他すべての人間の欲望を強めるものであるからである。そうであるなら、知力と学問の記念碑のほうが、権力あるいは技術の記念碑よりもずっと永続的であることはあきらかである。というのは、ホメロスの詩句は、シラブル一つ、あるいは文字一つも失われることなく、二千五百年、あるいはそれ以上も存続したではないか。そのあいだに、無数の宮殿と神殿と城塞と都市がたちくされ、とりこわされたのに。」(中略)「ところが、人びとの知力と知識の似姿は、書物のなかにいつまでもあり、時の損傷を免れ、たえず更新されることができるのである。これを似姿と呼ぶのも適当ではない。というのは、それはつねに子をうみ、他人の精神のなかに種子をまき、のちのちの時代に、はてしなく行動をひきおこし意見をうむからである。それゆえ、富と物資をかなたからこなたへ運び、きわめて遠く隔たった地域をも、その産物をわかちあうことによって結びつける、船の発明がりっぱなものであると考えられたのなら、それにもまして、学問はどれほどほめたたえられねばならぬことだろう。学問は、さながら船のように、時という広大な海を渡って、遠く隔たった時代に、つぎつぎと、知恵と知識と発明のわけまえをとらせるのである。
(フランシス・ベーコン(1561-1626)『学問の進歩』第一巻、八・六、pp.109-110、[服部英次郎、多田英次・1974])(索引:学問の船)


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