人びとがどのように感じ、そして何をするかに影響をおよぼすのは、その不一致が減少できるかどうかについての彼らの期待である。 (チャールズ・カーバー、マイケル・シャイアー)ジョナサン・H・ターナー(1942-)
彼らは感情的要因よりもむしろ情報が自己調節を導いていると論じる。
不一致減少に向けたさらなる努力が成功を収めると信じているなら彼らは継続するだろう。もし人びとが不一致減少に向けた努力が不成功に終わると思っていると、彼らは撤退し、止めてしまうだろう。
しかし撤退することもままならないことがある。とくにその目標が個人の自己定義の中心に位置している場合がそうである。人びとは止めることもできず、そしてなお不一致を経験すると、彼らはしばしば憂鬱になる。
つまりカーバーとシャイアーは、不一致の現前そのものがいつも不快(否定的情動)を人びとのうちにつくりだすとは考えていない。むしろ否定的な気持ちは、個人が不一致を減らせないと確信する場合だけに生じる。そうであるとすると、その個人は自己目標の優先順位を入れかえるだろう。
つまり人びとがどのように感じ、そして何をするかに影響をおよぼすのは、その不一致が減少できるかどうかについての彼らの期待である。
最後にカーバーとシャイアーは、感情は不一致減少のフィードバック・ループから生じるだけでなく、個人が特定の結果を避けようと試みる不一致拡大のフィードバック・ループからも生じると議論している。
その目標に近づこうとする行為よりも、むしろある個人の行動は基準あるいは準拠している価値から離れる動きを起こそうとするかもしれない。」(中略)
「不一致減少のループでは、個人は目標を達成しようとつとめる。そして個人が望ましい目標に近づくほど、喜びなどの肯定的感情がますます出現する。
不一致拡大のループでは、個人は目標を避けようとつとめ、そして個人がそうすることに成功するほど、安堵のような感情が生じやすくなる。
カーバーとシャイアーのアプローチとヒギンズの情動理論のあいだには、いくつかの興味深い相違が見いだされる。
ヒギンズにとって、感情は自己の二つの表象間の不一致の関数である。これに対して、カーバーとシャイアーにとって、感情は目標に向う速度の関数である。
たとえばカーバーとシャイアーにとって、不一致があっても個人が目標へ向けて速い速度で進行していると感じるかぎり、否定的より肯定的な感情が経験される。
もう一つの相違は、ヒギンズ理論は否定的感情に焦点を合わせる傾向が見られるが、カーバーとシャイアーは肯定的ならびに否定的感情に等しく注目している。
さらに、両者の理論のあいだにあるもう一つの相違は、道徳指令、すなわち「理想的」と「当為的」がどのように概念化されるかと関係する。理想は不一致減少のループを取り扱うのに対して、当為は不一致減少のループ(肯定的目標の実現に向けた運動)および不一致拡大のループ(反目標からの逃避)の両方を示唆している(Carver and Sheier,1998)。
カーバーとシャイアーにとって、もし個人が回避ループで十分に進展できなかったならば、経験される不安の水準は、肯定的目標に向う運動が実現されないときと同程度であろう(ヒギンズモデルはこの点を強調している)。
カーバ-とシャイアーのモデルの強みは、「怖がる自己」「望ましくない自己」「あってほしくない自己」と見なされるものから出現する感情に注目していることである。」